特別エピソードガイド
「スター・トレック 叛乱」 (2)
Star Trek: Insurrection
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4. 「英国の船乗り」
「イバラの茂み」を通るエンタープライズ。ウォーフが部屋で寝ている。ピカードからの通信が入った。「ブリッジよりウォーフ少佐。ウォーフ。」 目を覚ましたウォーフが応答する。「艦長。」 「ディープスペースナインではどうなのかは知らないが、エンタープライズでは、まだ時間通りに勤務に就くことになっているぞ。」 慌てて起き上がったウォーフは頭をぶつけ、「オウ!」と声を上げた。「すみません、艦長。すぐ行きます。」 保安コンソールについているダニエルズ大尉※41と顔を見合わせて微笑み、ピカードは「今回は軍法会議は見送ろう。ピカード、以上。」と言った。 そしてピカードは何かに気づき、耳を澄ませた。「最後にトルクセンサー※42を調整したのはいつだ?」と尋ねる。オペレーション席のペリム※43少尉が答える。「2ヶ月前です、艦長。」 「音が悪いな。」 ラフォージが調べる。「トルクセンサーは、12ミクロン確かに調整がずれています。聞こえたんですか?」 「少尉だった頃には、3ミクロンの誤調整を見破ったもんだ。」 ダニエルズが報告する。「よろしいでしょうか、艦長。ダワティ提督が乗船しておられるソーナ船が追跡範囲に入りました。」 ブリッジに出頭したウォーフに、「帯※44をまっすぐにしろ、少佐」というピカード。「スクリーンへ。」 スクリーンに映し出された、ルアフォの隣に立っているダワティが話し始める。 「艦長、来るとは思ってなかった。」 「これはエンタープライズにとって非常に重要なことです、傍観はできません、提督。」 「いい知らせがあるぞ。データ少佐が昨日、任務用偵察船※45に乗って攻撃してきた。ルアフォと私は攻撃隊を送ることに決めた。」 ラフォージが振り返り、ピカードを見る。「ウォーフ少佐と私が数案の戦術計画を立てていますので…」と答えるピカード。しかしルアフォが口を開いた。 「アンドロイドは危険なほど暴力的になったんですぞ、艦長。私の船はかなりの損害を負った。破壊せねば。」 ソーナ船のスクリーンに映ったピカードを睨み付けるように話すルアフォ。ダワティが続ける。 「データが宇宙艦隊にとって財産ということは知っている、ジャン・リュック、だが我々のクルーが惑星の住人の言いなりになっているのだ。」 ピカードは強い調子で言った。「もし我々のデータを捕えるための最初の試みが失敗したら、私が彼を停止させます。私がするべきなのです。私はデータの艦長であり…友人です。」 「わかった。12時間やろう、艦長。そして『イバラの茂み』から出ていって欲しい。それまでには、我々は失敗した時に備えてソーナ人の応援を呼ぶために外縁部に向かう。」 「わかりました。」 「幸運を祈る、艦長。ダワティ、以上。」 エンタープライズから、シャトルが出発した。惑星に向かう。「センサーは地表からの船は全く探知していません」とピカードに言うウォーフ。 「広帯域分散信号を送信するんだ。データの注意を引けるだろう。」 「接近を隠すために惑星の輪を使っているに違いありません。」 「輪のメタフェイズ放射※46は非常に不安定な状態だ。もちろん、避けて通るぞ。」 ピカードは短い歌を口ずさんだ。「出てこい、出てこい、どこにいようと…」 「艦長?」 「よく私の母※47が…」とピカードが答えようとした時、シャトルに衝撃が走った。背後からフェイザーの攻撃を受けている。 「つかまれ」というピカード。ウォーフは席についた。攻撃は続く。「全通信周波数を開け」と命じるピカード。操作するウォーフ。「データ? こちらはピカード艦長。データ、応答してくれ。」 データは無表情のまま、攻撃を続けている。データの首の部分は裂け、機械が露出している。 ウォーフが案を出す。「タキオン※48バーストを発射すれば、シールド調和をリセットせざるを得なくなります。そうすれば、転送収容できます。」 「そうしてくれ」というピカード。 シャトルの後部から、2発のタキオンバーストが発射された。1発はかわすものの、2発目がデータの船に命中する。 「直撃です。シールド調和をリセットしています。」 「転送収容しろ。」 シャトル後部に光が現れ始める。しかし急に止まった。 「転送抑制機※49を作動させました」というウォーフ。ピカードは別の案を実行する。「大気圏突入準備。電離層の境界で揺さぶろう。」 シャトルに続いて、データの船も大気圏へ入っていく。 「スキャナー、オフライン」と報告するウォーフ。ピカードが「回避行動、方位 140、マーク 31」と指示する。攻撃を浴び、シャトル後部から蒸気が噴出してきた。席を離れ、コンピューターを操作して蒸気を止めるウォーフ。 データの船がシャトルの横にやってきた。窓から、ピカードを見るデータ。やはり無表情だ。シャトルを追い抜いて行った。 ピカードは考える。「データは船を飛ばせている。戦術を予想している。明らかに、脳は機能している。敵に対してのデータの反応を見ているわけだ。どうやったら応答するだろう…」 再び攻撃を食らう。ピカードは不意に尋ねた。「ミスター・ウォーフ、ギルバートとサリヴァン※50を知ってるか?」 「いいえ。戻って来てから新しいクルーに会う機会はありませんでした。」 「作曲家だ、ウォーフ。19世紀のな。」 パネルを操作し、画面に曲目があらわれる。「英国の船乗り」と表示された。「データは発つ直前に H.M.S. ピナフォー※51の作品をリハーサルしていた」といい、いきなり大きな声で歌い始めた。「英国の船乗りは気高く、山鳥のように自由」 無言でピカードを見つめるウォーフ。 「彼の力強い拳は反抗する覚悟、偉そうな言葉に」 データにも反応があったようだ。ピカードは歌の合間に「歌え、ウォーフ。歌え。」とささやくが、ウォーフは首を振った。ついにピカードに合わせて、交互にデータも歌詞を歌い始める。 「彼の鼻は息を切らし」 「彼の口はゆがむ」 「彼の頬は赤らみ」 「彼の額は縮む」 「彼の胸は波打ち」 ピカードは歌詞を指差す。画面には歌詞を追うマークも出ている。 だんだん声の大きくなってきたデータ。「彼の心臓は鳴り」 そしてウォーフも歌い始める。「彼の拳は一撃を与える用意ができた」 データは拳を掲げている。 データの船を追うシャトル。「彼の鼻は息を切らし、彼の口はゆがむ。彼の頬は赤らみ、彼の額は縮む。彼の胸は波打ち、彼の心臓は高鳴り、彼の拳は一撃を与える用意ができた」 ピカードは歌の合間に、小さな声でウォーフに「ドッキングクランプを準備しろ」と命じる。席を離れるウォーフ。データは歌に夢中だ。「彼の目は生まれつきの炎で輝く。彼の額は軽蔑を浮かべて、彼は傲慢なしかめっ面には屈しない」 ピカードも声を合わせる。「横暴な言葉づかいにも」 次は交互に歌う。 「彼の心臓は高鳴り」 「彼の喉はうなる」 「彼の髪はちぢれ」 「彼の顔は睨み付ける」 「彼の目は輝き」 データの船に背後から近づくシャトル。「彼の胸は突き出される」 「これは彼のいつもの態度なのだ」 シャトルからドッキングクランプが出され、データの船に接近する。 「彼の足は踏み鳴らされ、彼の…」 ガシャンという音がした。データは我に返り、歌うのをやめる。 「彼の髪はちぢれ、彼の顔は…」 ピカードたちも、歌をやめた。一体化した 2隻の船は、速度を上げ始める。 「慣性カプリングが限界を超えています。向こうを解放しないと、どちらの船も破壊されます」 というウォーフ。しかしピカードは「離すつもりはない。」といった。地上へ急降下する船。 回転しながら地面が迫る。ウォーフが叫ぶ。「制動フィールドを安定させなければ!」 「緊急動力を慣性制動機に回せ。」 「自動シークエンサーがフェイザーの攻撃で損害を受けました。」 「操作を手動に切り替える。」 データからも、同じく迫る地上の光景が見えている。 「動力シークエンス再調整完了。安定機起動。制動フィールドが発生」というウォーフ。 「最大出力。」 ピカードは言った。 回転していた 2隻は平衡を取り戻し、地面ぎりぎりのところで衝突を免れた。草原の草が風を受けて舞う。 船は安定し、ピカードは指示する。「今だ、ミスター・ウォーフ。」 向かうウォーフ。 無表情で船を操作するデータ。後部の扉が吹き飛んだ。ウォーフが現れ、トリコーダーを操作する。すぐにウォーフに飛びかかるデータ。しかしその寸前で音がし、データは倒れ込んでピクリとも動かなくなった。 「艦長、データ少佐を無事拘留しました」とウォーフは伝えた。 |
※41: Daniels (マイケル・ホートン Michael Horton VOY第85話 "Retrospect" にも出演) 映画第8作 "Star Trek: First Contact" 「ファースト・コンタクト」にも登場 (「保安士官」役ですが、同一人物と考えていいと思います)。なぜかエンサイクロペディアの項目では "Lieutenant Nara" とされています
※42: torque sensor
※43: ケル・ペリム Kell Perim
※44: baldric
※45: 艦隊偵察船 Starfleet scout ship 内装はヴォイジャーのシャトル・コクレイン (VOY第31話 "Threshold" 「限界速度ワープ10」) の改良。船体には NCC-75227 と書かれています
※46: metaphasic radiation ※47: イヴェット・ジェサール・ピカード (Yvette Gessard Picard) のこと。TNG第6話 "Where No One Has Gone Before" 「宇宙の果てから来た男」に登場。故人
※48: tachyon
※49: transporter inhibitor
※50: Gilbert and Sullivan
※51: H.M.S. Pinafore |
5. 人質の救出
ピカード、クラッシャー、トロイをはじめとする、エンタープライズの士官が地表へ転送された。静かな様子に戸惑うピカードたち。アーティムら子供たちが、ボールを使って輪になって遊んでいる。「やった!」 連邦士官たちは、バクー人と共に食事をとっていた。そばにはソーナ人も固まって座っている。ソーナ人のリーダーと、カーティスがピカードのところへ来る。 「艦長? ソーナ司令部※52の副アーダー・ガラティン※53です。」 「ダワティ提督の随行員、カーティス大尉です。」 「大丈夫か?」と尋ねるピカードに、カーティスは「全く問題ありません」と答えた。子供たちを見たトロイは言う、「彼らは驚くほど精神的に訓練されており、優れた知覚をもっています。」 アーティムの父親たち、3人のバクー人がやってきた。 「私はソージェフ※54といいます。」 握手をするピカード。「ジャン・リュック・ピカードです。彼女たちは私の士官、ドクター・クラッシャーとカウンセラー・トロイです。」 「何か召し上がりますか?」 「いいえ。私たちはここに…彼らを救出するために来ました。」 ソージェフは隣の女性と顔を見合わせ、「お望みなら、でも武器を下ろしてくれませんか。この村は生命の聖地です。」といった。 ピカードはフェイザーをしまい、クラッシャーたちに密かに命じる。「人質を船へ転送する準備をしろ。」 「船に乗せる前に検疫を受けさせます」というクラッシャー。トロイと共に、艦隊士官たちの中へ入っていく。 ソージェフに話すピカード。「意思に反して捕われていると思っていたんですが。」 だがソージェフが口を開く前に、女性が答えた。「ここにお客様を招く習慣はありません、言うまでもありませんが、意思に反して捕える習慣も。」 ソージェフが続ける。「人工生命体が帰すのを許さなかったのです。その上、彼らは私たちの敵で、さらに増えるだろうといいました。」 「あなたは私たちの敵なんですか?」と尋ねる女性を、「アニージ※55」といって制するソージェフ。ピカードは「私たちには他文明に対して不干渉を貫くという厳しい方針があります。それが艦隊の誓い※56です。」といった。 「その誓いでは他文明を密かに調査しても良いみたいですね」というアニージ。 「人工生命体は私のクルーの一人です。どうやら、病気のようです。」 すると、もう一人のバクー人男性、ターネル※57が答えた。 「彼の陽電子マトリックスの変動は、修理できませんでした。」 驚くピカードの顔を見てアニージがいう。「艦長には、私たちが陽電子装置を修理するテクノロジーを持っているとは思えないんでしょう。」 ソージェフが続ける。「私たちのテクノロジー能力は見た目にはわかりません、日常生活で使用しないことに決めたからです。人間の仕事をさせるために機械を作れば、人間から何かが失われると思っています。」 「でもかつては、私たちは銀河を探検しました、丁度あなたたちのように」 というアニージ。 「ワープ能力をもっているのですか?」 「能力、そうです。けれどワープドライブで、ここ以外のどこに行けるのでしょうか?」 ピカードは辺りを見、花に近づくハチドリに気づいた。そして「我々が侵入したことを、お詫びします」と言い、その場を去った。 エンタープライズでダワティと通信するピカード。 「それに彼らはワープ能力をもっていますので、社会への影響は最小限です。」 「本当によくやってくれた、ジャン・リュック。さあ、荷物をまとめて地獄から出ていってくれ。データの様子は?」 「停止状態です。ラフォージが診断を行っています。」 「全ての報告は明日必要になる。我々はそちらの方に向かっている。途中でクルーと設備を移せるよう、合流地点へ向かってくれ。」 「ここで、まだすることがあるのですか?」 「ああ、若干最後の締めがな。ダワティ、以上。」 ピカードはコンピューターを切り、ゆっくりと立ち上がった。窓から、惑星を見つめるために。 |
※52: Son'a Command ソーナ司令 単に「ソーナ」のみ
※53: Subahdar Gallatin
※54: Sojef
※55: Anij
※56: 第一級優先条項 Prime Directive
※57: Tournel
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6. 心療の姿勢
自室にいるトロイ。チャイムが鳴り、「どうぞ」と応える。入って来たのはライカーだった。 「ハイ。」 「時間あるかな?」 「もちろん」と笑顔で答えるトロイ。ドアが閉まり、ライカーは「ちょっとカウンセリングをしてもらいたいんだ」という。 「そう、何もかも初めてね。」 ライカーは、いきなりトロイの座っていた長椅子に横になり、彼女の膝に頭を置いた。 「さて、寝るのかな、それとも何か?」 「ああ…そうね、くつろげるならご自由に、でもこれは普通の心療の姿勢ではないわね。」 「でもくつろげるんだ。」 「うーん。きちんと座ろうとは思わないの?」 ライカーは起き上がり、「寝ようとは思わないのかい?」といってトロイの首元にキスする。 「へえ、今日は随分とご機嫌なのね。本当にカウンセリングがいるの、それとも遊びに来たのかしら?」 ライカーは部屋を歩き回りながら答える。「中年の危機だと思うんだ。」 「信じるわ。」 「よく眠れない。」 「ドクター・クラッシャーなら治療できる何かを持ってるわ。」 「僕が欲しい物はドクター・クラッシャーからはもらえない。」 ライカーは再びトロイの隣に座った。「カウンセラー、2人の人間が時をさかのぼり、犯した間違いを訂正することはできると思うかい?」 「この船では、何でも起こるわ。」 口付けをする 2人。だがトロイは、「イヤッ!」と言ってライカーを押しのけた。 「『イヤ』?」 「髭を生やしてからはキスしたことないもの。」 そのままライカーはドアから出された。「キスしたら、『イヤ』だって?」 閉められるドア。振り返った笑顔のトロイは、持っていたものを空中に投げ、再びつかんだ。 |
7. 若干最後の締め
通路を歩くラフォージ。「データの神経網を再構築して、取り替えなければなりませんでした。記憶痕跡も含んでいます。」 ピカードに部品を渡す。 「どうして損害を受けたんだ?」 「ソーナ人の武器です。間違いありません、艦長。それがデータに機能不全を起こした原因です。」 立ち止まるピカード。「だがソーナ人の報告では機能不全を起こすまでは発砲しなかったとなっているぞ。」 「ええ、私はそんな風になったとは思えません」とラフォージは言って部品を受け取り、歩き出す。 「なぜ威嚇する前に発砲したんだ?」 と聞くピカード。 「わかることは撃たれるまでは正常に機能してたということだけです。そしてフェイル・セーフシステムが作動しました。」 機関室に入る 2人。「フェイル・セーフ?」 「倫理・道徳サブルーチンが全基本機能を支配しました。」 「まだ善悪の区別がついていたということなのか。」 「ある意味では、区別がついているだけの状態です。システムは記憶の損失を利用しようとする何者に対してもデータを守るように設計されています。」 「そして更に我々を攻撃し、バクー人に我々が敵だと言った。」 ため息をつくラフォージ。「インプラントの調子が悪いのか?」と尋ねるピカードに、「ああ、大丈夫です。単に疲れているだけだと」というラフォージ。パネルを操作し、扉が開いた。データが停止している。首の後ろのスイッチを入れるラフォージ。 すぐに反応し、データは「ジョーディ? 艦長?」と順番に顔を見た。「エンタープライズだ、データ」と説明するピカード。 「記憶痕跡のいくつかが欠けているようです」というデータに、ラフォージは手の中の部品を見せた。 「それだ。」 データを抑えていた器具が外される。「データ、覚えている最後のことは?」とピカードが聞く。いきなり唄い始めるデータ。 「彼の鼻は息を切らし、彼の口はゆがむ…」 微笑みながら、「ああ、任務でだ」というピカード。不思議そうな顔をするラフォージ。 「私はバクーで隔離スーツ※58を着て生理機能測定データを集めていました。最後の記憶は数人の子供たちを追って丘に向かっていたことです。」 木の上で、アーティムたちが小さな動物※59と遊んでいる。やってきたソージェフが尋ねる。 「アーティム、稲妻の日に人工生命体が私たちのところに現れた時、どこにいたか覚えているかい?」 「ダムの近くの丘だよ。」 「連れていってくれないか?」と聞くピカード。データや、アニージたちバクー人もいる。アーティムは動物を上着のポケットに入れ、木から降りた。もう一人の子供と共に走り出す。 アーティムはデータのことが気になるようで、振り返りながら歩いている。その様子に気づいたデータが小走りで近寄り、アーティムに話しかけた。 「私を恐れる理由はない。現在は正常なパラメーター内で動作している。」 「何?」 「直してくれたんだ。」 だがソージェフは、アーティムの肩を持ってデータから離した。置いていかれるデータ。 やってきたピカードに話すデータ。 「艦長…少年は私を怖がっています。」 「君を怖がっているのではない、データ。ここの人々はテクノロジーを拒絶したことを覚えておかなくてはな。」 「私は彼らが拒絶したもの全ての具体化です。」 「今週まで、あの若者はおそらく機械を一度も見たことがなかったのだろう、歩いて話すものはいうまでもなく。」 泡の風呂の中で、かみそりが顔に当てられた。『ブリッジよりライカー』という通信が入る。 「通信し直してくれないか、ミスター・ウォーフ?」と答えるライカー。かみそりを持ち、一緒に風呂に入っているのはトロイだ。 『ダワティ提督が通信中です。』 あきらめるライカー。「つないでくれ。」 「なんでしょうか、提督。」 ソーナ船の身体改良施設※60にいるダワティ。「なぜ軌道を離れていないのだ?」 『まだピカード艦長が地表にいます。』 「何をしている?」 『艦長は我々がデータが機能不全になった理由を適切に説明できるようになるまでは、離れるおつもりではありません。宇宙艦隊での将来が懸かっていますので。』 ベッドの上のルアフォと顔を見合わせるダワティ。「艦長に 12時間は過ぎたことを伝えろ。」 「わかりました。」 『ダワティ、以上。』 ルアフォの首元に器具が当てられ、緑色の液体が管に溜まっていく。「身体から毒素があまりにも出過ぎています。我々は遺伝子操作の限界に達しました」と報じるソーナ人の医者※61。その様子を顔をしかめながら見つめるダワティ。 「私にはこれ以上の遺伝子操作は必要ない、我々の連邦の友人がこの任務を遂行させてくれればな」とルアフォはダワティを見ながら言った。 アーティムに付いていく人々。データは調査しながら、「トリコーダー機能は丘に含まれるケルボナイト※62の大量な堆積物のために制限されます」とピカードに報告する。湖に着いた。 「反射放射能スキャンはどうだ?」というピカード。データは調べ、「興味深い。湖から強いニュートリノ放射があります」と言った。そしてトリコーダーを持ったまま、一歩一歩湖の中へ進んでいく。興味津々で見るアーティム。ついにデータは完全に水の中へ消えた。 「水中でも呼吸できるの?」と聞くアーティム。「データは呼吸しない」と答えるピカード。 「錆びないの?」 ピカードは笑い、「錆びない」といって首を振った。 水中のデータ。一匹の魚が近寄って来た。それに優しく触れるデータ。 水面を見つめるソージェフたち。データは湖から出てくるが、ピカードのところからは離れている。大きな声で呼ぶデータ。 「艦長! 艦長! ニュートリノ放射の原因が何かわかったと思います!」 データは一人で、ダムの大きな滑車を回す。川へ向け、勢いよく流れ出る大量の水。 そして水面には、異様な空間が姿を現した。透明で巨大な物体が、ダムの底に置かれているのだ。言葉のでないバクー人たち。戻って来たデータが話す。 「この船は明らかに連邦のものです、艦長。」 「『若干最後の締め』か。」 2人に付いていこうとするアーティムを止め、ソージェフは「私たちはそんなことに興味はない」という。だがアニージは「私はあるわ」といい、ピカードとデータが乗るボートに同乗した。 「残った方が…」というピカードの言葉をさえぎり、「一緒に行きます」というアニージ。ピカードとデータはボートをこぎ始めた。船に近づいていく。 入口まで来た。データがトリコーダーを操作するとドアが開き、中には……バクー人の村があった。ゆっくりと入っていく 3人。 「これはホログラフィック投影です※63。不完全な、と付け加えた方が良いですね」というデータ。天井の一部の映像が消え、機械部分が露出している。 アニージに説明するピカード。「あなたが見ているのは光子とフォースフィールドによって作られ、コンピューターを駆使した映像です。」 「私はホログラムが何なのか知っています、艦長。問題は、誰かが何のために私たちの村の一つを作りたかったということです。」 「データ、もし君が子供たちを追っていてこの船を発見したとしたら…」 近づきながら話すデータ。「この存在の秘密を守るために私が撃たれたということが考えられます。」 ピカード:「何のためにこの村を複製するだろうか、バクー人を欺くため以外に?」 アニージ:「私たちを欺く?」 ピカード:「この惑星から移住させるためです。ある夜村で眠っていて、次の日の朝にはこの空飛ぶホロデッキで目覚めます…まとめて転送されて。数日中には、気づきもしないまま、似たような惑星に移動させられます。」 データ:「なぜ連邦かソーナ人はバクー人を移住させたいのでしょうか?」 ピカード:「わからないな。」 無言のアニージ。突然、閃光と共にアニージの後ろで火花が散った。攻撃だ。ピカードはとっさに、アニージを入口から湖へ向かって突き落とした。「アー!」 悲鳴を上げ、水面に落ちるアニージ。 屋根の上に武器を持ったソーナ人がいる。フェイザーで反撃するピカード。敵の撃った武器が池の水にあたり、しぶきが飛ぶ。2人は同時にソーナ人を狙い撃ちにした。武器を落とし、屋根から転げ落ちるソーナ人。 ピカードとデータはフェイザーをしまい、入口へ戻る。歩きながら命じるピカード。「コンピューター、プログラム終了。船を遮蔽解除。」 ライトだけの無機質な内装、そして船の外観が姿を現す。だが外では、アニージが悪戦苦闘していた。「助けて! 泳げないの!」 溺れそうになるアニージ。 ピカードとデータはすぐに飛び込んだ。近づいていくピカード。「落ち着いて!」 アニージの体を安定させる。 「撃たれて、私たちを誘拐するための船から湖に落とされて、落ち着けるの?」 咳をするアニージ。 その横で、水中からデータが姿を出した。「水に入った際、私は浮揚装置として役目を果たせるように設計されました。」 シューという音と共に、データの上半身は完全に水中に浮いた。ピカードと顔を見合わせるアニージ。 |
※58: isolation suit 始めに出て来た赤い服。TOS第7話 "The Naked Time" 「魔の宇宙病」などで使用された環境スーツ (environmental suit) に似ています 偽装スーツ 隔離服 ※59: バクー・リール Ba'ku rhyl
※60: ソーナ身体改良施設 Son'a body enhancement facility ※61: (レイ・バーク Raye Birk TNG第11話 "Haven" 「夢の人」のレン (Wrenn) 役)
※62: kelbonite ※63: ホロプログラム 「バクー村」 (Ba'ku village) |
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