上半身裸で、鏡を見ているオブライエン。「弱点はバックハンドだ。低いボールで、左を攻める。」 
 ケイコがユニフォームを持ってくる。 
 それを着るオブライエン。「リターンはコーナーを突く。…そして鋭く左へ。もし返されたら、後ろに高く返す。…それから…」 
 ケイコ:「勝っても負けても、今夜は御祝いしましょ? …マイルズ待って。シルクのスカーフよ? 中世の日本のデザインで、私の香水の香りがするわ。」 オブライエンの額に鉢巻きとしてつけた。キスし、胸を叩く。「がんばってね。」
  
 ユニフォーム姿で、腕立て伏せをしているベシア。 
 クワークが診療室に入る。「ドクター。いい物を持ってきました。ベイジョー星からの差し入れで、ドクターの御協力に対する感謝の印だそうです。」 
 ベシア:「ああ、そこに置いといて。」 
 「ああ…飲んでみないんですか?」 
 「…何だこれ。」 
 「強壮剤みたいな物らしいですよ。古代から伝わる秘薬なんだそうで、これを飲めば…すごい力が湧いてくるとか。試合前に飲むには最高の薬ですよ? …でも、ドクターははなっから…民間療法は信じてませんよね。」 
 「いやいや。古くから伝わる薬の中には、効き目のある物もあるんだよ。何で作った薬?」 
 「それは言ってませんでしたけど、天然の材料で作った物でしょう。ああ、ベイジョー人が言うには一気に飲まないと効果がないそうですよ?」 
 「へえ、そう。」 ベシアは立ち上がった。 
 「何するんです!」 
 「中身を分析するんだ。」 
 「ああ…準備運動はいいんですか?」 
 「すぐ終わるから平気さ。」 
 「だけど、ベイジョーを疑うんですか?」 
 モニターを見るベシア。「ああ、水に、スクロース、ブドウ糖、ジェミナルの根の抽出物※22。穀物粒子、イースト、シンサエノル。…それに、17ミリグラムのハイヴロクス化キント・エチルメタセタミン※23だと…?」 
 クワーク:「天然のものばかりでしょ?」 
 「これは麻酔薬だぞ、クワーク。」 
 「おお…」 
 「こんな物を飲んだら、まっすぐ立つことさえおぼつかない。八百長を企んだんだな。」 
 「俺がそんな。」 
 「自分がチーフの勝ちに賭けたからだろ、違うか?」 
 「誰もチーフには賭けてませんよう、みんなドクターに賭けてる。ドクターが勝ったら儲けはゼロだ。もし儲けが出なけりゃ、ベイジョーに寄付もできないことになる。ベイジョー人もガッカリ、子供たちも毛布を買ってもらえない。…でも? ドクターが負ければ、店は儲かるし子供たちに毛布も買ってやれるわけだ。」 
 「おい、まさか僕にわざと負けろって言うのか?」 
 「…子供のためです…」 
 「冗談じゃないよ。」 
 「でも毛布が…」 
 「毛布は君が何とかしろ。万が一ベイジョーに毛布が届かなかったら、僕とチーフとで君を訴えるからな。僕は本気だぞ、わかったか。」 
 「わかった。」 
 「それじゃ、出てってくれないか? 準備運動があるんでね。」 
 ため息をつくクワーク。
  
 シスコは尋ねた。「何か見つけたんだって?」 
 ダックス:「見つけたんですけど、意味がわからないんです。これを見て?」 モニターに図が表示されている。 
 「恒星ニュートリノ※24だ。」 
 「何か気づきません?」 
 キラ:「量が多いとか?」 
 「いえ、回転よ。自然界の確率の法則からいって普通なら、半分が時計回りに回転し半分が反対に回るものなの。…なのに、これは 80%が時計回りだわ?」 
 「事故が増えたのは恒星ニュートリノの回転が異常だからってこと?」 
 「…いいえ。全ての原因はどこかほかにあるのよ。ステーションの外のニュートリノは正常なのに、なぜかステーションの中だけこの珍現象が見られるの。」
  
 握手するオブライエン。「いいゲームをしましょ?」 
 ベシア:「お互いに。」 
 二人は位置につき、試合が始まった。 
 ベシアは取れない。
  
 中継映像がクワークの店に流されている。 
 クワーク:「まずは、オブライエンがワンポイント先取。さあこれからです。」
  
 今度はベシアのラケットが折れてしまった。
  
 ベイジョー人僧侶やモーンもモニターを見ている。 
 クワーク:「2-0 でオブライエン。ドクターは調子が出ないようです。」
  
 メイズーアは聞いた。「彼女はどこだ?」 
 ロム:「彼女?」 
 「アルシアだよ。今日入札の結果がわかるはずなんだ。」 
 「でも一言の断りもなく、俺の金を投資するなんてひどいよ!」 
 「お前の金?」 
 「儲けの 4分の1 は俺のものなのに、勝手に全部使ってさあ!」 
 「4分の1 って言ってもそれは経費を引いた後の話だ。」 
 「経費って、何の経費だよ!」 
 「経営資金だろ、諸経費だろ、資本再構成だろ?」 
 「…もう頭に来た!」 上着を脱ぎ捨てるロム。 
 「どこへ行くんだ。」 
 「兄貴のとこさ! 同じだまされるなら身内がマシだ! さあ帰るぞ。」 女性と出ていくロム。 
 服を投げ捨てるメイズーア。
  
 壁にぶつかるベシア。
  
 ベシアが倒れる映像が流れ、客が騒ぐ。 
 クワーク:「…ベシア選手の不調が続いています、オブライエン 9 対 3。」 
 オブライエンがカメラに向かって言った。『クワーク、中継機を切るぞ。』 
 クワーク:「そんなの無理だ。」 
 ラケットで突くオブライエン。映像は消え、反対側が透けて見える。 
 不満を述べる客。 
 クワーク:「皆さんお静かに。選手はここで 3分間の休憩です。これから賭けたい方。どうぞ 3分だけ受け付けますよ。」
  
 尋ねるベシア。「何で切ったんだ。」 
 オブライエン:「どうもおかしいんです。」 
 「…僕はね。でも君は絶好調だろ?」 
 「生涯最高のゲームですよ。でも、15年前毎日 5時間練習しても打てなかったショットが打てるんです。絶対変だ。」 
 「僕もこんなにミスが多いのは初めてだよ。※25」 
 「…壁に、ボールを投げてみて下さい。」 
 反射したボールは、手を広げたベシアではなくオブライエンの方に戻ってきた。 
 ベシア:「僕に、跳ね返るはずなのに。今度は君だ。」 
 オブライエンが投げると、またオブライエンのところに戻る。 
 オブライエンは適当に壁に投げつけた。反射を繰り返し、ボールはやはりオブライエンが取る。 
 壁の通信機に触れるオブライエン。「司令室。」
  
 ラケットボール室。 
 ボールが跳ね返る音が続く。そしてオブライエンの手のひらに収まった。 
 ベシア:「何回やっても、チーフに戻るんです。」 
 オブライエン:「10回以上試しましたけど、必ずです。」 
 「いくらツキがあってもありえませんよ。」 
 ダックス:「でも確率からいえばありえなくはないのよ?」 
 オブライエン:「確率ですか?」 
 シスコ:「ステーションのニュートリノが、同方向に回るとか。なぜか同じ時に大勢の人間が、事故に遭うとか。まずい時に限って、機械が故障するとか。」 
 ダックス:「その通りよ? 確率論からいえば、滅多に起こらないことが頻繁に起こってるわけ。」 
 「何ものかが、自然界の確率の法則をねじ曲げているんだ。」 
 オブライエン:「それで、そいつの正体は?」 
 ダックス:「探す方法はあるわ。」
  
 ギャンブル装置を試すメイズーア。また負けた。 
 トリコーダーを使いながら、ダックスがやってきた。「ここのニュートリノは、98%が時計回りよ。」 
 メイズーア:「ゲームですか? どうぞ?」 
 シスコ:「遊びに来たんじゃない。どうだ。」 
 ダックス:「…100%時計回り。この機械よ。」 
 メイズーア:「この、ギャンブル機が…どうかしましたか。」 
 「なぜかこの機械は、自然界の確率の法則をねじ曲げてしまっているのよ。」 
 「そのことだったのか。」 
 シスコ:「何が。」 
 「この元をくれたエイリアンが…人生全て運だって言ってたんです。…きっとこういうことなんですよ? もし勝てば、ツキが巡ってくるけど…負ければ…」 
 ダックス:「でもこれはステーション全体に影響を及ぼしてるわ? ギャンブルをしない人にまで。」 
 「そんなバカな。それは、ありえませんよ。」 
 シスコ:「ちょっと待てよ。元のマシンがあるって言ったな。」 
 「ええ、もっと小さいのが。それをレプリケーターで大きく複製したんです。」 
 「…大きく複製ねえ。…でスイッチの切り方は?」 
 「いえ…切り方は知りません。」 
 「じゃあ最初どうやってスイッチを入れたんだ。」 
 「いやあスイッチも何も、ただ…レプリケーターに命令して、元のマシンをコピーさせただけなんです。…恐らくパワーを内蔵してるんじゃないかと思いますが。」 
 「ダックス。」 
 「ちょ、ちょっと。一体何する気なんです。」 
 シスコとダックスは、フェイザーでギャンブル装置を破壊した。 
 複製した分も全て壊す。 
 シスコ:「さて、君の処分だが。」 
 メイズーア:「私の責任だとでもおっしゃるんですか?」 
 「ああ、言いたいね。逮捕できる罪状を、思いつかないのが残念だよ。」 
 オドーがやってきた。「いや逮捕できますよ。『例の』お年寄り夫婦が気を変えてねえ。やはり君を告訴してくれることになったんだ、助かったよ。」 
 メイズーア:「…フン。」 笑い、オドーに連行された。
  
 拘束室。 
 ベッドで横になっているメイズーア。 
 アルシアがオドーに連れられてきた。 
 メイズーア:「アルシア。釈放しに来てくれたんだね?」 
 笑うアルシア。 
 オドー:「さあ入って?」 アルシアを独房に入れ、フォースフィールドを張る。 
 メイズーア:「一体どういうことだ。」 
 「クワークに聞け。」 
 クワーク:「この俺をだまそうとしたんだよ。」 
 メイズーア:「…だます?」 
 「鉱山採掘ってな。そんな古い手に引っかかる奴もまあいないと思うが大丈夫だよマータス。俺が今そこから出してやる。」 
 「見返りに何を出せって言うんだ。」 
 「何も? お前が哀れでね?」 
 オドー:「ハ!」 出ていく。 
 メイズーア:「からかって楽しんでるな?」 
 クワーク:「ああ、出し抜いたとばかり思ってた俺に結局は助けてもらうんだからなあ。」 笑う。「こんなに胸の空く思いは久しぶりだぜ。」 
 「君が楽しいなら私も嬉しいよ? ステーションから出て行くのに、2,000イシクほど用立ててもらいたいね?」 
 「…お前俺に、金をもらう気でいるのか? バーカを言うな。今更そんなことが頼めた義理かよう。」 
 「俺にこのステーションにいて欲しいなら別だが?」 
 「ま、いいだろう。なら、500イシクだけ貸してやろう。貸すだけだぞ? 500 あれば貨物船には乗れる。」 
 「1,500 でもいい。経費ってもんがいるからね?」 
 「なら 600 だ。」 
 「1,200 だ、俺にもプライドがある。」 
 「金儲けしたいならプライドは捨てろ。※26金儲けの秘訣第109条。」 
 「…わかった。800 でいい。」 
 クワークは、言った。「その調子だ。弟子にしてやろう。」
 
 
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※22: tribnel root extract 吹き替えでは「ジェミナルの根の抽出物」と聞こえます
  
※23: hyvroxilated quint-ethyl metacetamine 吹き替えでは「水酸化物キント・エチルメタセタミン」。水酸化物=hydroxide
  
※24: solar neutrinos
  
※25: 原語では「そして僕はプライゴリアン・マンモス (Plygorian mammoth) の側面にも当てられないよ」
  
※26: No.109 "Dignity and an empty sack is worth a sack." 直訳すると「威厳 (プライド) と空の袋なら、袋に価値がある」
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