ヴォイジャー 特別エピソードガイド
第100話「過去を救いに来た男」
Timeless
イントロダクション
※1※2※3一面の氷の世界。2人の防寒着を着た人物が転送された。トリコーダーを使い、吹雪の中を歩いていく。 反応があった。そこでしゃがみ、氷に機具を突き刺す。積もっている雪を払うと、氷の下に線状のものが見える。男はコミュニケーターを押した。「あったぞ。」 2人がいる氷の下に埋まっていたのは、ヴォイジャーだった。 |
※1: TNGラフォージ役、レヴァー・バートン監督です。VOY では第74話 "The Raven" 「心の傷を越えて」以来 ※2: このエピソードはヴォイジャー第100話記念です。日本放送順では第101話になっていますが、これは製作番号順に放送されているためで、本国放送順では 100話になります ※3: このエピソードは 1999年度エミー賞、特殊映像効果賞にノミネートされました |
本編
トリコーダーを使うもう一人の男。「氷の状態は安定してる。」 男はうなずき、再び通信を行う。「中へ転送してくれ。」 『了解。』 女性の声※4が返ってきた。 壁が凍り付いた廊下を進む 2人。マスクとゴーグルを取る。彼らはチャコティと、キムだった。 キム:「覚えてるのとだいぶ違う。」 ライトを使って歩いて行く。壁面に小型機械を取り付けると、コンピューターの表示が灯った。 キム:「パワーグリッドはいかれてるな。ニューロジェルパックは完全に凍ってる。9から 14デッキは、潰れちまってるし、第10デッキしかない。」 チャコティ:「エンジン全開のまま突っ込んだか。EMH は。」 「医療室にアクセスしてる。反応がないな。パワーが落ちる。パワーセルをリセットしろ。」 チャコティが操作したが、表示は消えてしまった。壁を叩くキム。「ちくしょう!」 チャコティ:「先へ行こう。通信リンクを開けとけ。」 分かれて進む。 ブリッジへ入るチャコティ。倒れたまま凍った、クルーの遺体が転がっている。 ジェフリーチューブを進むキム。そこにも氷漬けのクルーがいる。 操舵席の近くにはパリスの遺体。そして艦長席のそばでは、ジェインウェイが凍っていた。 医療室で、パネルにパワーセルを取り付けるキム。 チャコティはセブンの遺体を見つけた。コミュニケーターを押す。「チャコティよりテッサ※5。」 「どうしたの?」 デルタ・フライヤーの中にいる女性。 『見つけた。転送機でロックして、そちらのラボへ収容してくれ。』 『スタンバイ。』 セブンの首に発信機を取り付けるチャコティ。「急いでくれ。楽しい光景じゃないからな。」 「ロックしたわ。」 フライヤーは氷の惑星の軌道上にいる。転送される遺体。 コンピューターを操作するキムの前で、ドクターが現れた。「緊急事態の概要を…」 状況に戸惑う。 キム:「久しぶりだな。」 「少尉!」 「今はただのハリーさ。長い話だ。モバイルエミッターは?」 「船はどうなったんだ。クルーは。」 「時間がない。エミッターは。」 「この中だが。」 ケースを叩き割り、モバイルエミッターを渡すキム。「ほら。付けろ、行くぞ。」 「待て。どういうことか説明してくれ。」 チャコティがやって来た。「教えよう。俺たちは歴史を変えに来た。」 |
※4: 声:小金沢篤子 ※5: Tessa (Christine Harnos) |
改造されたワープ・コア。撒かれる紙ふぶき。歓喜の声を上げ、拍手するクルー。ボトルを持ってコアへ近づくトレス。そのシャンパンが叩き割られ、一段と拍手が大きくなった。トゥヴォックも心なしか笑顔を浮かべている。 機関室の 2階にいるジェインウェイ。「みんな聞いてちょうだい。静かに。紹介します。これが次世代の恒星間飛行推進エンジン、量子スリップストリームドライブ※6よ。」 歓声が上がる。「4年と 2ヵ月、11日。デルタ宇宙域に来て以来、長い日々が過ぎたけど、我々はこの間、宇宙探査でフロンティアを前進させた。更に大事なのは、生き延びたこと。もう地球へ帰る時よ。」 再び歓声。「パーティを楽しんで。でも明日のフライトまでには、まだ山ほど仕事があるわ。シャンパン飲み過ぎないでよ。」 笑うトレス。 チャコティに話すジェインウェイ。「量子マトリックス、ベナマイト※7クリスタル、それにボーグのテクノロジーよ。艦隊が何て言うと思う?」 「文句は出ないでしょう。初のスリップストリームドライブだ。コックレーン賞※8にノミネートされますよ。」 「授賞式のスピーチを考えなきゃ。」 「ボーグに感謝しますかな。」 「夕食は誰と?」 「そうだな、レプリケーターかな。」 「キャンセル。命令よ。」 「了解、艦長。」 ニーリックスがトレスを探している。「ベラナ! ベラナ! ごめんよ。俺も何か、協力したいと思ってね。」 「ありがとう。でも何?」 ニーリックスの手にあるのは、巨大な昆虫。「タラクシア・ケバエ※9だよ。俺の星じゃ宇宙旅行の守り神って言われてる。もしこいつがこっそり船に忍び込んでたら、その船は安全なんだ。俺はずっとこいつと飛んでた。エンジンルームに 6年吊るしてあったんだ。」 ハエのしっぽをつかむトレス。「あー…かわいい。」 話を聞いていたトゥヴォックはいう。「君は次々、驚きの種を提供してくれるね。」 ニーリックス:「そういわれると、照れるなあ。」 その奥で、セブンが自分の左手を見つめている。右手にはシャンパンのグラスを持っている。気になるドクター。「セブン?」 「ヴィジュアルプロセッサーと運動皮質が変だ。機能異常を起こしている。」 「皮質インプラントに問題が出たかな。チェックしてみよう。」 トリコーダーで調べるドクター。 落ち着かないセブン。 ドクター:「じっとして。」 「足元がふらつく。」 「酒に酔ってるな。」 「ありえない。」 「血中アルコール濃度が、0.05。シャンパンを何杯飲んだんだ?」 「1杯。」 「ボーグは酒に弱いらしい。医療室へ行こう。イナプロヴァリン※10を処方しよう。」 ドクターに補佐され、歩くセブン。「私はお前の指示通り、社交術を磨こうとしていたのだ。」 「ああ、見事にやってるねえ。」 セブンはドクターの体を叩き始めた。「お前は常に、尽力を惜しまず支援してくれる。良き指導者だ。」 「そうとも。」 他のクルーにも大きな声でしゃべるセブン。「我々は同士だ! 同士なんだ!」 その様子を見ていたキムは、パリスに話しかける。「あれ見たか?」 「うん。」 コンピューターに向き合うパリス。 「我らがドローンも、パーティでちょっとはしゃぎ過ぎたらしいな。お前はいつ仲間に入るんだ?」 「すぐにな。」 「何で今頃ワープコアのチェックなんか。」 「ハリー。こいつはリコールになる※11。」 「何?」 「欠陥車だ。このままほっとけば大事故になる。夕べフライトシミュレーションをしてみたら、スリップストリームに入る時の位相変動が、0.42にもなった。」 「0.42? そりゃ揺れそうだけど、もっとひどい時もあるし…」 「スリップストリームの真ん中でぶち当たったら、量子マトリックスがオーバーロードになる。」 「艦長には言った?」 「まだだ。みんな期待で沸き立ってる。確証がないとな。」 「トム。もし気が済むんなら、一緒にホロデッキへ行ってもっとシミュレーションしてみるか。センサーの不調かも。」 機関室を出る 2人。 「通常エンジン全開。」 操舵席のパリス。 キム:「スリップストリームドライブ起動。量子フィールド安定。ディフレクター最大出力。」 「スリップストリーム突入まで 4秒。3、2。」 前方にスリップストリームが形成された。 パリス:「動力安定。量子フィールドも維持してる。」 キム:「シールド、73%。」 「いい感じだ。ディフレクターの微調整を続ければ…」 警告音が鳴り、自動的に非常態勢に切り替わる。 キム:「位相変動が発生。0.1、0.2。」 パリス:「ディフレクターを調整しろ。」 「変化なし。」 「スリップストリーム停止。」 「ちょっと待って。量子フィールドを転移してみる。」 「無駄だよ。スリップストリームが崩壊してる。」 通常空間に戻った。 パリス:「内部ブロック面に異常発生。」 コンピューターの声。『警告。第10デッキに亀裂。」 キム:「船体に傷が入り始めた。」 パリス:「コンピューター、プログラム停止。」 揺れが止まる。 キム:「もう一回やろう。次は非常用パワーをもう少し早くディフレクターに回せば…」 パリス:「同じことだよ。」 「コンピューター、プログラム再開、タイムインデックスは…」 「コンピューター、今のは撤回だ。これ以上やっても無駄だよ。」 「ここで投げ出せないだろ。」 「23回シミュレーションして、全部大惨事に終わってんだ。これはセンサーの不調なんかじゃない。」 ため息をつく。「みんなに言おう。」 トレスは納得できない。「そんな訳ない。エンジンの部品一つ一つまでテストしたのよ。」 他の上級士官も機関室に集まっている。 パリス:「俺だって悔しいよ。」 セブン:「シミュレーション結果を検証させろ。」 「第2ホロデッキだ。自分でやってみろ。何十回爆死しても構わないなら。」 チャコティ:「私もデータを見ました。明日の朝フライトすれば、午後には脱出ポッドでしょう。」 トゥヴォック:「中止にするしか、道はないでしょうね。」 パリス:「もしくは、もう一つ。ハリーの理論です。」 ジェインウェイ:「何なの?」 キム:「……際どいんですが、可能性はあると思うんです。トラブルはフライト 17秒後に始まります。位相変動が起きて、ストリームが不安定になる。誰かがシャトルで前を飛んで、その急流を乗り切ればいいんですよ。」 トレス:「そうよ! シャトルでスリップストリームの変動を読み取って、ヴォイジャーにフェイズの修正値を送ってもらえばいいんです。それならいけるわ、ハリー。」 「でも、ここが際どいんです。シャトルはヴォイジャーのほんの 2、3秒前を飛ぶことになります。修正を間に合わせるにはギリギリの時間です。」 ジェインウェイ:「トム。」 パリス:「2、3秒か。」 キム:「絶対成功しますよ。シャトルで飛ばせて下さい。スリップストリームを乗り切れます。」 無言のクルー。キムは必死に言う。「それしかないでしょ! あきらめるんですか、何ヵ月もかかったのに。」 トゥヴォック:「元々非常に実験的なエンジンだ。中止も視野に入れるべきだろう。」 「エンジンの中では、ベナマイトクリスタルがもう崩壊し始めてる。また合成するには何年もかかります。みんなはどうか知らないけど、今まで必死にやってきたことを、たった 0.42 の位相変動であきらめられませんよ!」 我に返るキム。「すいません、艦長。」 ジェインウェイ:「いいのよ。わかったわ、少尉。試す価値はある。フライトプランを出して。1時間以内に持ってくるように。」 「わかりました。」 「それを見て決めましょう。」 機関室を出ていくジェインウェイ。キムはパリスに向かってガッツポーズをした。 ジェインウェイの部屋。チャイムが鳴る。 ジェインウェイ:「入って。」 チャコティが入る。 「副長。まだ食欲はある?」 「腹ペコですよ。でもスリップストリームの件で呼ばれたと思ってました。」 「ディナーをふいにしたくはないわ。祖母が地球でよく作ってくれたメニューにしたのよ。野菜ビリヤーニ※12。」 「うまそうだな。料理できたんですね。」 「普段はコーヒー入れるくらいだけど。」 笑うチャコティ。 「記念すべき夜だから。」 「え?」 「デルタ宇宙域最後の夜。記念しなくちゃね。」 「決めたんですね。」 「明日午前8時に出発よ。ハリーとデルタ・フライヤーに乗って。ヴォイジャーはすぐ後ろを飛ぶわ。」 ため息をつくチャコティ。「クルーは喜びます。」 「あなたから知らせてもらうわ。デザートの後でね。……チャコティ、あなたは…あなたはどう思う?」 パッドを手にとるチャコティ。「ハリーのプランを見ました。理論は正しくても、不確定要素が多すぎます。一つ予想外のことがあれば…」 「あのエンジンを試す最後のチャンスかもしれない。」 「ええ。でもこのデータを艦隊のエンジニアに見せたら、正気じゃないと思われますよ。帰る方法はまだある。リスクが大きすぎる…」 「随分待ったわ。リスクはわかってる。これまでで最大だわ。でも賭けたいの、ついてきてくれる?」 「もちろんです。」 ジェインウェイは立ち上がり、チャコティの肩に手を置いた。「リスクといえば、手料理を試す勇気はある?」 「薬頼んどきます。」 笑う 2人。ジェインウェイはチャコティの頬に触れ、料理を準備しに行った。 テーブルの上に置かれたパッドは、今では氷漬けになっていた。 |
※6: quantum slipstream drive 革新的なワープ推進技術。VOY第94話 "Hope and Fear" 「裏切られたメッセージ」より ※7: benamite ※8: Cochrane Medal of Honor コックレーンはワープを発明したゼフラム・コックレーン博士 (Dr. Zefram Cochrane) のこと。TOS第31話 "Metamorphosis" 「華麗なる変身」など ※9: タラクシア毛蝿 Talaxian fur fly 英語で "fur fly" には「大騒動が起こる」という意味もあります ※10: inaprovaline VOY第102話 "Nothing Human" 「寄生生命体の恐怖」など ※11: 原語では「俺たちはエドセル (Edsel) を造ったらしい」。Edsel はフォード社の車「Edsel」がよく売れない失敗作だったことから、「失敗作、売れない製品」という意味があります ※12: vegetable biryani |
氷の惑星軌道上のデルタ・フライヤー。信じられないドクター。「15年経ってるって?」 キム:「プラマイ 2、3週間だな。」 「ここはどこです。」 チャコティ:「タカラ星域※13。アルファ宇宙域のすぐ外だ。」 「クルーは。」 キム:「俺たち以外は、死んだ。」 チャコティ:「艦長はこの星に緊急着陸しようとしたんだろう。だが船は衝撃に耐えられず、墜落の衝撃でみんな死んだ。」 「あんたはこの 15年、氷河の中で埋まってたんだ。」 ドクター:「君たち 2人は、ヴォイジャーの前をデルタ・フライヤーで飛んでた。帰れたんだな。」 「遥か地球までな。故郷へ帰ったよ。仲間全員を殺してやっとね。」 チャコティ:「ハリー。」 ドクター:「艦隊は捜索したんだろ?」 キム:「艦隊か。艦隊はもう 9年も前にヴォイジャーの捜索を打ち切ったよ。俺たちが見つけたんだ。」 「そうか。言えるのは一言です。ありがとう。永遠に凍ったままでいるところでしたよ。」 チャコティ:「お前を回収しに来たんじゃない。この事故が起こるのを防ぎに来たんだ。」 キム:「ドクター。15年前俺は、スリップストリームの変動の計算をし間違えて、間違った修正値をヴォイジャーに送信して、ボン! ヴォイジャーは一瞬でスリップストリームをはじき出された。キム少尉のおかげさ。俺はあの時何を間違えたのかずっと考えてきた。答えはもうわかってる。だから、俺たちはヴォイジャーに新しい修正値を送るんだ。」 ドクター:「でもちょっと遅すぎやしないか?」 チャコティ:「過去のヴォイジャーと交信する方法を見つけた。事故の直前のな。」 キム:「やらないよりましだ。」 ドクター:「過去にメッセージを送るんですか。」 チャコティ:「ああ、そうだ。」 「どうやって。」 キムがボタンを操作すると、収納ユニットに入ったセブンの遺体が出てきた。 ドクター:「どういうことなんです。」 チャコティ:「彼女のインプラントにトランシーバーがある。ほかのドローンとの交信用のな。」 「ええ、脳内ビーコンと呼ばれている物です。」 「それを取り出して、トランスリンク周波数を割り出してもらいたいんだ。」 「それはできますけど。保存状態はいいようですし。」 「それでメッセージの送信先がわかる。問題なのは、どの時間へ送るかだ。セブンのクロノメーターノードにアクセスして、サイバネティックインプラントが有機プラントと絶縁した時間を割り出すことはできるか?」 「死亡時刻ですね。」 「できれば、ミリセカンドまで頼む。」 「やってみましょう。」 キムはドクターの肩を叩いた。「便利だって言ったろ?」 笑うチャコティ。 ドクター:「過去のセブンと交信する方法があるんですか。どうやって。」 キムは赤い箱を見せた。「これだ。救出コンポーネント 36698。ボーグの時空トランスミッターだ。」 中には小さな機械が入っている。 チャコティ:「艦隊情報局が、ベータ宇宙域でボーグ・キューブの残骸から見つけた。」 キム:「それを盗んだ。」 テッサがやって来た。「大変よ。長距離センサーで艦隊の船を感知した。」 チャコティ:「時間はどれくらいある。」 「低軌道に入ったし、シールドも調整したけど、見つかるのは時間の問題ね。運が良くて 6時間。」 ドクター:「はっきり聞いていいかね。君たちは追われてるのか。」 キム:「銀河一のお尋ね者。このデルタ・フライヤーも盗んだ。宇宙艦隊の造船所からな。2つの反逆罪で指名手配。しかも時空保護指令※14に違反しようとしている。」 「素晴らしい。冷凍庫から出たら火事だ。」 チャコティ:「しゃべってる時間はない。かかってくれ。」 「了解。」 「俺たちはセンサー記録を取りに行ってこよう。用意しろ。」 テッサは防寒着を着ながら、ドクターに話しかける。「こんにちは、ドクター。」 「どこかで?」 「いいえ、でも友達みたいな感じ。テッサ・オーモンド※15よ。」 「よろしく。」 「やっと会えて光栄。ヴォイジャーの悪名高い EMH。」 「悪名高い?」 作業をしながらキムは言う。「いろいろ聞かせたからな。」 テッサ:「ほんとはいつもあなたを誉めてたわよ。」 ドクター:「へえ。君はまたどうして、このボニーとクライド※16の仲間に?」 「ああ、ヴォイジャーには前から興味津々だったから。」 キム:「2人はできてる。」 「何?」 「チャコティとテッサだよ。離れられない仲だ。」 テッサ:「正直言えばね、チャコティとハリーだけで来させるなんてできなかった。手伝いたいの。」 チャコティが戻ってきて、尋ねる。「いいか?」 向かう 2人にキムは言った。「風邪引くな。」 氷河の下のヴォイジャー。ブリッジにいるテッサ。「旧式のコントロールパネルね。最新鋭の船だって言ってなかった?」 チャコティ:「当時はそうだった。」 「見つけたわよ、センサー記録。でも私じゃアクセスできないみたい。」 「俺のコマンドコードが使えるはずだ。」 副長席に座り、操作するチャコティ。「うーん、使用中のファイルがあるな。」 ジェインウェイの音声が流れる。『だが万一に備え、記録のため言っておこう。クルーは勇気と叡智をもって行動した。』 茫然とするチャコティ。 テッサ:「大丈夫?」 「ああ。ただ…前ここに座ってた時は、みんながいた。生きてた。」 チャコティの隣に座るテッサ。「だから助けに来たんじゃない。」 「トリコーダーを貸してくれ。」 受け取るチャコティ。トリコーダーをコンピューターの上に置く。「ダウンロードしてる。2、3分だ。」 「中を案内してもらう時間はない?」 「無理だな。それに俺の部屋は散らかってる。」 笑うテッサ。 「計画通りにいけば、2、3時間後に歴史を変えることになる。この 15年間が消えてしまう。やめてもいいんだぞ。」 「馬鹿言っちゃって。」 「俺は本気だ。」 「私もよ。今更引き返すつもりはないわ。」 ブリッジを見渡すチャコティ。 「チャコティ?」 「どうかしてるな。いよいよって時に怖じ気づいてる。自分でもわからない。馬鹿げてるよな。何年もずっと、この時を目指してきたのに、何考えてると思う。お前を失いたくない。」 「あなたの心はいつだってこの…ヴォイジャーにあった。きっとこれからもそうよ。ここがあなたの場所なの。それにいつか、会えるかもしれないじゃない。」 「会えなかったら?」 「その日をずっと待ってる。」 デルタ・フライヤー。キムがコンピューターに向かって話している。「…全ては変わったってことだ。一つ貸しだ。」 ドクターは言う。「キム少尉、手伝ってくれるか?」 「じゃあな。」 キムはコンピューターを操作した。 ドクター:「今のは何なんだ?」 「友達に、手紙をね。どうだ?」 セブンの頭蓋を調べているドクター。「基礎構造に損傷はない。だが、アイソプローブがいるな。」 「ああ、あるよ。」 医療キットを取り出すキム。 ドクター:「それでどうだった? 帰還した時は。」 「反物質花火に、高官がズラリと出迎え、ヴァルカンの聖歌隊※17もいたなあ。そうだ、勲章ももらったよ。チャコティがクルーに捧げるスピーチをして涙を誘い、マッキンタイヤー提督※18は、俺を娘婿にって言ってきた。」 「少なくとも、氷の下には埋もれなくて良かったな。」 「一緒に埋もれてた方がどんなに良かったか。」 「さぞ辛かったんだろうな。友人や仲間をみんな、残して来て。」 「よくあるんだってさ、生き残った者は罪悪感をもつ。カウンセラーたちが言ってたよ。『君が今生きているという事実を大切にしなくちゃ、人生を愛して、過去は忘れるんだ。』 当然俺は捜索隊に志願したよ。ヴォイジャーが遭難した場所を計算しようとした。4年探し続けて、あと一歩だった。手応えがあった。なのに艦隊司令部は捜索を打ち切ると言った。成功の見込みが少ないってな。祝賀会で俺と握手した提督に、一人一人頭を下げに行った。続けさせてくれと頼み込んだ。すぐマッキンタイヤー提督さえ会ってくれなくなったよ。だから俺は艦隊を辞めた。」 「わかったぞ、セブンのトランスリンク周波数は 108.44236000 だ。」 「ラッキーナンバーだな。今入力する。」 「無法者の暮らしは、いつからなんだ?」 「この宝箱のことを聞いた瞬間だ。」 時空トランスミッターの箱をもつキム。 「キム少尉、何をしようとしているか、よく考えたのか? 歴史を変えても事態は悪化するかもしれない。少なくとも君とチャコティは生きてる。なぜ運命に逆らう。」 「15年前、俺がミスをしたからこそこの歴史があって、この今があるんだ。俺を信じていたクルーを裏切った!」 コンピューターの音声が流れる。『警戒警報。船舶接近。方位 184、マーク 7。』 コックピットに入る 2人。状態を確認するキム。「見つかったか。チャコティ。」 チャコティ:『何だ。』 「艦隊の船がインターセプトコースにいる。今やるしかないぞ。」 『すぐ戻る。』 キムはドクターに言う。「もし反対なら言ってくれ。あんたのプログラムを切る。だがやるなら一緒に、運命を変えられるぞ。」 「名誉の盗賊に協力するか、コンピューター回路の中で永遠に眠るか。運命を変えよう。」 キムは微笑み、ドクターの肩を叩いた。 |
※13: Takara Sector TNG第148話 "Suspicions" 「新亜空間テクノロジー 超フェイズシールド」に登場したタカラ人 (Takarans) との関係は不明 ※14: Temporal Prime Directive VOY第51話 "Future's End, Part II" 「29世紀からの警告(後編)」より (そのエピソードでは「時間法」と吹き替え) ※15: Tessa Omond ※16: Bonnie and Clyde ボニー・パーカー (Bonnie Parker) とクライド・バロー (Clyde Barrow)。アメリカ大恐慌時代の義賊的な強盗。1967年「ボニーとクライド/俺たちに明日はない」で映画化。参考:ボニー&クライド、Your FBI - History - Famous Cases - "Bonnie and Clyde" ※17: Vulcan Children's Choir ※18: Admiral MacIntyre |
「艦長日誌、宇宙暦 52143.6。運が良ければ、次はアルファ宇宙域で記録することになる。だが万一に備え、記録のため言っておこう。クルーは勇気と叡智をもって行動した。」 デルタ・フライヤーの後を航行するヴォイジャー。 フライヤーの設定を確認するチャコティ。「シールドジェネレーター。」 キム:「オンライン。」 「プラズマフロー。」 「安定。」 「通信リンク。」 「異常なし。」 「ランチは?」 「サラミサンドイッチ※19です。」 「用意はいいか、少尉。」 「イエッサー。」 「チャコティよりヴォイジャー。準備OK。」 ブリッジのジェインウェイ。「艦長より全クルーへ。全員配置につき、全システムを確認して。スリップストリームに備え、待機しなさい。」 セブン:「シャトルとの遠隔リンクを確立した。」 「コースとスピードを合わせて。」 デルタ・フライヤーの後ろに、ギャラクシー級の宇宙艦が迫る。 テッサ:「追いついて来てるわ。距離 20万キロ、更に接近中。これでも回避行動のつもり?」 チャコティ:「これで精一杯だ。ハリー、どうだ。」 キム:「ボーグ・トランスミッターはつないだ。あとはドクターだ。時間座標が出るのを待ってる。」 ドクター:「あと 2、3分だ。」 チャコティ:『急いでくれ。ギャラクシー級の船※20に追われてる。』 「最大限急いでるよ。」 テッサ:「通信が入ってる。向こうと話したい?」 チャコティ:「時間が稼げるかもな。回線をつなげ。」 モニターに映し出された。『こちらチャレンジャー※21、艦長ラフォージ※22だ。相当急いでるようだな。』 「ああ、まあね。」 『エンジンを停止して、シールドを解除しないか。膝を突きあわせて話そう。』 「また今度にさせてくれ。」 『それはできないな。君たちの計画を実行させるわけにはいかない。そこで、連邦評議会から提案がある。トランスミッターを返して、船を明け渡せば、君たちへの提訴を取り下げよう。』 テッサ:「こっちにはまるでメリットないわ。成功すればそんな提訴自体、存在しなくなるんだから。」 『もし成功すれば、無数の人が影響を受ける。』 チャコティ:「150人の命を救いに来たんだ。クルーのね。」 『それは知ってる。気持ちは痛いほどわかるが、私も君同様私のクルーを守らなきゃならない。15年間の歴史もね。だから、もう一度頼もう。警戒を解き、トランスミッターを返すんだ。』 「それはどうしてもできない。」 『なら私は、君を止めなきゃならない。』 「ああ、わかってる。幸運を。」 『君もな。』 通信が終わると同時に揺れるデルタ・フライヤー。 テッサ:「こっちのエンジンを狙ってるわ。」 チャコティ:「シールド、フルパワー。攻撃の用意をしろ。」 デルタ・フライヤーの後を追うヴォイジャー。 ジェインウェイ:「ヴォイジャーよりチャコティへ。」 チャコティ:『はい、艦長。』 「スリップストリーム突入用意。」 『了解。』 「発進して。」 パリス:「スリップストリーム突入まで 4秒。3、2。」 2隻の周りにスリップストリームが形成された。 攻撃を受けるデルタ・フライヤー。 テッサ:「シールド、62%にダウン。」 チャコティ:「応戦しろ。」 「命中。敵のシールドには影響なし。とても勝てっこない、チャコティ。」 「いいから続けろ。」 攻撃を受け、後部のパワーが落ちる。 キム:「邪魔したくないがこっちのパワーが切れそうだぞ。」 テッサ:「待ってて。非常用のバックアップを回す。」 「助かるよ。」 「ドクター、時間座標を出してくれ。今すぐだ。」 ドクター:「急っついても早くはならない。」 報告するセブン。「位相変動を感知してる。0.1、0.2。」 ジェインウェイ:「パリス。」 パリス:「ハリーの数値待ちです。」 セブン:「0.3。」 ジェインウェイ:「ヴォイジャーよりデルタ・フライヤー。修正値が出ないなら中止するしかないわ。」 キム:「もうすぐです。」 チャコティ:「スリップストリームが、歪み出してる。」 「大丈夫です。今数値を出します。空間放射軌道を補正します。ディフレクタージオメトリーを安定。…出たぞ!」 パリス:「位相修正値を受信。」 セブン:「位相変動は減少している。」 トゥヴォック:「シールド、維持しています。」 ジェインウェイ:「うまくいきそうね。」 だが大きな揺れが起こった。 セブン:「位相変動が増加し始めた。0.3、0.4。」 ジェインウェイ:「ハリー、どうなってるの? 位相変動がまた増加してる。」 キム:「わ、わかりません、艦長。うまくいくはずなんです。」 『答えがいるのよ。ハリー、時間がないの。』 「……センサーをもう一度調整してみます。それで、位相変動を補正できるかもしれません。ディフレクタージオメトリーを…」 トゥヴォック:「通信リンク、途絶えました。」 パリス:「遠隔リンクもダウンしました。スリップストリームが不安定になり始めた。」 ジェインウェイ:「すぐエンジンを停止して!」 「できません。量子マトリックスがオーバーロードになってる。完全に制御不能です!」 ドクターはついに突き止めた。「わかったぞ! サイバネティックシステムが停止したのは、宇宙暦 52164.3、ボーグ・タイムインデックス 9.43852 だ。……9.40 で、トランスミッターに入力するつもりなのか?」 キム:「ああ。」 「ヴォイジャーが墜落する 4分前だぞ! 余裕をもたせた方が良くないのか。」 「電話するのとは訳が違う。過去に信号を送ろうっていうんだからな。セブンが完璧なタイミングでデータを受け取れるようにしたいんだ。よし。新しい位相修正値を入れるぞ。俺は 15年前、ここでミスした。今度は違う。」 トランスミッターを作動させるキム。 ヴォイジャーのセブンに反応がある。「艦長、信号が届いている。」 ジェインウェイ:「通信リンクはダウンでしょ?」 トゥヴォック:「そうです。」 セブン:「私のインプラントにシグナルが届いているんだ。位相修正値が含まれている。」 ジェインウェイ:「ハリーはボーグ・システムにアクセスできるの?」 「いや。」 「方法を見つけたんだわ。修正値を入力して。」 操作するセブン。「やはり位相変動は減少しない。スリップストリームは崩壊する。」 ジェインウェイ:「ディフレクターにフルパワー。」 トゥヴォック:「変化なし。」 パリス:「船体が歪んでます。」 ジェインウェイ:「シールド最大値に。船を安定させて。」 「無理です。姿勢制御が効きません。」 スリップストリームが消え、通常空間に出た。 パリス:「慣性制動機、停止しました!」 ジェインウェイ:「デルタ・フライヤーはどこなの?」 セブン:「船影が見当たらない。ストリーム内に残ったらしい。」 ストリームに残ったままのデルタ・フライヤー。 チャコティ:「ヴォイジャーがストリームから投げ出された。」 パネルを叩くキム。「コースを変更しましょう。戻らなきゃ。」 「無理だ! ヴォイジャーは無事でも、この速度で戻ったらシャトルはもたない。」 「そんな! みんなを探さなきゃ。」 コースを変えようとするキムの手をつかむチャコティ。「少尉! 仕方ないんだ。」 手を振り払い、その場に座り込むキム。 姿勢制御を失ったヴォイジャー。 パリス:「艦長! アルファ宇宙域からほんの数パーセクです。」 ジェインウェイ:「その境界を何とか越えたかったわね。」 トゥヴォック:「第5 から第10デッキで船体破損。生命維持機能低下。どこかに着陸しないと、空中分解します!」 あちこちのコンソールが火を吹く。 パリス:「惑星発見しました。ここから 900万キロ前方。Lクラス※23です。」 ジェインウェイ:「着陸!」 ヴォイジャーは急速に降下していく。 ジェインウェイ:「速度が速すぎる。スラスターを反転。」 スクリーンに迫る氷山。 「全クルー、衝撃に備えよ!」 氷山をかすめるヴォイジャー。そのまま氷原に胴体着陸する。勢いは全く止まらず、ワープナセルが崩壊する。積もった雪を巻き上げながら突き進んで行く。 |
※19: salami sandwiches ※20: ギャラクシー級宇宙艦 Galaxy-class starship 言わずと知れたエンタープライズ-D のクラス ※21: U.S.S.チャレンジャー U.S.S. Challenger ギャラクシー級、NCC-71099。別にチャレンジャー級というクラスもあります。「チャレンジャー号」と吹き替え ※22: ジョーディ・ラフォージ艦長 Captain Geordi LaForge (レヴァー・バートン LeVar Burton このエピソードの監督も) 本来のタイムライン (もちろん実際の未来でもチャレンジャー艦長になっていてもおかしくはありませんが、可能性の未来という意味において) では 2367年時点でエンタープライズ-E の機関主任 (階級は少佐) です。声はもちろん、星野充昭さんで統一されています。制服は映画第8作 "Star Trek: First Contact" 「ファースト・コンタクト」型 (黒を基調) で、コミュニケーターは TNG最終話 "All Good Things..." 「永遠への旅」などで登場した未来型 (縦線 2本に宇宙艦隊マーク) です。初めの方でチャコティが着けていたのも同様のタイプですね ※23: Class-L 惑星分類システム (planetary classfication system) による分類の一つ。VOY第17話 "The 37's" 「ミッシング1937」など |
チャレンジャーから逃げるデルタ・フライヤー。 キム:「まだ俺たちがいる。どうしてまだいるんだ。」 ドクター:「キム少尉?」 「あの修正値もだめだったんだ。」 「確かか?」 「もしヴォイジャーが助かったんなら、俺たちが救いに来てるわけがない。トランスミッターは異常ない。メッセージは受け取ってるはずだ。チャコティ、問題発生だ!」 チャコティ:「ああ、そのようだな。」 テッサ:「エンジンがダウンしたわ。向こうのトラクタービームにロックされてる。」 「スラスター全開。」 「効果なし。」 「奴らのトラクタービームにプラズマを放出できないか? 逃げられるかもしれない。」 「できると思うけど、EPSリレーがかなりやられてる。ワープコアが不安定になるかもね。」 「向こうの船へ転送しようか? 構わないんだぞ。」 「一人で楽しむ気?」 「ハリー、あと 2、3分時間を稼げる。」 キム:「わかった。」 ドクター:「タイムトラベルは専門外だがね、もう一度やればいいだけじゃないのか。過去はどこへも逃げないだろ。」 「でもさっきと同じ信号を送っても意味ないだろ。動力学は問題ない。超次元進行はどうだ? 完璧だ。ディフレクタージオメトリーかな。」 チャレンジャーのトラクタービームが消え、離れるデルタ・フライヤー。 テッサ:「離脱したわ。」 チャコティ:「EPSリレーがオーバーロードだ。ハリー、多分あと 3分以内にワープコアが爆発するぞ。そっちはどうなってるんだ?」 キム:「くそ! 最高だね! あの修正値を出すのに 10年かかった。それを 3分で直せるか!」 ドクター:「やるしかないだろ。」 「もう無理だ! うまくいくはずなのに。どうしてだめなんだ! 俺が殺した。」 「しっかりしろ!」 「俺がクルーを殺したんだ!」 「キム少尉、私は君の泣き言を聞くために氷の中から出て来たんじゃない! 自分を哀れんで泣くのは勝手だがな、独りの時にしてくれ。」 「無駄なんだ。歴史は繰り返すんだよ。俺はまたヴォイジャーを墜落させたんだよ。」 「誰かが歴史をねじ伏せて変えるしかない。それができるのは君なんだよ。」 「無理だよ、ドクター。言っただろ。」 「確かに位相変動の修正は間に合わないかもしれないさ、ああそれは認めよう。でもヴォイジャーに警告を送れないのか。スリップストリームをやめさせることはできないか。」 「そうだ、そうだ! スリップストリーム自体を消す修正値を送ればいいんだ!」 「ああ、地球へ帰せなくても命は救える。」 コンピューターの声が流れる。『警告。ワープコア爆発まで 60秒。』 チャコティ:「コアを放出できるか。」 テッサ:「だめ。非常用システムが起動しないの。」 通信が入る。『ラフォージよりデルタ・フライヤー。センサーでコアのオーバーロードを感知してる。シールドを解除しろ。転送収容する。』 チャコティ:「申し出は感謝しますよ。でも答えはノーだ。危険ですから距離を取って下さい。」 『警告。ワープコア爆発まで 45秒。』 チャコティ:「ハリー、そろそろ頼むぞ。」 ボーグ・トランスミッターに異常が出る。 ドクター:「キム少尉。」 キム:「パワーが切れる。」 『警告。ワープコア爆発まで 30秒。』 キムはドクターのモバイルエミッターに気づいた。「エミッターだ。電源が入ってる。」 ドクター:「足りるのか。」 「やってみるしかない。いてくれて良かったよ。」 「がんばってくれ。」 ドクターは笑顔でキムの肩を叩いた。エミッターが外され、ドクターの映像が消える。 『警告。ワープコア爆発まで 15秒。』 「チャコティ、もう一度だけやってみる。」 『警告。ワープコア爆発まで 10秒。9、8、7、6、5、4…」 チャコティとテッサは手を握った。 『3、2…』 キムは叫んだ。「やった!」 デルタ・フライヤーは炎に包まれた。爆発する。 ヴォイジャーのセブンに反応がある。「艦長、信号が届いている。」 ジェインウェイ:「通信リンクはダウンでしょ?」 トゥヴォック:「そうです。」 セブン:「私のインプラントにシグナルが届いているんだ。位相修正値が含まれている。」 ジェインウェイ:「ハリーはボーグ・システムにアクセスできるの?」 「いや。」 「方法を見つけたんだわ。修正値を入力して。」 入力するセブン。 パリス:「艦長。今、量子ドライブが停止しました。通常スピードに落ちてます。」 トゥヴォック:「艦長、スリップストリームから出ました。」 デルタ・フライヤーに続いて、ヴォイジャーも通常空間に戻った。 チャコティ:「ストリームが崩壊した。ヴォイジャーと一緒に放り出されたぞ。」 キム:「通信リンク、復活しました。デルタ・フライヤーよりヴォイジャーへ。」 ジェインウェイ:「ハリー、計算ミスよ。あなたがセブンに送った修正値を入力したら、量子ドライブが停止したの。」 「艦長、私はセブンに修正値なんて送ってません。」 「彼女はインプラントを通してメッセージを受け取ってるわ。あなたじゃないの?」 「違いますよ。」 「艦長日誌、補足。スリップストリームフライトは短時間だったが、旅が 10年は縮まったようだ。技術的に完成したといえるまで、量子ドライブは撤去しておくよう命じた。失敗ではあったが、おかげでかなり士気が上がった。あとの問題は帰れるかどうかではなく、いつなのかだ。」 作業する機関部員たち。ブリッジも平常通りだ。 食堂。キムが独りでコンソールを操作している。ジェインウェイが入り、立ち上がるキム。 ジェインウェイ:「そのままで。邪魔だった?」 「いえ、ちょっと確認したいことがあって。」 「修正値の件ね。」 「私は計算ミスをしてました。あれを使ってたら、ヴォイジャーにかなりの被害が出て、墜落してたかもしれない。ただわからないのは誰がセブンに別の修正値を送ったかです。」 「守護天使がついてたんじゃない?」 「そう思えればいいんですけど。」 「本当よ。名前はハリー・キム。」 「艦長?」 「メッセージに艦隊の機密コードが埋め込まれてたのをセブンが見つけたの。あなたのよ。」 「でも、本当に僕は送ってません。」 「まだね。あの通信には時間のずれがあったの。あれは未来から送られたものよ。10年、20年先かもしれないわ。」 「待って下さいよ。僕が未来からメッセージを送って、過去を変えたとすると、そしたらその未来はもう存在しないはずでしょ。なら…どうしてそのメッセージを送れるんです? 言ってることわかります?」 「タイムパラドックスを解消する方法は簡単よ。考えないこと。それより、大事なのはあなたが私たちを、助けたこと。どの時代からか、どうやったかわからないけど。…私が言っても信じないのね。確かめる?」 ジェインウェイはトリコーダーを渡した。「送られてきたメッセージの中に、セブンがこれを見つけたの。ハリー・キムから、ハリー・キムヘよ。」 ジェインウェイは笑顔を浮かべ、食堂を出て行った。 トリコーダーを操作するキム。コンピューターに接続する。そこへ未来の自分が映し出された。 『やあ、ハリー。あまり時間がない。手短に話す。15年前、俺はミスを犯し、150人の仲間が死んだ。そのミスを後悔しない日は一日もなかった。だがもし今これを観てるなら、全ては変わったってことだ。一つ貸しだ。「キム少尉、手伝ってくれるか。」 じゃあな。』 メッセージは終わった。 |
感想
やっぱり良く出来たエピソードです。昔からスタートレックには可能性の未来や別時間 (タイムパラドックス) ものに名作が多いのですが、これもその一つといえるでしょう。キムが中心ですが、「便利な」ドクターとセブンも活躍していますね。酔っ払うシーンには笑いました。時間を連続して行き来する描写や、先にメッセージの一部が出てくるのも良いです (恥ずかしながら、先に過去のキム宛てにメッセージを送っていたのは録画を見直して初めて気づきましたが…)。 ST俳優による監督、(短いとはいえ) TNG のキャラクターの登場、ギャラクシー級、そして (これも時間にすれば非常に短いですが) エミー賞ノミネートのSFXと、良いエピソードの条件が揃いに揃っていますね。少しストーリー的に強引な部分があるために、最近で言えば "Living Witness" 「700年後の目撃者」ほどの深みはないのですが、ともかく必須です。 |
第99話 "Once upon a Time" 「火山惑星からの生還」 | 第101話 "Infinite Regress" 「遥かなるボーグの記憶」 |