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ディープスペースナイン エピソードガイド
第164話「仮面の下の孤独」
Chimera

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・イントロダクション
ランナバウト。
カップを持ってきたオブライエンはため息をついた。「どのくらい寝てた?」
オドー:「2時間かな。」
「ワープ解除したのか。すぐ基地だな。」
「何分か前にベイジョー星系に入った。」
オブライエンはオドーが手にしていた、綺麗な水晶に気づいた。「それは?」
オドー:「買った店の親父が言うには、飾りだ。」
「…飾り集めが趣味だったのか?」
「いや、お土産だ。キラに。」
「ああ…。」
「これ、気に入らないかなあ。」
「いや、気に入るさ。…ケイコに何も買ってないよ。」
「ああ。チーフは会議で、忙しかったからな。」
「オドーも同じなのに。」
水晶を置くオドー。近くに別の箱もある。
オブライエン:「まさかそのチョコもか?」
オドー:「うん、リガリアン・チョコ※1が好きだから。」 箱を指さす。
「俺が買い取る。」
「何だって?」
「俺が買い取るよう。いいだろ? オドー。日帰りで土産 2つも必要ないだろ。」
「マイルズ、悪いが返事はノーだ。」
オブライエンが反論しようとした時、警告音が鳴り響いた。
オブライエン:「後ろに何かいる。」
オドー:「近づいてくるぞ。」
ランナバウトの後ろから、巨大な生物がやってきた。宇宙空間を泳ぐように進み、船の前に出る。
それは前の窓からも見える。
オブライエン:「敵意あるかな。」
オドー:「ないといいね。」
「興味はあるみたいだぞう?」
その生物は横へ動く。その後、ランナバウトが揺れた。
オブライエン:「あ! 何だ!」
オドー:「消えた。」
「何?」
「センサーには全く何の反応もない。」
「どこ行った。」
ランナバウトの上から奇妙な音がする。顔を見合わせる 2人。
音を発する場所は移動している。
フェイザーを持って立ち上がるオブライエン。その音は下へ下がっていき、ダクトに注目する。
突然、中から液体状の物質があふれてきた。それは形を作りながら大きくなっていく。
オドーは言った。「可変種だ。」
液体は一人の男※2の姿になり、固体化した。


※1: Rigalian chocolates

※2: ラーズ Laas
(Garman Hertzler 通常の J・G・ハーツラーとは異なったクレジット表記。DS9第1・2話 "Emissary, Part I and II" 「聖なる神殿の謎(前)(後)」のヴァルカン人艦長 (Vulcan Captain)、第73・74話 "The Way of the Warrior, Part I and II" 「クリンゴンの暴挙(前)(後)」などのクリンゴン人マートク (Martok)、VOY第135話 "Tsunkatse" 「囚われのファイター」のヒロージェン・ハンター (Hirogen Hunter)、ENT第45話 "Judgment" 「反逆の法廷」のコロス (Kolos)、第80話 "Borderland" 「ボーダーランド」のクリンゴン人艦長 (Klingon Captain) 役。ゲーム "Klingon"、"Armada"、"Armada II"、"Elite Force II" でも声の出演) 声:森田順平、VOY ヴォーラックなど]

・本編
フェイザーを向けるオブライエン。「そこを動くな。撃つぞ。」
可変種はオドーに尋ねる。「君は、変形種だな?」
オドー:「ああ、可変種だ。」
「単一形種に武器を下ろせと言ってくれ。」
「この船に来た目的は?」
「君の存在を感じたからだ。確かめたかった。ついに同じ変形種を見つけたぞ。」
「可変種を、見たことがないのか。」
「長いこと自分の仲間を探し続けてた。」
オブライエン:「そこを動くなと言っただろ! 創設者かもしれない。」
オドー:「違う。百人の一人だ。」
可変種:「百人?」
うなずくオドー。「数百年に渡って、我々の種族は百人の赤ん坊を銀河へと送り出した。ほかの種族について学ばせ、故郷へ戻った時知識を共有するためにだ。」
可変種:「だから私はヴァララ星※3で独りだったのか。最初は自分が何なのかもわからずに、形を変えられることも知らなかった。」
「私も同じだった。」
オブライエン:「邪魔して悪いが、話が本当かどうかはっきりするまで、拘束した方がよくないか。」
可変種:「敵意のない証拠に、甘んじて拘束を受け入れよう。ただし君が、安全を保障すればだ。信用できないからな、ヒューマノイドは。」

DS9。
シスコ:「それで? 彼は今どこだ。」
オドー:「拘束室です。大佐…彼は敵ではありません。自分がどこから来たのか知るために、遠く旅してきただけです。」
「信用できるのか。」
「信じてます。」
「創設者じゃないと、どうして言い切れるんだ。」
「もしそうなら、創設者のつながり全体を冒している病気にかかっているはずです。ドクターに彼をスキャンしてもらいました。形態形成マトリックスは安定しています。…大佐…釈放する許可を頂けませんか?」
「…オドー、君なら簡単に許可を出せない理由は、わかってくれるだろうな。君の種族と戦争中だ。創設者には以前もだまされている。」
「よくわかってますが、彼は創設者じゃない。百人のうちの一人に間違いないんです。大佐、どうか私を信じて下さい。」
「……わかったよ、オドー。この件については君に一任しよう。」
「ありがとうございます。」 司令官室を出ていくオドー。

プロムナードの 2階を歩くオドー。「創設者がドミニオンを率いているんだと、知った時に…決めたんだ。戻らないとね。こんな戦争は間違ってる。」
可変種:「彼らがヒューマノイドを信じないのはわかる。でもなぜ征服する。関わらなければいい。」
「ヒューマノイドが嫌いらしいな。」
「いろいろ経験したからね。向こうが可変種を嫌ってるんだ。」
「ハ、そのうちわかるが、ここのみんなは違う。」
「へえ。」
「フン、私を受け入れてる。」
「そうか? それで残ったのか?」
「言っただろう、創設者にはなりたくないからだ。」
「でも、送り出された百人は違う。彼らを探そうと思ったことは?」
「ない。銀河は広大だ、とても探しきれない。」
「ふーん、君を見つけたぞ。」
「…ずっとここで暮らしてるし、友達もいる。」
すれ違った士官がオドーに挨拶する。「どうも。」
可変種:「初めてヒューマノイドの形を取ったのは?」
オドー:「30年ちょっと前かなあ。」
「たったのか。つい最近なんだなあ。私も最初はヒューマノイドたちと一緒に暮らしていたんだ。」
「どのくらい前なんだ。」
「そうだなあ、200年以上だ。」
感心するオドー。
可変種:「君より早く…送られたんだろう。」
オドー:「もしくは、私は長い間誰にも発見されずに、漂流してたかだ。」
「とにかくここに残ることにした理由はわかったよ。私も最初はヒューマノイドの暮らしに魅せられてた。」
「なのに、興味をなくしたのは?」
「矮小だからだ。ヴァララ人※4は決して私を仲間と認めなかった。彼らの外見を、完全には模倣できなかったからだ。」
「フン、顔は難しい。」
「ああ、ヒューマノイドは自分たちと違う者を排斥する。」
「そうとも限らん。この基地には何十って種族が共存してるが、お互いの違いをみんなちゃーんと受け入れてる。」 1階の人々を見るオドー。
「ふーん、彼は…額にコブがあるな。」
「うん。」
「彼女は鼻にしわがある。だが基本は同じだ。二足歩行で、物を食べ、眠り、呼吸する。私たちとは全く違う。」
「我々は可変種だ、なりたければ同じになれる。」
「…なるべく同じにはなりたくないんだ。そこが君と違う。」
「…仮の宿へ案内しよう。」

廊下。
オドー:「名前を聞いてない。」
可変種:「ヴァララでの名前はラーズだ。彼らの言葉で、『変化』。捻りも何もないだろ。」
「まだいいさ。オドーの意味は、『未知のサンプル』だ。私を見つけた科学者がつけたんだ。」

部屋に入るオドー。「私の部屋だ。私はしばらく、よそへ泊まる。好きなだけ、形を変えてくれ。中にはかなり面白い形がある。」
ラーズはオブジェに触れた。「随分長く使ってないね。」
オドー:「ずーっと、忙しくてね。」
写真立てを見るラーズ。「これは?」
オドー:「彼女はキラだ。」
「ああ、私は妻がいた。」
「そうなのか。」
「ヴァララにね。最初にヒューマノイドの形を取ってすぐだ。」
「それで、どうなった。」
「子供を作れなかった。妻には、大問題だった。」
キラの写真を見つめるオドー。
ラーズ:「このキラという女性も、それを気にしてるか?」
オドー:「……まだ話したことがない。」
「私たちも、そうだった。……それで、我々は生殖するのか。」
「ことは…多少複雑でねえ。我々は自然な状態では単体としては存在しない。」
「意味が、わからないな。」
「ほとんどの時間をつながりの中で過ごす。」
「つながり?」
「一つにつながって、全員が全てを分かち合うんだ。考えや形や、アイデアや感覚をね。」
「まるで謎かけだ。」
「…言葉では説明できない。」
「それなら、見せてくれ。」
「…いいだろう。」 オドーは片手を差し出した。
どうすればいいかわからないラーズ。
オドー:「手を取れ。」
手をつなぐ 2人。オドーは手を液体化させた。
同じようにラーズも。微笑むラーズ。
2人の身体は溶け合い、一つの塊となった。

オドーの部屋。
手を見るラーズ。「生まれて初めて完全に…理解できた。自分がどういう存在か。…ここで君は大切なことを犠牲にしてる。」
オドー:「…ああ。……その通りだ。…だが創設者の戦争に荷担するつもりはない。」
「やめろ。つながったんだぞ。嘘を言ってもわかる。君はキラがいるから残ったんだ。でなければ、故郷へ戻っていた。戦争に関係なく創設者に、なっていた。」


※3: Varala

※4: Varalans

保安室で独り考えているオドー。
キラが入り、笑みを見せる。「オドー。」
オドー:「やあ、ネリス。」
「信じられないわ。百人の一人でしょ?」
「ああ。」
「どんな人?」
「…かなり……複雑です。」
手を握るキラ。「同じね。」
笑うオドー。
キラ:「大丈夫?」
オドー:「もちろん。」
「…心ここにあらず。」
「つながったんです。」
「…そう。」
「心配ない、彼は創設者じゃない。私をドミニオンに連れて行きはしません。つながりは、自然なことなんです。ヒューマノイド同士が話をするのと同じようなもんです。」
「それよりもっとずっと深いんでしょ、違う?」
「そうです。」
「…いつ…会わせてくれる?」
「…お望みなら…」
「ええ。」
「機会を作りましょ。」
微笑むキラ。

クワークの店。
談笑しているオブライエンたち。
キラ:「来たわ。」
オドーがラーズを連れて入る。「彼がラーズだ。」
キラ:「ネリス。」
ベシア:「ジュリアン。」
エズリ:「エズリ。」
オブライエン:「マイルズ。」
ラーズ:「知っている。」
オブライエン:「…申し訳なかったなあ。最初は警戒するだろう? いきなりぶつかられて、肝冷やしたよ。」
笑いも反応もしないラーズ。
エズリ:「宇宙をそんな風に自由に飛び回れるなんて、最高の気分でしょうね。」 笑う。
ラーズ:「残念ながら君には無理だろうなあ。」
「…そうね。」
キラ:「…ヴァララのこと教えて。」
ベシア:「連邦の船は、まだ行ったことがない。」
ラーズ:「ほかの惑星と変わりはない。ヒューマノイドがはびこってる。都会でも田舎でも、どこでも。ほかの生命体は脇へ押しやられてる。以前ヴォルグ※5の群れと、南の大陸へ渡ったことがあるが、その次の夏、繁殖地へ戻ろうとしたら、フェンスで囲われていた。群れは、死に絶えた。子供の代でね。ヒューマノイドが住む場所はどこもそうだ。彼らは、自然のバランスを破壊する。」
そこへクワークが料理を持ってきた。「ヴィルム・ステーキ※6、誰だ?」
ベシア:「ああ、やめた。食べる気がしない。」
「いいけどね。」 運んでいくクワーク。
ラーズ:「正直言って、私はもっと…原始的な、生命体が好きだね。彼らはただ、存在する。本能に、従ってね。言葉など必要ないから、だまし合いも、嘘もない。」
オブライエン:「本当の姿を隠して変装するのはそっちだろ。」
オドー:「だから?」
ラーズ:「つまり、流動体生物は信用できない。」
オブライエン:「…オドーは信じてる。」
「ああ、確かにそうだろうな。彼ときたら、君ら同様矮小だと思い込まされている。」
オドー:「ラーズ。」
冗談を言うエズリ。「企みを見抜かれたわね!」
ベシア:「また失敗だ。」
笑うオブライエン。
だがキラは違う。「笑えないわ。」
ラーズ:「ああ、彼が心配だ。」
「それは余計な心配ね。」
オドー:「本当に、そうです。……さてと…今夜は、面白かった。それじゃ、失礼。中佐、カウンセラー、ドクター、チーフ。行こう。」 ラーズを外へ出すオドー。店を出る前に、キラたちに向かって手を広げた。
オブライエン:「楽しかったよ!」
ラーズを連れて行くオドー。「こっちだ。」
残されたキラたち。

ターボリフトから降りるオドー。「私の友人を侮辱して楽しいか。」
ラーズ:「思ったままを言っただけだ。」
「そうなんだろうな。」
「ヒューマノイドは悲劇的生物だ。ただ存在することの喜びを忘れている。なのに意識が肉体から独立する、次のレベルにはまだ進化できないでいる。」
「ハ、無数のヒューマノイドを、ひとくくりで語るとはね。」
「長い間にいろんなものになった経験から言ってる。話はいい、つながろう。」 手を出すラーズ。
オドー:「…ここで?」 そこはプロムナードの 2階だ。
「悪いか?」
「ここはやめた方がいい。」
「恥ずかしいのか?」
「いいや?」
「常に目立たず、彼らと違うってことを隠そうとしてるんだな。」
「別にことあるごとに吹聴して歩いたりはしないね。」
「どうして。拒絶されるのが怖いの。」
「不必要に周りの者に居心地の悪い思いをさせることはない。」
「そうやって君は本当の自分を否定してるんだ。」
「勝手な解釈はよしてくれ。」
「最後に別の形になったのはいつなんだ?」
答えの出ないオドー。
ラーズ:「思い出せないんだろ。あまり長くヒューマノイドの振りをしていて、ほかのものになれることも忘れたか?」
オドー:「違う、ただほかのことに気持ちが、向いてた…だけだ。」
「キラを口説くことか? つながれもしないのに?」
ラーズに向き直るオドー。「彼女は関係ない。」
ラーズ:「続かないぞ?」
「君たちが続かなかったからって、私もそうとは限らないだろ?」
「まあな、もし運が良ければ、老いて死んでいくのを見届けられる。」
「個人的なことに口を出さないでもらいたいな。」
「君に私と同じ間違いを犯して欲しくないんだ。ヒューマノイドになろうとして、人生を無駄にしてる。自分に限界を作ってる。オドー、ここを出よう。ほかの仲間を探すんだ。この銀河のどこかで、百人の仲間が…待ってる。ほんの数人でも見つかれば新しいつながりを作れる。よく考えろ。可変種として、ありのままの自分で……生きていけるんだ。」


※5: volg

※6: vilm steak
DS9第139話 "Honor Among Thieves" 「非情の捜査線」でヴィロム・ソース (vilm sauce) が言及

オドーはキラにあげた水晶を手に取っていた。
キラ:「あなたは全部捨てて一緒に行くって、本気で思ったのかしら。」
オドー:「はあ…。彼にはただ理解の範囲外でしょう。」
「断ったらどんな顔をしてた? ……断ったんでしょう? 違うの?」
「考えると言っておきました。その場で、無下に断れば彼が気を悪くするでしょうから。……どうしてそんな顔するんです?」
「…だって、彼はあなたが幸せじゃないと思ってる。私が知らないことも知ってるのよね。」
「そんなことはない。」
「…つながったんでしょ?」
「ああ…。」
「その上であなたがここを離れたがってると、そう思ったのよね。」
「…ただラーズがそう期待してるだけのことです。仲間を探して 2人一緒に宇宙へ飛び立ち、銀河の隅々にまで…旅をする。心が沸き立つ。彼はね。」
「だけど、あなたもそうみたい。」
「私は、ここで…幸せです。」
キラはオドーに身を寄せた。「ああ…。」
目を閉じるオドー。
キラ:「……つながれなくて、悔しいわ。」
オドー:「…関係ないよ、ネリス。愛してる。」

廊下。
歩いてきたオドーは、ためらいがちに部屋に入った。
部屋の中で炎が上がっている。
オドー:「コンピューター! 消火システムを作動し……。ラーズか。」 炎が一瞬明るくなる。「…話をしに来た。」
炎は人型になり、ラーズの姿に変化した。「気づかないとはなあ。炎にもなれることを、知ってたか。」
答えないオドー。
ラーズ:「やっぱりな。まあいい。この基地を離れたら、私が教えてやる。想像を遥かに超えるぞ。」
オドー:「一緒には行かない。ここに残るよ。」
「どうして。彼らの仲間だって振りを続けるのか?」
「余計な期待をさせてすまなかった。」
「…私は行く。仲間を見つけたら、迎えをよこそう。いつか気が変わって、君は来る。」
「だが、仲間を見つけるまでには相当長い…時間がかかる。」
「だからといってあきらめると思うか?」
「別に出発を焦ることはないってことを、言いたいだけだ。しばらく仲間がいてくれれば私も嬉しいし、それは君も同じだろう。」
「…わかった、オドー。単一形種の中に放置して行けない。これも君のためだ。しばらく残ろう。」
「ああ、それがいい。私と上手くやれなきゃ、ほかの仲間ともやっていけるかどうか、わからないからな。」
「ただ私は、単一形種に興味はない。たとえ君の、友人でも。」
「クワークの店であんなことがあったんだ。これ以上君に人付き合いを、させるつもりはないよ。」
「そうか。」 手を差し出すラーズ。
オドーは微笑み、手を握った。再びつながる 2人。

保安室。
仕事をしているオドーは、外で人々が騒いでいるのに気づいた。
外に出ると、プロムナード中に霧があふれている。
戸惑う人々。「何なの、これ。」 子供が走り回っている。「見えなーい。」「どうしたの? 危ないわ、やめなさい。」「えー、面白いのにー。」
オブライエン:「またか。環境システムの故障だ。」
ベシア:「ホロスイートはお流れか。」
「ああ。故障個所を確かめなきゃ。」
オドーが近づく。「必要ない、環境システムは問題ないよ。」
オブライエン:「じゃ何で霧が出てる?」
「霧じゃない。ラーズだ。」
「ラーズ?」
ベシア:「何してるんだ。」
オドー:「見てわかるだろう? 霧になってる。」
オブライエン:「どっかほかでやれるだろ。」
ベシア:「人がいない夜とかね。」
オドー:「迷惑はかけてない。」
オブライエン:「とはいえ、気味悪いよ。」
ベシア:「おい、ラーズに聞かれるぞ。」
「いいさ!」 2人は歩いていった。
近くを通りかかったクリンゴン 2人も、霧に不満なようだ。
オドー:「ラーズ。」 クリンゴン人に睨まれる。「ラーズ。」
オドーの呼びかけに応えるように、空中に霧が集まっていく。液体からラーズへとなった。
オドー:「全く、よくやってくれたよ。君のおかげでプロムナード中が大混乱だ。」
ラーズ:「リラックスしてたんだ。」
「リラックスしたいなら、部屋でやってくれ。」
「なぜ隠れなきゃならない。」
クリンゴン人※7が言った。「キュヴァック! 創設者がここで何をしてる。」 近づく 2人。
オドー:「彼は違う、さあ行くんだ。」
「二度と俺の前で、形を変えるな。」
ラーズ:「関係ないだろ、好きな時にやるさ。……あの目。憎しみに満ちてる。」
オドー:「ラーズ。」
クリンゴン人:「お前の手は、大勢のクリンゴン戦士の血で汚れてる。」
「それならまだ手が臭いはずだがな。」
「プタック!」 ナイフを取り出すクリンゴン。
ラーズは右手を剣に変え、それを手にした姿になった。「小さいな。」
クリンゴン人:「ケチャール!」
クリンゴンはナイフをラーズに突き刺すが、当然のように全く効果はない。
オドー:「やめろ!」 クリンゴンを取り押さえる。
向かってこようとしたもう一人のクリンゴンの腹に、ラーズは剣を突き刺した。
周りの者から悲鳴が上がる。
ラーズの剣が抜かれ、そのまま倒れるクリンゴン人。
オドーが取り押さえるクリンゴンは、怒りに絶叫した。保安部員が駆けつける。


※7: Klingon
(John Eric Bentley)

パッドを持つシスコ。「治療したが、刺されたクリンゴン人は死亡した。マートク将軍からラーズの拘留を、要請された。裁判を行う場所が決定するまでだ。」
オドー:「場所というと?」
「引き渡しを求められてる。」
「馬鹿げてる、殺したといっても正当防衛です。」
ウォーフ:「それには異論もある。」
「クリンゴンはディスラプターを抜こうとしてた。」
「もう一人の証言では短剣だったということです。」
シスコ:「証言は嘘だというのか?」
オドー:「一瞬のことでしたが、連中の意図は明らかだった。ラーズの胸を刺したんですよ?」
「ラーズは自分がナイフでは傷つかないと知ってる。だからクリンゴンは、ラーズの行動が明らかな過剰防衛だと主張してるんだ。」
「なぜ急に法的手段に訴えるんです。クリンゴンはしょっちゅう暴力沙汰に関わってるが、訴訟は起こさない。潔しとしないはずです。」
「今回は法的権利を行使する。それだけのことだ。」
「大佐、ラーズが可変種だから、偏見でこんな手段に出ているんです。」
ウォーフ:「奴が挑発したからだろう。」
「挑発した。襲ってきたのは彼らです。」
パッドを見るシスコ。「その前にラーズが、威嚇的に取り囲んだとある。」
オドー:「ハ、クリンゴンが霧を…怖がるんですか。」
何も言わないウォーフ。
シスコ:「彼らだけじゃない、ほかにも 12名から苦情が上がってきている。」
オドー:「プロムナードで…形を変えるのは、犯罪ですか?」
「犯罪じゃないが、どう考えても、賢明ではないな。」
「クリンゴンは公正な裁判をしないとわかっていて、ラーズを引き渡すおつもりですか?」
「決めるのは私じゃない。治安判事だ。」
「でも早く厄介払いしたいんでしょう。最初から嫌がってらした。私が頭を下げてやっと釈放を許可なさったぐらいだ。」
「オドー、そこまでにしておけ。…それと、マートクが保安要員の配置について懸念があると言ってきている。」
「…というと?」
「君が責任者になるのは適当でないということだ。」
「……わけを伺えますか。」
「君が当該事件の目撃者だからだ。」
「ほっとしました。…私が可変種だからだっておっしゃるかと。そう思いました。」
立っていたウォーフを避け、司令官室を出るオドー。
ウォーフはシスコを見た。

プロムナードにターボリフトで戻るオドー。
クワークが近づく。「オドー。奴の件、聞いたぜ。クリンゴンが裁判にかけたがってるんだって?」
オドー:「裁判を受けるべきは彼らの方だ! 可変種じゃなきゃ、そうなってるはずなんだ。」
オドーに続いて保安室に入るクワーク。「そうだろうな!」 振り返るオドーに話す。「霧の件も追い打ちをかけたしなあ。」
オドー:「ラーズは、我々の本能に従っただけのことだよ。」
「だがあんたは馬鹿はしない。みんなあんたの本当の姿はできれば見たくないからな。ドロドロに変身されちゃ気味悪い。…キラの前じゃやらないだろ?」
「やったら悪いのか。」
「常識で考えりゃあ、しない方が…喜ぶぜ。まだわからないのか? 俺たちヒューマノイドは数百万年の進化を経てきた。未知の生物には殺される危険性大だって学んでるんだよう。とぐろを巻いてるヘビを見たら飛び退く。でなきゃここまで生き延びてない。だから数百万年経っても、その本能がきっちり残ってる。遺伝子にな。ほかの生命体に寛容とはいえ、二本の腕に二本足じゃなきゃ、生理的に受け付けない。こんなことバラしたかないが、あんたが自然な姿でいる時は…遺伝子が拒絶反応起こすんだよう。」
「何を言いに来たんだ、クワーク。あのクリンゴンたちが襲いかかったのも、遺伝子のせいだというのか?」
「別に奴らをかばってるわけじゃないさ。なぜこうなったかを説明してるだけだ。気をつけろよ。俺たちはあんたらの種族と戦争中だ。今はプロムナードで流動体生物の誇りを振りかざすべき時じゃない。」
うなずくオドー。クワークは部屋を後にした。

拘束室。
保安部員※8が見張っている。「主任。」
オドー:「収監者と二人きりで話をしたい。」
「すみませんが、命令ですので。」
オドーはそのまま、ラーズが入っている独房へ近づいた。「…何と言えばいいか。」
ラーズ:「間違っていたと認めろ。この基地の連中も、ほかのヒューマノイドと変わりはない。」
「尋問中に誤解が全て解けてくれるといいが。」
「きっとさぞ公明正大な聴取なんだろうな。」
「全てを、事実通りに話せばいい。」
「彼らが私の言葉を信じるか? ヒューマノイドと私の話のどっちを聞くと思う。」
「…引き留めるべきじゃなかった。そうすれば、こんなことにはならなかったんだ。」
「唯一の慰めは、彼らは本当の仲間じゃないと、やっと君が気づいてくれることだ。クリンゴンの目のあの憎しみを見ただろ。君がいう友人たちの瞳の奥にも、同じものが潜んでる。今にそのことに気づく。」 立ち上がるラーズ。「君を受け入れているのは、その姿のせいだ。何者にもなれるのに、彼らの姿を選んでる。最大の賛辞だからな。だがたとえ見かけはヒューマノイドでも、本当は違うことを彼らはわかってる。その外見は君の本質とは違うことをちゃんと知ってるんだ。ただの仮面だとね。その仮面の下にあるのは、彼らには未知だ。だから恐れる。その恐れは、一瞬のうちに…憎しみに変わるぞ。」

キラと話すオドー。「クリンゴンに送還される。」
キラ:「わからないわ…」
「わかります。そして誰もそれを止めようとしないんです。」
「でもどうしようもないじゃない。」
「これが可変種じゃなきゃ、大佐はきっと阻止するはずだ。」
「そんな言い方ないわ。」
「どうして!」
「ラーズみたいな物言いね。」
「だとすれば前より物事がよく見えてきたからでしょう。」
「それどういう意味なの?」
「私を見て、ネリス。何が見えます。」
「あなたが見えるわ。」
「違う。これはただの、仮の姿なんだ。借り物だ。ほかの人物にも、ほかの物体にもすぐ変身できる。」
「わかってるわ。でも…これが、あなたがずっと選んできた姿じゃない。一人の、優しく…誠実な男。私が恋に落ちた男よ。…そんな人は本当は存在しなかったっていうの?」
「わかりません。……あなたを愛してます。この世界の誰より。この数ヶ月は生涯で、最高に幸せでした。ただそれでも、心のどこかにラーズと遥かな宇宙へ一緒に飛んでいけたらと願ってる自分がいる。仲間を探しに行こうとして。それが本当の私なんです。ヒューマノイドじゃない。流動体生物です。」
「なら仕方ないわ。宇宙へ飛んでいけば?」 キラはオドーの部屋を出て行った。

拘束室。
キラが入る。
保安部員:「御用ですか?」
キラ:「ええ、収監者と話したいの。二人で。」
「わかりました。」 すぐ出ていく保安部員。
キラはゆっくりと独房へ近づいた。
立ち上がり、キラと向き合うラーズ。
するとキラは、フォースフィールドを解除してしまった。「コラリス星系※9の第3惑星へ行って。今は使われてない鉱山施設とつながる軌道エレベーターがあるわ。オドーにそこへ行くように言うから。」
ラーズ:「これは何かの、罠か…」
「ここを出たいの、出たくないの?」
独房の外に出るラーズ。
キラ:「その通気口からダクトを通って、エアロックへ出られるわ。」
ラーズ:「…なぜだ。」
「……彼のために。」
その言葉に目を見張るラーズ。


※8: Deputy
(Joel Goodness)

※9: Koralis System

驚くシスコ。「逃亡した?」
司令官室にはキラとオドーもいる。
シスコ:「どうやって隔離フィールドを抜けたんだ。」
キラ:「わかりません、見たままを説明するしかないんですが、プラズマのような物に変身して突破したんです。静止する間もなく、通気口に消えました。」
ウォーフ:「記録を調べたところ、その後間もなくエアロックが一基作動してます。」
シスコ:「基地を離れたんなら、どうしてセンサーが検知しなかったんだ。」
「コーヴァレン※10の貨物船が同じ頃に出航しています。潜り込んでカモフラージュに使った可能性が。」
キラ:「もう宇宙の彼方ね。」
シスコ:「マートク将軍はきっと激怒するだろうな。」
ウォーフ:「逃げたことで奴は有罪を認めたようなものです。」
オドー:「もしくは我々の司法システムを信用していなかったかです。」
「正式に裁判にかける予定だった。」
シスコ:「ウォーフ少佐、ランナバウトを動員して、星域全体を捜索しろ。」
「了解。」
オドー:「がんばってくれ。」
シスコ:「見つかる可能性は低いが、全力を挙げての捜索に君も依存はないと思っていいんだろうな。」
「もちろんです。」
「では解散だ。」
二人は出ていく。

歩いていくキラとオドーを見るウォーフ。
二人はターボリフトに乗った。
オドー:「レベル9。」 動き出すターボリフト。
キラはオドーを見た。「あからさまだったわよ。逃げて喜んでるのが。」
オドー:「…フォースフィールドまで抜けられるとはねえ。経験を積んだ可変種には不可能はないんです。」
「…あなた、彼と一緒に飛び立ちたいって言ったわね。まだ遅くないわ。」
「どういう意味です。」
「コラリス3号星の廃坑で、ラーズがあなたを待ってる。」
「……君が、逃がしたのか。」
「義務感でここに残って欲しくない。だからそうしたのよ。」 オドーの手を取るキラ。「祈ってる。」 その手にキスした。「探してるものが見つかるように。」
ターボリフトを降りるキラ。
オドーは手を見つめた。

ランナバウトはコラリス3号星に到着する。
ライトを持って廃坑を進むオドー。「ラーズ!」
奥から姿を見せるラーズ。「ああ、来ると思ってた。これは新しい始まりだ。我々の種族にとってのね。君と私は、2人で世紀の旅に船出するんだよ。……どうした。」
オドー:「私は一緒には行かない。」
オドーから離れるラーズ。「じゃなぜ来た。」
オドー:「さよならを言うためだ。」
「馬鹿を言うな。何にしがみついてる。キラか? 彼女でさえ、君は旅立つべきだと思ってる。でなければ私を逃がすわけがないだろ。」
「本当にわからないんだな。愛するがゆえに永遠の別れを告げるほど、深い愛はない。」
「だからそれも、君に本当の居場所を見つけて欲しいからだろ。」
「居場所ならちゃんとある。ラーズ、ヒューマノイドは君が思っているような、小さくつまらない存在じゃない。ネリスがしたことを見ろ。それが証明だろ?」
「愛は全てに打ち勝つか?」
「…わかってもらえずに残念だよ。あらゆる経験をして、あらゆる…ものになっても、君はまだ愛を、知らない。」
「つながりに比べれば、はかない幻に過ぎない。単一形種が孤独に耐えるために生み出した手段だ、一つの肉体に囚われ、常に…独りだからな。」
「かもしれないが、はかないからこそ…尊いんだと思うね。」
「オドー、創設者たちは瀕死だ。ありのままにつながりで生きるチャンスは、これが…最後かしれないぞ。あきらめられるか。」
「行った方がいい。捜索隊が来る。……祈ってるよ。」 手を差し出すオドー。
「……ああ、私も祈ろう。君の方こそ辛いぞ。」 オドーの手を取らず、そのままラーズは去った。

DS9。
ベイジョーの祭壇の前で、キラは祈っていた。「彼を見守り、お導き下さい。」 ドアチャイムが鳴る。「どうぞ。」
オドーだ。
キラ:「……二度と会えないと思ってた。」
オドー:「行けませんでした。」
キラはオドーに近づく。見つめ合う二人。
キラ:「今までありのままの自分を押し殺してたのなら、ごめんなさい。あなたを知りたい。本当のあなたを。」
オドーはうなずいた。二人は両手をつなぐ。
互いの手のひらを合わせる。
オドーは液体化し、さらに明るい光を放った。気体状になり部屋中に広がる。
高く手を広げるキラ。歓喜の表情を浮かべる。
オドーはオーロラのように、部屋中に満ちあふれた。目を閉じるキラ。


※10: Corvallen freighter
TNG第140話 "Face of the Enemy" 「ロミュラン帝国亡命作戦」で登場

・感想
以前のエピソード「幼き命」では幼生という形でオドー (と創設者たち) 以外の可変種が登場しました。そして今回は、ほとんどオドーと同じ境遇の仲間が登場。とはいえオドーより経験はあるものの、固形種に対してはかなり違う考え方をもっています。オドーも同じ結果になることも大いにありえたわけで、ベイジョーや DS9 やキラという環境が良かったんでしょうね。
ラーズを演じるのはマートク将軍と同じという、思い切ったキャスティングも面白いですね。ハーツラーも、わざと別のクレジットにしたり、マートクとは違う演技になるように努めたそうです。冒頭の「宇宙飛行形態」は最初は予算節約のために VOY 「繁殖期エロジウム」の生命体を使い回そうとしたそうですが、結局 CG での新たなものとなりました。
CG といえばやっぱり最後のシーン。セリフもないシンプルな場面ですが、何か泣けてしまいました。ラーズの登場も、キラとオドーの関係を進展させる意味はあったわけですね。


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