氷の惑星軌道上のデルタ・フライヤー。信じられないドクター。「15年経ってるって?」
キム:「プラマイ 2、3週間だな。」
「ここはどこです。」
チャコティ:「タカラ星域※13。アルファ宇宙域のすぐ外だ。」
「クルーは。」
キム:「俺たち以外は、死んだ。」
チャコティ:「艦長はこの星に緊急着陸しようとしたんだろう。だが船は衝撃に耐えられず、墜落の衝撃でみんな死んだ。」
「あんたはこの 15年、氷河の中で埋まってたんだ。」
ドクター:「君たち 2人は、ヴォイジャーの前をデルタ・フライヤーで飛んでた。帰れたんだな。」
「遥か地球までな。故郷へ帰ったよ。仲間全員を殺してやっとね。」
チャコティ:「ハリー。」
ドクター:「艦隊は捜索したんだろ?」
キム:「艦隊か。艦隊はもう 9年も前にヴォイジャーの捜索を打ち切ったよ。俺たちが見つけたんだ。」
「そうか。言えるのは一言です。ありがとう。永遠に凍ったままでいるところでしたよ。」
チャコティ:「お前を回収しに来たんじゃない。この事故が起こるのを防ぎに来たんだ。」
キム:「ドクター。15年前俺は、スリップストリームの変動の計算をし間違えて、間違った修正値をヴォイジャーに送信して、ボン! ヴォイジャーは一瞬でスリップストリームをはじき出された。キム少尉のおかげさ。俺はあの時何を間違えたのかずっと考えてきた。答えはもうわかってる。だから、俺たちはヴォイジャーに新しい修正値を送るんだ。」
ドクター:「でもちょっと遅すぎやしないか?」
チャコティ:「過去のヴォイジャーと交信する方法を見つけた。事故の直前のな。」
キム:「やらないよりましだ。」
ドクター:「過去にメッセージを送るんですか。」
チャコティ:「ああ、そうだ。」
「どうやって。」
キムがボタンを操作すると、収納ユニットに入ったセブンの遺体が出てきた。
ドクター:「どういうことなんです。」
チャコティ:「彼女のインプラントにトランシーバーがある。ほかのドローンとの交信用のな。」
「ええ、脳内ビーコンと呼ばれている物です。」
「それを取り出して、トランスリンク周波数を割り出してもらいたいんだ。」
「それはできますけど。保存状態はいいようですし。」
「それでメッセージの送信先がわかる。問題なのは、どの時間へ送るかだ。セブンのクロノメーターノードにアクセスして、サイバネティックインプラントが有機プラントと絶縁した時間を割り出すことはできるか?」
「死亡時刻ですね。」
「できれば、ミリセカンドまで頼む。」
「やってみましょう。」
キムはドクターの肩を叩いた。「便利だって言ったろ?」
笑うチャコティ。
ドクター:「過去のセブンと交信する方法があるんですか。どうやって。」
キムは赤い箱を見せた。「これだ。救出コンポーネント 36698。ボーグの時空トランスミッターだ。」
中には小さな機械が入っている。
チャコティ:「艦隊情報局が、ベータ宇宙域でボーグ・キューブの残骸から見つけた。」
キム:「それを盗んだ。」
テッサがやって来た。「大変よ。長距離センサーで艦隊の船を感知した。」
チャコティ:「時間はどれくらいある。」
「低軌道に入ったし、シールドも調整したけど、見つかるのは時間の問題ね。運が良くて 6時間。」
ドクター:「はっきり聞いていいかね。君たちは追われてるのか。」
キム:「銀河一のお尋ね者。このデルタ・フライヤーも盗んだ。宇宙艦隊の造船所からな。2つの反逆罪で指名手配。しかも時空保護指令※14に違反しようとしている。」
「素晴らしい。冷凍庫から出たら火事だ。」
チャコティ:「しゃべってる時間はない。かかってくれ。」
「了解。」
「俺たちはセンサー記録を取りに行ってこよう。用意しろ。」
テッサは防寒着を着ながら、ドクターに話しかける。「こんにちは、ドクター。」
「どこかで?」
「いいえ、でも友達みたいな感じ。テッサ・オーモンド※15よ。」
「よろしく。」
「やっと会えて光栄。ヴォイジャーの悪名高い EMH。」
「悪名高い?」
作業をしながらキムは言う。「いろいろ聞かせたからな。」
テッサ:「ほんとはいつもあなたを誉めてたわよ。」
ドクター:「へえ。君はまたどうして、このボニーとクライド※16の仲間に?」
「ああ、ヴォイジャーには前から興味津々だったから。」
キム:「2人はできてる。」
「何?」
「チャコティとテッサだよ。離れられない仲だ。」
テッサ:「正直言えばね、チャコティとハリーだけで来させるなんてできなかった。手伝いたいの。」
チャコティが戻ってきて、尋ねる。「いいか?」
向かう 2人にキムは言った。「風邪引くな。」
氷河の下のヴォイジャー。ブリッジにいるテッサ。「旧式のコントロールパネルね。最新鋭の船だって言ってなかった?」
チャコティ:「当時はそうだった。」
「見つけたわよ、センサー記録。でも私じゃアクセスできないみたい。」
「俺のコマンドコードが使えるはずだ。」
副長席に座り、操作するチャコティ。「うーん、使用中のファイルがあるな。」
ジェインウェイの音声が流れる。『だが万一に備え、記録のため言っておこう。クルーは勇気と叡智をもって行動した。』
茫然とするチャコティ。
テッサ:「大丈夫?」
「ああ。ただ…前ここに座ってた時は、みんながいた。生きてた。」
チャコティの隣に座るテッサ。「だから助けに来たんじゃない。」
「トリコーダーを貸してくれ。」
受け取るチャコティ。トリコーダーをコンピューターの上に置く。「ダウンロードしてる。2、3分だ。」
「中を案内してもらう時間はない?」
「無理だな。それに俺の部屋は散らかってる。」
笑うテッサ。
「計画通りにいけば、2、3時間後に歴史を変えることになる。この 15年間が消えてしまう。やめてもいいんだぞ。」
「馬鹿言っちゃって。」
「俺は本気だ。」
「私もよ。今更引き返すつもりはないわ。」
ブリッジを見渡すチャコティ。
「チャコティ?」
「どうかしてるな。いよいよって時に怖じ気づいてる。自分でもわからない。馬鹿げてるよな。何年もずっと、この時を目指してきたのに、何考えてると思う。お前を失いたくない。」
「あなたの心はいつだってこの…ヴォイジャーにあった。きっとこれからもそうよ。ここがあなたの場所なの。それにいつか、会えるかもしれないじゃない。」
「会えなかったら?」
「その日をずっと待ってる。」
デルタ・フライヤー。キムがコンピューターに向かって話している。「…全ては変わったってことだ。一つ貸しだ。」
ドクターは言う。「キム少尉、手伝ってくれるか?」
「じゃあな。」 キムはコンピューターを操作した。
ドクター:「今のは何なんだ?」
「友達に、手紙をね。どうだ?」
セブンの頭蓋を調べているドクター。「基礎構造に損傷はない。だが、アイソプローブがいるな。」
「ああ、あるよ。」 医療キットを取り出すキム。
ドクター:「それでどうだった? 帰還した時は。」
「反物質花火に、高官がズラリと出迎え、ヴァルカンの聖歌隊※17もいたなあ。そうだ、勲章ももらったよ。チャコティがクルーに捧げるスピーチをして涙を誘い、マッキンタイヤー提督※18は、俺を娘婿にって言ってきた。」
「少なくとも、氷の下には埋もれなくて良かったな。」
「一緒に埋もれてた方がどんなに良かったか。」
「さぞ辛かったんだろうな。友人や仲間をみんな、残して来て。」
「よくあるんだってさ、生き残った者は罪悪感をもつ。カウンセラーたちが言ってたよ。『君が今生きているという事実を大切にしなくちゃ、人生を愛して、過去は忘れるんだ。』 当然俺は捜索隊に志願したよ。ヴォイジャーが遭難した場所を計算しようとした。4年探し続けて、あと一歩だった。手応えがあった。なのに艦隊司令部は捜索を打ち切ると言った。成功の見込みが少ないってな。祝賀会で俺と握手した提督に、一人一人頭を下げに行った。続けさせてくれと頼み込んだ。すぐマッキンタイヤー提督さえ会ってくれなくなったよ。だから俺は艦隊を辞めた。」
「わかったぞ、セブンのトランスリンク周波数は 108.44236000 だ。」
「ラッキーナンバーだな。今入力する。」
「無法者の暮らしは、いつからなんだ?」
「この宝箱のことを聞いた瞬間だ。」 時空トランスミッターの箱をもつキム。
「キム少尉、何をしようとしているか、よく考えたのか? 歴史を変えても事態は悪化するかもしれない。少なくとも君とチャコティは生きてる。なぜ運命に逆らう。」
「15年前、俺がミスをしたからこそこの歴史があって、この今があるんだ。俺を信じていたクルーを裏切った!」
コンピューターの音声が流れる。『警戒警報。船舶接近。方位 184、マーク 7。』
コックピットに入る 2人。状態を確認するキム。「見つかったか。チャコティ。」
チャコティ:『何だ。』
「艦隊の船がインターセプトコースにいる。今やるしかないぞ。」
『すぐ戻る。』
キムはドクターに言う。「もし反対なら言ってくれ。あんたのプログラムを切る。だがやるなら一緒に、運命を変えられるぞ。」
「名誉の盗賊に協力するか、コンピューター回路の中で永遠に眠るか。運命を変えよう。」
キムは微笑み、ドクターの肩を叩いた。
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※13: Takara Sector TNG第148話 "Suspicions" 「新亜空間テクノロジー 超フェイズシールド」に登場したタカラ人 (Takarans) との関係は不明
※14: Temporal Prime Directive VOY第51話 "Future's End, Part II" 「29世紀からの警告(後編)」より (そのエピソードでは「時間法」と吹き替え)
※15: Tessa Omond
※16: Bonnie and Clyde ボニー・パーカー (Bonnie Parker) とクライド・バロー (Clyde Barrow)。アメリカ大恐慌時代の義賊的な強盗。1967年「ボニーとクライド/俺たちに明日はない」で映画化。参考:ボニー&クライド、Your FBI - History - Famous Cases - "Bonnie and Clyde"
※17: Vulcan Children's Choir
※18: Admiral MacIntyre
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