イントロダクション
※1※2司令室。 シスコがターボリフトでやって来た。「まだか。」 オブライエン:「もう来る頃です。遅いですねえ。」 「どうも上手くいかないようだな。」 ベシアも司令室にいる。「やあ、エズリ。」 エズリ:「…あの…オドーはどう?」 「もう病気の症状は全く見られなくなったよ。すっかり治ったようだ…。」 転送してくる士官がいる。 「そう、よかったわ。」 「うん……ああ…今日の午後にも、退院させようと思ってる。」 「…そう。きっと喜ぶわ。」 「ああ…。」 2人の様子を見ていたオブライエン。「わからんよ。お互いに好きだっていうのに。何やってんだ。」 ウォーフ:「ベシアは子供すぎるし、エズリはあまりに…混乱しすぎてる。」 「どうなるか。…着きました!」 司令官室から出てくるシスコ。「スクリーンに。」 映し出されたのは、ディファイアントと同じ形状の船だった。 エズリ:「別のディファイアント級があるなんて知らなかった。※3」 シスコ:「それは君がミーティングに出なかったからだ。」 オブライエン:「どこも、そっくりだ。」 「能力もそうだといいが。」 DS9 にドッキングする船。 "U.S.S. SAO PAULO" と書かれた、ブリッジの記念銘版。 ロス※4:「諸君に、命令を通達する。宇宙艦隊司令部、艦隊本部より、ベンジャミン・シスコ大佐に対し、本日をもって貴殿の要請に応じ、U.S.S.サンパウロ※5の指揮官を命じる。署名、ウィリアム・ロス提督※6。宇宙暦、52861.3。コンピューター、全指令コードをシスコ大佐に。」 パッドをシスコに渡す。 『指令コード、転送完了。』 握手するシスコ。「感謝します。」 ロス:「活躍を期待する。君の船だ。申し分ないだろ?」 「私には…もったいないくらいです。」 ロスは出ていく。 ベシア:「床がちょっとな。参った。」 ロス:「そうそう、忘れてた。もう一つ。パッドに君を驚かせる通達が入ってる。」 ブリッジを去った。 読み上げるシスコ。「特別適用処置。宇宙艦隊作戦部長より、サンパウロ※7の名前を、ディファイアントと…変更する。」 クルーは顔を見合わせて笑った。喜ぶシスコ。 コンソールを確認するオブライエン。「ああ…この船に攻撃を仕掛けてきた途端、ブリーン軍の奴ら腰抜かすだろうな。」 ウォーフ:「シールドジェネレーターは完全に改造されている。」 「見てこよう。」 ベシア:「じゃあ僕は、医療室をチェックしてくるか。」 エズリ:「…私も、お邪魔のようね。」 独り残されたシスコは、艦長席に座った。「よろしくな。」 航行するジェムハダー船。 惑星の映像が見えている。 ガラック※8:「カーデシア。今も変わらず美しいままだ。」 バーチャルディスプレイを装着している。 ダマール※9:「ドミニオンが居座ってる限り美しいとは言えん。」 ディスプレイをつけたカーデシア人、セスカル※10。「軌道コントロールが保安コードを求めています。」 ガラック:「私にお任せを。」 キラ:「危険を冒すだけの価値があることを祈ってるわ。」 ダマール:「ガル・リヴォック※11とレガート・ゴリス※12が援軍をよこしてくれることになった。50万人は下らん。ガル・セルタン※13を説得できれば更に 10万は増える。価値は十分だ。」 「本当に私も必要なの?」 「連邦の支援があることを示さねばならん。」 ガラック:「軌道の通行許可を得ました。」 「転送準備をしろ。」 セスカル:「はい、既にスタンバイ済みです。」 「ブリッジを頼む、セスカル。」 「幸運を。」 出ていくキラたち。 洞窟内に転送される。 叫び声が聞こえてくる。武器に手をかける 3人。 下には火が炊かれているが、カーデシア人の死体が何体も転がっている。 更にカーデシア人が撃たれた。 身を隠すキラたち。 撃ったジェムハダーたちの声が飛ぶ。「それで最後か!」「はい、そうです!」「エリアを封鎖しろ!」「了解です!」「裏切り者は殺したと報告してくれ!」 ガラック:「なぜバレたんでしょ。」 カーデシア人がやってきた。「これはこれは。見事なもんだ。私の言った通りでしょう?」 ヴォルタ人に話している。 ダマール:「ガル・リヴォック。裏切ったのか。」 通信するキラ。「キラよりセスカル。早く転送して。」 爆発する船内。 セスカル:「攻撃を受けました! シールドを下ろせません! ディスラプターを狙って撃ち返せ! 補助パワーを全て武器システムに!」 他のカーデシア人と同じく、床に倒れる。 最後にブリーン船の攻撃を受けたジェムハダー船は、爆発した。 呼び続けるキラ。「セスカル? セスカル!」 |
※1: このエピソードは、シスコ役エイヴリー・ブルックス監督作品です。担当した 9話のうち、第137話 "Far Beyond the Stars" 「夢、遥かなる地にて」以来で最後となります ※2: また、このエピソードは 1999年度エミー賞のメーキャップ賞にノミネートされました ※3: この段階より前に登場したものとしては、U.S.S.ヴァリアントが DS9第146話 "Valiant" 「過信」に、名称不明の複数のディファイアント級が VOY第82話 "Message in a Bottle" 「プロメテウスの灯を求めて」に登場しています ※4: ロス提督 Admiral Ross (Barry Jenner) DS9第171話 "When It Rains..." 「嵐の予兆」以来の登場。声:石波義人 ※5: U.S.S. Sao Pauro NCC-75633、ディファイアント級。内装は一部ディファイアントと変えられています。記念銘版の言葉は "Give me liberty or give me death..." 「我に自由を与えよ、しからずんば死を」。パトリック・ヘンリーの言葉 ※6: 原語では "Vice Admiral"=「中将」と言っています。階級章と一致 ※7: 「サンパウロ号」と吹き替え ※8: Garak (アンドリュー・J・ロビンソン Andrew J. Robinson) 前話 "Extreme Measures" 「心の決死圏」に引き続き登場。声:大川透 ※9: Damar (ケイシー・ビッグス Casey Biggs) DS9第172話 "Tacking into the Wind" 「嵐に立つ者たち」以来の登場。声:古田信幸 ※10: Seskal (ヴォーン・アームストロング Vaughn Armstrong) DS9 "When It Rains..." 以来の登場。名前は初言及。声優は変更されています ※11: Gul Revok ※12: Legate Goris ※13: Gul Seltan |
本編
返答を求めるキラ。「セスカル…セスカル、応答して!」 ガラック:「もう生存者はいないと思います。」 「…早くここを出なきゃ…」 「危険です。」 「ダマール、逃げ場所はないの?」 ダマール:「知り合いは皆捕まるか殺された。」 ガラック:「街の中心にさえ出られれば、私に心当たりが一人います。」 キラ:「ここにはいられないわ。」 キラを先頭に、洞窟を去る。 ドアが開けられた。 女性の声が響く。「地下室でも構わないっていうんなら、いくらでもここにいてくれて構わないよ。」 ライトをつけ、階段を降りていく。「何年も音沙汰がないと思ったら、いきなり玄関口にお客さん連れで現れて…かくまってくれとはね。」 後をついていくガラック。「突然押しかけて申し訳ない。でも、信じられるカーデシア人はあなただけなんだ。」 その年老いたカーデシア人は言う。「お前さんに友達がいないのは私のせいじゃないけどね? …どれどれ、電気のスイッチはどこだったかねえ。」 ガラック:「もっと、広かったと思ったけどな。私はこの家で育ったんです。」 ダマール:「ここはテイン※14の家だったはずだ。」 女性:「テインはガラックの父親よ?」 ガラック:「世間には隠してたんです。オブシディアン・オーダーの指導者でしたから。ミラ※15はうちの家政婦であり、最も信頼できる友でした。」 ミラ:「料理は下手くそだけど、秘密はちゃんと守るよ。」 キラ:「早くほかの隊にもリヴォックが裏切り者だって伝えなきゃ。通信装置を手に入れられない?」 ガラック:「あまり、無理をしないやり方で。」 ミラ:「厄介なことをやってるんだね。」 ダマール:「我々は同胞を解放したいのだ。一生ドミニオンの下で暮らしたいか?」 笑うミラ。「…私はこの年だ。今更先の心配したって無駄なことさ。通信装置は用意しましょう?」 ガラック:「ミラ。ありがとう。長居はしないと約束するよ。」 「…どうせなら働いてってもらおうか。ここはもう何年も掃除してないからね。」 歩いていくミラ。 キラは近くにあった布を、ガラックに投げ渡した。「聞こえたでしょ!」 ガラック:「フン、革命家には申し分のない隠れ家だ。うん。」 DS9。 ベシアは言った。「もうどこにも異常はない。いつからでも仕事に復帰できるよ。」 オドー:「よかった。いつから任務に復帰できるのか、キラが気にしていたもんで。」 「…オドー、ああ…言っておきたいことがある。初めて君の病気を見つけた時、僕は間違いなく、創設者たちの一人に移されたものと思っていた。」 「…違うんですか?」 「違う。君の方が彼らに…病気を、移していたんだ。」 「……しかし…私はどこから。」 「故意に感染させられた。」 「誰からですか。」 「セクション31 だ。君を保菌者にし、創設者たちに移して回ることを目論んでたんだ。君を発病させるためではなく…」 「私が発病しなければいいという問題じゃない。ここで問題なのは、連邦が我が種族の全滅を計ったという事実です!」 「セクション31 は連邦の組織じゃない。勝手に設立された…」 「そんなことは言い訳にしか聞こえない! 彼らはこの私を道具として利用し、大虐殺を行おうとしたんです。たとえ創設者が敵だとしても、言い訳にはなりません。」 「君の言う通りだ。」 うなずくオドー。「この件について艦隊はどうするつもりなんです?」 上着を脱いでいるシスコ。「創設者に治療法を渡すことも検討したが…結局やめたらしい。」 オドー:「それでは虐殺幇助です!」 「セクション31 のしたことは許せん! だが戦争を始めたのは創設者だ。治療法を渡せば、彼らは力を増す。そんなことはさせられん。毎日前線で、何百万もの男や女が命を落としている、この状況下ではな。」 「抗議の余地がないことはよくわかりました。」 出ていこうとするオドー。 シスコは呼び止めた。「オドー。こんなことは言いたくはないが、独断で勝手なことをしようとは、思わないように。」 オドー:「…はい、大佐。お約束します。」 「それを聞いて安心した。」 「しかし面白いですなあ。連邦はセクション31 のやり方を散々非難しておきながら、彼らの汚い仕事からは目を背ける。それは綺麗事です。ねえ、大佐。」 何も言わないシスコ。オドーはシスコの部屋を出て行った。 2人の女性の間にいるロム※16。「さあ行けって。失うもんはない。」 リータ※17:「仕事を失ったら?」 もう一人のダボガール、エンペラ※18。「構わないわ。この交渉は、首をかける価値がある。」 ロム:「そうこなくちゃ。いいか、最初は 10パーで頼んで、15 で落ち着け。な?」 リータ:「わかった。」 2人のダボガールは向かった。 エンペラ:「クワーク? 話があるんだけど。」 パッドを見ていたクワーク。「言ってみな。」 リータ:「チップの 20%を渡すって高すぎると思うの。」 「うん。」 「…せいぜい 10%とこがフェアだわ? 聞き入れてくれるまで仕事しないから!」 「10パーだと?」 フェレンギ人のブロイク※19が、リータたちの間に割り込んだ。「クワーク、あんた宛てに通信が入ってる。フェレンギ星のグランド・ネーガスからだ。」 押しのけられる。 顔を上げるクワーク。「…わかった! すぐ出る。」 リータ:「クワーク?」 「考えとくよ!」 カウンターから去るクワーク。 ロムが近づく。「何だって?」 リータ:「考えとくって言ってた。」 エンペラと一緒になって喜ぶ。 クワークは荷物だらけの控え室に入った。通信コンソールに触れる。 椅子に座ったゼク※20が映し出された。『お前か。』 映像がかなり乱れている。 クワーク:「ええ、そうです。」 『ほとんど顔が見えんぞ。』 「ノイズのせいです。」 『そうか、そりゃすまんな。雨が降ってるからじゃ。』 笑うクワーク。「そっちはいつだって雨じゃないですかあ!」 ゼクの声は聞き取りにくい。『いいや、普通の雨じゃない。発電所で事故が遭ってな? 請負業者が材料費を安くあげて、残りをピンハネしたせいじゃ。あの強欲共が…。おかげで街中有毒ガス…電気…雲に、ドンヨリと覆われとる。全く何という有様だ。』 クワーク:「それで、どんなお言葉を頂けるのでしょう?」 『小言だと? 何を言っとるんじゃ、わしは怒る気などないぞ。』 「違います、『お言葉』って言ったんです。」 『怒る気はないと言っとるんじゃ。いいから黙って聞いとけ。わしは引退することにした。お前の母親とライサへ移住して、老後をゆっくりと楽しむつもりだ。若い頃のようにな。この意味がわかるか?』 「そりゃあいいや! …多分。」 『そこで後継者を任命するために、ディープ・スペース・ナインへ行く。』 「なぜです?」 『なぜだと思う。』 「雨をしのぎに?」 『いや、そうじゃない。後継者にはお前をすえることにしたんだ。これからはお前が新しいグランド・ネーガスだ。おめでとう、期待してるぞ。』 ゼクの通信は切れた。 座ったクワークは、喜びの声をあげた。「アーー!」 |
※14: エナブラン・テイン Enabran Tain カーデシアのオブシディアン・オーダー元リーダー。DS9第42話 "The Wire" 「義務と友情」などに登場。故人 ※15: Mila (ジュリアナ・マッカーシー Julianna McCarthy) 30年以上に渡ってエナブラン・テインに仕えた家政婦であり、親友。DS9第66話 "Improbable Cause" 「姿なき連合艦隊(前編)」以来の登場。声優は変更されています ※16: Rom (マックス・グローデンチック Max Grodenchik) DS9第162話 "The Emperor's New Cloak" 「平行世界に消えたゼク」以来の登場。声:田原アルノ ※17: Leeta (チェイス・マスタースン Chase Masterson) DS9 "The Emperor's New Cloak" 以来の登場。声:榎本智恵子 ※18: M'Pella (Cathy DeBuono 元々はジャッジア (テリー・ファレル) の撮影用代役として雇われたそうです。エンペラ以外でもエキストラ出演あり) DS9第143話 "In the Pale Moonlight" 「消された偽造作戦」にも登場。その際はエキストラ (吹き替えでは「ムペラ」。他のエピソードにも出ている可能性あり) ※19: Broik (David B. Levinson) 初期から登場・言及されていたウェイター。通常はエキストラでしたが、その全てが Levinson によって演じられていたかは知る術もありません。今回に限ってセリフやクレジットがあるのはエンペラと同様、最終話直前ということでの特例かも? ※20: Zek (ウォーレス・ショウン Wallace Shawn) DS9 "The Emperor's New Cloak" 以来の登場。声:田の中勇 |
ベシアはレプリマットにやってきた。 先に来ていたエズリと、ぶつかりそうになる。 エズリ:「おっと!」 ベシア:「あっ! ああ、ごめん…。」 笑う 2人。 「こっちこそ。」 「…ったく、驚いたな。やあ。」 「ハーイ…。」 「ランチかい?」 「ええ、いい時間だから…。」 「そう。…白々しすぎる。」 ベシアはエズリの食事を脇へ置いた。 「そうね。」 「ずっと言おうと思っ…」 同時に話すエズリ。「話があるの…先言って。」 ベシア:「いや、君から。」 「ほんとに、ジュリアン。先言って。」 「…わかった。僕らはいい友達だが、最近…こう思い始めたんだ。僕らは、もっとこう…何て言うか……」 レプリマットを出て、別の店に入る 2人。 「親しくなれないか?」 「そう! その通りだ。」 「私もそう思ってたわ?」 「僕だけだと思った。」 「私も!」 「だから何か妙に緊張して。」 「ずっと言おうと思ってたんだけど、言葉が…出てこなかったの。」 「わかるよ、どうしてだろ。」 「わからない。」 「あ…いつもはこんなんじゃないんだ。誰かを好きになったらすぐに、すぐにそう伝えてる。こんな、気持ちの探り合いはしたりしない。」 「私だって。……思うんだけど、このままでいない? …友達で。」 「…そうだな…せっかくの友情を…わざわざ壊すことはない。」 「前に同じ過ちをしたわ。」 「ああ、一度一線を越えると…」 「もう戻れない。」 「…つき合いが終われば、友達ですらいられなくなる。」 「…あなたを失うなんて耐えられない。」 「僕もだ。……じゃあ、いいね。」 「…一件落着。……すごく大人の判断だと思う。一時の…感情に流されないで友情を選ぶのって。」 「ああ、その通りだ。…欲望には、理性で対抗しなくちゃ。」 「恋愛が全てじゃない。」 「そうとも、僕らは…大人だ。」 「私たち、誇りをもつべきよ?」 「全くだ、気分も良くなった。友達だ。」握手するベシア。 「友達よ。」 仰向けになっているクワーク。「信じられねえ! 来週の今頃は、ネーガスの豪邸に住んでるなんて!」 店のカウンターの上だ。 クワークを取り囲む一人、ノーグ※21。「噂によると、ゴミの再利用機までラチナムでメッキしてあるらしいよ。」 笑う。 クワーク:「そうとも……そうだ!」 体を起こす。「そうそう、まずそいつを処分して、純ラチナム製の再利用機と交換するとしよう。」 リータ:「それっていくらなんでも贅沢しすぎじゃない?」 「贅沢して何が悪い。ネーガスは、みんなの手本とならねばならない。俺が国中の連中を啓蒙してやるんだ。欲が深いと、得することを証明してやる。」 クワークの顔に触れるエンペラ。「私もネーガスの豪邸に連れてって? 独りじゃ寂しすぎるでしょ?」 顔を見合わせるロムとリータ。 クワーク:「言われなくてもお前の部屋は用意してあるさ。商いの塔※22が見える部屋をな? もちろん? お前たちの部屋もある。弟、勇敢なる甥っ子、可愛い義理の妹。」 ロム:「清算人ブラント。」 「それはない。」 首を振るノーグたち。「まさか。」 ロム:「違う、来たんだ。」 店にブラント※23が入る。モーンも振り返る。 クワークはカウンターを降りた。「今度は何の用だ、ブラント?」 笑うブラント。「今フェレンギ星はある噂でもちきりでなあ。それによれば、グランド・ネーガスがディープ・スペース・ナインに後継者を任命しに来るという。」 クワーク:「噂話も今度だけは、本当だ。」 「そうか…!」 ブラントはいきなりひざまづき、クワークの手に何回もキスをし始めた。「何万回でも、祝福を申し上げます! 我が、ネーガスよ!」 その様子を見ているリータたち。 うなずくクワーク。 隣に立つノーグ。「まだネーガスじゃないぞ。」 ブラント:「へつらうのに早すぎることはない!」 クワーク:「ネーガスってのは実に気分がいい。続けろ。」 カーデシアの街頭に、ウェイユン※24の映像が表示されている。『勇敢なるガル・リヴォックの尽力のおかげで、ダマールとその一味を、カーデシアにおびき出すことに成功した。』 街のいたるところでカーデシア人が見ている。 ウェイユン:『…奴の共謀者たちはカーデシア市民を扇動するという目的を達する前に殺される。そしてダマール自身もまた、盗み出したドミニオン船の中で…』 小さな通信機で映像を見ているキラたち。 ウェイユン:『我々の防御線を突破しようと企てて戦死した。更に…』 キラたちが乗ってきた、ジェムハダー船が爆発する映像だ。 キラ:「これなら追って来ないわね。」 ウェイユン:『…今から数時間前、我が軍の情報部から入った報告によると、我らが勇敢なる軍隊はダマール率いるテロリストのアジトに一斉に奇襲をかけ、アトバー・プライム※25からレグラク4号星※26、更にはシンペルア※27からクイノー7号星※28に至るまで、合計 18個所の基地を壊滅させたとのことだ。反乱軍がいくら抵抗しても…』 ドミニオン戦艦などの攻撃により、様々な地上基地が失われていく。※29 ダマール:「全滅だ。」 『…我々の勝利が揺らぐことはない。我々は必ず勝つ。今日は、ドミニオンにとって記念すべき日となった。』 ドミニオンの映像は終わった。 「なぜあれだけ用心していたのに、基地を知ることができたんだ! 通信内容は全て暗号化させていたし…」 キラ:「そんなことはどうでもいいわ! …もう遅いのよ。…とにかく、早くカーデシアから出なくちゃ。ガラック、それを使って連邦と連絡を取れる?」 ガラック:「信号波が強いので、発信した途端ドミニオンに見つかってしまいます。」 「だったらほかの方法を探さなくちゃ。私は嫌よ!」 コミュニケーターをつける。「この戦争が終わるまで、ここにいるのは。あなたたちは?」 無言のダマールとガラック。 キラ:「どうなの!」 |
※21: Nog (エイロン・アイゼンバーグ Aron Eisenberg) DS9第170話 "The Changing Face of Evil" 「変節の時」以来の登場。声:落合弘治 ※22: Tower of Commerce フェレンギ母星の行政拠点。DS9第69話 "Family Business" 「クワークの母」など ※23: Brunt (ジェフリー・コムズ Jeffrey Combs) DS9 "The Emperor's New Cloak" 以来の登場。声:小島敏彦 ※24: Weyoun (ジェフリー・コムズ Jeffrey Combs) DS9 "Tacking into the Wind" 以来の登場。ブラント役と同じ俳優であり、同一エピソードに登場するのは初めて。続けて登場させるあたりが面白いですね。声:内田直哉 ※25: Atbar Prime ※26: Regulak IV ※27: Simperia ※28: Quinor VII ※29: 全て過去の映像の使い回しです。DS9 "Valiant" 「過信」のドミニオン戦艦による攻撃、第150話 "Tears of the Prophets" 「決意の代償」の衛星上エネルギー発生機の爆発、第125話 "A Time to Stand" 「明日なき撤退」のケトラセル・ホワイト貯蔵施設の爆発、第157話 "Once More unto the Breach" 「今一度あの雄姿を」のトレルカ5号星宇宙基地の爆発など |
足の爪にペディキュアを塗られているクワーク。「ああ…ああ。金融アドバイザー? あんたが?」 やっているのはブラントだ。「フェレンギ星にはコネが山ほどあります。」 クワーク:「コネなんていらねえよ。ネーガスと商売をしたいって奴は山ほどいるはずだ。手を止めんな。」 「おお…でもきっとあなたの気持ちを変えられる方法があるはずだ。そう思いません?」 「まあな。じゃあ、これでは…ラチナムの大きな塊を 40ブロック。」 「ダメだ。70 ならいい。」 「50。」 「60。」 「のった。」 笑う 2人。 ブラント:「あ、それじゃあ、サインを下さい。」 パッドを渡す。 クワーク:「これは?」 「レシートです。」 「賄賂に?」 「ええ、もちろん。賄賂だって税金の控除の対象になりますからねえ。」 「おい、待てよ。今『ぜ』のつく言葉使ったか?」 「『税金』ですか?」 「フェレンギ星に、『ぜ』が…できたのか?」 「あんたもしかして最近法律が改正されたの知らないのかよう? ゼクは、3ヶ月前思い切って進歩的な所得税法を導入した。」 パッドを操作するブラント。 「法改正だと? 税金は商売の自由の精神に反するじゃねえか。ああ…『ほんと』の商売ができなくなる。」 「政府は、新しい社会制度の導入に金が必要なんだ。」 またパッドに触れるブラント。「低所得者への保護や、退職した老人の年金や、病人の保険、山ほど…」 「待てまてまて。まさかこんな事態になってるとはな。これは全部マミーのせいだ。あの女がゼクの頭に平等やら同情やらを植え込んじまっただよう。適者生存の精神はどうした。」 「ああ…」 「金持ちはより金持ちにの精神はどうしたんだ? 俺たちに大切なのは…純粋で、嘘偽りのない欲望だ…」 「欲望か? 時代は、変わったんだよ。」 「だったら俺が変え直してやる。……まず手始めに、法律改正とやらの撤回だ。このままじゃ、フェレンギ星は…連邦みたいになっちまう。」 「ほう…そんな勝手なことを、経済顧問議会※30の連中が認めるかねえ…」 「そんなわけのわからねえ連中、知ったこっちゃねえ。ネーガスなら何でもできるはずだ。」 「そりゃ違う。…ネーガスによって提示された全ての規則は、法律に制定する前に、顧問議会に通さなければならない。」 またパッドを見せるブラント。「だがネーガスはネーガスだ。じゃなきゃ私はここへは来ませんよ?」 クワークは両手首を合わせた。「聖なる金庫様。」 ブラントも金色のフェレンギ人の像に祈りを捧げる。 クワーク:「お許し下さい。地獄に堕ちてしまったあなたの子供たちを。」 カーデシア・プライム。 キラやダマールはベッドに横になり、ガラックも時間をもてあましている。 ドアが開いた。 ミラ:「全くこのザマを見せてやりたいね。」 降りてくる。 ダマール:「誰に。」 「外の連中にさ! みんなしきりに噂してるよ。ダマールとその同志のことを。」 キラ:「何て言ってるの? まんまとドミニオンの罠にはまった馬鹿な連中だって?」 ダマール:「思い上がりもいいとこだな。ドミニオンを倒せると思うなんて。」 ガラック:「死んで当然だと思われてるんでしょうね?」 ミラ:「誰もダマールが死んだなんて思っちゃいない。あんたらに聞かせたかったよ。『ダマールはまだ生きてる! 従兄弟はケルヴァス・プライム※31で見たって言ってた!』 『死んだってのは見せかけだ! 今もきっと、山奥の隠れ家で、攻撃の機会を狙ってるに違いない。』」 キラは体を起こした。 ガラック:「山奥に隠れ家があったとは知りませんでした。」 ダマール:「後で言おうと思ってたんだ。」 キラ:「どうしてあなたの死を認めないのかしら。」 「ドミニオンにはだまされ続けてきたんだ。今更奴らの言うことは信じんさ。」 「…それだけじゃなかったら? 私たちの反乱を聞いて、あなたを…伝説の英雄にしてるのかも。」 「ヘ、馬鹿馬鹿しい。」 「ねえ、わからない? 彼らはあなたを信じたがってるの、これは利用できるわ。確かに私たちの反乱軍は全滅した。でも軍に所属していないカーデシアの一般の人々だって、ドミニオンの圧政にはもう飽き飽きしてるのよ。もしダマールが、ドミニオンでも殺すことのできなかった英雄が、彼らに立ち上がれと呼びかけたら。」 ガラック:「私たちの手で革命を起こすことができます。」 ミラ:「じゃなきゃ、このままいずれ死ぬかだね。」 ダマール:「どっちにしろ、ここでくすぶってるよりはましだ。…いつ始める。」 体を起こす。 キラ:「…ジェムハダーの兵舎は?」 女性可変種※32の病状は、相変わらずのようだ。ドアチャイムが鳴る。「入りなさい。」 ブリーン人たちが入る。「――。」 続けてウェイユン。「ご紹介いたします。ガル…いや失礼、レガート・ブロカ※33。カーデシア連合※34の新たな指導者です。」 カーデシア人は礼をした。「全力で創設者に、お仕えすることを誓います。」 女性可変種:「あなたの誓いは了承しました。」 ブロカ:「ソット・プラン。ブリーン軍と戦えることを、心より光栄に思います。」 ソット・プラン:「――。」 ウェイユン:「早速ですが、カーデシア市民に向け正式な文書を発表して頂きたい。ドミニオンは決して彼らに…」 女性可変種:「それは、後でよろしい。」 「後でよろしい。」 「もはや反乱軍は壊滅しました。腰を据えて、本来の敵に向けた戦略を練る時です。エネルギー抑制兵器は既に対抗策を発見され効果はありません。従って戦術を変更する必要がある。我が軍は撤退します。」 ソット・プラン:「――。」 「いいえ? 降伏するという意味ではありません。」 ウェイユンはソット・プランに言う。「全く何てことを! ドミニオン誕生以来 1万年間、降伏などとは一切無縁です。」 女性可変種:「我が軍を、カーデシアの領域へ撤退させることを命じます。…我々は新たに防御線を築くのです。この境界線に沿って。」 宙図を示す女性可変種。「守るべき領域が少ないだけ軍隊に余裕ができ、敵が攻撃を仕掛けてきた場合、いかなる攻撃も防ぐことができます。」 「惑星連邦の本質は、臆病者の集団に過ぎません。我が軍の撤退を知っても、十中八九生還することを選ぶでしょう。」 ブロカ:「だがクリンゴンやロミュランはどうなる。奴らは……これは決して異論ではありません。単に疑問に、思っただけです。」 「連邦がいなければ恐るるに足りません。」 女性可変種:「一旦この防御線の設定が完了したら、造船作業に今の 2倍の力を注ぎ、ジェムハダー軍の強化を図るのです。退却は戦争を長引かせるでしょう。しかし最後には、我が軍の強さが証明され、アルファ宇宙域に現在より遥かに強化された、確固たる地位を築けるのです。」 |
※30: Congress of Economic Advisors ※31: Kelvas Prime DS9 "Tacking into the Wind" でケルヴァス5号星 (Kelvas V) が言及 ※32: 女性流動体生物 Female Shapeshifter (サロメ・ジェンス Salome Jens) DS9 "Tacking into the Wind" 以来の登場。声:宮寺智子 ※33: Broca (メル・ジョンソン・Jr Mel Johnson, Jr.) ※34: 吹き替えでは「カーデシア連邦」 |
クワークは店の中に、様々な物を投げ入れた。2階に上がる。「お前知ってたか? 経済顧問議会とやらのお節介な連中がだ、市場の独占を禁止したとよう。株を買い占められねえで、商売の醍醐味が味わえるか。客だってだませねえ。」 後につくロム。「健全な競争を保証すれば、物価の上昇が防げる。ところで、このバーどうするの…」 クワーク:「もう産業廃棄物も捨てられねえ。『環境』を破壊するからだってよ。動物の心配までしなくちゃならねえ。泥を好むもの、木で眠るもの。いつまでもそれが自然とは言えんさ。」 「多様な生態系を保っていくことは、フェレンギ星にとって大切な資源になる。それで…このバーはどうする気なの?」 ロムのパッドを読むクワーク。「ヘ! こんなものまで保証してる。『労働者の権利』だってよ。」 ロム:「ああ…」 「信じられねえ! 自分とこの従業員を口説くこともできねえなんて。」 「その方が生産性が上がるでしょ? このバーはどうするつもりなのさ、兄貴!」 「売るよ! もってたってしょうがねえだろ。」 「…5,000ラチナム・バーで売って! それ以上は払えない。」 「妥当な線だ。」 「ほんと?」 「な、ロム。フェレンギ人はどうかしちまったんだよ。」 「契約書も持ってるんだ…」 「聞くところによると、もう 40%以上のフェレンギ人が、天国に聖なる金庫があることを信じてないそうだぜ。」 「ねえ、ここに拇印押してくれない?」 「それどころか子供たちに金儲けの秘訣さえ教えてない!」 拇印を押すクワーク。 「ああ、もう一個所。ここにも。」 「フェレンギ人は、みんな伝染病に冒されちまったんだ。それでヤワになった。」 また拇印。 「あっ。5,000ラチナム振り込んだから。兄貴と取り引きできて嬉しい!」 「5,000?」 「…8,000ぐらいいくと思ったんだけど。」 笑うロム。 「言い値で受けちまった。」 「そうだね、ほんとビックリした!」 「どうしちまったんだ?」 「心配ないよ、すごい金持ちになるんだ。ラチナム・バーの 2、3千本。」 「俺にも移ったのか。もう何ヶ月も代金を上げてねえ。その上ダボガールのチップの取り分を、増やすことも考えてた。完全にヤワになってる。」 「そっちの兄貴の方が好きだなあ…」 「ふざけるな。俺はこのまま黙っちゃいねえぞ。」 パッドを投げ置くクワーク。「一刻も早くこの病気を止めてやる。フェレンギ星全体がヤワになっちまう前にな。俺をネーガスに選んだ以上、ゼクも俺の好きなようにやらせてくれるはずだ。じゃなかったら、俺はネーガスになることを断る。」 1階に戻った。 「兄貴、それ本気かい!?」 「ああ、本気だ。」 「でも、ネーガスになれば金持ちになれるんだよ!」 「構うもんか! 俺は黙ってフェレンギ文明の終焉を見取る気はねえ。絶対御免だ! ここでキッパリと線を引くべきなんだよ! これ以上、ヤワにはさせないぜ!※35」 カーデシア人が歩く街頭。ジェムハダーたちを引き連れるヴォルタ人。「あっちだ。」 キラはフードを被っている。「まだ出てこないわ。何かあったのよ。」 後ろにはダマールがいる。 ジェムハダー※36の声が聞こえる。「おい、そこのお前! 労働許可証を見せろ。」 呼び止められたのはガラックだった。「ああ…入り口で見せたばかりです。」 別のジェムハダーも近づく。 ガラックのパッドを確認するジェムハダー。「ファーストの労働許可が下りていない。」 ガラック:「ああ、そうなんです。事情がありましてね。」 ジェムハダーとの話を続ける。 ダマール:「時間は。」 キラ:「セットしてから 3分後に起爆するはずよ。もういつ爆発してもおかしくない。」 |
※35: この部分の原語 "The line has to be drawn here! This far and no further!" は、映画第8作 "Star Trek: First Contact" 「ファースト・コンタクト」でピカード艦長がリリー・スローンに対して言った言葉と同じ。観察ラウンジでボーグに対する決意を述べるシーンで、吹き替えでは「もうこれ以上は後には引かん! これより先にはいかせない!」となっていました。パロディ的な引用ですね ※36: Jem'Hadar (Paul S. Eckstein DS9第126話 "Rocks and Shoals" 「洞窟の密約」の Limara'Son、VOY第86・87話 "The Killing Game, Part I and II" 「史上最大の殺戮ゲーム(前)(後)」の若いヒロージェン、第107話 "Gravity" 「ブラックホールと共に消えた恋」のヨスト (Yost)、第156話 "Flesh and Blood, Part II" 「裏切られたホログラム革命(後編)」の新しいアルファ・ヒロージェン、第160話 "Prophecy" 「預言の子」のモラック (Morak) 役) |
話し続けるガラック。「ですから、さっき申し上げた通り…」 ダマール:「早く戻れ、ガラック。」 キラ:「何とかしなくちゃ。」 その場を離れる。 必死に弁明するガラック。「なぜそんなに騒ぎ立てることがあるんです。修理の予定が詰まってるんですよ。一晩中ここであなた方と…」 ジェムハダー:「ここで待っていろ。ファーストを、お呼びする。」 「どのくらい待てばいいんでしょう。」 「いいから待て!」 ダマールの声が響いた。「おい! ジェムハダーめ。カーデシア市民に対して何という口の利き方だ!」 姿を見せる。 ジェムハダー:「貴様は、ダマール!」 もう一人のジェムハダーにガラックのことを指示する。「そいつを逃がすな!」 ダマールに銃を向けた。「降伏しろ。さもなければ殺す。」 「どちらも、断る。」 その瞬間、ジェムハダーはフェイザーで撃たれた。隠れたキラが撃ったものだ。 ガラックはナイフを奪い取り、もう一人のジェムハダーの首元に突き刺した。 ダマール:「みんな伏せろ!」 近くにいたカーデシア人たちに飛びかかる。 爆発が起こる。爆風で吹き飛ばされる人々。 ジェムハダー兵舎の連続した爆発は収まった。騒ぎを聞きつけた人々が集まってくる。 倒れた人も起きあがった。 一人の若者※37が言った。「ダマールだ。ダマールだ! やっぱり生きてた!」 ダマール:「カーデシアの市民諸君!」 歓声が上がる。「聞いてくれ。ドミニオンは君らに、反乱軍が全滅したと言った。しかし今ここで、また一つ奴らの嘘が証明されたのだ!」 人々に紛れているガラック。キラも見守る。「我らの自由への戦いは続いている! そして今、君たちの力を必要としているのだ。私は全てのカーデシア市民に告ぐ。立ち上がれと。立ち上がって共に戦えと。」 倒れていた人を起こすダマール。「我が軍は君たちが必要なのだ! 我らが結束すれば何も、恐れるものはない! 自由を、この手に取り戻すのだ!」 喜ぶ人々。 ガラックは叫んだ。「自由をー!」 若者:「自由を!」 カーデシア人たちから声が上がる。「自由を! 自由を! …」 ダマールも唱え続ける。見つめるキラ。 そしてダマールとガラックは、その場を離れた。 キラも去る。 DS9。 廊下を歩いてきたエズリは、ターボリフトの前に来た。「おはよう。」 ベシア:「おはよう…。」 笑うエズリ。「何よ、何笑ってるわけ?」 ベシア:「良かったと思ってさ。この前、ああして話してなかったら、お互い靴を見つめて…立ってるだけだった。」 「…それどころか引き返してたわ、あなたの姿を見た途端。」 笑う 2人。 「友達に戻れてよかったよ。」 「私も。」 到着したターボリフトから、女性が降りてきた。「失礼?」 2人は中に入った。見つめ合う。 司令室に到着したターボリフト。 そこへ士官たちが注目する。 通りかかったオブライエンも、気配に気づいた。 ターボリフトの中で、ベシアとエズリが抱き合って口づけを交わしていた。着いたことも知らないようだ。 オブライエンはウォーフに言った。「解決したようだ。」 ウォーフは、コンピューターのボタンを押した。 二人を乗せたターボリフトは、そのまま引き返していった。 クワークの店で話すブラント。「ネーガスが後継者に引き継がれる瞬間を、この目で見られると思うと胸が熱くなる。…いやあ私は実に幸せ者です、このような歴史的瞬間に立ち会えるとは。」 ロムたちもいる。 クワーク:「想像以上に歴史的なことが起こる。」 リータが駆け込む。「いらしたわよ!」 ゼク:「いたいた、会いたかったぞ。」 イシュカ※38やメイハードゥー※39もいる。「じゃあ早速用事を済ませてしまおうかのう?」 クワークは近づいた。「いえ、待って下さい。話がある。」 イシュカ:「やっぱり、きっとゴネると思ってたわ?」 ゼク:「わしはもう決めたんじゃ、クワーク。いくら文句を言おうが、この決定は変えられんぞ?」 クワーク:「私はフェレンギの誇りを奪うような政策を引き継ぐつもりはない。いくら頼まれてもごめんです。どうしても私にネーガスをやらせたければわかって下さい。」 「あ?」 イシュカと顔を見合わせるゼク。 イシュカ:「誰があなたと言いました?」 「どけ邪魔じゃ、クワーク。」 ゼクは別の人物の前に来た。「やあおめでとう、ロム。お前なら素晴らしいネーガスになれる。」 ロム:「…僕が?」 「どうした。この前は喜んでたじゃないか。」 「僕が?」 クワーク:「ありゃ俺だ。」 ゼク:「お前だ? わしゃてっきりロムじゃと思っていた。きっと…ノイズのせいじゃ。誤解が解けてよかった。」 「そんなバカな。本気でこのロムを、ネーガスに…されんですか?」 イシュカ:「私のアイディアなの。」 「そんな。こいつは間抜けだ。」 「あなたは弟を過小評価しすぎなのよ。」 「シーッ!」 ゼク:「新しいフェレンギ星には新しいネーガスが必要なんじゃ。優しくて、穏やかなネーガスがな?」 「ええい…」 クワークは離れた。 「それがお前なんじゃ、ロム。新生フェレンギ号の舵を取るにはそれは大きな責任が伴う。ネーガスは常に留まることなく、物質連続体の海を公開しなければなrなん。破産という名の座礁を避け、繁栄という名の強い追い風を味方にしてなあ。」 ゼクは自分の杓を差し出した。 ロム:「ああ…。」 受け取る。「最善を尽くします。」 喜ぶリータ。笑うノーグ。 ブラントは慌てて歩み出た。「私に一番最初に、祝福をさせて下さい。」 ブラントの肩をつかみ、座らせるメイハードゥー。 ブラント:「何だよう!」 リータ:「ああ、ロム!」 抱きつく。 ノーグ:「やったね、父さん!」 クワーク:「上等だ、ロムがいいなら、連れてきゃいい。奴なら適任ですよ。あなたの新しい労働者天国にはピッタリだ。自然だって救うでしょうし、税金だって好きなだけ集めるでしょう。」 ゼク:「あいつには何を言っても無駄じゃ。」 「俺は、もう何の未練もない。俺の知ってたフェレンギ星はもうどこにも存在しないからです。だけど、俺は必ずこの手でそれを取り戻して見せますよ? このステーションの、このバーでね。」 カウンターに入るクワーク。「そうなればきっとここが最後の砦となるでしょう。フェレンギ星を偉大たらしめた、飽くなき富への欲望を、備えたね。ブロイク! 飲み物を薄めろ。エンペラ! ダボ・テーブルの仕度をしろ。ロム! …バーを買い戻す。」 ロム:「そんなのいいって、兄貴にやるよ。」 「ラチナム・バー 5,000本も返さなくていいんだよなあ?」 「兄貴だもん。」 「そしてお前は間抜けだ。…でも愛してる。…おめでとうよ、ロム。お前なら新生フェレンギの立派なネーガスになれる。」 ゼク:「ほんとにロムでよかったんじゃろうな?」 イシュカ:「さあ、行きましょう? ライサが待ってるわあ?」 笑う二人。 ゼクはロムに言った。「幸運を祈る。それが必要じゃろう。」 イシュカ:「誇りに思うわ?」 ロムと額を合わせた。「行きましょう、ゼッキー?」 メイハードゥーも出ていった。 ロム:「僕、金融アドバイザーが必要なんだけどなあ。」 クワーク:「言っとくが俺は御免だぜ。」 ブラントは立ち上がった。「私なら喜んでお受けします!」 ロム:「それはやだ。」 クワーク:「まあまあ、ペディキュアぐらい塗らせてやれよ。」 笑うエンペラ。 「じゃあ、俺はもう行くぜ。仕事があるんでね。」 エンペラとキスをした。「せっせと稼がにゃ。」 ブラント:「…あの、よければお足を。」 ノーグがブラントを連れていく。 仕事につくリータ。 ロム:「ああ…。」 杓を見つめる。「ワーオ!」 上級士官室。 「ドミニオン撤退」と表示された宙図。 ロス:「情報部からの報告によると、ドミニオンはクリンゴン、ロミュラン、連邦の領域から完全に撤退したそうだ。どうやらカーデシアの領域に、新しい防御線を張っているらしい。」 ヴェラル※40:「ブリーン兵器に対する対抗措置に気づいたんだろう。」 シスコ:「私もそう思います。」 総裁姿のマートク※41。「だが退却には利点もある。必要な兵士も物資も、大幅に減るからなあ。」 ロス:「陣地を狭めれば、それだけ攻撃にも強くなる。倒すには大規模な攻撃が必要だ。」 ヴェラル:「船も大量に必要だ。攻撃よりも、陣地に留めておく方が得策だろう。」 シスコ:「それこそ奴らの思う壺だ。軍を立て直す時間が欲しいんです。」 マートク:「その通りだ。猶予を与えてはならん。全力で叩き潰すべきだ。」 ロス:「防御線を破るには、かなりの血を流さねばならんだろう。」 シスコ:「何もしなければ、ドミニオンは今後 5年は防御線の中に居座り続け、軍備を整えるでしょう。再び出てきた時が、我々の最期です。」 マートク:「我がクリンゴン帝国は、攻撃に一票を投じる。回復させてはなりません。」 ロス:「…どう考えてみても…それしかなさそうだな。」 ヴェラル:「……いいだろう。」 シスコ:「では決まった。攻撃だ!」 シスコの部屋。 寝間着姿のキャシディ※42が座っている。 パッドを読みながら戻ってきたシスコ。「…遅いのに。待っててくれたのか?」 キスする。 何も言わないキャシディ。 シスコ:「どうした。」 またパッドを読む。 キャシディ:「…妊娠したの。」 「…ほんとに?」 「もちろんほんとよ。」 キャシディは浮かない顔をしている。 「ああ…キャシディ。ほんとに、あ…赤ん坊が。君と私の。そんな…あ…」 微笑むシスコ。 「驚いたわ。」 「ああ、『全く』だよ! だけど、どうして。どっちかが先月、注射を忘れて…」 同時に話すキャシディ。「どっちかが先月、注射を忘れたからよ?」 シスコ:「ああ…ああ、ああ。そういえば…ジュリアンに言われてたんだ。いろいろ忙しかったから、ついうっかり…」 「別に謝ることはないのよ。」 「謝る? どうして。こんな…素晴らしいことはない。」 「喜んでくれて嬉しいわ。」 「君は?」 「…預言者たちのことが頭を離れないの。あなたは私と結婚したら不幸になるって言ってたわ。」 「キャシディ、それは乗り越えたはずだ。」 「それはわかってる。確かに、誓ったわ、預言者に私たちの人生の邪魔はさせないって。でもあれは…ああ…妊娠する前だったからよ。もしも…もしも、また預言者に何か言われたら? 赤ちゃんに何か起こるって言われたら?」 「シーッ。」 キャシディを座らせるシスコ。「大丈夫。子供には何も起こりやしない。」 「ほんとに?」 「私は、選ばれし者だ。その私が言う。何もかもきっと、上手くいく。何も心配することはない。」 「信じていいのね?」 シスコはキャシディを抱き寄せる。「…産まれるんだな。」 キャシディは微笑んだ。「私たちの赤ちゃん。」 |
※37: 名前は Lonar (Leroy D. Brazile VOY第107話 "Gravity" 「ブラックホールと共に消えた恋」の若いトゥヴォック役) ですが、言及されていません ※38: Ishka (Cecily Adams) DS9第147話 "Profit and Lace" 「グランド・ネーガスは永遠に」以来の登場。声:京田尚子 ※39: Maihar'du (タイニー・ロン Tiny Ron) DS9 "The Emperor's New Cloak" 以来の登場 ※40: Velal (Stephen Yoakam) DS9 "When It Rains..." 以来の登場 ※41: Martok (J・G・ハーツラー J.G. Hertzler) DS9 "Tacking into the Wind" 以来の登場。声:大山高男 ※42: Kasidy (ペニー・ジョンソン Penny Johnson) DS9 "The Changing Face of Evil" 以来の登場。声:弘中くみ子 |
感想
シェイクスピア由来の原題をもつ最終話直前のエピソードは、先週の内容に対抗するかのように濃いストーリーとなりました。登場人数は再登場キャラで 17人、レギュラーと合わせて 25人、その他も含めると実に 30人に及びます。中でも第3シーズン以来で俳優も同じ方で再登場した、テインとガラックの家政婦「ミラ」はファン泣かせの設定ですね。 最終話に引き継がれるかは微妙なところですが、おなじみのフェレンギ関連メンバーも勢揃いしました。単なるうだつの上がらないウェイターだったロムが、ベイジョーのエンジニアとなり、DS9 撤退時には連邦側で活躍し、そしてグランド・ネーガス・ロムという結末を迎えました。キャラクターの成長を見るのは、こういう長いドラマならではの楽しみです。 成長という意味では、ストーリー上一見邪魔にも思えるベシアとエズリも一つの結果を得ることに。ただ、初期にはジャッジアから全く相手にされていなかったベシアが、ついに長い年月を経て同じダックス=エズリを恋人にできたわけですよね。そういう意味ではとても上手い人選のカップルだと思います。 |
第173話 "Extreme Risk" 「心の決死圏」 | 第175話 "What You Leave Behind, Part I" 「終わりなきはじまり(前)」 |