カーデシアにいるウェイユンは言った。『驚かれたようですねえ。』 隣にダマール※11も映っている。
オドー:「ヴォルタ人※12がクローンだとは承知しているが…私にはこの世にウェイユンが 2人も必要だとは思えんね。」
『大賛成です。』
「それで? 不幸にもここ数年に渡って私と会っていたウェイユンは、一体どちらのウェイユンなのかね?」
リオグランデのウェイユン。「どちらでもありません。」
カーデシアのウェイユン。『あれはウェイユン5 です。我々の優秀なる先輩は、1月前に亡くなっているのです。』
「そして私がその後に生まれた。」
『あれはドミニオンにとって、実に不幸な日でした。偉大なる真の愛国者であったウェイユン5 が、転送装置で事故死してしまうとは、何という不運な人生だったのでしょう。』 ダマールを見るウェイユン。
もう一人のウェイユンが続ける。『事故は未だ調査中。』
ダマール:「徹底的に調査をしたが、殺しの証拠は見つかっていない。」
オドー:「なるほどな。こっちがウェイユン6 だということは、お前は 7 だな。」
「クローンめ。こんなに手間取らせるとは、厄介な奴。」
「前任者が生きているのに、なぜ新しいクローンを作ったんだ。」
ウェイユン7:「通常はあり得ないことですが、欠陥クローンが出た場合は…」
ウェイユン6:「私は欠陥じゃない!」
『立派な欠陥品だ。敵に亡命しようとするなど、その反抗的な態度がいい証拠ではないか。』
「オドーを敵呼ばわりするのか。」
『とんでもない。君もわかっていると思うが、敵は惑星連邦です。』
ダマール:「いい加減にしてくれ。インプラントを作動させるよう、指示を。」
「わかっています。」
オドー:「インプラントとは?」
ウェイユン6:「ヴォルタ人はみんな脳幹に停止インプラント※13をもっているのです。」
ウェイユン7:『創設者への忠誠を証明しろ。停止するのだ。』
「忠誠を誓うオドーに、まだ死を命じられていません。」
ダマール:『言い聞かせてわかる相手じゃないと言っただろう。今のままでも、お前は死人同然だ。二度とディープ・スペース・ナインには帰さんぞう。』
ウェイユン7:『創設者、あなたまでがこのつまらない争いに関わる必要は全くありません。我々が到着するまでその位置に留まっていて下されば…』
オドー:「大事な捕虜をそちらに引き渡す気は毛頭ない。」
『拒否なさるなら船がどうなっても責任はもてませんよ。』
ウェイユン6:「ただの脅しですよ。創設者を攻撃できるものか。」
ダマール:『ウェイユンには無理でも、私にはできる。よく考えることだ。攻撃機は既に発進した。』 通信を終えた。
ため息をつくオドー。
ウェイユン6:「……申し訳ありません。もっと早く真実をお話しするべきでした。」
オドー:「今からでも遅くないぞ。なぜ亡命を思い立った。」
「…とても、明快なことなんです。私はこの世に生まれ出た瞬間から、この戦争が間違っていると感じていました。どうか誤解なさらないで頂きたい。私は創設者を崇拝していますが、アルファ宇宙域を征服したいという彼らの執着には納得できませんでした。もうそろそろ固形種と共存していくことを学ぶ時期です。創設者たちに疑問をもつなど、許されないことはわかっています。……ウェイユン7 が正しいのでしょう。…私は異端だ。」
「…君は正しい。戦争や創設者に対する君の思いは…筋が通っている。」
「……ありがとうございます、オドー。私を擁護し、守って下さって。」
「誤解されては困るなあ。私はどの捕虜にも公平だ。」
「承知しています。神ですから。」
また、ため息をつくオドー。
カーデシア・プライム。
ウェイユン7:「まさか…ウェイユンから、あのような裏切り者が出ようとは、私は今でも信じられません。」
カナールをグラスに注ぐダマール。「会った瞬間からあいつは何か違ってた。残忍さが欠けていたんだなあ。」
ウェイユン7:「ウェイユン6 は我々ヴォルタ人全ての名を汚す者。…だが…彼に全ての責任を負わせてしまうのも気の毒かもしれません。クローン生成は細心の注意を…必要とします。不良品がたまに出てしまうのは、どうしても避けられないことですからねえ。これまでウェイユンには見られなかったが、可能性はあった。それに裏切りに…関して…言えば、ウェイユン5 の死に何か問題があるといえるかもしれませんね。」
「ああ、私が事故に関わっていると?」
「彼はあなたと転送されるはずでした。」
「中央司令部の緊急会議に呼び出された。」
「都合よくね。」
「私はいつも、運がいい。」
「ええ。」
「カナールで乾杯というのは、やはり無理かな?」
「我々の問題をそう簡単に水に流すわけにはいきませんよ。」
「何をそんなに心配しているんだ。オドーだってジェムハダーの攻撃を望みはしない。」
「だが捕虜の引き渡しを拒んだら、どうする気ですか?」
「その時は殺す。」
「ありえない! 創設者を殺すことは私が許しません。」
「船を阻止しなければ、オドーは 6 を惑星連邦に連れ帰るだろう。そうなれば我々の戦略的作戦について、全ての情報が暴露される。その意味がおわかりか?」
「戦いに負けるということです。」
「その通り。そんな事態を許すわけには。カーデシアは危険にさらされ被害を被る。たった一人の流動体生物を救うことで、未来に対する全計画、あらゆる夢が打ち砕かれることになるとしたら…」
「たとえ命令でもジェムハダーがオドーを攻撃するとは思えません。」
「彼が乗船していると知らせなければ。ただランナバウトを攻撃しろと命令するんだ。」
「……それならうまくいくでしょう。しかし万が一オドーの死に我々が責任があると、創設者に知れたら。」
「誰が知らせるんだ?」
「……オドーはご自分を、創設者だとは考えていない。」
「意見が一致した。ランナバウトを破壊するのだ。」
ウェイユン7 はダマールを見つめ、うなずいた。
ダマール:「安心したよ。これでカナールを少し試してみる気になったかね?」
ウェイユン7 はダマールを無言で見すえた後、部屋を出て行った。
笑い、カナールを飲むダマール。
DS9。
ターボリフトを待っているエズリ。
乗ってきたオブライエン。「おはよう、中尉。」
エズリ:「このまま下がった方がよかったかも。」
「何で。」
司令官室からキラが呼びかけた。「チーフ! ちょっとこちらへ!」
エズリ:「遅かったみたい。」 ターボリフトで降りていった。
オブライエンはキラが待つ司令官室へ入った。妙にガランとしている。
キラ:「事情を説明してくれない?」
オブライエン:「…大佐のデスクは…」
「しらばっくれないで。これはあなたの許可コードでしょ?」
パッドを見るオブライエン。「…ノーグめ。」
キラ:「ノーグがどうかした?」
「ノーグが重力量子安定機と大佐のデスクを交換してしまったと…」
「何ですって?」
「ご心配なく、デスクは取り戻します。」
「ええ、当然のことよ。大佐は 2日でベイジョーから戻ります。大佐が戻られるまでに、デスクを戻しておくこと、きっちりこの位置に。わかったわね!」
レプリマットで話すノーグ。「心配いりませんって。あげちゃったわけじゃありませんから。デスクは貸しただけです。」
オブライエン:「誰に。」
「アル・ロレンゾ※14。」
「誰なんだ、そいつは。」
「デコス・プライム※15の作戦部長です。」
「大佐のデスクを何に使う。」
「写真撮影のためです。」
「写真?」
「有名な宇宙艦隊司令官のデスクを前にした、自分の写真をコレクションしているんです。ああ…いつもはオフィスに忍び込んで撮ってたのに、戦争でそれが難しくなってきたとか。」
「ハ! 物好きな奴だ。」
「すごいコレクションですよ! デソト艦長※16のデスクに、あのピカード艦長※17まで…」
「よーし! わかった。そいつは…写真を撮り終えたら、重力量子安定機をくれるんだな。」
「いえ、彼がくれるのは誘導モジュレーターです。」
「そんな物必要ないじゃないか。」
「U.S.S.ムサシ※18が必要なんです。」
「ああ…じゃあムサシが我々に我々に安定機を送ってくれるのか?」
「彼らがくれるのは、フェイザーエミッター。」
「フェイザーエミッターなんて必要ない!」
「わかってます。でも U.S.S.センチネルが欲しがってて、余分な安定機をもっているんです。」
「じゃあ彼らがくれるんだな? エミッターと交換に。」
「という噂です。」
「噂? お前はそんな噂を元に取り引きを進めているのか?」
「信頼できる情報です。」
「嘘だったらどうするんだ。」
「信じることが大切です。」
「噂を?」
「いえ、物質連続体※19を信じるんですよ。」
「ああ…。誰なんだ、それ。」
「人じゃなくて、この大宇宙を結びつけているパワーですよ。」
「俺はそんな授業、受けた覚えはないなあ。」
「常識です。フェレンギ人なら、最初の耳が生えそろう頃には知っています。」
「フェレンギのおとぎ話を聞いている暇はないんだ。」
「それは実在します。…ああ…あの、いいですか? この宇宙には、数え切れないほどの世界が存在しています。それぞれで、ある物が余ってて、ある物は不足しています。物質連続体は全ての世界を…川のように流れ、必要なところを満たしていくんです。そして自分たちの船を上手に操り、川を進めば…船は望む物全てで満たされるようになっているんです。」
「気が進まないが、今はお前に任せるしか手はない。」
「…川が用意してくれます。」
「フーン、船が沈没しなきゃな。」
リオグランデ。
ウェイユン6 は座ったまま寝ているが、ブツブツ言っている。「…オドー…」 震えながら目を覚ました。
オドー:「…どうした。」
ウェイユン6:「…どうやら夢を…見ていたようで。」
「悪い夢だったようだな。」
「…私は地球にいました。宇宙艦隊司令部に。私は任務報告のためにオフィスに呼び出されているというのに、その場所が見つからないんです。あなたの名前を何度呼んでも、返事がなくて…次の瞬間突然、私はジェムハダーに追われていました。おお…あれはクリンゴン人だったのか?」 笑うウェイユン6。「……おかしいですよね。」
「…そんなことはない。同胞たちを裏切るのは、誰にとっても辛いことだ。…私にも、よくわかる。」
「…オドー。任務報告の時に、あなたにオフィスを案内してもらってもいいでしょうか。」
「……構わんだろう。」
「…それなら安心ですね。」
突然、警報が鳴った。
ウェイユン6:「何の音です。」
オドー:「まずいな。」
ランナバウトが大きく揺れた。
リオグランデに向けて連射する、ジェムハダー船。
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※11: Damar (ケイシー・ビッグス Casey Biggs) DS9 "Shadows and Symbols" 以来の登場。声:古田信幸
※12: 他の個所を含め、ヴォルタ族と訳されています
※13: termination implant
※14: Al Lorenzo
※15: Decos Prime なお「作戦部長」と訳されているのは Chief of Operations のことで、DS9 におけるオブライエンと同じ役職です
※16: Captain DeSoto ロバート・デソト (Robert DeSoto)。U.S.S.フッドの艦長。TNG第68話 "Tin Man" 「孤独な放浪者」に登場
※17: Captain Picard ジャン・リュック・ピカード (Jean-Luc Picard)。現在は U.S.S.エンタープライズ-E の艦長。言わずと知れた TNG のレギュラーで、DS9 パイロット版 "Emissary" 「聖なる神殿の謎」にも登場
※18: U.S.S. Musashi クラス、番号不明。1944年10月、レイテ沖海戦でシブヤン海に沈んだ日本の戦艦にちなんで
※19: 大物質連続体 Great Material Continuum
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