イントロダクション
ランナバウト。 カップを持ってきたオブライエンはため息をついた。「どのくらい寝てた?」 オドー:「2時間かな。」 「ワープ解除したのか。すぐ基地だな。」 「何分か前にベイジョー星系に入った。」 オブライエンはオドーが手にしていた、綺麗な水晶に気づいた。「それは?」 オドー:「買った店の親父が言うには、飾りだ。」 「…飾り集めが趣味だったのか?」 「いや、お土産だ。キラに。」 「ああ…。」 「これ、気に入らないかなあ。」 「いや、気に入るさ。…ケイコに何も買ってないよ。」 「ああ。チーフは会議で、忙しかったからな。」 「オドーも同じなのに。」 水晶を置くオドー。近くに別の箱もある。 オブライエン:「まさかそのチョコもか?」 オドー:「うん、リガリアン・チョコ※1が好きだから。」 箱を指さす。 「俺が買い取る。」 「何だって?」 「俺が買い取るよう。いいだろ? オドー。日帰りで土産 2つも必要ないだろ。」 「マイルズ、悪いが返事はノーだ。」 オブライエンが反論しようとした時、警告音が鳴り響いた。 オブライエン:「後ろに何かいる。」 オドー:「近づいてくるぞ。」 ランナバウトの後ろから、巨大な生物がやってきた。宇宙空間を泳ぐように進み、船の前に出る。 それは前の窓からも見える。 オブライエン:「敵意あるかな。」 オドー:「ないといいね。」 「興味はあるみたいだぞう?」 その生物は横へ動く。その後、ランナバウトが揺れた。 オブライエン:「あ! 何だ!」 オドー:「消えた。」 「何?」 「センサーには全く何の反応もない。」 「どこ行った。」 ランナバウトの上から奇妙な音がする。顔を見合わせる 2人。 音を発する場所は移動している。 フェイザーを持って立ち上がるオブライエン。その音は下へ下がっていき、ダクトに注目する。 突然、中から液体状の物質があふれてきた。それは形を作りながら大きくなっていく。 オドーは言った。「可変種だ。」 液体は一人の男※2の姿になり、固体化した。 |
※1: Rigalian chocolates ※2: ラーズ Laas (Garman Hertzler 通常の J・G・ハーツラーとは異なったクレジット表記。DS9第1・2話 "Emissary, Part I and II" 「聖なる神殿の謎(前)(後)」のヴァルカン人艦長 (Vulcan Captain)、第73・74話 "The Way of the Warrior, Part I and II" 「クリンゴンの暴挙(前)(後)」などのクリンゴン人マートク (Martok)、VOY第135話 "Tsunkatse" 「囚われのファイター」のヒロージェン・ハンター (Hirogen Hunter)、ENT第45話 "Judgment" 「反逆の法廷」のコロス (Kolos)、第80話 "Borderland" 「ボーダーランド」のクリンゴン人艦長 (Klingon Captain) 役。ゲーム "Klingon"、"Armada"、"Armada II"、"Elite Force II" でも声の出演) 声:森田順平、VOY ヴォーラックなど] |
本編
フェイザーを向けるオブライエン。「そこを動くな。撃つぞ。」 可変種はオドーに尋ねる。「君は、変形種だな?」 オドー:「ああ、可変種だ。」 「単一形種に武器を下ろせと言ってくれ。」 「この船に来た目的は?」 「君の存在を感じたからだ。確かめたかった。ついに同じ変形種を見つけたぞ。」 「可変種を、見たことがないのか。」 「長いこと自分の仲間を探し続けてた。」 オブライエン:「そこを動くなと言っただろ! 創設者かもしれない。」 オドー:「違う。百人の一人だ。」 可変種:「百人?」 うなずくオドー。「数百年に渡って、我々の種族は百人の赤ん坊を銀河へと送り出した。ほかの種族について学ばせ、故郷へ戻った時知識を共有するためにだ。」 可変種:「だから私はヴァララ星※3で独りだったのか。最初は自分が何なのかもわからずに、形を変えられることも知らなかった。」 「私も同じだった。」 オブライエン:「邪魔して悪いが、話が本当かどうかはっきりするまで、拘束した方がよくないか。」 可変種:「敵意のない証拠に、甘んじて拘束を受け入れよう。ただし君が、安全を保障すればだ。信用できないからな、ヒューマノイドは。」 DS9。 シスコ:「それで? 彼は今どこだ。」 オドー:「拘束室です。大佐…彼は敵ではありません。自分がどこから来たのか知るために、遠く旅してきただけです。」 「信用できるのか。」 「信じてます。」 「創設者じゃないと、どうして言い切れるんだ。」 「もしそうなら、創設者のつながり全体を冒している病気にかかっているはずです。ドクターに彼をスキャンしてもらいました。形態形成マトリックスは安定しています。…大佐…釈放する許可を頂けませんか?」 「…オドー、君なら簡単に許可を出せない理由は、わかってくれるだろうな。君の種族と戦争中だ。創設者には以前もだまされている。」 「よくわかってますが、彼は創設者じゃない。百人のうちの一人に間違いないんです。大佐、どうか私を信じて下さい。」 「……わかったよ、オドー。この件については君に一任しよう。」 「ありがとうございます。」 司令官室を出ていくオドー。 プロムナードの 2階を歩くオドー。「創設者がドミニオンを率いているんだと、知った時に…決めたんだ。戻らないとね。こんな戦争は間違ってる。」 可変種:「彼らがヒューマノイドを信じないのはわかる。でもなぜ征服する。関わらなければいい。」 「ヒューマノイドが嫌いらしいな。」 「いろいろ経験したからね。向こうが可変種を嫌ってるんだ。」 「ハ、そのうちわかるが、ここのみんなは違う。」 「へえ。」 「フン、私を受け入れてる。」 「そうか? それで残ったのか?」 「言っただろう、創設者にはなりたくないからだ。」 「でも、送り出された百人は違う。彼らを探そうと思ったことは?」 「ない。銀河は広大だ、とても探しきれない。」 「ふーん、君を見つけたぞ。」 「…ずっとここで暮らしてるし、友達もいる。」 すれ違った士官がオドーに挨拶する。「どうも。」 可変種:「初めてヒューマノイドの形を取ったのは?」 オドー:「30年ちょっと前かなあ。」 「たったのか。つい最近なんだなあ。私も最初はヒューマノイドたちと一緒に暮らしていたんだ。」 「どのくらい前なんだ。」 「そうだなあ、200年以上だ。」 感心するオドー。 可変種:「君より早く…送られたんだろう。」 オドー:「もしくは、私は長い間誰にも発見されずに、漂流してたかだ。」 「とにかくここに残ることにした理由はわかったよ。私も最初はヒューマノイドの暮らしに魅せられてた。」 「なのに、興味をなくしたのは?」 「矮小だからだ。ヴァララ人※4は決して私を仲間と認めなかった。彼らの外見を、完全には模倣できなかったからだ。」 「フン、顔は難しい。」 「ああ、ヒューマノイドは自分たちと違う者を排斥する。」 「そうとも限らん。この基地には何十って種族が共存してるが、お互いの違いをみんなちゃーんと受け入れてる。」 1階の人々を見るオドー。 「ふーん、彼は…額にコブがあるな。」 「うん。」 「彼女は鼻にしわがある。だが基本は同じだ。二足歩行で、物を食べ、眠り、呼吸する。私たちとは全く違う。」 「我々は可変種だ、なりたければ同じになれる。」 「…なるべく同じにはなりたくないんだ。そこが君と違う。」 「…仮の宿へ案内しよう。」 廊下。 オドー:「名前を聞いてない。」 可変種:「ヴァララでの名前はラーズだ。彼らの言葉で、『変化』。捻りも何もないだろ。」 「まだいいさ。オドーの意味は、『未知のサンプル』だ。私を見つけた科学者がつけたんだ。」 部屋に入るオドー。「私の部屋だ。私はしばらく、よそへ泊まる。好きなだけ、形を変えてくれ。中にはかなり面白い形がある。」 ラーズはオブジェに触れた。「随分長く使ってないね。」 オドー:「ずーっと、忙しくてね。」 写真立てを見るラーズ。「これは?」 オドー:「彼女はキラだ。」 「ああ、私は妻がいた。」 「そうなのか。」 「ヴァララにね。最初にヒューマノイドの形を取ってすぐだ。」 「それで、どうなった。」 「子供を作れなかった。妻には、大問題だった。」 キラの写真を見つめるオドー。 ラーズ:「このキラという女性も、それを気にしてるか?」 オドー:「……まだ話したことがない。」 「私たちも、そうだった。……それで、我々は生殖するのか。」 「ことは…多少複雑でねえ。我々は自然な状態では単体としては存在しない。」 「意味が、わからないな。」 「ほとんどの時間をつながりの中で過ごす。」 「つながり?」 「一つにつながって、全員が全てを分かち合うんだ。考えや形や、アイデアや感覚をね。」 「まるで謎かけだ。」 「…言葉では説明できない。」 「それなら、見せてくれ。」 「…いいだろう。」 オドーは片手を差し出した。 どうすればいいかわからないラーズ。 オドー:「手を取れ。」 手をつなぐ 2人。オドーは手を液体化させた。 同じようにラーズも。微笑むラーズ。 2人の身体は溶け合い、一つの塊となった。 オドーの部屋。 手を見るラーズ。「生まれて初めて完全に…理解できた。自分がどういう存在か。…ここで君は大切なことを犠牲にしてる。」 オドー:「…ああ。……その通りだ。…だが創設者の戦争に荷担するつもりはない。」 「やめろ。つながったんだぞ。嘘を言ってもわかる。君はキラがいるから残ったんだ。でなければ、故郷へ戻っていた。戦争に関係なく創設者に、なっていた。」 |
※3: Varala ※4: Varalans |
保安室で独り考えているオドー。 キラが入り、笑みを見せる。「オドー。」 オドー:「やあ、ネリス。」 「信じられないわ。百人の一人でしょ?」 「ああ。」 「どんな人?」 「…かなり……複雑です。」 手を握るキラ。「同じね。」 笑うオドー。 キラ:「大丈夫?」 オドー:「もちろん。」 「…心ここにあらず。」 「つながったんです。」 「…そう。」 「心配ない、彼は創設者じゃない。私をドミニオンに連れて行きはしません。つながりは、自然なことなんです。ヒューマノイド同士が話をするのと同じようなもんです。」 「それよりもっとずっと深いんでしょ、違う?」 「そうです。」 「…いつ…会わせてくれる?」 「…お望みなら…」 「ええ。」 「機会を作りましょ。」 微笑むキラ。 クワークの店。 談笑しているオブライエンたち。 キラ:「来たわ。」 オドーがラーズを連れて入る。「彼がラーズだ。」 キラ:「ネリス。」 ベシア:「ジュリアン。」 エズリ:「エズリ。」 オブライエン:「マイルズ。」 ラーズ:「知っている。」 オブライエン:「…申し訳なかったなあ。最初は警戒するだろう? いきなりぶつかられて、肝冷やしたよ。」 笑いも反応もしないラーズ。 エズリ:「宇宙をそんな風に自由に飛び回れるなんて、最高の気分でしょうね。」 笑う。 ラーズ:「残念ながら君には無理だろうなあ。」 「…そうね。」 キラ:「…ヴァララのこと教えて。」 ベシア:「連邦の船は、まだ行ったことがない。」 ラーズ:「ほかの惑星と変わりはない。ヒューマノイドがはびこってる。都会でも田舎でも、どこでも。ほかの生命体は脇へ押しやられてる。以前ヴォルグ※5の群れと、南の大陸へ渡ったことがあるが、その次の夏、繁殖地へ戻ろうとしたら、フェンスで囲われていた。群れは、死に絶えた。子供の代でね。ヒューマノイドが住む場所はどこもそうだ。彼らは、自然のバランスを破壊する。」 そこへクワークが料理を持ってきた。「ヴィルム・ステーキ※6、誰だ?」 ベシア:「ああ、やめた。食べる気がしない。」 「いいけどね。」 運んでいくクワーク。 ラーズ:「正直言って、私はもっと…原始的な、生命体が好きだね。彼らはただ、存在する。本能に、従ってね。言葉など必要ないから、だまし合いも、嘘もない。」 オブライエン:「本当の姿を隠して変装するのはそっちだろ。」 オドー:「だから?」 ラーズ:「つまり、流動体生物は信用できない。」 オブライエン:「…オドーは信じてる。」 「ああ、確かにそうだろうな。彼ときたら、君ら同様矮小だと思い込まされている。」 オドー:「ラーズ。」 冗談を言うエズリ。「企みを見抜かれたわね!」 ベシア:「また失敗だ。」 笑うオブライエン。 だがキラは違う。「笑えないわ。」 ラーズ:「ああ、彼が心配だ。」 「それは余計な心配ね。」 オドー:「本当に、そうです。……さてと…今夜は、面白かった。それじゃ、失礼。中佐、カウンセラー、ドクター、チーフ。行こう。」 ラーズを外へ出すオドー。店を出る前に、キラたちに向かって手を広げた。 オブライエン:「楽しかったよ!」 ラーズを連れて行くオドー。「こっちだ。」 残されたキラたち。 ターボリフトから降りるオドー。「私の友人を侮辱して楽しいか。」 ラーズ:「思ったままを言っただけだ。」 「そうなんだろうな。」 「ヒューマノイドは悲劇的生物だ。ただ存在することの喜びを忘れている。なのに意識が肉体から独立する、次のレベルにはまだ進化できないでいる。」 「ハ、無数のヒューマノイドを、ひとくくりで語るとはね。」 「長い間にいろんなものになった経験から言ってる。話はいい、つながろう。」 手を出すラーズ。 オドー:「…ここで?」 そこはプロムナードの 2階だ。 「悪いか?」 「ここはやめた方がいい。」 「恥ずかしいのか?」 「いいや?」 「常に目立たず、彼らと違うってことを隠そうとしてるんだな。」 「別にことあるごとに吹聴して歩いたりはしないね。」 「どうして。拒絶されるのが怖いの。」 「不必要に周りの者に居心地の悪い思いをさせることはない。」 「そうやって君は本当の自分を否定してるんだ。」 「勝手な解釈はよしてくれ。」 「最後に別の形になったのはいつなんだ?」 答えの出ないオドー。 ラーズ:「思い出せないんだろ。あまり長くヒューマノイドの振りをしていて、ほかのものになれることも忘れたか?」 オドー:「違う、ただほかのことに気持ちが、向いてた…だけだ。」 「キラを口説くことか? つながれもしないのに?」 ラーズに向き直るオドー。「彼女は関係ない。」 ラーズ:「続かないぞ?」 「君たちが続かなかったからって、私もそうとは限らないだろ?」 「まあな、もし運が良ければ、老いて死んでいくのを見届けられる。」 「個人的なことに口を出さないでもらいたいな。」 「君に私と同じ間違いを犯して欲しくないんだ。ヒューマノイドになろうとして、人生を無駄にしてる。自分に限界を作ってる。オドー、ここを出よう。ほかの仲間を探すんだ。この銀河のどこかで、百人の仲間が…待ってる。ほんの数人でも見つかれば新しいつながりを作れる。よく考えろ。可変種として、ありのままの自分で……生きていけるんだ。」 |
※5: volg ※6: vilm steak DS9第139話 "Honor Among Thieves" 「非情の捜査線」でヴィロム・ソース (vilm sauce) が言及 |
オドーはキラにあげた水晶を手に取っていた。 キラ:「あなたは全部捨てて一緒に行くって、本気で思ったのかしら。」 オドー:「はあ…。彼にはただ理解の範囲外でしょう。」 「断ったらどんな顔をしてた? ……断ったんでしょう? 違うの?」 「考えると言っておきました。その場で、無下に断れば彼が気を悪くするでしょうから。……どうしてそんな顔するんです?」 「…だって、彼はあなたが幸せじゃないと思ってる。私が知らないことも知ってるのよね。」 「そんなことはない。」 「…つながったんでしょ?」 「ああ…。」 「その上であなたがここを離れたがってると、そう思ったのよね。」 「…ただラーズがそう期待してるだけのことです。仲間を探して 2人一緒に宇宙へ飛び立ち、銀河の隅々にまで…旅をする。心が沸き立つ。彼はね。」 「だけど、あなたもそうみたい。」 「私は、ここで…幸せです。」 キラはオドーに身を寄せた。「ああ…。」 目を閉じるオドー。 キラ:「……つながれなくて、悔しいわ。」 オドー:「…関係ないよ、ネリス。愛してる。」 廊下。 歩いてきたオドーは、ためらいがちに部屋に入った。 部屋の中で炎が上がっている。 オドー:「コンピューター! 消火システムを作動し……。ラーズか。」 炎が一瞬明るくなる。「…話をしに来た。」 炎は人型になり、ラーズの姿に変化した。「気づかないとはなあ。炎にもなれることを、知ってたか。」 答えないオドー。 ラーズ:「やっぱりな。まあいい。この基地を離れたら、私が教えてやる。想像を遥かに超えるぞ。」 オドー:「一緒には行かない。ここに残るよ。」 「どうして。彼らの仲間だって振りを続けるのか?」 「余計な期待をさせてすまなかった。」 「…私は行く。仲間を見つけたら、迎えをよこそう。いつか気が変わって、君は来る。」 「だが、仲間を見つけるまでには相当長い…時間がかかる。」 「だからといってあきらめると思うか?」 「別に出発を焦ることはないってことを、言いたいだけだ。しばらく仲間がいてくれれば私も嬉しいし、それは君も同じだろう。」 「…わかった、オドー。単一形種の中に放置して行けない。これも君のためだ。しばらく残ろう。」 「ああ、それがいい。私と上手くやれなきゃ、ほかの仲間ともやっていけるかどうか、わからないからな。」 「ただ私は、単一形種に興味はない。たとえ君の、友人でも。」 「クワークの店であんなことがあったんだ。これ以上君に人付き合いを、させるつもりはないよ。」 「そうか。」 手を差し出すラーズ。 オドーは微笑み、手を握った。再びつながる 2人。 保安室。 仕事をしているオドーは、外で人々が騒いでいるのに気づいた。 外に出ると、プロムナード中に霧があふれている。 戸惑う人々。「何なの、これ。」 子供が走り回っている。「見えなーい。」「どうしたの? 危ないわ、やめなさい。」「えー、面白いのにー。」 オブライエン:「またか。環境システムの故障だ。」 ベシア:「ホロスイートはお流れか。」 「ああ。故障個所を確かめなきゃ。」 オドーが近づく。「必要ない、環境システムは問題ないよ。」 オブライエン:「じゃ何で霧が出てる?」 「霧じゃない。ラーズだ。」 「ラーズ?」 ベシア:「何してるんだ。」 オドー:「見てわかるだろう? 霧になってる。」 オブライエン:「どっかほかでやれるだろ。」 ベシア:「人がいない夜とかね。」 オドー:「迷惑はかけてない。」 オブライエン:「とはいえ、気味悪いよ。」 ベシア:「おい、ラーズに聞かれるぞ。」 「いいさ!」 2人は歩いていった。 近くを通りかかったクリンゴン 2人も、霧に不満なようだ。 オドー:「ラーズ。」 クリンゴン人に睨まれる。「ラーズ。」 オドーの呼びかけに応えるように、空中に霧が集まっていく。液体からラーズへとなった。 オドー:「全く、よくやってくれたよ。君のおかげでプロムナード中が大混乱だ。」 ラーズ:「リラックスしてたんだ。」 「リラックスしたいなら、部屋でやってくれ。」 「なぜ隠れなきゃならない。」 クリンゴン人※7が言った。「キュヴァック! 創設者がここで何をしてる。」 近づく 2人。 オドー:「彼は違う、さあ行くんだ。」 「二度と俺の前で、形を変えるな。」 ラーズ:「関係ないだろ、好きな時にやるさ。……あの目。憎しみに満ちてる。」 オドー:「ラーズ。」 クリンゴン人:「お前の手は、大勢のクリンゴン戦士の血で汚れてる。」 「それならまだ手が臭いはずだがな。」 「プタック!」 ナイフを取り出すクリンゴン。 ラーズは右手を剣に変え、それを手にした姿になった。「小さいな。」 クリンゴン人:「ケチャール!」 クリンゴンはナイフをラーズに突き刺すが、当然のように全く効果はない。 オドー:「やめろ!」 クリンゴンを取り押さえる。 向かってこようとしたもう一人のクリンゴンの腹に、ラーズは剣を突き刺した。 周りの者から悲鳴が上がる。 ラーズの剣が抜かれ、そのまま倒れるクリンゴン人。 オドーが取り押さえるクリンゴンは、怒りに絶叫した。保安部員が駆けつける。 |
※7: Klingon (John Eric Bentley) |
パッドを持つシスコ。「治療したが、刺されたクリンゴン人は死亡した。マートク将軍からラーズの拘留を、要請された。裁判を行う場所が決定するまでだ。」 オドー:「場所というと?」 「引き渡しを求められてる。」 「馬鹿げてる、殺したといっても正当防衛です。」 ウォーフ:「それには異論もある。」 「クリンゴンはディスラプターを抜こうとしてた。」 「もう一人の証言では短剣だったということです。」 シスコ:「証言は嘘だというのか?」 オドー:「一瞬のことでしたが、連中の意図は明らかだった。ラーズの胸を刺したんですよ?」 「ラーズは自分がナイフでは傷つかないと知ってる。だからクリンゴンは、ラーズの行動が明らかな過剰防衛だと主張してるんだ。」 「なぜ急に法的手段に訴えるんです。クリンゴンはしょっちゅう暴力沙汰に関わってるが、訴訟は起こさない。潔しとしないはずです。」 「今回は法的権利を行使する。それだけのことだ。」 「大佐、ラーズが可変種だから、偏見でこんな手段に出ているんです。」 ウォーフ:「奴が挑発したからだろう。」 「挑発した。襲ってきたのは彼らです。」 パッドを見るシスコ。「その前にラーズが、威嚇的に取り囲んだとある。」 オドー:「ハ、クリンゴンが霧を…怖がるんですか。」 何も言わないウォーフ。 シスコ:「彼らだけじゃない、ほかにも 12名から苦情が上がってきている。」 オドー:「プロムナードで…形を変えるのは、犯罪ですか?」 「犯罪じゃないが、どう考えても、賢明ではないな。」 「クリンゴンは公正な裁判をしないとわかっていて、ラーズを引き渡すおつもりですか?」 「決めるのは私じゃない。治安判事だ。」 「でも早く厄介払いしたいんでしょう。最初から嫌がってらした。私が頭を下げてやっと釈放を許可なさったぐらいだ。」 「オドー、そこまでにしておけ。…それと、マートクが保安要員の配置について懸念があると言ってきている。」 「…というと?」 「君が責任者になるのは適当でないということだ。」 「……わけを伺えますか。」 「君が当該事件の目撃者だからだ。」 「ほっとしました。…私が可変種だからだっておっしゃるかと。そう思いました。」 立っていたウォーフを避け、司令官室を出るオドー。 ウォーフはシスコを見た。 プロムナードにターボリフトで戻るオドー。 クワークが近づく。「オドー。奴の件、聞いたぜ。クリンゴンが裁判にかけたがってるんだって?」 オドー:「裁判を受けるべきは彼らの方だ! 可変種じゃなきゃ、そうなってるはずなんだ。」 オドーに続いて保安室に入るクワーク。「そうだろうな!」 振り返るオドーに話す。「霧の件も追い打ちをかけたしなあ。」 オドー:「ラーズは、我々の本能に従っただけのことだよ。」 「だがあんたは馬鹿はしない。みんなあんたの本当の姿はできれば見たくないからな。ドロドロに変身されちゃ気味悪い。…キラの前じゃやらないだろ?」 「やったら悪いのか。」 「常識で考えりゃあ、しない方が…喜ぶぜ。まだわからないのか? 俺たちヒューマノイドは数百万年の進化を経てきた。未知の生物には殺される危険性大だって学んでるんだよう。とぐろを巻いてるヘビを見たら飛び退く。でなきゃここまで生き延びてない。だから数百万年経っても、その本能がきっちり残ってる。遺伝子にな。ほかの生命体に寛容とはいえ、二本の腕に二本足じゃなきゃ、生理的に受け付けない。こんなことバラしたかないが、あんたが自然な姿でいる時は…遺伝子が拒絶反応起こすんだよう。」 「何を言いに来たんだ、クワーク。あのクリンゴンたちが襲いかかったのも、遺伝子のせいだというのか?」 「別に奴らをかばってるわけじゃないさ。なぜこうなったかを説明してるだけだ。気をつけろよ。俺たちはあんたらの種族と戦争中だ。今はプロムナードで流動体生物の誇りを振りかざすべき時じゃない。」 うなずくオドー。クワークは部屋を後にした。 拘束室。 保安部員※8が見張っている。「主任。」 オドー:「収監者と二人きりで話をしたい。」 「すみませんが、命令ですので。」 オドーはそのまま、ラーズが入っている独房へ近づいた。「…何と言えばいいか。」 ラーズ:「間違っていたと認めろ。この基地の連中も、ほかのヒューマノイドと変わりはない。」 「尋問中に誤解が全て解けてくれるといいが。」 「きっとさぞ公明正大な聴取なんだろうな。」 「全てを、事実通りに話せばいい。」 「彼らが私の言葉を信じるか? ヒューマノイドと私の話のどっちを聞くと思う。」 「…引き留めるべきじゃなかった。そうすれば、こんなことにはならなかったんだ。」 「唯一の慰めは、彼らは本当の仲間じゃないと、やっと君が気づいてくれることだ。クリンゴンの目のあの憎しみを見ただろ。君がいう友人たちの瞳の奥にも、同じものが潜んでる。今にそのことに気づく。」 立ち上がるラーズ。「君を受け入れているのは、その姿のせいだ。何者にもなれるのに、彼らの姿を選んでる。最大の賛辞だからな。だがたとえ見かけはヒューマノイドでも、本当は違うことを彼らはわかってる。その外見は君の本質とは違うことをちゃんと知ってるんだ。ただの仮面だとね。その仮面の下にあるのは、彼らには未知だ。だから恐れる。その恐れは、一瞬のうちに…憎しみに変わるぞ。」 キラと話すオドー。「クリンゴンに送還される。」 キラ:「わからないわ…」 「わかります。そして誰もそれを止めようとしないんです。」 「でもどうしようもないじゃない。」 「これが可変種じゃなきゃ、大佐はきっと阻止するはずだ。」 「そんな言い方ないわ。」 「どうして!」 「ラーズみたいな物言いね。」 「だとすれば前より物事がよく見えてきたからでしょう。」 「それどういう意味なの?」 「私を見て、ネリス。何が見えます。」 「あなたが見えるわ。」 「違う。これはただの、仮の姿なんだ。借り物だ。ほかの人物にも、ほかの物体にもすぐ変身できる。」 「わかってるわ。でも…これが、あなたがずっと選んできた姿じゃない。一人の、優しく…誠実な男。私が恋に落ちた男よ。…そんな人は本当は存在しなかったっていうの?」 「わかりません。……あなたを愛してます。この世界の誰より。この数ヶ月は生涯で、最高に幸せでした。ただそれでも、心のどこかにラーズと遥かな宇宙へ一緒に飛んでいけたらと願ってる自分がいる。仲間を探しに行こうとして。それが本当の私なんです。ヒューマノイドじゃない。流動体生物です。」 「なら仕方ないわ。宇宙へ飛んでいけば?」 キラはオドーの部屋を出て行った。 拘束室。 キラが入る。 保安部員:「御用ですか?」 キラ:「ええ、収監者と話したいの。二人で。」 「わかりました。」 すぐ出ていく保安部員。 キラはゆっくりと独房へ近づいた。 立ち上がり、キラと向き合うラーズ。 するとキラは、フォースフィールドを解除してしまった。「コラリス星系※9の第3惑星へ行って。今は使われてない鉱山施設とつながる軌道エレベーターがあるわ。オドーにそこへ行くように言うから。」 ラーズ:「これは何かの、罠か…」 「ここを出たいの、出たくないの?」 独房の外に出るラーズ。 キラ:「その通気口からダクトを通って、エアロックへ出られるわ。」 ラーズ:「…なぜだ。」 「……彼のために。」 その言葉に目を見張るラーズ。 |
※8: Deputy (Joel Goodness) ※9: Koralis System |
驚くシスコ。「逃亡した?」 司令官室にはキラとオドーもいる。 シスコ:「どうやって隔離フィールドを抜けたんだ。」 キラ:「わかりません、見たままを説明するしかないんですが、プラズマのような物に変身して突破したんです。静止する間もなく、通気口に消えました。」 ウォーフ:「記録を調べたところ、その後間もなくエアロックが一基作動してます。」 シスコ:「基地を離れたんなら、どうしてセンサーが検知しなかったんだ。」 「コーヴァレン※10の貨物船が同じ頃に出航しています。潜り込んでカモフラージュに使った可能性が。」 キラ:「もう宇宙の彼方ね。」 シスコ:「マートク将軍はきっと激怒するだろうな。」 ウォーフ:「逃げたことで奴は有罪を認めたようなものです。」 オドー:「もしくは我々の司法システムを信用していなかったかです。」 「正式に裁判にかける予定だった。」 シスコ:「ウォーフ少佐、ランナバウトを動員して、星域全体を捜索しろ。」 「了解。」 オドー:「がんばってくれ。」 シスコ:「見つかる可能性は低いが、全力を挙げての捜索に君も依存はないと思っていいんだろうな。」 「もちろんです。」 「では解散だ。」 二人は出ていく。 歩いていくキラとオドーを見るウォーフ。 二人はターボリフトに乗った。 オドー:「レベル9。」 動き出すターボリフト。 キラはオドーを見た。「あからさまだったわよ。逃げて喜んでるのが。」 オドー:「…フォースフィールドまで抜けられるとはねえ。経験を積んだ可変種には不可能はないんです。」 「…あなた、彼と一緒に飛び立ちたいって言ったわね。まだ遅くないわ。」 「どういう意味です。」 「コラリス3号星の廃坑で、ラーズがあなたを待ってる。」 「……君が、逃がしたのか。」 「義務感でここに残って欲しくない。だからそうしたのよ。」 オドーの手を取るキラ。「祈ってる。」 その手にキスした。「探してるものが見つかるように。」 ターボリフトを降りるキラ。 オドーは手を見つめた。 ランナバウトはコラリス3号星に到着する。 ライトを持って廃坑を進むオドー。「ラーズ!」 奥から姿を見せるラーズ。「ああ、来ると思ってた。これは新しい始まりだ。我々の種族にとってのね。君と私は、2人で世紀の旅に船出するんだよ。……どうした。」 オドー:「私は一緒には行かない。」 オドーから離れるラーズ。「じゃなぜ来た。」 オドー:「さよならを言うためだ。」 「馬鹿を言うな。何にしがみついてる。キラか? 彼女でさえ、君は旅立つべきだと思ってる。でなければ私を逃がすわけがないだろ。」 「本当にわからないんだな。愛するがゆえに永遠の別れを告げるほど、深い愛はない。」 「だからそれも、君に本当の居場所を見つけて欲しいからだろ。」 「居場所ならちゃんとある。ラーズ、ヒューマノイドは君が思っているような、小さくつまらない存在じゃない。ネリスがしたことを見ろ。それが証明だろ?」 「愛は全てに打ち勝つか?」 「…わかってもらえずに残念だよ。あらゆる経験をして、あらゆる…ものになっても、君はまだ愛を、知らない。」 「つながりに比べれば、はかない幻に過ぎない。単一形種が孤独に耐えるために生み出した手段だ、一つの肉体に囚われ、常に…独りだからな。」 「かもしれないが、はかないからこそ…尊いんだと思うね。」 「オドー、創設者たちは瀕死だ。ありのままにつながりで生きるチャンスは、これが…最後かしれないぞ。あきらめられるか。」 「行った方がいい。捜索隊が来る。……祈ってるよ。」 手を差し出すオドー。 「……ああ、私も祈ろう。君の方こそ辛いぞ。」 オドーの手を取らず、そのままラーズは去った。 DS9。 ベイジョーの祭壇の前で、キラは祈っていた。「彼を見守り、お導き下さい。」 ドアチャイムが鳴る。「どうぞ。」 オドーだ。 キラ:「……二度と会えないと思ってた。」 オドー:「行けませんでした。」 キラはオドーに近づく。見つめ合う二人。 キラ:「今までありのままの自分を押し殺してたのなら、ごめんなさい。あなたを知りたい。本当のあなたを。」 オドーはうなずいた。二人は両手をつなぐ。 互いの手のひらを合わせる。 オドーは液体化し、さらに明るい光を放った。気体状になり部屋中に広がる。 高く手を広げるキラ。歓喜の表情を浮かべる。 オドーはオーロラのように、部屋中に満ちあふれた。目を閉じるキラ。 |
※10: Corvallen freighter TNG第140話 "Face of the Enemy" 「ロミュラン帝国亡命作戦」で登場 |
感想
以前のエピソード「幼き命」では幼生という形でオドー (と創設者たち) 以外の可変種が登場しました。そして今回は、ほとんどオドーと同じ境遇の仲間が登場。とはいえオドーより経験はあるものの、固形種に対してはかなり違う考え方をもっています。オドーも同じ結果になることも大いにありえたわけで、ベイジョーや DS9 やキラという環境が良かったんでしょうね。 ラーズを演じるのはマートク将軍と同じという、思い切ったキャスティングも面白いですね。ハーツラーも、わざと別のクレジットにしたり、マートクとは違う演技になるように努めたそうです。冒頭の「宇宙飛行形態」は最初は予算節約のために VOY 「繁殖期エロジウム」の生命体を使い回そうとしたそうですが、結局 CG での新たなものとなりました。 CG といえばやっぱり最後のシーン。セリフもないシンプルな場面ですが、何か泣けてしまいました。ラーズの登場も、キラとオドーの関係を進展させる意味はあったわけですね。 |
第163話 "Field of Fire" 「眠らぬ殺意」 | 第165話 "Badda-Bing, Badda-Bang" 「アドリブ作戦で行こう!」 |