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ヴォイジャー エピソードガイド
第85話「呼び起こされた記憶の悲劇」
Retrospect

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・イントロダクション
惑星軌道上。ヴォイジャーの前に光を発する機械状の物体が浮遊している。それに向かって、ヴォイジャーの船体からエネルギー弾が発射された。物体に命中し、大きく穴が空く。ブリッジで結果を報告するトゥヴォック。「命中です。」 異星人の男がブリッジにおり、ジェインウェイに説明を行う。「ターゲットブイはモノタニウム※1で、10メートルの厚さだ。しかもクロモ電子フォースフィールド※2が張ってあった。」 「お見事ね。」 「おわかり頂けて。この辺りじゃちゃんとした防衛力がないと危険だ。ヴォイジャーより重装備の船がやられてるのも見たことがある。」 「ええ、そうでしょうね。」 「アイソキネティック砲※3を防衛システムに加えれば、どんな力が手に入ることになるのか。たった一発でどんな強力なシールドも突き破り、敵の船を貫ける。好戦的な種族も噂を聞いただけでよけて通るようになりますよ。」 「それはいいわ、ミスター・コーヴィン※4。この兵器をもらいます。代金としてはこちらからは…」 ジェインウェイはチャコティの顔を見て、続きを話した。 「12の星域に渡るチャートを渡します。こんな正確なチャートは滅多にないはず。」 「どんな正確なチャートもすぐに古くなりますからねえ。一つ変則的な事態が起きれば、すぐに使えなくなる。考えなくはないですよ。天体図を作るテクノロジー自体を譲ってくれるなら。」 「無理ね。この船専用に設計されたシステムなの。あなたには使いこなせないわ。だけどその代わりに、アイソリニア・プロセスチップなら提供できるけど。そちらのセンサー技術に応用する方法も教えてあげられるわ。」 「頂けるチップの個数は?」 「100でどう?」 「150はなきゃ。」 「115。」 「125!」 「いいわ。機関室に案内してあげて。兵器の設置方法は指導してくれるのかしら。」 保安部員に案内されるコーヴィンは言った。 「もちろん。良心的値段でね。」 「チップをもう 5つ。それ以上はだめ。」 「駆け引きの才能は相変わらず冴えてますな、艦長。」 ターボリフトに入るコーヴィン。パリスは言う。 「全く、フェレンギより悪どい。」 チャコティに指示するジェインウェイ。「設置作業はセブンにやらせてちょうだい。エイリアンの技術を取り込むのは得意技よ。」 「それじゃ、機関室のシステムを自由に触らせても?」 「多少の自由を与えないとね。このごろお行儀も良いことだし。」
天体測定ラボに入るチャコティ。セブンは気にも留めずに作業を続けている。「何の作業だ?」とチャコティが尋ねる。 「数週間前、艦隊から送られた暗号文の解読だ※5。」 「成果はあったか?」 「いや。別の解読アルゴリズムを試す。」 「それはしばらく中断してくれ。別の仕事を頼む。」 「どんな?」 「コーヴィンを手伝って新しい兵器を設置してくれ。」 「気が進まない。あの男は無能だ。」 「かもしれん。だが得意な仕事だろ? 艦長はより責任のある仕事を任せたいといってる。」 「そういうのは私の技術力が必要な時だけだ。」 「君は信頼を裏切った。汚名返上には、努力しないと。一つずつな。」 セブンはしばらく考えると、作業を終えた。 「では機関室へ行ってくる。」
トレスたちにヴォイジャーの構造図を指して説明するコーヴィン。 「ここにアイソリニアバッファー回路をインストールするんだ。ここもね。」 セブン:「メインパワーリレーは抑制フィールドで保護した方がいい。」 「いやあ、大丈夫だよ。バッファー回路は何か危険があったと同時に全て切れるようになってる。」 トレス:「念には念を入れるのよ。使えるフィールドジェネレーターがあるか、在庫リストを調べてくる。」 セブンは近くのコンソールを操作し始めた。近づくコーヴィンに嫌な顔をするセブン。 「何してるんだ?」と尋ねるコーヴィン。 「戦略コントロールシステムを修正している。」 「アイソキネティック回路には特別なプロトコルが必要なんだ。俺に任せておけばいい。」 「その必要はない。」 セブンの作業に文句を付けるコーヴィン。 「違う。違う! サブルーチンは継続シークエンスでアレンジしなきゃ意味がない。いいからどいてろ!」 セブンの手をつかむコーヴィン。その瞬間、セブンはコーヴィンを殴り飛ばした。倒れるコーヴィン。すぐに近くのクルーと、駆けつけたトレスがセブンを抑える。「セブン! やめなさい!」 コーヴィンは鼻血を出し、痛がっていた。まだ収まらないセブン。

※1: monotanium
金属合金。VOY第83話 "Hunters" 「宇宙の闇に棲む狩人」より

※2: chromoelectric force field

※3: isokinetic cannon

※4: Kovin
(Michael Horton 映画第8作 "Star Trek: First Contact" 「ファースト・コンタクト」・"Star Trek: Insurrection" 「スター・トレック 叛乱」のダニエルズ (Daniels) 大尉役) 声:土師孝也、DS9 シャカール

※5: VOY第83話 "Hunters" 「宇宙の闇に棲む狩人」より

・本編
医療室で痛みの声を上げるコーヴィン。ドクターがジェインウェイに怪我の状態を説明する。「顎前骨※6に毛細状のひびが入っています。」 落ち着かないコーヴィン。「見てくれ艦長、へし折られたんだ。」 「すぐに治ります。」 ジェインウェイ:「セブンがあなたに殴りかかった理由は?」 コーヴィン:「理由なんてあるもんか、まるで動物みたいに襲ってきた。」 治療の様子を見ていたトレスが言う。「それは違うんじゃない? 10メートルほど離れたところにいましたが、彼が声を荒げたので振り返るとセブンの腕をつかんでました。」 「ちょっと触っただけだろ! 作業の邪魔だから脇へどいてもらおうと思ったのさ。そしたらいきなりあいつが殴りかかってきたんだ。」 ジェインウェイ:「彼女に何て言ったの?」 「システムの修正には、特別な手順が必要だと教えてやったんだ。」 「それだけ?」 「それだけだよ。」 トレス:「その後彼を、殴り倒したんです。アッシュモア※7と 2人で取り押さえました。」 「殺されるところだ。あの女を何とかしろ!」 ドクター:「生きてるのが奇跡ですよ。動かないで。骨がくっつきませんよ。」 「俺にあれこれ言う前にクルーのしつけを考えたらどうだ。」 ジェインウェイ:「それはもちろんやるわ。迷惑をかけて申し訳なかったわね。じゃ、後はお願い。」 医療室を出ていくジェインウェイ。ドクターは治療を終え、「元通り」とコーヴィンに言った。
作戦室のドアチャイムが鳴った。「入って」というジェインウェイ。セブンが入り、ジェインウェイの前に立つ。何も言わない。ジェインウェイが話し出す。 「まただわね。同じことの繰り返しは飽き飽き。私の言うこともあなたの答えることも同じだもの。話をする意味がない。」 「それでは手間を省いて貨物室に謹慎ということで構わないか?」 「そういう古典的な罰則は何の効果もないってこともわかってる。どんな罰なら、応えるの?」 「私に聞いているのか。」 「ええ、そうよ。正直、万策尽き果てたの。拘束室に入れても解決にもならない。手首を叩くのも意味なし。コーヴィンに腹を立てる気持ちがわからない訳じゃない。私だって何度か鼻をへし折ってやりたい気分になったわ。
But you have to start learning the difference between having an impulse -- and acting on it.

でもそう思うのと、実際やるのとは違うってことを覚えてもらわなきゃ。
言ってることがわかる?」 「理解はできる。今後考慮してみよう。」 「まず第一歩ね。」
トリコーダーを手にするドクター。「今朝は賑やかだったようだな。君に人付き合いの術をレッスンしたが、ボクシングは入ってなかったと思うがね。怪我はないね?」 答えるセブン。「ない。」 トリコーダーに嫌悪感を示すセブン。「まだ気が立ってるのか」と尋ねるドクター。 「かもしれない。」 「君の苦労はよくわかるよ。常に自分より劣った連中を相手にしなきゃならない。私にとっても、コーヴィンのような男は忍耐力を試す試験だな。私の場合は皮肉で応えるがね、左フックじゃなく。我々のレベルに見合う生命体がほとんどいないということを認識しないとな。そうすればいらついても、まあ、大目に見られる。仕方ない。生命体の限界だ。ふむ、記憶痕跡活動※8が活発だな。それにアドレナリンレベルが少し上がってる。」 「つまりどういうことだ。」 「緊張が高まってる状態を示してる。横になって。スキャンしてみよう。通常の人間なら、気分のむらとみるところだが、君の生理機能は独特だ。精神面の変調とは考えにくいからな。」 バイオベッドが作動し、診察台が現れる。身体を覆う機械。セブンは息を呑んだ。イメージを見たからだ。 「ほかに何か身体の不調はあるか? 頭痛や、めまいはどうだ。」 「ない。」 「生理機能は正常だな。ボーグのインプラントをチェックしよう。」 ドクターがセブンの診察を始める。手に持たれた機具。再びイメージを見たセブンは、ドクターの道具から顔をそむける。 「セブン、どうした?」 「出してくれ!」 診察台を叩くセブン。 「落ち着いて。」 診察台が収まり、セブンはベッドから降りた。 「もう検査はいい。」 「大丈夫か?」 怯えるセブン。「来るな。そんなことはやめろ。」 「何? セブン、何を怖がってるんだ。」 「わからない。」
医療室。ジェインウェイに説明するドクター。「どうみても治療に激しい不安を感じているようでした。強い危機感、浅い呼吸にめまい、鎮静剤を飲ませましたよ。」 「彼女の皮質インプラントが原因ということは?」 「それはありません。記憶の抑圧からきている問題でしょう。セブンの脳の海馬に、塩基化合物アミンが集中していました。前には気がつかなかった。これが記憶中枢をふさいでいたんです。」 モニターで説明するドクター。 「原因はわかる?」 「いいえ。しかしアミンが消えつつある。抑圧された記憶の表面化が、不安定な行動の原因かもしれません。何の記憶か、本人もわかってませんが。」 「治療できる?」 「抑圧された記憶をセブンの意識に統合しなければなりません。記憶をさかのぼる、退行という治療法を使うことになる。」 「あなたに精神科医としてのプログラムがあるとは知らなかったけど。」 「おっしゃる通り。ですがカウンセラーがいませんし、精神医療のプログラムを自分で作りました。今後はもっと、お役に立てますよ。」 「経過を報告して。」 ドクターは満足げにうなずいた。
「ユング派のセラピスト※9は、現在の出来事に注目して、それと一致する過去の記憶を探すんだ。だがベタゾイドのアマニン※10博士の説によると、感覚を遮断して、呼吸に集中するテクニックを使う方がより効果的だということらしい。私は両者のいい点をピックアップして、オリジナルの記憶回復法を作ってみた。」 「どんなことを、するんだ。」 「まず君が一番慣れているこの場所で治療を行うことにした。皮質プローブが神経経路を補強したら、すぐ退行を行い、抑圧された記憶の方へと導くんだ。」 「始めてくれ。」 「それでは、目を閉じて。心を空っぽに、何も考えずに、無にするんだ。」 「もう無になった。」 「セブン、早きゃいいってもんじゃないんだからね。目を閉じて。深く息を吸う。私の声に意識を集中して。さあ過去に戻るよ。貨物室から出て行くんだ。心を飛ばせて、自由にね。さあ、何が見えた。最初に見えたものは。」 トリコーダーを手に取る。「医療トリコーダーだ。デュランタニウムのケース。ケースの大きさは、7.6センチ× 9.8センチ× 3.2センチ。ディスプレイは英数字だ。」 「それはもういい。そこは、医療室だね。トリコーダーを見てどんな気分だ。」 セブンの顔にトリコーダーが当てられる。 「不愉快だ。」 「どうしてなんだ?」 「傷つけられる。」 「何か痛みを予想させる物が、ほかにもあるのか。」 「診察台だ。身動きできない。」 診察台がセブンの身体を覆う。 「拘束されるような感じか?」 「そうだ。不安になる。」 「どうして?」 機関室でセブンの隣にいる、コーヴィン。 「コーヴィンだ。」 「彼は何を?」 コーヴィンはセブンの腕をつかむ。 「押さえつけられて、奴から逃げたいのに逃げられない。」 医療室の別のベッドに異星人が寝ている。助けを求めるように手を伸ばしている。コーヴィンは機具のスイッチを入れた。 「コーヴィンは何かの道具を使ってる。」 固定された台の上にいるセブンの目の部分に、その機具が当てられた。 「セブン?」 「なぜ忘れていたんだ。」 「何を忘れてた。」 「コーヴィンだ。奴は私に外科的な処置をした。ボーグの技術を、私の身体から盗んだ。私に暴行したんだ。」

※6: premaxilla

※7: アッシュモア少尉 Ensign Ashmore
宇宙艦隊士官。VOY第83話 "Hunters" 「宇宙の闇に棲む狩人」など

※8: engramatic activity

※9: ユング派のセラピー Jungian therapy
カール・ギュスタフ・ユング Carl Gustav Jung (1875-1961) 分析心理学を確立した心理学者・精神科医。TNG第147話 "Frame of Mind" 「呪われた妄想」など

※10: Amanin

引き続きセブンに尋ねるドクター。「順調にいってるぞ。それで、具体的にはその時、何をされた。」 「細かいことはぼやけてわからない。情景が浮かぶだけだ。」 「コーヴィンに間違いないな。コーヴィンが見えたのか?」 「ああ。」 「何か道具を使って、君の自由を奪ったのか。」 「そうだ。」 「それはヴォイジャーの中か。」 「いや。エンサラン※11星で武器のテストをしていた時だと思う。」 「じゃあ、その時のことに集中して。まず最初に浮かぶのはどんな映像だ。詳しく言ってくれ。」 「大きな花崗岩がある。高さはおよそ 50センチだ。」 「よし。その記憶を、もっとたぐりよせるんだ。意識のレベルに引き上げて、具体的に思い描いて。」 目を開くセブン。 「私は、試射場にいた。コーヴィンが我々と取り引きしようと、様々な手持ち型の銃を見せていた。」 開けた場所で、セブン、パリスと、コーヴィンたちエンサランがいる。パリスは持っていた銃を花崗岩に向けて発射した。爆発が起こる。セブンはトリコーダーを持って岩へ近づく。 「コーヴィンはデモンストレーションで破壊力を強調しようとしていたが、私は客観的な分析を任されていた。」 銃の説明をするコーヴィン。「テラワット・パワーの粒子ビームライフル※12だ。4マイクロセカンドで再充填、射程距離は 10キロだ。」 パリス:「確かに艦隊支給の銃とは違うなあ。どう思う?」 セブン:「72%破壊、28%は気化している。未完成だが効果はある。」 パリス:「艦隊の圧縮ライフルほどの精度はないけど、扱いは簡単だなあ。今度ヒロージェンと出くわした時、これがあれば役には立つよ。」 「熱誘導センサーをつければ、照準は更に正確にできる。24%精度を上げられる。」 コーヴィン:「だったら今直そう。一緒に来てくれ。作業は私がやるから、指示だけしてくれればいい。」 パリス:「俺はここでほかの銃を試しててもいいかな?」 「ああ、いいとも。こっちだ。」 コーヴィンに案内されるセブン。
セブン:「私を開発室へ連れて行った。」 ドクター:「どんな場所だ。」 「中は薄暗くて、見慣れない機械や装置がたくさんあった。そこで新たな武器を開発しているらしい。」 トリコーダーで調べるセブン。 「トロンを使った武器だな。」 「うちのディスラプターはほとんどそうだ。」 「トロンは不安定な物質だ。」 「エミッターマトリックスを分極すりゃいい。不安定になっても補正できる。見てろ。」 コーヴィンは銃を構えると、いきなりセブンの方へ向けた。 「何のつもりだ。」 武器を発射するコーヴィン。
アルコーヴのセブン。「私に銃を向けた。」 ドクター:「撃ったのか?」 「ああ、今思い出した。」 「そしてどうなった。」 「わからない。」 「集中するんだ。開発室を心に浮かべて。」 「何かの明かりが見えた。」
強い光。ドクター:「コーヴィンはまだそこにいるのか。」 セブン:「ああ。」 診察台に寝かされたセブン。コーヴィン:「動かないようにしろ。」 隣に女性がいる。 「もう一人、エンサランの女がいた。」 女性※13:「これがボーグのテクノロジー?」 コーヴィン:「ああ、そう言っただろうが。」 セブンは弱い声で言う。「…離せ。」
セブン:「私を診察台に縛りつけた。」 ドクター:「それから何をした。スキャンしたのか。」 コーヴィン:「バイオ切除ポンプは加圧した。準備 OK だ。」 液体がセブンの首につながれた機械を伝っていく。痛むセブン。 女性:「成長媒体がインプラントを活性化してる。ナノプローブは増殖してるわ。」 コーヴィンは手に持った機具をセブンに近づけた。
セブン:「頭に機械を近づけて、接眼インプラントを外した。そして、私の手のインプラントを作動させた。」 ドクター:「どれだ。どれか思い出せるか。」 コーヴィン:「パルスを目盛り最大にしてインプラントを刺激するんだ。」 コーヴィンがセブンの左手に機械をかざすと、チューブが飛び出した。 女性:「同化チューブ、準備 OK。」 「ナノプローブを抽出してくれ。」 同化チューブに機具がつながれる。 セブン:「奴らは同化チューブからナノプローブを抽出した。抵抗できず、止められなかった。」 ドクター:「何もできなくて当然だ。身動きできなかったんだ。そしてどうなった。」 「別のエンサランにナノプローブを注射していた。その男は、同化された。」 眠っている男性の皮膚の色が変わっていく。女性:「成功ね。」 男性の頬から、インプラントが姿を見せた。
開発室に立っているセブン。 セブン:「その後のことはほとんど思い出せない。コーヴィンは、ライフルが暴発したと言った。それが手に当たったと。だが嘘だ。奴が撃った。」 隣にいるコーヴィン。「悪かったなあ。注意すべきだった。」 「皮膚の再生装置はあるか。」 「もちろん。」 コーヴィンは再生装置をセブンの左手に当てた。 「艦長に報告しよう。」 ドクターは貨物室を出ていった。
「間違いありません。セブンは力ずくで傷つけられたんです。」 会議室で説明するドクター。 ジェインウェイ:「様子はどう?」 「当然動揺してます。今はアルコーヴで再生中です。精神的に回復するにはかなり時間がかかるでしょう。コーヴィンに彼がしたことの責任をとらせて下さい。」 「まず彼女の話が本当か確認しないと。トム、現場にいたわね。2人はどのくらい一緒だったの?」 パリス:「2時間ぐらいですかね。」 「戻って来た時、彼女は何があったか話した?」 「ライフルの調整を終えたってことだけで、普通でした。」 ドクター:「恐らく、コーヴィンがその時の彼女の記憶を消したんです。神経スキャンをした時、異常な記憶痕跡を発見したのもそのせいです。」 ジェインウェイ:「セブンの身体に外科的な処置を受けたような跡は見つかったの?」 「いいえ。恐らくセブン自身のナノプローブを使って、細胞の傷を修復したんでしょう。彼女はプローブのことをはっきり覚えてる。」 トゥヴォック:「君はセブンの記憶を、まるで事実のように捉えているな。」 「疑うような理由でも?」 「通常、抑圧された記憶はあまり信用できない。」 「ええ、トラウマが何年も抑圧されていた場合はそうでしょう。ですが彼女の記憶は非常に最近のもので、故意に消されたものなんです。ですからこの記憶は全て真実とみていいでしょう。」 「地球人※14の記憶はあやふやなものだよ。」 パリス:「それじゃあセブンが、嘘をついてるって言うのか?」 「いいや。だが忘れてはいけない。彼女は以前にも幻覚を見ている。」 ドクター:「それは同化された船から、信号を受けたことに対する反応です※15。今回は幻じゃなく現実だ。実際に起こったことを思い出した。脳の海馬に残った記憶痕跡を詳細に調べた。当てずっぽうじゃなく、れっきとした科学です。」 ジェインウェイ:「言い合ってても切りがないわ。セブンはコーヴィンを告発してる。無視はできない。もしそれが真実で、ボーグのテクノロジーを盗んだとすれば、放っておくわけにはいかない。ナノプローブが一つでも悪人の手に渡ればどうなるか。ドクター、セブンの証言を裏付ける物理的証拠がないか引き続き探して。私はコーヴィンと話すわ。以上よ。」
怒るコーヴィン。「くだらない。馬鹿げてる。あの女は嘘をついてるんだ!」 「そんなことをする理由がある?」と尋ねるジェインウェイ。 「私が知るもんか。あんたの部下だろ! 最初は殴りかかって、今度はくだらん話をでっち上げて、それを全部私のせいにする気か。それともこれも値段交渉のうちか?」 「そんなつもりはない。事実をはっきりさせたいだけ。」 「だから話したろ。粒子ビームライフルの照準を調整するために開発室に戻ったんだ。」 「それに2時間もかかったの?」 「あの女が正確にやれとうるさくてね。」 「セブンがトロンエネルギーの放出を受けたのは、どういう経緯でかしら。」 「だからあれは、…パワーセルがオーバーロードになったんだ。事故の報告はすぐにしたはずだ!」 「彼女はあなたが故意に発砲したといってるけど。」 「冗談はやめてくれ。」 「意識を失わせるに十分なパワーだったことは間違いがない。」 「しっかりしてたよ。お互いに、多少は驚いたさ。俺は謝って、彼女は再生装置があるかと聞いた。だからそれで、手の傷を治してやった。機械のインプラントがある方だ。」 「ボーグだと知ってたんでしょ?」 「ああ、知ってたとも。自分で言ってたからな。」 「あなたは彼らのテクノロジーに興味があったんじゃないの? よく調べてみたかったとか。」 「いや。」 「高度な技術よ。武器に応用できると思ったんじゃないの?」 「……だからやったというのか。」 「ボーグのテクノロジーは危険な代物よ。もしほんの一つでもナノプローブを採取したんだったら、今すぐ正直に言って。」 「採取なんかしてない。」 「確認のために開発室を検査させてもらいたいの。」 「断る。人をコケにするにもほどがある。」 「では警察と交渉だわね。もっと協力的だと思うわ。」 「あんたまさか、たった一人のクルーの戯言で今回の取り引きを全部ふいにしてもいいというのか?」 「ええ。さあ、捜査に協力してもらえるのかしら。」 「選択の余地はないんだろ?」

※11: 種族名。エンサラ人 Entharans

※12: terawatt power particle beam rifle

※13: 名前は Scharn
(Michelle Agnew) 声:岩本裕美子

※14: 「人間」と吹き替え

※15: VOY第74話 "The Raven" 「心の傷を越えて」より

コーヴィンに尋問するトゥヴォック。「するとつまり、振動調節の欠陥のせいで、ライフルのパワーセルがオーバーロードになったんですね。」 「ああ、そうだ。」 「その時の状況を、詳しく話してもらえますか。」 「エミッターマトリックスを分極化する方法を見せてた。誘導周波数の設定が高すぎたんだと思う。」 「初めての作業だったんですか?」 「いや、100回以上やってる作業さ。ただのケアレスミスだったといってるだろ。何回謝れば済む!」 「謝罪を求めているわけではありません。」 「じゃ何なんだ。俺をデマに巻き込もうっていうのか? 無理矢理自白させようって? 無理だな。自白しようにも自白することなんてない。何も悪いことはしてないんだ!」 「我々のクルーが被害を訴えています。」 「セブン・オブ・ナインだったか。運がいい奴だよ。」 「なぜです。」 「彼女を守るためにクルーみんなが躍起になってる。こっちは独りだ。」 「エンサランの代表が、間もなくいらっしゃいます。」 「治安判事のことか? 役には立たんよ。あの男には君らのようなエイリアンと外交を結ぶことが全てだからな。 「真実を突き止めてくれますよ。それが目的です。」 「何もわかってない。俺たちの星はエイリアンとの交易で暮らしを立ててる。外交には厳しいルールがある。エイリアンから訴えられて友好を損なったってだけで重大な罪になるんだよ。」 「異議を唱える権利は、十分保証されています。」 「そういう問題じゃないんだ。訴えられた時点で信用はゼロだ。誰にも信じてもらえない。それで終わりなんだよ! 頼む。君らの仲間には何もしてない。もうやめてくれ。」 「これが私の任務ですから。でも約束します。捜査は間違いなく、公正かつ忠実な立場で行いますよ。」 「あんたは口だけじゃなさそうだ。色眼鏡で見ないというのなら、あんたを信用しよう。」 部屋を出て行くコーヴィン。
トリコーダーをしまうドクター。セブンに尋ねる。「具合はどうだ?」 「怪我はもう治った。」 「気持ちはどうなんだ。セブン、身体の傷は治っても、心理的な傷は残るものなんだ。そのケアも必要だ。」 「何のために?」 「治すためだよ。コーヴィンに襲われて、個人としての権利を蹂躪された。無理に忘れようとしちゃいけない。敵意や恨みを感じているんじゃないか? それも当然のことなんだよ。」 「恨みは人間の感情だ。非生産的で、何の意味もない。そんな感情はいらない。」 「君にも人間の感情があることをそろそろ認めるべきだ。押し殺せば傷は深くなる。」 「恨みがどんなものかもわからないのに、どう表せというんだ。」 「じゃあ聞いてもいいか。もしコーヴィンが、ボーグ集合体から直接テクノロジーを盗もうとしたらどうなった。」 「同化されていただろう。」 「まさしく。だから君を選んだ。リスクなしに欲しい物を手に入れるためにね。」 「私が独りだから、標的にされたということか?」 「その通り。そして君の人としての権利を侵したんだ。ボーグとしても、人としても踏みにじられたんだよ。」 「卑怯なやり口だ。」 「ああ。手段を選ばずに、卑劣にも君を利用した。新しい武器を作って、それを売るためにね。」 「私が今感じているのが恐らく、怒りだ。コーヴィンに怒りを感じる。」 「よし。それが健康でごく普通の反応なんだよ。コーヴィンが報いを受けたら、きっと気分は良くなるはずだ。」
「ここです治安判事、開発室です。」 部屋のライトを点けるコーヴィン。治安判事のほか、トゥヴォックとドクターも中に入る。 ドクター:「診察台はありませんね。」 コーヴィン:「言ったろ。作業台しかない。」 トゥヴォック:「この部屋だけですか。」 「ああ。」 「最近内部の物を動かした形跡がないか、スキャンしましょう。」 トリコーダーで調べるドクター。台の上に装置がおいてある。 「興味深いね。セブンはこれと似た装置を見たと言ってた。」 コーヴィン:「そりゃそうだろう。ここにいたんだ。」 別の機具を手に取るドクター。「こんな装置を使って、接眼インプラントを外されたらしい。」 「そいつはマイクロキャリバーだ。粒子ビームライフルの照準器のカバーを外す時に使ったんですよ。」 さらに別の道具。「これは電気力学プローブですか?」 「ああ。」 「ふむ、モノフィラメントスティミュレーターですね。これで人の脳の神経伝達物質レベルを変えられますか?」 「そのままじゃ無理だ。」 「手を加えれば可能ですか?」 「手を加えればあんたの通信機でだって神経伝達物質のレベルを変えられるよ。何が言いたいんだ!」 「今のではっきりした。」 スキャンを続けるドクター。 「機器に細胞残留物がありますね。セブンの染色体と一致する。判事、よろしければこれらの工具をヴォイジャーへ持ち帰って、更に詳しくスキャンしたいんですが。」 治安判事※16:「何でもお持ち下さい。」 トゥヴォック:「ドクター、このテーブルの表面に、ボーグのナノプローブが散らばっている。」 「サンプルを採取しましょう。」 検査を終えるドクター。「ふむ。」 コーヴィンは治安判事に訴える。「ライフルが暴発した時、彼女の手に当たったんですよ!」 トゥヴォック:「分散パターンは負傷の状況と一致している。」 ドクター:「このナノプローブは最近再生されてる。セブンの怪我のせいでここに飛び散ったんだとすると、休眠状態のはずだ。だがこのナノプローブは、しっかり活動しています。」 治安判事:「もう十分だ。コーヴィン、証拠はこれで揃った。お前を拘留して、今後の処分を決定する。」 コーヴィン:「そんな…嫌だ。やめろ! みんな動くな!」 コーヴィンは近くにあった銃を構えた。 「コーヴィン、やめるんだ!」 「信じたのに。公正な目で調査をするといったのに! 自分たちに都合のいい物しか見ようとしない。処分なんてごめんだ。」 コーヴィンは別の機具のスイッチを押した。転送されていく。 トゥヴォックは通信を行う。「トゥヴォックからヴォイジャー。」 ブリッジのジェインウェイ。「ジェインウェイよ。」 『ミスター・コーヴィンが転送で逃亡しました。現在位置を確認できますか。』 「待ってて。」 キム:「転送シグナルを感知しました。地表から 300キロ上空です。」 パリス:艦長、その位置でエンジンを稼動している船があります。」 ジェインウェイ:「治安判事、彼を追跡します?」 治安判事:「ええ、私も同行します。」 『ええ、どうぞ。ヴォイジャーへ転送します。スタンバイ。』
ブリッジ。パリスが報告する。 「コーヴィンの船は現在、18、マーク25 の方角へ向かってます。」 ジェインウェイ:「インターセプトコースへ。トラクタービームの発射用意。」 チャコティ:「通常エンジンのようですね。ワープエンジンはないんでしょうか。」 パリス:「現在 9千キロの距離。更に接近中。」 「トラクタービーム発射します。」 スクリーンに映っていたコーヴィンの船は突然、強烈な光を放つエネルギーをヴォイジャーへ発射して来た。眩しさに目を覆うブリッジのクルー。光が収まると、船の姿はなかった。 パリス:「消えました。センサーが全く使えません。」 キム:「光子パルスを出してます。センサーがやられた。センサーアレイを全部起動し直さないと。」 ジェインウェイ:「やって。事実認定の調査が、捕物になったわね。」 チャコティ:「逃げたってことは、やましいことがある証拠です。事実がはっきりするまで、逃がすわけにはいきません。」

※16: エンサラン長官 Entharan Magistrate
(Adrian Sparks) 声:幹本雄之、DS9 デュカットなど

「艦長日誌、宇宙暦 51679.4。コーヴィンのワープの痕跡を感知。現在追跡中。その間にトゥヴォックと私で、コーヴィンの工具類を調べる。」
科学ラボ。 顕微鏡を覗いていたジェインウェイ。「確証はつかめない。全部にセブンの細胞残留物が残ってはいるけど、ただ手に取っただけかもしれないしね。」 トゥヴォック:「ライフルを調べても、やはり結論は出ません。事故で暴発したのかもしれないし、違うかも。」 「どうも嫌な予感がしてきたわ。有罪の証拠になるようなものは出そうにない。」 「調査は公明正大に行うと、彼に言いました。そうしてきたつもりです。」 「そうよ。でも私は彼に偏見をもってた。…それで判断を誤ったかもしれない。今のところ最大の証拠は、ドクターが採取したナノプローブね。再生されてたってことは、コーヴィンが実験用に使ってたってことになる。」 「しかし、我々にはナノプローブの機能が、まだよくわかっていません。セブンの腕にライフルが発射された状況をシミュレートしてはどうでしょうか。ナノプローブがどうなるか、調べましょう。」 「そうね。答えが出るかもしれない。」
顕微鏡のスイッチを入れるドクター。 「本当に必要なんですか。またトラウマになりかねません。」 ジェインウェイ:「無実の人物を告発はできないでしょ。証拠をつかむために、やれることは全部やらなくちゃ。」 セブン:「あの男は無実ではない。私を襲ったのだ。」 ハイポスプレーを持つトゥヴォック。「だが証拠は必要だ。この実験で白黒をつけられる。これでトロン放射のエネルギーをシミュレートできるようにした。君の皮膚の組織を薄く剥ぎ、影響を調べる。痛みはない。」 「痛みより腹が立つだけだ。」 ジェインウェイ:「わかるわ。でも我慢して。答えはすぐに出るわ。」 セブンの腕にハイポスプレーが打たれた。 「どうなったか見ましょう。」 ジェインウェイはそれを顕微鏡にセットし、確認した。トゥヴォックと顔を見合わせる。「ドクター、見てくれる?」 顕微鏡を覗くドクター。 セブン:「どうなんだ。」 ドクター:「ナノプローブは、コーヴィンの開発室にあったのと同じパターンで再生している。全く同じ反応だ。トロン放射のエネルギーが、原因なのかもしれないな。」 「関係ない。コーヴィンが撃った。」 ジェインウェイ:「セブン、あなたが嘘を言ってないってことは確信してるわ。でも可能性として、抑圧された記憶が間違ってるってことも、否定できないわ。」 「どういうことだ。」 「あなたはボーグだった頃に、……いろいろと残忍な医療処置を受けたはずよ。別の生命体が同化されるところも見てるでしょう? それとごっちゃになってない?」 「そんなはずない。説明してくれ。」 ドクター:「君が犠牲者だってことは間違いない。機関室でコーヴィンに怒りを感じたのも、私の診察に怯えたのも、原因があるはずなんだ。そしてそれは、コーヴィンとの恐ろしい事件が原因だと思ってた。」 「ああ、その通りだ。」 「だが冷静に考えて、君の神経作用はまだまだ謎の部分が多いんだ。あの記憶の引き金が何なのかわからない。そしてこの実験結果は、コーヴィンの話の裏付けになる。君のじゃなく。」 「お前が記憶を取り戻す手伝いをしたのに、それを否定するのか。」 ジェインウェイ:「セブン、誰もあなた自身を否定してはいない。でもコーヴィンを見つけて、誤りは認めなくちゃ。」 「コーヴィンが報いを受ければ、私の中に生まれた怒りは消える。あの男を罰するまでは、私は絶対に納得しない。」 医療室を出て行くセブン。ジェインウェイはドクターを見た。


コーヴィンの船を追うヴォイジャー。 ジェインウェイ:「パリス中尉。」 パリス:「センサー領域です。」 「映像を。呼びかけて。」 コーヴィンの船の後方が映し出される。 トゥヴォック:「応答なし。攻撃準備をしています。」 「全周波数でチャンネルオープン。ミスター・コーヴィン、ジェインウェイ艦長です。あなたを告発したのは間違いでした。状況を説明させてもらいたいの。武装解除して。」 「応答あり。」 コーヴィンがスクリーンに出る※17。『追ってくるな。さもないと撃つぞ!』 ジェインウェイ:「あなたを捕まえに来たんじゃない。」 『なら来るな!』 治安判事:「コーヴィン、聞きたまえ。訴訟にはならずに済むんだ。」 『どうせ罠だ。』 ジェインウェイ:「違う。あなたの話を裏付ける証拠が出たのよ。」 『信じないね。』 ドクターはスクリーンに近づく。「押収品を再調査した。ナノプローブの件は、誤解だったんだ。ライフルは、あなたの言う通り暴発だった。戻ってくれ。」 映像が消えた。トゥヴォック:「光子パルスを発射しています。」 船が揺れる。キム:「シールド、82%。」 ジェインウェイ:「停止よ。追いつめるとまずいわ。」 パリス:「反転してきます。こっちに向かってくる。」 コーヴィンの船はヴォイジャーに向かいながら、パルスを連射する。 チャコティ:「パワーグリッドに命中。」 治安判事:「無実でも何でも、この船を破壊する気だ!」 「艦長。」 ジェインウェイ:「こちらから攻撃するわけにはいかない。ハリー、転送収容してみて。」 キム:「分散フィールドを張っていて、ロックできません。」 「いいから続けて!」 再び攻撃を受ける。チャコティ:「シールド、ダウン。」 トゥヴォック:「光子エミッターに全エネルギーを回しています。」 治安判事:「正当防衛だ。彼の船を攻撃して下さい。」 ジェインウェイ:「いいえ。回避行動、取り舵一杯。全スラスター点火。」 パリス:「了解。」 キム:「コーヴィンをロックできそうです、あと少しで。」 トゥヴォック:「また攻撃準備をしています。艦長、コーヴィンのエミッターはオーバーロードになっています。あのままでは爆発です。」 ジェインウェイ:「回線をつないで。コーヴィン、分散フィールドを解除してヴォイジャーに転送。コーヴィン!」 コーヴィンは何も言わない。 チャコティ:「発射しました。」 コーヴィンの船の先端にエネルギーが走ったかと思うと、それは船全体に広がり、点火を起こした。スクリーンに爆発が広がる。 ジェインウェイ:「ハリー!」 キム:「…ロックはできませんでした、艦長。」 セブンは茫然とスクリーンを見つめている。 治安判事:「やれるだけのことはやりました。」 ジェインウェイは治安判事を見た。「非常警報、解除。」 ジェインウェイはドクターを見た。 「パリス中尉、エンサラン・コロニーへ戻って。」 ジェインウェイはセブンを見た。
「医療主任日誌、宇宙暦 51658.2。この 3日間、エンサランの捜査当局に尋問を受けていたが、事態はやっと収束した。」
医療室。考え込んでいるドクター。セブンが入る。「ドクター。」 「ああ。」 「週に一度のメンテナンスだ。」 「ああ、そうだね。こっちへ来てくれ。」 立ち上がり、トリコーダーを手に取るドクター。 「代謝率は安定。電気工学インプラントは正常。それから血圧は…んー、ちょっと低いが許容範囲だな。完璧な健康体だ。」 「だが完璧とは言いがたい。」 「どうしたんだ。」 「コーヴィンの死が頭から離れない。」 「……私もだ。ほかのことは考えられない。」 「ボーグとして私はこれまで、大規模な殺戮に関与したが何も感じなかった。なのに、今はたった一人の死が悔やまれる。」 「自責の念だよ、セブン。自分が何か間違いを犯して、罪の意識を感じることだ。また新しい感情を経験できたな。」 「怒りは興味深かったが自責の念は嫌だ。いずれは消えるか?」 「ああ。だがすぐじゃない。」 「早く消えてもらいたいんだ。」 「耐えるよりほか、しょうがない。」 セブンは医療室を出ていく。ドクターはつぶやいた。「いや待てよ。」
ドクターはジェインウェイに、パッドを手渡した。「プログラムを拡張したいという欲求が生まれるのは、このアルゴリズムのせいです。分離してきました。削除して下さい。」 「どうして?」 「あの事故は、私のせいなんです。自分を改良できるというのぼせ上がりが、この悲劇を生みました。自分が心理学者で、カウンセラーになったつもりでいた。でもその職務に伴う責任を理解していませんでした。セブン・オブ・ナインを助けたい一心で、客観性を失っていました。一人よがりに意見だけを言いたて、間違っているかもしれないとは、考えもしなかった。二度と起こしてはいけない。」 「つまり、一番最初のプログラムに戻したいということなの?」 「その状態でもあらゆる患者の治療に対応できます。そして危険行為を犯す可能性はなくなる。それが一番なんです。」 「そうは思わないわ。あなたの能力が増えて、クルーは随分利益を得ている。提案は却下します。」 「艦長!」 「間違ったからって後戻りはしないわ。どんな大きな間違いでも、あなたがどんなに苦しもうとね。」 「私は医者です。死なせるんじゃなく、救うのが仕事だ。またやってしまうんじゃないかと思いながら、続けてはいけません。」 「それがあるから、次の過ちを未然に防げるんじゃないの? セブンに肩入れしたのはあなたも私も同じよ。家族の一員だとわかってもらいたかった。彼女を守るために闘うってことを見せたかったの。そのために冷静さを失ってたんだわ。みんながコーヴィンの死の責任を負うのよ。一生背負い続けるの。苦しいからって、その重荷を簡単に削除しちゃいけないのよ。」 ドクターは差し出されたパッドを受け取った。作戦室を出て行く。

※17: コーヴィンの船の内装は、VOY第50・51話 "Future's End, Part I and II" 「29世紀からの警告(前)(後)」に登場した、時間艦イーオンのものの使いまわしのようです

・感想
今回も、またセブンとドクターという人気キャラ中心の話です。ニーリックスに至っては登場すらしていません。セブンもドクターも、「人間」として一つ成長したわけですね。
どうも腑に落ちないのが、セブンが見た記憶の原因がはっきりとはわからなかった点。最初にあそこまで協調しておきながら、「ボーグの頃の記憶」で片づけられてしまいました。こじつけでもいいから、スタートレックらしく、きちんとした理由が欲しかったですねえ。


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