ベッドのオドーに伝えるベシア。「すまない、オドー。実に残念だよ。」
オドー:「わかってます、ドクター。あなたのせいじゃない。あなたはよくやってくれた。感謝しています。」
「まだ何か、僕にできることあるか。」
「ありがとう。でも今はただ独りにして下さい。」
「わかった。」 出ていくベシア。
医療室で待っていたオブライエン。「どうだった?」
ベシア:「…冷静だ。僕なんかより。」
「ああ…お互い少し、休もう。…ジュリアン。」
「いい、わかってる。そう、僕は手を尽くした。だがそれが何になる。」 ベシアは歩いていった。
オブライエンも続く。
自室のベッドの上に座るベシア。ため息をつき、読みかけの本を手に取る。
文章を読む。「『それは最高で…』」
本を読むオブライエン。「『最悪の時だった。』 書き出しの文だろ。」
ベシア:「それが 294ページに載ってる。」
「ミスプリじゃないか? また最初から始まってる。」
「ありえない。エズリに借りたんだ。その前はジャッジアので、彼女も確かに読んでた。」
「エズリと、本の貸し借りを?」
「そんなこと今関係ないだろ。」
「彼女がお前をからかったのかもしれない。」
「そんなことありえない。スローンだよ! まだ戻ってないんだ。」
「馬鹿な、ここは俺の部屋だぞ? ケイコも隣の部屋で寝てる。」
「いや寝てない。スローンにステーションへ戻ったと思わされてるだけだ。だから読みかけのところで最初に戻ってる。」
「294ページ以降を、まだ知らないというわけか?」
「だからスローンも書けなかった。」
「でもなぜこんなことを。」
「治療法に近づいてるんだ。」
「だとすると、目覚める前に入ろうとした…あの部屋だな。」
突然ステーション全体が揺れた。
オブライエン:「これは…」
ベシア:「もうすぐ、スローンの意識もなくなる。時間がない。」
ドアが開くと、あの廊下に通じていた。
2人は先へ進む。大きな揺れが続く。
ベシア:「ここだ。」
オブライエン:「確かか?」
「間違いない。」
ドアを開けると、中にスローンがいた。部屋の中には大量の紙が散らかっている。
数多くの機械も備えつけられている。
ベシア:「スローン。」
椅子ごと振り向くスローン。「…セクション31 へようこそ。」
ベシア:「来た理由はわかってるな。」
「まさか助けは期待してまいな?」
ベシアは置いてあるパッドを確認し始めた。
スローン:「そのパッドを調べなくていいのか。」
ベシア:「治療法が欲しいんだ。調査報告じゃない。」
「ただの調査報告じゃない。ジャレシュ・インヨー※14のだ。」
「前大統領の?」
「ああ、いかにも。」
さっき置いたパッドを手に取るベシア。「大変だ。内閣にもスパイがいる。」
オブライエン:「余計な気を散らすな?」 大量の紙を手にしている。
スローン:「この狭い部屋の中に、宝が腐るほど転がっているのだ。さて何が見つかるかな?」
ベシア:「クロノスの作戦について。マートク総裁に見せればきっと喜ぶ。」
オブライエンはパッドを手にした。「ジュリアン。見てくれ。」
ベシア:「ラドディン、ラデストロニン、アスポロニン、アデニン※15。これだ。」
部屋では爆発が始まる。
オブライエン:「早くここから出よう。」
ベシア:「待ってくれ。」
「どうして。」
「このファイルは、全て 31 に関するスローンの記憶だ。これさえあれば組織ごとぶっ潰せる。」 パッドを集めていくベシア。
「また来ればいい。」
スローン:「それは無理だ、チーフ。現実の世界には、こんな建物も部屋もない。我々には司令部などないのだ。…このファイルは、選び抜かれた人物の頭の中にしか存在しない。私がその一人だ。…本気でセクション31 を壊滅させたいのなら…チャンスは今しかない。」 死に近づいているようだ。
ベシア:「そうだ、せっかくのこのチャンスを見逃すわけにはいかない。」
オブライエン:「ジュリアン!」
「何だよ。」
「このままいれば、俺たちはここで死ぬ。俺たちが死ねばオドーも死ぬぞ!」
スローン:「私の全ての秘密が、君のものになるのだ。そう、望みさえすればな。」
「オドーには君が必要だ、それを忘れるな!」
ベシアはパッドを置いた。
スローン:「君は大きな間違いを犯してる、ドクター。」
ベシア:「そうは思わない。」 両手を自分の頭に当てた。
スローンは声をあげる。「ああ…」
スローンの意識から出たベシア。
エズリ:「ジュリアン? 大丈夫?」
ベシア:「エズリ。君はすごく…綺麗だ。」
照れるエズリ。
シスコ:「治療法はわかったか。」
ベシア:「そう思います。試してみなければわかりませんが。スローンは。」
「ほんの 2分前に死んだよ。君らも危険だった。」
オブライエンも起きた。「ジュリアン。今度誰かの頭ん中行く時は、独りで行けよな。」
ベシア:「わかった。」
ため息をつくオブライエン。
医療室。
ハイポスプレーをセットするベシア。「言っとくが、少々不快かもしれん。」
オドー:「痛みを伴うというんなら、そう言って下さい。」
「かなり痛みを伴うと思う。」
「わかりました。お願いします。」
首元に注射される。
うめくオドー。一旦表面が液体状になる。
そして体は元通りになった。確かめるオドー。
ベシアは微笑んだ。
オドー:「ああ…。」
またダーツを投げているベシア。
オブライエン:「オドーが完治するのは?」
ベシア:「形態マトリックスの回復に時間がかかる。それでも 2、3日で治るだろう。」
「ああ…ほーら、見ろよ。クワークの奴、こんないい酒隠しやがって。」 カウンターからボトルを取り出すオブライエン。
ラベルを見るベシア。「僕より古い。」
オブライエン:「何? …お前まだ子供だったのか。」
笑うベシア。グラスを掲げる。「尊敬すべき、大先輩に。」
オブライエン:「フン、嫌味だな。オドーに。」
口にする 2人。
ベシア:「ワーオ!」
オブライエン:「ほんとにワーオだ! …一つ聞くが、スローンの心に…もう少し長くいられたら、セクション31 をぶっ潰せたと思うか?」
「今となってはわからない。一つ確かなのは、スローンには確実に僕を止められる、切り札があったってことだ。だが奴はあること※16を、思いつけなかった。」
「何だよ。」
「君さ。マイルズ・エドワード・オブライエンに。」
「ヘヘ…友情に。」
また乾杯する。
オブライエン:「ワーオ…。ああ、そろそろ戻るよ。食事だ。ケイコが用意をしてる。」
ベシア:「夜中だぞ。」
「ああ、そうだ。いい女だろ?」
「そりゃあ、愛してるわけだ。」
「うーん、その通り。心から愛してる。」
ベシアはダーツを一本手にした。
戻ってくるオブライエン。「来るか?」
ベシア:「ぜひ。」
出ていく前に、ベシアは遠くからダーツを投げつけた。
それはダーツ盤の中央に、見事に突き刺さった。
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※14: Jaresh-Inyo 2372年時点の連邦大統領 (議長)。グラゼライト人。DS9第83話 "Homefront" & 第84話 "Paradise Lost" 「地球戒厳令(前)(後)」に登場。いつの間にか交代したようです。なお原語ではベシアが "former President Inyo" と言っていますが、「ジャレシュ・インヨー」で一つの名前なので切り離せないはず…
※15: 順に radodine, lidestolinine, asporanine, adenine
※16: 吹き替えでは「それ」となっていて、意味が異なっています。ここで言う「切り札」は当然オブライエンではなく、最後のシーンでスローンが見せたセクション31 の数々のデータのことです。その誘惑に対してベシアを帰るように説得したオブライエンのことを、スローンは考えつけなかった…という意味になります
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