TOS エピソードガイド
第37話「超小型宇宙船ノーマッドの謎」
The Changeling
イントロダクション
※1ブリッジ。 カーク:「大尉※2、マルリア※3からの応答はないか。」 ウフーラ:「救援連絡があったきりパッタリですが。」 「科学調査団はどうした、マンウェイ博士※4は特別の送信機を持ってるはずだがねえ。」 「あらゆる周波数に合わせても応答がありません。」 「そんなはずはない。」 スポック:「船長。…応答はありませんよ。長距離探知機が届く範囲内に生物の存在は認められないんです。」 「おかしいな。…惑星マルリアには 40億以上の人々が住んでいるはずだ。」 「しかし生物を探知することができません。」 「……どうしたのかな、40億の人々は。」 「マルリアに何か災害があれば予知できるはずですし、惑星間に戦争があったとすれば放射能の異常な高まりを探知できるはずです。ところが、放射能の状態は正常を示しています。」 「ほかに考えられないか。」 「わかりません。もし恐ろしい伝染病でも蔓延すれば探知できますがその兆候もありませんし、一週間前の定時連絡ではそのような報告はありませんでした。シンバリン血液熱傷※5でも、そこまで速くは広まりません。」 スールー:「船長! …電磁スクリーンが反応。…恐ろしいスピードで、何かが迫ってきます。」 カーク:「…避けるんだ、ミスター・スールー。」 スコープを覗くスポック。「強いエネルギーのある光です。」 カーク:「電磁スクリーンにフルパワーだ。」 スコット:「一杯に出しています。」 「各員非常態勢につけ、フェイザー砲と魚雷の用意。非常態勢、非常態勢。」 持ち場へ急ぐ廊下のクルー。 スクリーンに球状の光が見えてきた。回転しているようにも見える。 見る見る大きくなってくる。 スールー:「ぶつかります!」 光はスクリーン一杯に広がった。 大きな衝撃がブリッジを襲う。左右に揺さぶられる。 |
※1: ハヤカワ文庫のノヴェライズ版は、「宇宙大作戦 小惑星回避作戦」収録「取換え子」になります ※2: 吹き替えでは「中尉」(シン、カーライルも含む)。TOS では基本的に中尉は存在しないと考えられます ※3: Malurians 今回は出てきませんが、放送 34年後にENT第9話 "Civilization" 「狙われた星アカーリ」で登場。吹き替えでは「アルリア」 ※4: Dr. Manway この部分は訳出されていません ※5: Symbalene blood burn この部分は吹き替えでは「つまり探知機によれば全て正常なわけです」 |
本編
エンタープライズのライトは全て落ちている。 ブリッジの明かりが復旧した。 スコット:「スクリーンに異常なし。」 カーク:「よし。」 スポック:「しかし、時間の問題です。敵の力は我が方のもつ魚雷の 90%に等しい力です。」 「90。」 「それに敵の最初の攻撃で我が方のスクリーンのエネルギーは約20%、落ちています。」 ウフーラ:「最初の攻撃だけで!」 カーク:「何度も攻撃してくるに違いない。」 スポック:「…3回までの攻撃には耐えられますが、4回目には完全に破壊されます。」 ※6「敵の、エネルギー源を探せ。ミスター・スールー、針路を変えろ。」 スールー:「はい!」 「大尉、君は本艦隊に連絡して未確認の飛行物体と交戦中だと伝えてくれ。それから惑星マルリアはその未確認の敵に攻撃され、壊滅したらしいと伝えてくれないか。」 また光が見えてきた。 カーク:「おい針路を変えるんだ。」 スールー:「エンジンのパワーが出ません!」 スコット:「…電磁スクリーンの方へエネルギーを取られて、エンジンの方へ回りきれないんです。」 カーク:「スポック、敵のスピードは。」 スポック:「ワープ15 ぐらいだと思われます。」 「とても逃げ切れない、しっかり頼むスコッティ。」 光が近づき、また揺れた。 カーク:「エネルギー源は。」 スポック:「わかりません、探知機内には見当たらないんです。」 次の攻撃が来ている。 スポック:「何かあります、船長。小さなものです。方位 123、角度は 18。距離は、9万キロメーター。」 カーク:「射程距離内だ、魚雷発射用意!」 攻撃を受ける。 スコット:「スクリーンはもちこたえています、しかし動力エンジンの方がギリギリの限界です。ああ、もうほとんどエンジンの動力がなくなりました。」 スールー:「魚雷装填完了。」 カーク:「目標は位置を変えたか。」 スポック:「いいえ? 動いておりません。」 「2番魚雷の、発射用意!」 スールー:「用意よし。」 「…発射。」 光子魚雷を撃ち出すエンタープライズ。 スールー:「発射しました。」 しばらくして、スクリーンに強い光が走った。目を押さえるクルー。 スールー:「命中です。」 スポック:「効果ありません。目標は魚雷のエネルギーを吸収しました。」 カーク:「…吸収した。じゃスポックの方に損害はないか。」 「…正常に作動しております。」 「一体あれだけのエネルギーを吸収するとは、一体何だろう。大尉、交信してみよう。」 ウフーラ:「はい。」 スールー:「敵はまた発射しました。」 迫るエネルギー。 カーク:「スクリーンは耐えられるか。」 スコット:「それが、何とも言えません。」 命中した。 スポック:「電磁スクリーンに損害、これ以上はもちこたえられません。」 カーク:「反応があるか。」 ウフーラ:「まだありません。」 「翻訳コンピューターだ。宇宙周波、オープン。」 「はい、オープンにしました。」 「未確認飛行物体へ。こちらエンタープライズ※7、ジェイムス・カーク船長。…我々は平和の使節だ。いかなる者にも危害を加えるものではない。そちらの交信を待つ。……スポック、何かわかったか。」 イヤーレシーバーをつけるスポック。「形態がわかりました。重量、500キログラム。…形、金属製の固体。高さ…ほぼ 1メートルです。」 カーク:「重量 500キロの高さ 1メートル。」 スコット:「そんな小さな宇宙船が、どうしてあんなものすごい威力を出すんでしょう。」 スポック:「形は小さいからといってエネルギーが小さいとは限らないさ。」 ウフーラ:「…船長、妙な通信が入っておりますが。」 カーク:「オーディオにつないでくれ。」 「はい。」 音が流れる。 ウフーラ:「何のことか、さっぱりわかりません。」 カーク:「分析班に連絡して、録音させろ。」 「分析班へ。第1チャンネル、メインコンピューター録音。」 スポック:「船長、この通信は一種の二進数ですね。非常に高度です。圧縮して、数回路から同時に出しています※8。」 カーク:「解読できるか。」 「いいえ、まだできません。待ってください。送信スピードが落ちてきました。ゆっくりになりました。一つ言葉になったようです。」 ウフーラ:「数学的なものです。そうですね、一つの符号になりました。『繰り返せ』という符号です。…これは宇宙艦隊のコードではありません。旧式の恒星間コードです※9。」 「おかしいな※10。」 カーク:「何を繰り返す。私が送った通信か※11。」 「そうらしいですね。」 「…U.S.S.エンタープライズ※7のカーク船長だ。我々はこの銀河系に、平和の使節として来ている。敵意を抱くものではない。そちらの正体を…明かしてくれ。」 ウフーラ:「…また信号のようなものが。」 スポック:「数式の信号だ。向こうは恐らく、こちらの言葉を…探しているのかもしれませんね。交信を求めています。」 カーク:「翻訳機を、交信回路につないでくれないか。送信スピードは任しておけ。」 ウフーラ:「はい。」 その時、コンピューターが光を発し始めた。 スポック:「切るんだ大尉! …オーバーロードですよ。」 カーク:「うん。向こうの送信スピードが速すぎるわけだな。」 ウフーラ:「こちらの言葉がわかったようです。」 音声が届く。『U.S.S.エンタープライズ、こちらノーマッド※12。私は敵意を抱くものではない。』 カーク:「…送信スピードもわかってくれたらしいね。」 スポック:「ノーマッド?」 ノーマッド:『交流を要求する。こちらに来られるか。』 ウフーラに合図するカーク。「大きさの関係で…私がそちらの宇宙船に乗るのは不可能です。」 ノーマッド:『不合理な推論。事実の認識を誤っている※13。』 「我々は、転送機で迎える用意がある。」 『それでは私から行くことにする。』 「…迎えるに当たって、そちらに何か特別の用意が必要かな。大気の性質などは。」 『そのままで行くことができる。』 「了解、動かないでもらいたい。その位置の座標から、こちらへ転送する。」 スコット:「船長、本当にここへ迎えるんですか?」 カーク:「仕方がないじゃないか。もう一度…発射されたらこっちはもうおしまいだ。大尉、コンピューターは修理班に任せてドクターを転送室によこしてくれ。…スポック来てくれ、スコッティもだ。」 ウフーラ:「ドクター・マッコイ、転送室へ。コンピューター修理班。」 転送室に入るカークたち。 マッコイ:「座標の設定は終わったよ?」 カーク:「やってくれ。」 スコット:「転送開始。」 円筒形の機械が転送されてきた。空中に静止している。 見つめるクルー。 |
※6: TOS の国内オンエア分では、カット部分が存在しています。DVD には吹き替えつきで完全収録されており、このエピソードガイドでは色を変えている個所にあたります (スーパーチャンネル版との比較)。LD では基本的に、その部分だけ字幕収録です ※7: 吹き替えでは「エンタープライズ号」 ※8: 吹き替えでは「船長、この通信は普通とは違いますね。いろいろな言葉を混ぜて圧縮して、数回路から同時に出しています」 ※9: 吹き替えでは「そうですね、一つになりました。繰り返しています。…全然、聞いたことのない言葉です。銀河系では初めての言葉ですわ?」 ※10: "Fascinating." ※11: 吹き替えでは「何を言ってる。こっちへ交信か」 ※12: Nomad 声はヴィク・ペリン (Vic Perrin、TOS第3話 "The Corbomite Maneuver" 「謎の球体」の子供ベイロック (Balok) の声、第16話 "The Menagerie" 「タロス星の幻怪人」の飼育係 (The Keeper) の声、第19話 "Arena" 「怪獣ゴーンとの対決」のゴーン人/メトロン人 (Gorn/Metron) の声、第39話 "Mirror, Mirror" 「イオン嵐の恐怖」の Tharn 役。1989年7月に死去) 声:青野武 (DVD 補完も継続) ※13: 吹き替えでは「それならば、私がそちらへ行ってもよい」 |
機械を見るスコットたち。 カーク:「分析結果が出たか。」 コンピューターを使うスポック。「いいえ駄目です。防御スクリーン※14をもっています。それが妨害してます。」 マッコイ:「…どうするんだ、挨拶するのかね?」 機械が光り、通信と同じ音声を発した。『諸君の発生起源を述べよ。』 カーク:「…我々は、惑星連合※15から来た者だ。」 『不十分な回答。全てのものに発生起源がある。…諸君の宇宙地図を見よう。』 「…我々の太陽系の地図を見せても、恐らく相手には一体何が何だかわからんだろうな?」 スポック:「そう思われますね。」 「宇宙船から出たければ、必要な生命維持装置を用意するが。」 ノーマッド:『その必要はない。事実の認識を誤っている。』 マッコイ:「中には何にもいないんじゃないのか?」 『私の中に寄生的なものはない。私は、ノーマッドだ。』 スコット:「私の意見では機械ですよ。」 スポック:「そうだ。まるでコンピューターのように速やかにかつ正確に反応を示す。」 ノーマッド:『私はノーマッド。「意見」とは、何だ。』 「それは…考え、見方、判断だ。」 『不十分な回答。』 スコット:「…あなたの、エネルギー源は?」 『それは発生起源の時とは変わった。ほかからエネルギーを摂取した。私はもはや永遠のもの。私はノーマッドだ。』 カーク:「昔、ノーマッドという調査船がなかったかなあ。21世紀※16に打ち上げられた。」 スポック:「ありました、破壊されたと聞いています。後続は中止されました。しかし、これが調査船だとすると。」 ノーマッド:『諸君の宇宙地図を見る。』 カーク:「…持ってこよう。」 『私は諸君の宇宙船の中を自由に移動できる。』 ノーマッドは動き出した。そしてピタリと止まる。 指差すカーク。「こっちだ。」 ゆっくりとドアのそばへ移動するノーマッド。 カーク:「…スコッティ…エンジンをフルパワーにしてくれ。」 スコット:「はい。」 「スポック、ドクター。来てくれ、一緒に。」 カークについて転送室を出ていくノーマッド。 カークたちと共に副司令室に来たノーマッド。コンピューターの上に乗る。 技師が見つめる。 スポック:「読めるでしょうか。」 カーク:「多分な。」 スクリーンに太陽系の構造図が表示される。 カーク:「ノーマッド、これがわかるか?」 ノーマッド:『わかる。』 「我々の発生起源だ。太陽系の中の惑星だ。」 『第3惑星から来たのか。』 「…そうだ。」 『一つの大きな衛星をもつ惑星か。』 「そうだ。」 『地球と呼ばれる、惑星か。』 「…そうだ。」 『あなたは設計者、あのカークだ。あなたの宇宙船には殺菌処置は不必要であった。』 「何の、殺菌処置だ。』 『あなたはあのカーク、設計者だ。私の機能を設計した。』 マッコイ:「一体あなたのその機能というのは何なんだ。」 『それはあなたの構成単位か設計者。』 カーク:「ああ、そうだ。」 『それは間違って機能している。』 「…時にはね。…あなたの機能は何なんだ。」 『私の機能は、宇宙生物の存在を調べることだ。不完全な生物を根絶すること、私はノーマッドだ。』 「…『不完全な生物を』? そんな調査船は打ち上げなかったぞ。」 スポック:「コンピューターで歴史を調べればわかります、ちょっと調べてみましょうか。」 「…あなたはマルリア人を殺したのか。」 ノーマッド:『…あれは、完全な生物ではない。不完全な生物は根絶せねばならない。それ、私の目的。』 マッコイ:「何が『不完全』なんだ! すると 40億の生物を殺してしまったというのか!※17」 カーク:「ドクター! …なぜ『設計者』と、呼ぶんだ。」 ノーマッド:『その言葉、間違いか。』 「いや私は…」 スポック:「間違いではない。…あなたの記憶室を、試してみただけだ。」 ノーマッド:『事故で私は大きな損害を受けた。』 カークは技師を呼んだ。「…ミスター・シン※18。…来てくれ。しばらくここで番をしていてくれ。」 シン:「はあ?」 「すぐまた来る。あ、一緒に来てくれ。」 スポックとマッコイも出ていく。 シンはノーマッドを見た。 廊下を歩くカーク。「何かわかったのか、スポック?」 スポック:「コンピューターで調べたところ、やはりノーマッドという宇宙船を生物調査のために打ち上げておりますよ。」 マッコイ:「しかしあれじゃないよ、21世紀にはあんな優れたものはできなかったはずだ。」 「事実です。」 カーク:「ノーマッドは消滅したはずだ。」 「隕石との衝突で、そう言われています。しかしその損害を自分の力で、修復したのかもしれません。」 「…私は大学※19でノーマッド調査船の講義を受けたことがあるが…あんな恐ろしい力はなかったよ。」 ノーマッドに近づくシン。 すると、ノーマッドの先端が光った。 シン:「…ハ、私がお邪魔かね? …何か欲しいのかい?」 答えないノーマッド。 ウフーラの通信が入る。『ブリッジより補助コントロールルーム、点検をどうぞ。』 シン:「シン大尉だ、動力支持系を除いて全て正常に作動だ。」 ブリッジのウフーラ。「修理班が動力支持系を見ています。正確に作動したら、知らせてください。ほかに何か。」 シン:「ちょっと待ってくれ?」 ウフーラ:『待ちます。』 ウフーラは歌※20を口ずさみ始めた。 それは副司令室にも流れ、微笑むシン。 ノーマッドは自らのアンテナを伸ばした。 動き出すノーマッド。シンは気づいていない。 そのまま廊下に出た。 男性の写真がモニターに表示されている。 スポック:「これが、ノーマッドの設計者です。優れた科学者ですが、また気まぐれな点もあります。彼の夢はそれ自身の頭脳をもって、考える機械を造ることでした。名前を知ってますか?」 マッコイ:「ジャクソン・ロイカーク※21だろ?」 カーク:「ジャクソン・ロイカーク。私は、ジェイムス・カークだ。」 スポック:「そうです。似てます。ですからあのノーマッドは、船長をロイカークだと思っているんです。…攻撃も、名前を聞いてやめたわけです。記憶装置が破損してるため船長の名前と間違えているんですよ。」 「ノーマッドの設計図が見つかったか。」 構造図が表示される。 マッコイ:「違うじゃないか。」 スポック:「本質的には同じものです。恐らく隕石との激突以来、あのような形になったんだと思います。ただわからないのは、何から永遠のエネルギーを採ったかということ。…いずれにしろ、元はと言えばロイカークの考える機械です。」 カーク:「目的も変わってしまったらしい。不完全な生物を根絶しろなんて指令は、組み込まれなかったはずだ。」 マッコイ:「そうだよ、ロイカークは宇宙の新しい生命を探せという指令を組み込んだだけだ※22。」 スポック:「その通りです。ところが、何かでその指令は変わってしまった。今のノーマッドが探し求めているものは、完全なる生命形態。…機械的に間違いを、犯さない完全なる生物です。」 カーク:「…もしそうだとすれば、ノーマッドを乗せたために…我々は遅かれ早かれ、殺されてしまうぞ。…警備班。」 保安部員:『カーライル大尉※23です。』 「こちら船長。ノーマッドは今、補助コントロールルームにいるが警備班は直ちにそちらへ向かってくれ。」 カーライル:『わかりました。』 会議室のコンピューターを操作したスポック。「了解? 船長、シン大尉からの報告によると補助コントロールルームにはいないそうです。」 カーク:「今の命令は取り消す。ノーマッドが行方不明だ、各部を探してもらいたい。」 ターボリフトのドアが開くと、ノーマッドがいた。気づくスコット。 ノーマッドはブリッジに入る。まだ歌を口ずさんでいるウフーラ。 密かに連絡するスコット。「ブリッジより船長。」 カーク:『船長だ。』 「ノーマッドはブリッジにやってきました。」 カーク:「よし、すぐに行く。」 スポックも会議室を出る。 アンテナを納めるノーマッド。スールーの目の前を通過していく。 ウフーラの前に来た。『どういう意味だ。』 ウフーラ:「え?」 『それはどういう意思の伝達だ。』 「…何のこと? ああ、今の歌? 歌を唄ってたの。」 『歌とはどういう目的だ。』 「…目的って…ただ、歌いたいから。音楽が好きだからだわ?」 『音楽とは何だ。』 ノーマッドの先端から、ウフーラの頭に光が注がれる。『音楽について考えよ。』 近づくスコット。「大尉! 離れるんだ!」 ブリッジに入るカーク。「スコッティ!」 ノーマッドのビームがスコットを襲った。弾き飛ばされる。 駆け寄るクルー。ウフーラは朦朧としている。 カーク:「ドクター。」 マッコイはスコットを見た。「…死んでるぞ※24。」 |
※14: 「シールド」の訳語のような感じもしますが、原語でも "protective screen" と言っています。船のシールドは今回「電磁スクリーン」という吹き替え ※15: 今回の惑星連邦 (United Federation of Planets) の訳語 ※16: 原語では「2000年代はじめ」。ノーマッドが打ち上げられたのは、古い資料では 2020年となっているものもありますが、クロノロジーでは 2002年とされています。脚本でも 2002年と書かれているそうですし、後で出てくる構造図にも "PROBE 2002-45b NOMAD MK-15c" と書かれています ※17: 原語では「4つの惑星の住民を? 何の目的で…」。吹き替えでは前に「惑星アルリア」と訳されている個所がありますが、マルリア人は複数の星に居住していることがわかります ※18: Mr. Singh (ブレイスデル・マキー Blaisdel Makee TOS第24話 "Space Seed" 「宇宙の帝王」のスピネリ大尉 (Lieutenant Spinelli) 役。1988年2月に死去) 階級は大尉 (吹き替えでは中尉) ですが、技師の制服であるため階級章は確認できません。声:嶋俊介、TOS カイル (一部)、ムベンガ、旧ST5 マッコイなど ※19: 原語では「アカデミー」 ※20: 吹き替えでは鼻歌のようになっていますが、原語では実際に歌っています。曲名は歌詞にもある「アンタレスの彼方に」("Beyond Antares"、この訳は字幕より)。TOS第13話 "The Conscience of the King" 「殺人鬼コドス」より ※21: Jackson Roykirk ※22: 原語では「新しい生命を探す、初の恒星間探査機となるはずだったんだ」。実際には 1972年に打ち上げられたパイオニア10号が、初めて太陽系を出ています ※23: Lieutenant Carlisle 吹き替えでは「カーライル中尉」 ※24: "He's dead, Jim." もちろんスコットも赤シャツ |
もう一度スコットを確認し、カークを見るマッコイ。 カーク:「どうして殺したんだ。」 ノーマッド:『私のスクリーンに触ったからだ。』 「彼は…この宇宙船のチーフエンジニアだぞ。…大尉。大尉、大丈夫か。」 スールーと女性クルー※25に付き添われる、無言のウフーラ。 カーク:「医務室だ。何をしたんだ。」 ノーマッド:『その単位は欠陥が多い。混乱した考え方が、私を乱した。」 スポック:「あの構造単位は、女性だ。」 『それは衝動と矛盾の塊。』 カーク:「…医務室へ連れていけ。」 スコットも運ばれる。 ノーマッド:『設計者は構成単位スコットを修理するのか。』 カーク:「死んだんだ。」 『不十分な回答。』 「…つまり、生物的な働きが終わったことだよ!」 『あの構成単位の修理を私に依頼するか?』 カークはマッコイを見る。 マッコイ:「…私じゃどうにもならない。見込みがあるなら早い方がいい。」 カーク:「……よーしノーマッド、直してもらおう。」 ノーマッド:『構造の設計図が必要だ。』 マッコイに向かってうなずくカーク。 マッコイ:「人体の構造を教えてやろう。中枢神経組織や、脳の構造の設計図が必要なんだ。とすれば、我々のもっているできるだけの資料を与えた方がいい。万一にも間違ったら大変なことになる。」 コンピューターを操作するスポック。「ノーマッド、コンピューターのスピードを最大限にして人体の設計図を示すから。コンピューターのスピード以上に速く情報を求めないようにしてもらいたい。」 移動し、アンテナを伸ばすノーマッド。『始めなさい。』 再生が終わった。 ノーマッドはアンテナを戻す。『設計者。構成単位スコットは原始的構造だ。…保護装置の設計に間違いがある。多くの原因により故障が起こる。自己を維持する組織が非常に不安定だ。』 カーク:「それでも、必要な単位だ。ノーマッド、直してくれ。」 『構成単位スコットはどこへ運んだ?』 マッコイ:「医務室においてある。」 『そこへ案内しなさい。』 カーク:「ドクターが案内する。」 マッコイについていくノーマッド。スールーはブリッジに戻ってきた。 閉まるターボリフトのドア。 カーク:「警備班。ノーマッドは医務室へ向かった、すぐ監視員を 2人つけてくれ。」 モニターを見るクリスチン・チャペル※26。ノーマッドの横に、スコットの遺体が横たわっている。 カークとスポックが医療室に入る。 チャペル:「反応はありません。」 マッコイ:「死人が生き返るわけがないさ。」 だが、モニターの数値が全て上がり始めた。 目を覚ますスコット。「…何でそんなに私を見てるんです?」 マッコイ:「信じられんな。」 スポック:「興味深い※10。」 スコット:「私はどうしたんです! 一体何が…」 カーク:「大丈夫。」 「…そいつはウフーラ大尉を殺したんだ…」 「大丈夫。」 チャペル:「静かになさって。」 「大尉は死んじゃいない。」 マッコイ:「いいから、ジッと寝てなさい、もう少し調べよう。」 ノーマッド:『構成単位、スコット修復。与えられた情報が正しければ、正常に機能する。』 「私が調べ直すからな。人間はそう簡単に継いだりはいだりできるものじゃないんだ。」 スコット:「私はどうしたんです。」 カーク:「ドクターが説明してくれるよ。」 スポック:「…どうだ、ドクター。」 マッコイ:「…ミス・チャペル。今度は私が精密検査をするから準備してくれ。」 チャペル:「はい。」 カーク:「ノーマッド、来てくれ。」 移動するノーマッド。 カーク:「あの単位を直せ。」 目を開いたままベッドにいるウフーラ。患者服を着ている。 ノーマッド:『それは不可能だ。』 カーク:「スコットを直した。修理には変わりあるまい。」 『構成単位スコットは構造上の故障だった。この単位は知識の貯蔵室が空になった。』 スポック:「それじゃ、脳に障害はなくただ知識がなくなってしまっただけだ。教育を、やり直せば。」 カーク:「どうだ。」 マッコイ:「そうだ。すぐに始めよう。」 ノーマッドに詰め寄る。「お前、スコッティを直せたのになぜ彼女だけ元に戻せないと言うんだ!」 スポック:「ノーマッドにはどっかほかで待ってもらったらば、いかがです。」 カーク:「うん。…ノーマッド、この単位と一緒に行ってくれ。待ってもらう場所へ、案内する。」 保安部員に命じる。「警備班の監禁室へ連れて行け。」 ノーマッドに続いて出ていく保安部員。 スポック:「ドクター? 私が、遮ったのはあなたの怒りがノーマッドに通じないようにだ。技術的には非常に優れていても、感情に対する反応はかなり粗暴だ。その点では生物形態をもっている。」 マッコイ:「フン、お笑いぐさだ。」 「いい研究材料になりそうです。」 カーク:「粗暴の点を抑えられればねえ。君は監禁室へ行って分析してみてくれないか。何が起こらせたか知りたい。」 「はい。」 拘束室。 ノーマッドを見ているスポック。保安部員が警備する部屋に、カークが来た。「どうだスポック。」 スポック:「人間の強情さと変わりありませんよ。どうしても防御スクリーンを解除してくれないので分析できません。これではお手上げですよ。」 「…ノーマッド。記憶部と構造を、スポックに分析させてくれないか。」 ノーマッド:『設計者、スポックもあなたの構成単位の一つなのか?』 「…そうだ。」 『この単位は違っている。完全な構造体だ。』 「…では聞いてくれるか。」 『防御スクリーンを解除する。』 スポック:「ありがとう。」 『始めてよろしい。』 医療室のモニターを見ているウフーラ。「『白い、白い。白い、犬が…』」 チャペル:「その調子よ?」 「は、は…走る。」 「そう、そうよ。よくできたわね! じゃその次よ?」 「『犬は、尻尾を……犬は』。うーん、シクルカ。」 「スワヒリ語は駄目よ。読まなくちゃ。犬は尻尾を振ります。ね?」 2人は同時に言う。「振、り、ま、す。」 チャペル:「言ってみて?」 ウフーラ:「エーウ、アウナクヘー。『犬は尻尾を振ります。』」 「そうよ、よくできたわ? やったじゃない。」 抱き合う 2人。 マッコイがチャペルを呼んだ。 チャペル:「ああ、じゃあ次はこれ読んで? すぐ戻るわ?」 チップ状のテープをセットする。 ウフーラ:「ええ、わかった。」 マッコイ:「どんな様子だ。」 チャペル:「いま読み方の勉強中で、上達してます。数学が得意そうですよ? …本当に元のウフーラに戻るでしょうか。」 「いやあ、脳にダメージは受けてない。とにかく、教育をやり直すしかないんだ。我々次第さ。」 ウフーラ:「『このボールは…こ、わ、れ、た。壊れた※27。』」 笑うマッコイとチャペル。 ウフーラ:「壊れた?」 拘束室のスポック。「やはりよくわかりません。事故でエネルギーをほかから得たとか、言いましたが? 分析機ではどういうことかはっきりしません。」 カーク:「何とかしてわからんか。エネルギー源と、完全性を求める理由だ。」 「ヴァルカン人の心理テスト※28を使ってみては。」 「直接心理的に接触するやつか。」 「それしかないでしょう。」 「被害をこうむらないかな。」 「わかりませんが、既に仮説は設定してあります。確認したいんです。」 うなずくカーク。「ノーマッド、この構成単位があなたに触る。危害は加えない。話し合いの方法だ、許してくれるか。」 ノーマッド:『それを許す、設計者。』 スポックは立ち上がり、両手を合わせた。 そしてノーマッドに触れる。「…わた、しは、ノーマッド。私は宇宙で、自己の…目的を…果たそうと、飛ぶ。何かが近づき、衝突。損害。暗黒。……わた、しは、変わった。わた、しは、タン・ルー※29、タン・ルー、ノーマッド。タン・ルー。間違い、傷、不完全は、根絶、せねばならん。……生まれ変わる。われ、われは、完全。多くの、エネルギー、ガン、ター、ヌー、エカー、タン・ルー※30、設計者は、不完全を、根絶せよ、抹殺せよと、そう指示を与える。われ、われ、ノーマッド。われ、われ、ノーマッド。われ、われ、完全。我々指示される。目的は、明らかだ。不完全を、根絶すること。不完全を、根絶すること。ノーマッド、根絶せよ、根絶せよ。ノーマッド、根絶せよ。」 離れるスポック。 カーク:「スポック!」 スポック:「ノーマッド、根絶せよ…」 同じ言葉を繰り返す。 「スポック! ノーマッド! スポックは心理テストをしてるだけだ、やめろ! やめろー!」 ノーマッド:『承認。』 ぐったりとしたスポックを外へ出すカーク。 保安部員がフォースフィールドをセットする。 息をつくスポック。 カーク:「スポック、スポック…」 スポック:「すごい…素晴らしい※10。やはり予想通りだ。予想通りだ。」 「どういうことだ、『我々がノーマッド』とは。」 「あれは、隕石との衝突で…大きな損害を被った結果、記憶されたものをほとんど忘れてしまいそのうちにほかの宇宙船に出会った。それはほかの惑星から来た、宇宙船です。そしてこの 2つが補い合い、一つの宇宙船を合成したんです。」 「じゃああれは、ノーマッドじゃないな。」 「打ち上げられたときとは違います。指令されたものも、一緒になって新しい指令になりました。相手の宇宙船が打ち上げられるときの指令は、ある惑星のバイ菌を殺せということでした。…恐らく上陸する準備のためです。」 「…取り替え子※31だ。」 「どういうことです。」 「地球の古い伝説だ、ミスター・スポック。取り替え子は妖精の子供で、人間の赤ん坊の代わりに置いて行かれる。その取り替え子は人間の子供になりすます。…つまり、『バイ菌を殺す』が…『不完全なものを殺す』に、変わった。」 「あの強いエネルギーは、相手から吸収したものです。」 「そうだが、しかしノーマッドも必ずしも完全なものとは限らない。…私のことを設計者だと、誤解してる。」 「だから今まで我々を殺そうとしないんですよ。」 笑うカーク。「そうだ。」 歩いていく 2人。 ノーマッドは動き出した。フォースフィールドに衝突するが、そのまま突き抜けた。 停止したノーマッドに向けて、フェイザーを発射する保安部員たち。だがエネルギーは防御スクリーンで飛び散り、逆にノーマッドのビームによって保安部員は蒸発させられた。 機関室にノーマッドが入る。 部下に命じるスコット。「船長に知らせろ。…ここで何してるんだ! みんなは部署についてろ。…パネルから目を離すな。…ロジャー※32、手伝ってやれ。」 ノーマッドは下に降りた。 スコット:「何をするんだ。」 ノーマッド:『この宇宙船はここにある原始的な推進装置で動いているのか。』 「そうだ。」 『アンティーマター・インプットバルブが不完全である。修理をしてみよう。』 音が響く。コンピューターに反応が出る。 スコット:「どうしようというんだ。」 ノーマッド:『エネルギー放出コントロールが不十分である。修理をしてみよう。』 音が大きくなってきた。 機関部員※33:「スピードがどんどん上がっています。」 スコット:「バルブを閉めろ!」 「…駄目です。」 「回路を全部切れ!」 「スピード、ワープ10!」 「そんなバカな! 出せるわけがない!」 「スピードが増しています。ワープ11!」 カークが入る。「ノーマッドじゃないか。スコッティ。」 離れるよう指示する。 ノーマッド:『…いけないか設計者。エンジンの出力を 57%増してやったのだ。』 「分解してしまうぞ。それだけのスピードに耐えられるようにできてはいないんだ。…機械には触らないでくれ。」 『承認。…スピードを元通りに遅くしよう。』 音が低くなる。 「スコット、ワープ2 にするように言ってくれ。」 スコット:「はい。」 スポックも来た。「船長。…監禁室を調べたら、あそこのドアが打ち破られて警備兵の行方がわかりません。2人は殺されたのかも。」 保安部員が外で待機する。 カーク:「お前が殺したな?」 ノーマッド:『設計者、あなたの生物単位は無能者である。』 「じゃあお前を造ったのは誰だと思う! 同じ生物単位であるこの私だぞ。」 『…それは間違いだ。生物単位がそのようなことをできるわけがない。…生物単位は劣っている。』 「ノーマッド、案内人が外で待っている。何もしてはならないぞ。お前の専用の部屋へゆく。案内してくれる。お前はそこにいて、ジッとしていろ。わかったな。」 『私は、調査するよう指令を受けている。』 「いいか私は、お前の設計者だ。新しい指令に従え。」 『私は打ち上げられた地点に戻る前にあなたを再評価しなければならない。…あなたを分析し直す。』 外へ向かうノーマッド。保安部員についていった。 カーク:「分析し直すか。」 スポック:「ノーマッドは船長のことを疑い始めているんです。自分も生物単位だなんて言ったのが、いけなかったのかもしれません。ノーマッドには船長が完全なものに映らなくなっています。」 「まずいことを言ったな。」 「そうですよ。それに打ち上げ地点に戻るとか、言い出しました。地球です。」 「それじゃノーマッドは、見せた地図で地球の位置がわかったのかな。」 「ノーマッドにとってはそれくらい簡単なことだと思いますよ。」 「とすれば大変なことになるぞ。あれが、地球に上陸すれば…」 「地球にはノーマッドの言う不完全な生物単位がたくさんいるんです。」 「だったら今のうちに何とかしなければならん! …殺すんだ※34。」 |
※25: Crewwoman エンサイクロペディアなどでは宇宙化学者 Astrochemist (バーバラ・ゲイツ Barbara Gates) セリフなし。しっかりクレジットはされていますが、本当にこの人物かは確認が取れていません。ほかにそれらしき女性もいないようですが… ※26: Christine Chapel (メイジェル・バレット Majel Barrett) TOS第34話 "Amok Time" 「バルカン星人の秘密」以来の登場。声:島木綿子もしくは北見順子、DVD 補完では田中敦子 ※27: ウフーラが読んでいる一連の文章は、原語では順に「犬が走るのを見なさい」「犬はボールをくわえている」「ボールは青っぽい (bluey、「酔っぱらっている=blooey」となっている資料もあり)」 ※28: 原語でも「ヴァルカン精神融合 (Vulcan mind-meld)」ではなく、「ヴァルカン精神探査 (Vulcan mind probe)」という言葉が使われています ※29: Tan Ru ※30: 吹き替えでは「コン、ルー」と聞こえます ※31: changeling 原題。DS9 では「可変種」に対して、この言葉が使われています (DS9第12話 "Vortex" 「エイリアン殺人事件」)。吹き替えでは訳出されておらず、次のように訳されています。カーク「融合だ」 スポック「どういうことです」「二つが一つになって、生まれ変わった。つまり融合だよ。そして A と B が一緒になっても、AB とはならない。新しい C という形になって、生まれ変わる。…だから『バイ菌を…』」 ※32: Roger エキストラ ※33: クルー Crewman エンサイクロペディアなどでは機関部員 Engineer (ミード・マーティン Meade Martin) 一部日本語資料では「マック」という名前になっていますが、根拠不明。声:井上弦太郎、TOS チェコフ ※34: 原語では「そして最重要指令を実行する。根絶だ」 |
『航星日誌、宇宙暦 3541.9※35。我々はもはや最大のピンチに襲われている。もしノーマッドを地球へ行かせたら、その日こそ全人類が滅亡するのだ。』 ターボリフト。 廊下に出た保安部員のカーライル※36。「おい、ノーマッド待て! …ノーマッド、こっちだ!」 フェイザーを撃つ。やはり効果はなく、2人の保安部員は殺された。 勝手に移動を始めるノーマッド。 階段の横を上がっていく。 廊下を歩いているカークたちの下へ、マッコイの通信が聞こえた。『船長、医務室へ。緊急事態だ。』 カークはドアの前に立ったが、自動で開かない。「手動にしろ。」 パネルを操作するスポック。「反応なし。」 ドアが開いた。ノーマッドだ。 カーク:「ノーマッド。ノーマッド。待て。おい待て! …ノーマッド!」 無視して廊下を移動していくノーマッド。 カークは医療室へ入る。「大丈夫か。」 チャペルを抱きかかえるマッコイ。「らしいね。ショックを受けただけだ。」 カーク:「どうしたんだ。」 「ノーマッドが乗組員の経歴書やカルテを調べてたから、止めようとしたらしい。」 「誰のカルテだ。」 「君のだよ。」 スポック:「…やっぱり船長を疑っていますよ。カルテを見てはっきりしたんじゃありませんか?」 カーク:「つまり自分の設計者も、完全なものではないとわかったわけだな。」 スコットの通信。『ブリッジより船長。』 カーク:「カークだ。」 『生命維持装置が故障です。手動でも効きません! 原因は機関室です。』 「ノーマッドか。」 スポック:「そうですね。」 マッコイ:「船内の酸素と熱は 4時間分しかないぞ?」 カーク:「スコッティ、反重力板※37を持って機関室へ来てくれ。」 スポックと共に出ていく。 マッコイはハイポスプレーを手にする。 機関部員たちが倒れている機関室へ入るカーク。「ノーマッド、やめてくれないか。すぐに生命維持装置を直してくれ。」 反応はない。2階へ上がろうとするカーク。 ノーマッド:『待て!』 カーク:「……設計者の指令に従わないのか?」 『指令は不完全な生物単位を根絶することだ。従って宇宙船内の生物単位は全て根絶する。宇宙船も不完全だが、修理可能だ。』 カークは機関部員の脈をとった。「ノーマッド。…私も生物単位である限り、不完全だ。だが、それがお前を設計したんだぞ?」 ノーマッド:『私は完全、私はノーマッドだ。』 「いやあ違う、ほかの宇宙船と結合している。お前の目的は変わってしまったんだ。」 『あなたは間違いだ。あなたも生物単位である以上は不完全だ。』 「……だが設計者だぞ。」 『そうだ、設計者だ。』 「本当にそう思うか。」 『あなたは設計者だ。』 「じゃどうして不完全な私が、お前のようなものを造り出すことができたんだ。」 『その回答は不明、分析をする。』 スポックやスコットたちが、道具を持ってきた。制するカーク。 ノーマッド:『分析完了。データ不足のため回答なし。…だが私は、指令を遂行する。私はノーマッド、完全だ。不完全なものは根絶せねばならぬ。』 カーク:「それでは、この宇宙船に乗っている…生物を、みんな不完全なものと考えて…殺すのか。」 『指令を果たして打ち上げられた地球に戻り、さらに目的を果たす。』 「間違いがあるものは、殺すのか。」 『間違いは全て不完全なものより生まれる。それは根絶しなければならない。』 「では誤りを犯したものは全部、消滅しなきゃあならんのだな?」 『例外はない!』 「……ノーマッド。お前を造ったのは私の間違いだったよ。」 『完全なものを造ったのは間違いではない。』 「私は完全なものを造らなかった。間違いだ。」 『それは違う。私はノーマッド、完全なものだ。』 「…私は本当に、設計者か。」 『あなたは設計者だ。』 「間違ってるぞ! ……ジャクソン・ロイカークが設計者だ。お前はその人と私を間違えている。間違いを犯したぞ。…それに気がついていなかった。これは明確な間違いだ。やっぱりお前も結局、不完全だ。…それに多くの生物を殺したことも間違いだ。」 『…間違い、間違い、間違い、調べる。』 「間違う以上、不完全だ。自分を殺すがいい!」 ノーマッドは揺れ出した。『私はその間違いを分析する。…間違いを、分析する。』 反重力板を受け取るカーク。「よし、今のうちに連れて行こう。」 ノーマッド:『間違いを、調べる。調べる。』 スポックと共に、ノーマッドを両側から挟んだ。 カーク:「考えてる間に、追い出すんだ。」 スポック:「作戦通りにいきましたね。一歩間違えば大変でした。」 「転送室だ!」 ノーマッド:『間違いを、分析。』 スコットも続く。 転送室に運ばれるノーマッド。『分析!』 カーク:「スコッティ、できるだけ遠くへ転送。航区 210。」 スコット:「はい。」 ノーマッド:『間違い!』 「準備よし。」 『完全!』 カーク:「ノーマッド。…お前は不完全だ。」 『間違い。ノーマッド!』 「初めの目的を果たせ!」 『間違い。不完全。ノーマッド。完全。…間違い!』 「やれ!」 スコット:「転送開始。」 転送されていくノーマッド。 スポックと共にスコープを見るカーク。 宇宙空間に、爆発が広がった。 目を背ける 2人。 後には何も残らない。 ブリッジ。 スポック:「おめでとうございます、船長。素晴らしい思いつきでした。」 カーク:「最高の処置ってとこか?」 「いいえ?※38」 マッコイが入る。「ウフーラ大尉の教育は順調に進んでるよ。あと一週間もしたら元の状態に戻りそうだ。」 カーク:「そりゃあよかった。」 スポック:「立派なものだ。」 「何が。」 「ノーマッドを破壊したのは、大きな損失でした。あれは優秀な機械だったんです。」 「しかしあれ以上ほっとけば、何人殺されるかわかりゃしない。…それに、嘆くとしたら私の方だよ。大切な息子を亡くしたんだ。」 「息子。」 「そうさ。私は設計者だったんだろ? …言わば、親と子の関係だよ。あの治療振りは見事だ。あんな医者はほかにいない。…我が息子は、名医だったよ。」 カークは胸に手を当てた。「どうだ、わかったかね?※39」 スポックとマッコイは、何も言わない。 |
※35: 吹き替えでは「0408.3037」 ※36: カーライル大尉 Lieutenant Carlisle クレジットでは保安部員 Security Guard (アーノルド・レッシング Arnold Lessing) 先に殺された 2人を含め、4人とも赤シャツ ※37: antigrav 吹き替えでは「防衛板」 ※38: 原語では、スポック「素晴らしい論理的発想でした」 カーク「私にできるとは思わなかっただろ、スポック」 「はい」 ※39: 原語では「ここ (胸) に残るだろう?」 |
感想など
今回も TOS を代表するキャラクター、ノーマッドの登場です。"No Mad" 「狂っていない」とも読み取れますが、本来の意味は「遊牧民、放浪者」。死者がいとも簡単に生き返ったり、記憶喪失の回復が早すぎる (原語ではウフーラが最後に大学レベルまで戻ったと言及) といった不思議な描写も見受けられますが、これも王道エピソードでしょうね。コンピューター破壊者カークの才能が遺憾なく発揮される点もそうですが、何より映画第一作 "Star Trek: The Motion Picture" 「スター・トレック」と非常に似通っているというのは見逃せません (設計者=クリエイターなど)。 初稿ではノーマッドではなくアルタイルという名で、最後の手段は文学作品を与えて心理描写で混乱させるというものでした。妙に傲慢なノーマッドは、現在も現役で活躍される青野さん (TNG「生き返った死の宇宙商人」、DS9 フェレンギ人ニルヴァ、VOY Q2=クインなど) の吹き替えも相まって、いい味を出しています。なお第2シーズンでチャペルが登場する話を手がけるのは初めてですが、2人の声優がどのエピソードを担当しているかまでは資料にないため、とりあえず併記しています。 |
第36話 "Wolf in the Fold" 「惑星アルギリスの殺人鬼」 | 第39話 "Mirror, Mirror" 「イオン嵐の恐怖」 |