コロンビアと並行して飛んでいるエンタープライズ。
『航星日誌、補足。コロンビアの協力を得て、フロックスの捜索に出る。クリンゴン領へ入り込んで無事に戻るためには、2倍の武力が欲しい。』
拘束室を出されるリードは、制服を整える。「今度はどこへ連れて行かれるのかな?」
無言で連行する MACO たち。
リード:「おお。秘密みたいだな。」
コンソールを見ているアーチャー。リードが自室に入れられる。
リード:「そりゃプライベートのファイルですよ…」
アーチャー:「船の安全に関わる情報だ。…消したデータはトゥポルが復元したよ。…データベースで通信相手を確認した。名前はハリス。宇宙艦隊保安部所属。だが 5年前までで、以降は不明だ。」
「船長。私もそれ以上のことは…」
「そんな答えじゃ納得できん! 全クルーを危険にさらしてるんだぞ。全部話してもらう。…まさか君がな。そのハリスに、何を言われたか知らんが…相談して欲しかったよ。」
「命令なんです。」
「君の指揮官は私だ! 白状しないと言うなら、艦隊に連絡を取る。…調べれば秘密は全て明るみに出るんだぞ、それでもいいのか! ほんとにそれでいいんだな!」
「いいも何も知らないものは言えません!」
「…それなら知っている人物と話す! 直接な! ハリスにメッセージを送れ。」
画面に映っている、黒い制服の男。
研究室に戻ったアンターク。「フロックス家の者は代々医者なのか。」
フロックス:「…フロックス家なんて、ハ。そんなものはない。クリンゴンとは家族体系が、違うんだ。」
「そういえば、聞いたことがある。一人の夫に妻が 3人。一人の妻に夫が 3人。夫婦関係は、相当複雑だろうなあ。」
「まあ、確かにね。ヘ。アンターク家はどうなんだ?」
「代々、戦士の家系だった。私は医者になったとき父に、絶縁された。」
「だが、ドクターとして軍に貢献してるだろ。」
「これでは貢献とは言えん。…危険な優生ゲノムを振り分けきれなかった。この病気を発生させたのは、この私なのだ。あんたを巻き込んだのも私だよ。」
ワープをやめ通常空間に出てくる、優生クリンゴンの船。惑星に近づく。
廊下を歩いてくる一行。
ドアを開けた、女性の優生クリンゴン人大尉※6。「地球人の船は仕留めました。」
中にいたクヴァグ将軍。「私はお前の上官だ、話す前に敬礼しろ。」
腕を胸に当てるクリンゴン人。
クヴァグ:「よろしい。では報告しろ。」
クリンゴン人大尉:「エンタープライズを爆破しました。…エンジントラブルに、見せかけてあります。」
「一人足りんぞ。」
「息子さんは逃げ遅れ、殺されました。」
「マラブ※7は名誉の死を遂げたか。」
「地球人に撃たれて、死んだんです。」
うなるクヴァグ。優生クリンゴンたちは出ていった。
装置から液体が出てくる。
クヴァグが研究室に入った。「状況は。」
アンターク:「研究は、かなりのペースで進んでいます。」
「具体的に。」
フロックス:「ウイルスの、RNA 配列は特定…」
「わかるように説明しろ! 上に何と報告すればいい!」
「…ウイルスの効力を無効にできる、スイッチが見つかりそうだ。」
「それには後どのくらいかかる。」
「一時間ほど。」
「一時間だ!」 出ていくクヴァグ。
オフィスでコンピューターのスイッチを押すクヴァグ。
クリンゴン人のクレル※8が応えた。「何か用か。」
クヴァグ:「最高評議会に、いいお知らせが。」
クレル:「話してみろ。」
クヴァグ:『デノビュラ人の研究で、優生ゲノムが完成間近です。』
「研究は打ち切りと決まったはずだ。」
スクリーンに映るクヴァグ。『この星のコロニーを駆除すれば、これまでの研究が無になってしまいます。』
指差すクレル。『…3日後には我々がそちらへ到着する。クヴァット・コロニーの駆除を阻止したければ、それまでに成果を上げることだ。』 通信を切った。
立ち上がるクヴァグ。
エンタープライズ。
司令室に入るタッカー。「船長、あと少しで機関系統は正常に戻ります。」
アーチャー:「ケルビーでいけるか。」
「…私が掛け持ちで少し、手伝います。…ヘルナンデス船長に、相談して。」
うなずくアーチャー。「…まだあるのか?」
タッカー:「あ…マルコム、どうしたんですか。」
「…私にもまだよくわからん。」
「なるほど。じゃあ、コロンビアへ戻ります。」
トゥポル:「送りましょう。」
出ていく 2人を見たアーチャー。
廊下を歩くトゥポル。「コロンビアでの勤務は楽しいですか。」
タッカー:「まあな、何で。」
「向こうへ移ってから、何か困ったことは?」
「例えば?」
「食べ物が口に合わないとか、規則も違うし。不眠になったり。」
「グッスリ寝てるよ。そっちは。」
「私も。」
「無理してないか?」
「ええ。」
「…ああ。」
クヴァグが戻ってきた。「一時間経ったぞ。」
フロックス:「もうすぐテスト結果が出る。」
「一時間だけやると言ったはずだ!」 テーブルを叩くクヴァグ。
「将軍。駆除船が向かってるのはわかってるし、あんたが計画に入れ込んでいることも知ってる。…個人的にね。息子のことは聞いた。」
「息子は戦いの中で死んだ。」
「最終段階の苦しみは、味わわずに済んだか。…にしても、なぜウイルスに感染した。」
「囚人が底をつき、息子の部隊が優生ゲノムの実験台に選ばれたのだ。…息子は戦士として、特別扱いを求めず私も意思を尊重した。」
拘束室の中で、食事を取っているリード。
隣のマラブは、皿を投げつけた。吐き捨てる。
リード:「…気に入らないか?」
マラブ:「死んだ獣など食えるか! 地球人がひ弱なわけだな。」
「腕力が全てじゃない。」
「力がなければ戦えん。」
「いや、大事なのは頭だよ。戦わずして勝つのが最善の勝利、孫子※9の兵法の言葉だ。」
「戦なくして勝利なしと、カーレス※10は言ってるがな。」
「…戦うことに、疑問をもったことないのか。」
「戦士は疑問などもたん。従うのみだ。」
「上官が間違ったことを言ったら?」
「牢へぶち込むか、殺せばいい。」
「艦隊じゃそういうやり方はしない。」
「だから地球人は我々に敵わんのだ。」
「…じゃどうして、あんたは今ここにいるんだ?」
尋ねるクリンゴン人大尉。「あの薬を打ったら…身体が進化するはずでは?」 部屋には寝ている優生クリンゴンもいる。
クヴァグ:「ほかに感染させる前にお前を隔離する。」
「ここを離れません。…たとえ死んでも、最期まで共に。」 汗に気づく大尉。「同志として。」
「少しの辛抱だ。デノビュラ人が DNA を安定させる方法を見つければ、すぐに復帰できる。…最強のクリンゴンとしてな。」
「この額は元に戻るんですか。」
「わからん。」
「こんな姿では母星には帰れません。…おちこぼれた戦士に、戻れる場所などあるはずがない。」
「心はれっきとしたクリンゴン戦士だ!」
「ほんとにそうなんですか。…地球人と戦ったとき私は、恐怖を感じたんです。そんなことは生まれて初めてでした。…私だけはない、仲間も怯えた目をしていた。これではまるで地球人です、弱くて臆病な。このままでいるくらいなら死を選びます。」
「私が将軍としている限り、帝国はお前たちを見捨てたりはしない。」
エンタープライズ。
自室でポートスに話しかけるアーチャー。「お前もフロックスに会いたいか? もしかして、チーズが欲しいだけじゃないだろうな?」
呼び出し音が鳴った。
アーチャー:「そんなことはないか。」 応える。
ハリス:『アーチャー船長。』 コンソールに映っている。『私に聞きたいことがあるとか。』
「フロックスはどこだ。」
『無事でいます。艦隊の重要な任務を負っているんです。』
「いきなり連れ去られたんだぞ。艦隊が誘拐なんてするか。」
『…憲章の第14条セクション31※11 を見ると、非常事態発生時に限りルールを曲げることを認めるという内容の記述がある。』
「非常事態?」
『そうです。…敵は多いですから。』
「船がクリンゴンに襲われた。それも関係あるのか。」
『それより、リード大尉のことですが。長年よくやってくれています。悪く思わずに。命令しているのは私だ。』
「彼をこんな立場においたのは、あんたか。」
『お気持ちはわかるが、この問題はあなた個人より重要なんです。』
「そんな説明じゃ納得いかん!」
『…とにかく、フロックスの任務は決して邪魔しないでください。宇宙全体に大変な影響を及ぼす。』
ケースを持っているフロックス。「この 4つのウイルスの内一つだけが、症状を初期段階でストップさせる因子をもっている。」
クヴァグ:「どれだ。」
「まだわからない。…一つ一つテストして調べるんだ。」
「どのくらいかかる!」
「一週間。…星を隔離状態にすればいいだろ、うん? 治療はできるんだ、感染者の駆除など必要ない。」
「クレル提督※12が猶予期限を延ばすとは思えん!」
「健康なクリンゴン人 4人を実験台にでもしない限り、期限には間に合わないんだぞ!」
「ここに丁度 4人おるだろ!」
「安全なウイルスはたった一つだけだ、残る 3人は死んでしまう! …倫理に反することだ!」
「倫理を考えれば答えは、簡単だろ。3人の死が、数百万を救う。」
アンタークとクヴァグを見るフロックス。
作戦室のリード。「最初は、裏切ってる意識はなかった。」
アーチャー:「裏切りじゃなきゃ何だ。」
「純粋な極秘任務です、まだ若かった私には…刺激的でした。」
「今もそうなのか。」
「任務は終わったと。…エンタープライズに来てハリスから連絡があったのは初めてなんです。伝染病の治療には、フロックスの力が必要だと言われてただ…船の到着を遅らせろと。」
「じゃこれも聞いたか。拘束室にいるクリンゴン人の医療スキャンだ。」
パッドを見るリード。「地球人の DNA。」
アーチャー:「伝染病は恐らく、遺伝子強化実験の副作用から生み出されたものだろう。」
「そんなこと、何も。」
「ハリスの話では宇宙艦隊のためにも、クリンゴンの安定が不可欠だと。」
「…信じるんですか。」
「信用はできん。地球の協力が必要なら方法はあったはずだ。」
「ほんとは早く打ち明けたかったんです。」
「…挽回はできる。だが、誰に忠誠を誓うのかはっきりさせてもらわんとな。」
「…フロックスの居場所は聞いていません、ですが艦隊諜報部の話ではクリンゴンの遺伝子研究所が…クヴァット・コロニーに。」
パッドを受け取るアーチャー。
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※6: 名前は Laneth (クリスティン・バウアー Kristin Bauer ドラマ「ダーク・エンジェル」(2000) に出演) ですが、言及されていません。「レイネス」としている日本語資料もあります。階級は訳出されていません。声:森夏姫、前編ではコリンズを担当
※7: 前編を含めて、原語では名前は言及されていません。日本語版だけというケースは珍しいですね
※8: Krell (ウェイン・グレース Wayne Grace TNG第139話 "Aquiel" 「謎の蒸発事件」のクリンゴン人トラク地方官 (Governor Torak)、DS9第141話 "Wrongs Darker than Death or Night" 「憎悪を超えて」のカーデシア人レガート (Cardassian Legate) 役。ゲーム "Starfleet Command"、"Klingon Academy" でも声の出演) TOS第45話 "A Private Little War" 「カヌーソ・ノナの魔力」で同名のクリンゴン人が登場しており、その先祖という設定かもしれません。グレースが TNG で演じたトラクは、I.K.S.クヴァット (当時の吹き替えではクヴァ) に乗っていました。声:高階俊嗣、前編でケルビー&異星人その1 を担当
※9: General Sun Tzu TNG第5話 "The Last Outpost" 「謎の宇宙生命体」でも言及
※10: Kahless TOS第77話 "The Savage Curtain" 「未確認惑星の岩石人間」など
※11: セクション・サーティワンと吹き替え。セクションは法律における「項」の意味で、日本語版では DS9第142話 "Inquisition" 「記憶なきスパイ」などのセクション31 (Section 31) を明確に意識させるため、このような訳にしたものと思われます。つまり、組織名は法律の「第31項」そのものが由来だというわけですね。そのエピソードでは、ルーサー・スローンが「セクション31 は、最初の宇宙艦隊憲章に規定されてる」(吹き替えでは「最初の」は含まれず) と言っており、合致させた設定です
※12: クリンゴン軍では通常クヴァグのように将軍位が将官の階級として使われますが、提督位が使われるのは史上初のようです。原語ではこの個所を含め、細かく「元帥 (Fleet Admiral)」と言っているところがあります。また、吹き替えではこの個所のみ「帝国」と言っているような…?
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