TNG エピソードガイド
第126話「タイム・スリップ・エイリアン」(前)
Time's Arrow, Part I
イントロダクション
※1地球軌道上のエンタープライズ。遠くには月が見える。 『航星日誌、宇宙暦 45959.1。エンタープライズは、最重要任務でセクター001※2 へ呼び戻された。5世紀前の地球に地球外生物が存在していたことを裏づける証拠が見つかったという以外は、何も聞かされていない。』 宇宙艦隊司令部のある、サンフランシスコ。 洞窟にいる科学者※3。「うちの研究員たちがここに、地震計※4を設置していて珍しい出土品を見つけたんです。」 ピカード:「19世紀末のものと断定されたんですね。」 「ええ。」 布をめくると、いくつかの道具があった。 ピカード:「ほう。」 データ:「遠近両用メガネは 19世紀の主流です。ん? …それは騎兵隊用の 45口径複動式ピストル。コルト社※5が 1873年に開発しました。」 科学者:「どうぞ、中を見て下さい。」 懐中時計を開けると、「S.L.C. に愛を/1889年11月30日」と書かれている。 ピカード:「1889年※6。うーん。…しかしこれらが地球外生物に関係しているとする根拠は。」 科学者:「実は、地震計の設置に支障がありました。この洞窟の何かがフェイズコンディショナー※7に干渉していて、調べてみたら洞窟そのものでした。」 トリコーダーを使うデータ。「…なるほど、洞窟全体の岩の表面から、トリオリック波※8が検出されます。」 科学者:「地球では、見つかるはずのないものです。19世紀だろうが 24世紀だろうが。」 ピカード:「トリオリック波?」 データ:「あるエネルギー源の副産物ですが、人体に有害なためごく一部の種族でしか使われていません。」 科学者:「この洞窟はもう何世紀もの間、閉ざされたままになっていました。ですから、これは 500年前の謎というわけです。」 ピカード:「一つお聞きしますが、こういった謎解きの専門家なら地球にいくらでもいるでしょうに、なぜ我々を呼び戻したんです。」 「…実は発掘を続けるうちに、もう一つ非常に奇妙なものを見つけたんです。これは発見時のままにしてあります。」 布をめくる科学者。 それを見て、顔を見合わせるピカードとデータ。 そこにあったのは、データの頭の部分だった。 |
※1: このエピソードは、第5シーズン・フィナーレ (最終話) です ※2: Sector 001 太陽を含む、連邦の中心の星域。TNG第74・75話 "The Best of Both Worlds, Part I and II" 「浮遊機械都市ボーグ(前)(後)」など ※3: Scientist (ミルト・ターヴァー Milt Tarver) 声:岸野一彦 ※4: 地震調整機 seismic regulator ※5: Colt Firearms ※6: 読み上げるセリフは、原語にはありません ※7: 位相調節機 phase conditioners ※8: triolic waves |
本編
※9『航星日誌、宇宙暦 45960.2。洞窟で発見された出土品を分析のために、エンタープライズへ転送した。私の不吉な予感をよそに、当のデータ少佐には全く動揺が見られない。』 エンタープライズ。 頭を調べているデータ。「なるほど。ニューロネット内にあるビタニウム※10に、12%の変質が見られます。…ということはつまり、合金の耐久性に…」 ライカー:「データ! なぜそんな風に見られるんだ。これを目の前にして何も感じないのか?」 「…不安をですか…」 「そうだ。」 「しかし、客観的な評価が必要ですから。」 ピカード:「これは君なのか?」 「そうだと思います。」 「もしかして、ローアでは。」 「違います。私の兄のポジトロニックブレインは、タイプ『L』のフェイズディスクリミネーター※11を使っています。私のはタイプ『R』。」 「タイプ『R』。」 「そうです。」 「…いつからあの洞窟にあったのかわかるか。」 「変質の状態から見て、生命機能は 500年前に停止していたものと思われます。…他の工芸品と同時期に埋められたんでしょう。」 ライカー:「お前は工芸品じゃないんだぞ。」 「分類上はそうかもしれません。でも 19世紀の末に私が機能を停止したのは、明らかです。」 「何とか阻止するんだ。」 「事実を変えることはできません。未来のどこかで私は 19世紀の地球にタイムスリップし、そこで死んだ。時間の流れは、止められません。」 ラフォージ:「まだ例の地球外生物の実態はつかめませんが、手がかりはありましたよ。…岩の表面の分析結果からすると、どうやら相手は中心体細胞膜※12をもった種族のようですねえ。トリオリック波に強いんです。」 モニターに表示されている。「それにもしかしたら、流動体生物かもしれない。」 ライカー:「じゃ人間に変身できるのか。」 「ええ多分、今まで会ったことのないタイプでしょう。何しろ手がかりが少ないんでまだ何とも言えませんが、一つ気になるものが。古代細胞です。生物の身体にくっついていたんでしょう。」 一部が拡大される。 ピカード:「古代細胞とは?」 「原生動物系の生命体ですよ。どこの星にも似たような単細胞生物は五万といますが、これはちょっと特殊なんです。LB10445※13 と呼ばれるタイプでして。今のところ、ただ一つの星でしか見つかったという記録はありません。モラブ星域※14の、デヴィディア星※15。」 「針路の変更を頼む。」 ライカー:「わかりました。」 機関室を出て行く。 データを見るピカード。 モラブ星域へ向かうエンタープライズ。 ラフォージ:「なあ、話したくないのか?」 データ:「…自分の死を予見したことについて?」 「そうさ。」 「私は特に、これと言って話したいとは思わないけど。もしかして話したい?」 「ああ。」 「ああ? 何で?」 「だって、お前嫌な気分だろ。」 「いや、とんでもない。それどころかホッとしたよ。」 「ホッとした?」 「周りが年を取ってゆくのを見るたびに、私は自分の運命について考えていた。今までは無限に生き続けることだって、理論的には可能だと思っていたんだ。人によってはうらやましいかもしれないが、私には自分が人工物だという…証拠に過ぎない。」 「うーん、確かにそりゃヘビーなことだよな。」 「ヘビー。重いってことかい?※16」 「だってそのうち、友達はみんな死んじまう。」 「…新しい友達を作ればいい。」 「まあね。」 「でも、その必要はなくなった。」 「死ぬってわかったからか。」 「…未来が永遠に続くわけじゃないってことは、私はみんなとどこも変わらないってことだ。今じゃ死ぬのは楽しみだよ。」 「そんな風には思えないな。」 「それにもう一つ言えるのは、これで私は人間に一歩近づいたってことだ。死ぬんだから。」 通信が入る。『ピカードからブリッジ士官へ。デヴィディア星に接近。各配置につけ。』 ラフォージ:「じゃあな。そのうちまた、チェスか何かしよう。」 テン・フォワードを出ていくデータ。 ガイナン※17が近づく。「何だか深刻な話をしてたわね。」 ラフォージ:「ああ…データの頭が、サンフランシスコで見つかったんだ。500年も前から、埋まってたらしい。」 「それでエンタープライズが地球に呼び戻されたの? 知らなかったわ。」 「ショックだろ? …でもあいつは気にしてない、まるっきり。…さて、機関室へ戻らなきゃ。」 ラフォージも立ち去った。 「ついにきたわね※18。」 微笑むガイナン。 廊下を歩くトロイ。「データのこと聞いたわ。」 ライカー:「ああ。」 「…みんな一様にひどい精神的ショックを受けてるようね。」 「ああ!」 「…話したくないのならいいのよ?」 「そうじゃないが、ただ…」 「怒ってる。」 「怒っちゃいない! …いやあそうだな。…なぜ腹が立つんだ。」 ターボリフトの前に立つ 2人。 「…自分がいつか死ぬことを思い出すからかしら。」 「データは不死身だった。」 「彼が友情をどう感じるか知ってる?」 「いや。」 「…何て言ったかしら。…『ある特定の知覚パターンがインプットされると、私の精神経路がそれに順応します。インプットされたパターンが削除されると喪失感を覚えます※19。』」 「…つまり何だい。」 「私達はお互いに、順応したの。…例えて言うなら、友達が不治の病にかかってるとして…」 到着したターボリフトの中に、データがいた。 ライカー:「データ…。」 データ:「ブリッジへ行くんでしょ。」 入る 2人。咳払いするライカー。 データ:「…個人的な質問をしては、迷惑でしょうか?」 トロイ:「…そんなことないわよ、どうぞ?」 「…皆さんの私に対する態度に、明らかな変化が見られるんです。…例を出すなら、私を見ると突然会話を中断するとか。ちょうど、あなた方が今したように。私の思い過ごしでしょうか?」 ライカーはトロイと同時に言った。「そうだ。」 トロイ:「違うわ。」 「…違う。」 「その通りよ、決して思い過ごしじゃないわ。」 「…我々の神経経路からお前のパターンが削除されそうな、喪失感を味わってるんだ。」 データ:「フム、わかりました。私も中佐に好意をもっています。カウンセラーにも。」 出ていく。 後を追う 2人。 デヴィディア2号星に到着したエンタープライズ。 作戦室を出たピカードに報告するライカー。「軌道上です。」 ピカード:「生命反応は?」 ウォーフ:「見られません。」 データ:「艦長。センサーが地表上の一部の地域に、異常な時間のひずみを感知しています。該当する位置は、北緯 42度7分、東経 88度の地点です。」 ライカー:「時間のひずみ?」 ピカード:「その地点の上空に針路を取ってくれ。」 データ:「スペクトル分析によれば、同地点で多量のトリオリック波が放出されています。」 ライカー:「地球で検出されたトリオリック波との関係は。」 「同じものです。磁気的な特性も、洞窟のものと一致します。」 ピカード:「人体にはどの程度の影響があるんだ。」 「長時間の照射を受けなければ、危険はありません。」 「上陸班を。」 ライカー:「ウォーフ、ジョーディ、トロイ、第3転送室に集合してくれ。」 データ:「副長。」 ピカード:「データ。君は残って上陸班の調査中、センサーの監視をしてくれ。」 前方ターボリフトのドアが閉まった。 データ:「…艦長、ちょっとお話があるんですが。」 作戦室へ向かう。 ドアが閉まる。 データ:「艦長? 私はブリッジ士官として、上陸班に加わるのが原則だと思います…」 ピカード:「そうだ、もちろんそれは私もわかっている。」 「では私を外されたのは、地球での発見に関連しての…」 「予防措置をとっておくに越したことはないだろ。」 「艦長。理性的な御判断ではないように思いますが?」 「そう思われても構わん。」 「……考えてみて下さい。私が死ぬのはまだ先のことかもしれない。遥か未来かも。」 「そうあって欲しいと思うさ。…しかし今回のこの調査は君の死に端を発している。私は何とかそれを食い止めたいんだ。」 「お心遣いは感謝します。でも何かの格言にもあるように、運命はごまかせません。」 「…運命をごまかす。…確かにそうかもしれないが、何もせずにはいられない。」 洞窟に転送されたライカーたち。 トリコーダーを使うラフォージ。「うーん。…トリオリック波のレベルは、比較的低いですねえ。ここでは。」 ライカー:「うん。」 「…中へ入るに従って高くなります。」 「発生源は、地下にあるのか。」 「…違うようですね。」 「ひずみの原因は。」 「まだわかりません。ラフォージからエンタープライズ。」 データ:『どうぞ。』 「データ、スペクトルフィールドを分析して、トリオリック波と時間のひずみの相関関係を洗ってみてくれ。」 データ:「…了解。」 コンソールを操作する。 ライカー:「ディアナ。」 くぼまったところに立っているトロイ。「誰かいるわ。…子供がいる。それに老人も。大勢いるわ、何百人も。みんなおびえてる。」 ライカー:「おびえてる?」 「…何てこと、みんな人間だわ。」 |
※9: タイトル表示は "Time's Arrow" のみですが、このサイトでは便宜上わかりやすくするため "Time's Arrow, Part I" で全て統一しています ※10: bitanium ※11: 原語ではフェイズ・ディスクリミネイティング (位相識別) 増幅機 ※12: microcentrum cell membrane ※13: LB10445 ※14: Marrab Sector ※15: デヴィディア2号星 Devidia II ※16: 原語ではラフォージは「タフ」と言っており、データが「タフ? 辛いってことかい?」 ※17: Guinan (ウーピー・ゴールドバーグ Whoopi Goldberg) TNG第123話 "I, Borg" 「ボーグ“ナンバー・スリー”」以来の登場。声:東美江 ※18: 原語では "Full circle." 「一周した (つながった) わね」 ※19: TNG第80話 "Legacy" 「革命戦士イシャーラ・ヤー」より |
エンタープライズ。 ピカードはライカーの通信を聞いている。『トロイが言うには人間が何かの形で閉じ込められてるようですが、真偽のほどは。」 データ:「艦長。どうやら、相関関係があるようなんですが。」 ピカード:「報告しろ。」 「…ジョーディ。時間のひずみは、トリオリック波の放出レベルの高い地域に限られている。」 奥へ向かうラフォージ。「少し謎が解けたな。ひずみの程度は。」 データ:『断定できるズレは、0.004%だ。』 「…まあ、どこにあって誰がいるにせよ、こっちの時間のズレは一秒の何分の一かだ。」 ウォーフ:「それだけで向こうの姿が見えないんですか。」 「ミリセカンドでも、一年でも違いはないさ。ただこれが本当なら、我々は同じ一つの空間にいながら、時間は違うんだ。」 ライカー:「補正できるか。」 データ:『副長、時間を同期させることは可能だと思います。』 ラフォージの声がブリッジに流れる。『多分な。亜空間フォースフィールドを作る程度にはできるさ。でも 0.004 のズレを埋めるには、最高に感度のいいフェイズディスクリミネーター※20がいる。残念ながらそれだけのもんはないだろ。』 データ:『いや、ある。私のポジトロニックブレイン※21に組み込まれている。』 データはピカードに言った。「上陸班への参加を許可して下さい。」 ピカード:「……やむをえんだろう。」 ターボリフトに入るデータを見送った。 データが洞窟に転送されてきた。 ライカー:「…やはり来たか。」 データ:「はい。」 ラフォージ:「データ、それを貸してくれ。」 「フォースフィールドの中に入ったら私の姿は見えなくなります。ただし声は聞こえるように、コミュニケーターを改造しました。…副長のコミュニケーターで受けて下さい。」 互いにタップする。「私の声はフェイズの調整に応じ、届くまでに時間がかかります。ですが、連絡が途絶えることはないでしょう。」 ライカー:「こっちからのコンタクトは。」 「できません、私からだけです。」 ラフォージ:「亜空間フィールドの設置を完了。後は任せるぞ。」 装置を手にするデータ。「時間の同期を開始します。0.001。0.002。0.003。0.004。」 姿が揺らめき、消えた。 声だけが届く。『…向こうの姿が見えてきました。確かに生命体がいます。』 通信はブリッジにも流れている。 データ:『私には気づいていませんが、無視しているのかもしれません。もっと近くで観察したいので、北へ向かって 10メートルほど接近してみます。』 トリコーダーを使うラフォージ。 データ:『生命体の身長は、2メートルから 3メートル。全身シルバー・グレーです。手足は 2本ずつ。目や耳は、見たところありません。ヒューマノイドでいえば、額に当たる部分に穴が一つ開いています。今は全員が岩に寄りかかり、何かの装置を取り囲んでいます。装置は高さにしてほぼ 1.5メートル。中から放出されているのは、エネルギーのようです。』 データ:『彼らはそれを額の穴で消化しています。恐らく、栄養源でしょう。どうやら装置の上部にはかなりの量のエネルギーが詰め込まれてる模様です。』 データ:『その数は数百、もしかしたら数千を超えるかもしれません。引き続き北へ向かっています。まだ人間の姿はありません。』 ラフォージ:「よーし、もう戻ってこいよ。その辺でいいだろ。」 『別な生命体を見つけました。』 データ:『…ヘビ※22です。フォースフィールドの中に、閉じ込められているようです。』 データ:『シルバー・グレーの生命体が 2体、近づいていきます。』 音がした。『フィールドを解除しました。』 更に大きな音。 データ:『時間のひずみが一気に増大したようですが、わかりません。さっきのヘビが……私は依然として…』 音声が乱れる。 データ:『いま追いつきました。何とかして…』 光が走った。 トロイ:「データ!」 突然、データが持っていた装置だけが現れた。 近づくライカー。「こっちだ。」 ピカード:『副長、データは。』 「……見失いました。」 無言のピカード。 データは石畳の上に倒れていた。起き上がるとそこは道の中心で、人々の声が聞こえる。 通りかかる馬車。過去の地球※23だ。 |
※20: 位相識別機 phase discriminator 初言及 ※21: 原語ではポジトロニック・デコンパイラー ※22: ophidian ※23: ロサンゼルス旧市街にある、最初の伝道所近くでのロケ撮影。ピコ・ハウスと、オルヴェラ通り沿いの復元地域 |
通りかかる人に話しかけるデータ。「すいません。…あ、あのちょっと。ヘビを連れた 2人の人物を捜してるんです。…知りませんか?」 笑う荒くれ者※24たち。「フランス人だ…。」 歩いていく。 データ:「フン。」 落ちていた新聞を拾うと、1893年※25のものだった。「サンフランシスコでコレラ発生※6。」 男が話しかけてきた。「おいいくらか恵んでくれねえか。金鉱で一発当てようと思って来たら、銭が底ついちまってな。」 身なりの汚い物乞い※26だ。 データ:「それはお気の毒に。」 「ツイてねえったらねえよ。ウイスキーでもカッ食らいたい気分だぜ、景気づけにな?」 「悪いけどアルコールは持ってなくて。」 咳をする物乞い。「小銭だっていいやな。」 データ:「悪いけど通貨も一切持ってないんです。」 「あー。俺と同じからっけつか。なあ…ここは俺のシマだ。稼ぐんならどこかよそへ行きなよ。」 「迷惑をかける気はないんですが、この辺りの人に聞きたいことがあって。」 「…コツを教えてやろう。株屋はケチだから、聞くだけ無駄ってもんだ。一番いいのはなあ、女連れて歩いてる若いのさ。女に太っ腹なとこ見せられっからな。船乗りには近づかねえこった! 恵んでくれるどころか、ゲンコツをお見舞いされるのが関の山だからな…。」 「ご忠告はありがたいんですが、ヘビを連れた 2人の人物を捜してるんです。」 「ヘビだって…」 「うん。」 「おめえもまた変わった野郎だな。けどま、あんまり選り好みしてるといいカモ逃がしちまうから気をつけねえと。」 大きく咳き込む物乞い。 「あなたには医療処置が必要です、医者を呼びましょう。」 「…いらねえよ。いいんだって、もう手遅れなんだから。ああ。おいちょっと! いくらか恵んでもらえませんか。」 物乞いは女性についていった。 女性:「なーに? ねえちょっと待って、待ってちょうだい!」 見上げるデータ。 「ホテル・ブライアン※27」という看板。 ベルボーイ※28が荷物を運び、チップをもらった。「どうも。」 近くで話している者※29。「…まあそいつはそうだが、欲を言えば切りがないからなあ。」 その男に今受け取った金を渡すベルボーイ。「なあ、5ラウンド KO勝ちでジムに賭けるよ。」 男:「わかった。」 データはベルボーイに近づいた。「あの。…部屋をお願いしたいんですが?」 データの服装を見て笑うベルボーイ。「…夜中に奥さんに追い出されたみたいだね。」 データ:「…ああ。誤解を招いた原因はわかりました。でもこれはパジャマじゃないし、私は独身です。」 「じゃあ…。」 「フランス人なんです。」 「ああ、まあいろんなのが来るけど、ここのホテルは気にしないから。一日 75セント、一週間 4ドルだよ。」 「お金はないんです。」 「そりゃちょっとまずいなあ。」 「でもその代わり、私の頭脳的及び身体的能力を提供します。こちらの方で雇ってはいただけないでしょうか。」 「さあ、どうかな。メイドは今いい娘がいるしね。コックもいるし。皿洗いは酔っぱらいだけど、遅刻はしない奴なんだ。それに、俺がいるし。要するに間に合ってるね。悪いけど。」 出てきた老人に話しかけるベルボーイ。「レーン※30さん、今日もまたダメですか。…可哀想に。前はポーカーの名手だったのに。」 「ポーカー?」 男たちがテーブルを囲んでいる。データが来た。 ポーカーをしているフレデリック・ラ・ルー※31。「降りるぜ。」 別のギャンブラー※32。「俺もだ。」 ネイティブ・アメリカンのジョー・フォーリン・ホーク※33に見られる、船乗り※34。「…もってけ、畜生。」 笑うラ・ルー。「生まれついてのポーカーフェイスには敵わんな。」 データ:「ちょっと失礼します。」 船乗り:「おい、何だお前は。」 「入れていただけませんか。」 フォーリン・ホーク:「顔色、悪いな。」 船乗り:「得体の知れねえ奴とやるのは御免だねえ。」 データ:「私はフランス人です。」 ラ・ルー:「ああ。」 フランス語を使う。「(両親がブルゴーニュ出身だ。私はアメリカだが)」 「(それなら私達は兄弟同然ですね)」 「…さあ、座って。」 加わるデータ。 ラ・ルー:「よし、じゃあ始めよう。あんたが親だ。最初の掛け金は 50セント。」 データは考え、コミュニケーターを外して置いた。 ラ・ルー:「家宝か何かか。」 データ:「まあそんなとこだね。結晶体からなる合成物だよ? シリコンに、ベリリウム、炭素70※35 も含まれているし…」 船乗り:「金だ。」 「金だよ?」 手にするラ・ルー。コインを渡した。「だったら、3ドルってことでどうだ。」 データを見るフォーリン・ホーク。 データ:「…結構だね。」 カードを器用に配り始める。 データを部屋※36に案内するベルボーイ。「あいつらの顔見たかい。笑いこらえるの大変だったよ。」 データは男たちがもっていた、帽子やチョッキを身につけている。「誰のこと言ってるんだい。」 ベルボーイ:「フレデリック・ラルーに、ジョー・フォーリン・フォークさ。あいつらプロなんだよ。最初のうちは勝たしておいて油断させるんだけど、そこでいい気になったらもう身ぐるみ剥がされちまう。あんたみたいな、よそもんはいいカモだよ。」 「そこに滑稽さを見出した根拠は? ……笑いをこらえたと言ったろ?」 「ああ、だってほら、あいつら甘く見てたんだよ。こんな格好に、その話し方じゃ、誰だってだまされるさ。上手くやったね。」 「だますつもりは全くなかった。」 「何でもいいよ。まあじゃあごゆっくり、朝食は 6時から、チェックアウトは 12時までにね。」 鍵を投げ渡し、手を広げるベルボーイ。 「ありがとう。」 ベルボーイの手に気づき、データは握手した。「よろしく頼むよ?」 ベルボーイは手を出したまま、咳払いする。 データ:「咳が出るなら気をつけた方がいいね。最近、サンフランシスコでコレラが流行しているそうだから。」 テーブルで何かを書き始める。 ベルボーイ:「ピンピンしてるよ。」 また咳をした。 「…そっか。失礼した。これで、足りるかな?」 お札を渡すデータ。 「もちろん。用があったら、何でも言って。例えば夜なんか寂しくなって、話し相手が欲しかったらすぐ紹介するからさ、いい娘※37を。」 「話し相手は必要ないが、いくつか買ってきて欲しい物がある。」 「何でも言ってよ、卸値で買えるから。卸値以下でだって、買えるけどね。出どこさえ気にしなけりゃ。」 メモを見るベルボーイ。「こんなもん何に使うの?」 「発明家なんだ。」 「ほんとに? けど、こりゃ時間かかるな。街中聞いて回らなきゃ。値も張るだろうね。」 データは、まとめた札束を取り出した。「足りるかな?」 ベルボーイ:「お釣りがくるよ。」 「余ったら心づけに取っといてくれ?」 「チップってこと?」 「そうだな。」 「どうも!」 また書き始めるデータ。 ホテルを走って出ていくベルボーイ。 その片隅に、データに話しかけた物乞いが座っていた。独り言のようにつぶやく。「いくらか恵んでくれ。銭がすっかり、なくなってちまって…。誰か、おい…。頼むから…。」 身体を震わせる。 そこに、一組の男女が近づいてきた。男が持っている杖の先は、ヘビの形だ。 物乞い:「恵んでくれよ…。」 2人に気づく。 女性は持っていたカバンを物乞いに向けた。何かのビームが発射され、叫ぶ物乞い。 物乞いの顔から生気がなくなっていく。ビームは止まった。 立ち去る男女。 |
※24: Roughneck (マイケル・ハンガーフォード Michael Hungerford) 声は科学者役の岸野さんが兼任。名前は実際には設定されていませんが、LD などには岸野さんの役で「ザザ」「ズーエフ」というキャラクター名が掲載されています。格闘家のグロム・ザザ、ニコライ・ズーエフから (勝手に) つけた名前だと思われます。もう一人に該当するのは船乗り (注釈※34) でしょうが、どちらがどちらかは不明 ※25: 1893年8月13日日曜の新聞。一部情報では「11日だから曜日が変」という指摘がありますが、間違っていません ※26: Beggar (ジャック・マードック Jack Murdock 2001年4月に死去) 声はクレメンズ役の石森さんが兼任 ※27: Hotel Brian 製作・監督の David Livingston の息子、Brian Livingston にちなんで ※28: ベルボーイ/ジャック・ロンドン Bellboy/Jack London (マイケル・アロン Michael Aron) 名は後で、姓 (つまり正体) は後編で言及されます。詳細はその脚注※13 参照。声:檀臣幸、TNG ヒューなど ※29: エキストラ。LD には「ベイル」というキャラクター名で掲載されており、格闘家のバート・ベイルから (勝手に) つけた名前だと思われます。声はラ・ルー役の有本さんが兼任 ※30: Lane エキストラ。LD にはクレメンズ役の石森さんが兼任する担当で、「ラマジ」というキャラクター名が掲載されており、格闘家のブザリアシビリ・ラマジから (勝手に) つけた名前だと思われます。ため息しかありませんが、他に該当するキャラが見つかりません ※31: ギャンブラー/フレデリック・ラ・ルー (ルーク) Gambler/Frederick La Rouque (マーク・アレイモ Marc Alaimo TNG第7話 "Lonely Among Us" 「姿なき宇宙人」の Badar N'D'D、第26話 "The Neutral Zone" 「突然の訪問者」のテボック司令官 (Commander Tebok)、第86話 "The Wounded" 「不実なる平和」のガル・マセット (Gul Macet)、DS9パイロット版 "Emissary, Part I and II" 「聖なる神殿の謎」などのカーデシア人ガル・デュカット (Gul Dukat) 役) 声:有本欽隆。一部日本語資料ではキャラをエキストラのギャンブラー (次項) と取り違えており、誤って石森さんになっています ※32: エキストラ。声はクレメンズ役の石森さんが兼任 ※33: Joe Falling Hawk (シェルドン・ピーターズ・ウルフチャイルド Sheldon Peters Wolfchild) 声はラフォージ役の星野さんが兼任。一部日本語資料ではキャラをラ・ルーと取り違えており、誤って有本さんになっています ※34: Seaman (ケン・ソーレイ Ken Thorley TNG第103話 "Ensign Ro" 「流浪のベイジョー星人」などのボリアン、ミスター・モット (Mr. Mott) 役) LD でのキャラ名については荒くれ者の注釈 (※24) 参照。声は科学者役の岸野さんが兼任 ※35: 吹き替えでは「ベリリウム炭素」と続けて訳されています ※36: ギャンブル部屋と共に、スタジオ撮影 ※37: 原語では「リリアン (Lillian)」 |
エンタープライズ。 『航星日誌、補足。近距離センサーの分析でも、データ少佐の消息はつかめなかった。クルーたちの間には、かなりの動揺が見られるが任務は中断できない。』 ライカー:「じゃ死んだものと思ってあきらめろとおっしゃるんですか!」 ピカード:「何よりも任務を優先しなければ。」 「データの方が先決でしょ。」 トロイ:「でもこうしてはいられないわ。そのエイリアンたちは時間を旅して地球に向かったのよ?」 クラッシャー:「何かの理由で歴史を変えるつもりなのかもしれない。」 ウォーフ:「侵略目的でしょうか。」 ピカード:「いずれにせよとにかく、危険だ。19世紀の地球が狙われている。彼らの目的を突き止めなければ。少佐、何とか彼らと交信する方法はないか。」 ラフォージ:「データがやったようには、まずいかないでしょうね。亜空間フィールドは作れても、0.004 のズレを埋めるにはデータのぐらい高性能なフェイズディスクリミネーターがないと。」 「作れないか。」 「…性能は落ちます。」 ライカー:「どの程度まで。」 「それはやってみないと。とにかく、時間を下さい。」 ピカード:「後は誰が向こうへ行くかだが?」 「多分、全員が入れるだけの大きなフィールドを作れると思います。問題はその中のフェイズの調整が、上手くいくかどうか。」 「頼んだぞ※38。」 立ち上がり、制服の裾を伸ばすライカー。「艦長しつこいようですが、データはどこにいようと我々と同じく真相を探っているはずです。我々より情報をつかんでいるでしょうし、ここはやはりデータを探した方が早いのでは。」 ピカード:「調査を進めていけば必ず見つかる、そう願おう。」 観察ラウンジを出ていく。 ウォーフ:「もしかしたら我々も、データ少佐と共に過去で死ぬ運命なのかも。ということは土に還っているわけです、地球でもうとっくの昔に。」 たくさん並んだグラス。ガイナンはそのうちの一つに粉を入れ、かき混ぜる。 ピカードがテン・フォワードに来た。「話があるとか?」 ガイナン:「艦長、いらっしゃらなくても呼んで下されば私の方から行きましたのに。」 「本格的だ。こんな大がかりな実験を見るのは、アカデミーで受けた宇宙化学※39のテスト以来だな。」 笑う 2人。 「これはツァーセク食前酒※40といって、すごく難しいんです。ポイントは、主成分の蒸発温度を全て同じにすること。飲んだときにその人の体温よりも、0.5度低い地点で蒸発するようにしておくんです。そうすれば舌に載せると同時に蒸発するから、もう一瞬にして香りが口の中に広がるんです。でもほんの少しでも間違えば、蒸発温度がばらけちゃってオジャン。水の泡です、何もかも。」 「…それで私に話というのは。」 「地表に上陸班が派遣されるそうですねえ。」 「ああ。」 「艦長も御一緒に?」 「…君にしては珍しいな。上陸任務に興味をもつなんて。」 「いつもと様子が違うからでしょ?」 「…言いたいことがあるなら聞こうか?」 「艦長は普通の場合なら上陸班には参加なさいませんよね。」 「原則としてはな。」 「今回は行って下さい。」 「…どうして?」 「とにかく、行って下さい。……出会ったとき、覚えてます?」 「もちろん。」 「そう言い切れますか。…私と艦長は、あなたがこの任務に加わらなかったら…」 ガイナンがグラスに何か入れると、液体がみるみるうちに消えてしまった。「出会わないんです。」 大がかりな道具を組み立てているデータ。フェイザーから部品を取り出す。 服装は時代に合ったものになっており、蝶ネクタイをつけている。稼働し始めた。 大きな音が聞こえ、データはスイッチを切った。 持ってきた物を、何とか部屋の中に入れるベルボーイ。「すいません遅くなっちゃって。」 データ:「謝る必要はないよ。」 片手で軽々と持ち上げてしまった。 「…ちょっと、それ。」 データはわざと落とした。「ああ!」 ベルボーイ:「ねえ、大丈夫?」 「自分の力を過信したようだ。」 「そうだろうね。…上手くいってる。」 「ああ。」 「何かすごいな。」 「ご苦労だったね。」 金を渡すデータ。 「…あの金床どうするの。」 「磁場の核に据える物が欲しいと思ってたんだが、それには金床ぐらいの重さが丁度いいんだ。」 「ああ、それで一体これ何になるの?」 「…何だと思う、予想では。」 「俺の予想? そうだなあ、新型のモーターかな、自動車ってやつの。」 スイッチに手を触れるデータ。「勘がいいね。」 ベルボーイ:「やっぱりそうか、きっとこれで大金持ちだね。」 「多分。」 笑うベルボーイ。「これだからアメリカはすごいよ。」 データ:「何のことを言ってるんだい?」 「だってパジャマ姿で現れた男が、ポーカーでいくらか稼いだと思ったらそれを元にして億万長者になっちまうんだから。アメリカはすごいよ。」 「…間違った印象を与えてしまったようだ。」 「俺もさ、いつか一山当ててやるんだ。」 「山を当てる?」 「そうだよ、それもデッカい山をね※41。今はただその場しのぎをしながら、資金を稼いでるところさ。新聞を売ったり、缶詰を作ったり、漁船に乗ってたこともあったよ。」 「かなり、広範囲な職歴をもってるんだね?」 「ひとっところに長居は無用さ、常に新境地を開かなきゃ。…そうだ、2人で組んで商売を始めるのはどうかな。その自動車ってやつで。あんたが造って、俺が売るんだよ。売り込むのは得意だからさ、いけるよ絶対。」 「……そのプランは無謀じゃないかな。」 「ああ。まあ考えといてよ。…じゃあまた後で。…ああ! 忘れてた、パン屋に行ったついでに買ったんだ。」 ズボンのポケットに入れていた新聞を渡すベルボーイ。 「ああ。ありがとうジャック。」 データはまた金を出そうとする。 「ああいいって。おごりだよ、相棒。」 ジャックは部屋を出て行った。 潰れたパンをどけるデータ。「フン。」 新聞を見ると、当時の服装をしたガイナンの写真があった。「文学の集い?※6」 |
※38: "Make it so." ※39: Exochemistry ※40: Tzartak aperitif ※41: 原語ではベルボーイが "Some day my ship's gonna come in." と言っています。"one's ship comes in" で「幸運が手に入る」という意味で、データはそれに対し「船を手に入れるのかい?」と返します。その後ベルボーイは「そうだよ、それも金で一杯の船をね」 |
ワインがくまれる。 男が話している。「イギリスの博物学者のアルフレッド・ラッセル・ウォーレス※42が、地球は宇宙の中心だという説をつい最近になってまた復活させたんだよ。」 テーブルにたくさんの料理が並ぶ。 その男は、葉巻に火をつけた。「彼は、哲学者としても非常に…高名でな。地球が、この大宇宙でただ一つの生物が棲める星だということを確認したんだ。」 笑う一同。「言い換えれば、我が人類のためだけに世界は存在するということになる。フン。この説は多くの者の興奮を呼んだ。」 ガイナンがいた。「あなたもその一人じゃないのかしら、クレメンズ※43さん?」 クレメンズ:「ハ! いつもながらマダム・ガイナン、あなたの鋭い観察眼には全くもって舌を巻きますな。」 笑う 2人。「さてもしよろしければ、さらに人物評定を続けて欲しいんだがいかがかな?」 「ええ、私でよろしければ続けましょ? いくらでも。」 「もっとも確かな地質学的推定によると、地球の年齢はほぼ一億歳ということになるんだそうだ。もちろん多少の誤差はあるだろうが。」 「見当外れってこともね?」 「…確かに。だが一つだけ自信をもって言えるのは、年寄りだってことだ。…さてこれも地質学から言えることだが、我々人類はまだ長い地球の歴史にほんの一瞬の間しか存在しとらん……。おかしなもんだな? ああ人類が生まれるまでのその気も遠くなるような長い時間、世界には人っ子一人いないままずっと空っぽだったわけだ。…私が思うに、ウォーレスならきっとこう言うだろう。地球はその間人類の登場に備えて準備をしていたのだと。我々を迎え入れるためには、見たまえ…」 メイドの皿から一切れ手にするクレメンズ。「このカキにしたってだ、今この姿を確立するまでには、数百万年の準備期間を要したのかもしれんじゃないか。」 口にした。 「でももしかしたら宇宙には生物の棲んでいる星がそれこそもう、無数にあるのかもしれない。」 「それもまたしかりだ。となれば人類など、取るにたらん存在だということになる。無限に広がる宇宙の大草原の中に飲み込まれ、時間の大海原をあてどもなくさまよう、一種族に過ぎんのだ。宇宙にある…無数の中の一つにね。」 「でも言わせてもらえば、ダイヤはダイヤに変わりはないわ? たとえそれが無数にあるうちの一つだってね。ちゃんと、光り輝くんだもの。」 「そりゃまあそう言えんこともないだろうな。もし、あのような貴重な宝石と人類を同種のものだと考えるならばだが。…しかしその、そこまで仮説がエスカレートしてしまうと私には…もうついていけんよ。」 大きく笑う列席者。 入り口に、スーツを着たデータが来た。 ドアマン※44:「いらっしゃいませ。」 データ:「どうも。ガイナンに、会いたいんです。」 「お名前は。」 「…データ。」 「データ様ですね。別名をお使いでは。」 「いいえ?」 「リストに御名前が見当たらないんですが。」 勝手に入っていくデータ。「個人的な友人です。」 ドアマン:「奥様には新聞に載られて以来、個人的な友人とおっしゃる方が大勢お見えになりますが、リストに御名前がなくてはお通しできません。」 「フフン、緊急の用件があるもので。」 「どうか、今すぐお引き取り願いませんか。警察を呼びますよ?」 「じゃあ警察が来るまで、中で待たせて下さい。」 ドアマンをかわし、中に進むデータ。 ドアマン:「お客様、どうかお引き取りを。」 データ:「ガイナン!」 騒ぐ列席者。「失礼。君に話があるんだ。」 ドアマン:「さんざん、お止めしたんですが。」 「押し入ってすまないが、君の友達だと言っても信じてもらえなくて。」 ガイナン:「私の友達? あなたは…」 「データだ、データだよ。同じ船の仲間だ。」 「船? そりゃ旅はよくするけど、何て船?」 「エンタープライズさ。」 「それ帆船かしら。」 「…いやあ宇宙船だよ。」 クレメンズ:「宇宙船だと、どこの国が造ったんだ。」 ガイナン:「思い出したわ! データさんよ、そう。」 クレメンズと一緒に笑う。「失礼。」 「ああ。」 「ほんとに久しぶりだわ? ごめんなさい、さあ。まあどうしたの?」 出ていく 2人を見るクレメンズ。 外に出たガイナン。「一体あなた何者なの。」 データ:「アンドロイド。人工生命体だよ。」 「ああ…父の言いつけで来たのね? だったら帰って父に伝えてちょうだい、私のことにはもう…」 「君のお父さんとは関係ない。…巻き込んですまないが、どうか私の話を信じて、協力してもらいたい。」 データの鼻に触れたガイナン。「失礼?」 データ:「君と私は 24世紀で、同じ宇宙船に乗ってるんだ。」 「…それから?」 「私達は 19世紀の地球に、危機をもたらそうとしている種族に出会った。私は彼らを追い、時間の渦に巻き込まれてしまったんだ。」 「はあ。」 「…新聞で君の写真を見たときは、私を追って未来から来たんだと思った。エンタープライズからね? 君の種族は長生きだが、こんな昔の地球にもいたとは知らなかったよ。」 データは話し続けようとしたが、漂ってくる煙に気づいた。 そばにいたクレメンズ。「立ち聞きなど紳士らしからぬ行いなのは百も承知しとるんだが、とは言ってもついその…気になって。」 デヴィディア2号星。 『航星日誌、宇宙暦 45965.3。上陸班が地表に到着、何とか時間のズレを埋めエイリアンの世界に入り込まねばならない。』 大きな装置を扱うラフォージ。「じゃあ、そっちに置いて下さい。」 改造された転送パターン強化装置を置いていくトロイたち。 クラッシャー:「トリオリック波は、丁度ここで途切れてるわ?」 ライカー:「ウォーフ。」 設置するウォーフ。 ピカードが転送されてきた。 ラフォージ:「艦長。」 ピカード:「準備の方はどうだ。」 「もうできましたよ。」 起動するラフォージ。「フィールドの設置は完了です。」 ライカー:「ここは我々に任せてブリッジへお戻りになって下さい。」 フィールド内に入る。 ピカード:「今回の任務には私の同行が不可欠なのだ。」 「不可欠?」 「そうだ。…ミスター・ウォーフ※45、ブリッジへ戻ってくれ。」 ウォーフ:「艦長。私には保安部長としての義務があります。」 「エンタープライズの安全を守ることが君の第一の義務だ。」 「…わかりました。ウォーフからエンタープライズ。」 転送部員※46:『どうぞ、大尉※45。』 「転送しろ。」 転送されるウォーフ。 ピカード:「さあ始めよう。」 ラフォージ:「このトリコーダーは、亜空間ジェネレーターとインターフェイスしています。この方法で時間のズレを調整すれば、上手くいくはずなんです。全員、フィールドの中に入って。」 クラッシャーやトロイも下に降りた。 ラフォージ:「時間の同期を開始します。0.001。」 周りの様子がちらつき始める。「0.002。」 異星人の姿が見えてきた。 ラフォージ:「0.003。0.004。」 同期が終わった。 座ったままのデヴィディア人※47を観察するピカード。「なぜ向こうには我々が見えないんだ。」 ラフォージ:「恐らく、フェイズのズレのせいで知覚圏内に入ってないんでしょう。」 デヴィディア人の頭部の穴に、エネルギーが吸い込まれていった。中央から出ている。 クラッシャー:「このエネルギーは動物性のものだわ? 間違いなく何らかの有機物から採ったものよ。」 ピカード:「人間はいるか。」 トロイ:「…いいえ。ここにはいません。」 広間の中心にある突起に触れる。「感じ取れるものは、瞬間的な思考だけ。命が終わる最期の瞬間の思考です。…人間の命の。どれも恐怖に満ちている。」 突然光が注ぎ込み、その開いた空間からデヴィディア人たちが出てきた。 持っていた物を、中央の口につなぐ。エネルギーが流れていく。 ライカー:「なるほど。…仲間たちにエネルギーを運んできてるらしい。」 トロイ:「ほらあれを見て!」 もう一人が持っていた、杖状のヘビのような動物が動き、口を開けた。するとまた、空間に穴が開いた。 そこへ入っていくデヴィディア人。 ピカードも向かう。順番に続くライカーたち。 扉は閉じた。エネルギーを吸い続けるデヴィディア人。 |
※42: Alfred Russell Wallace 1823〜1913年 ※43: サミュエル・ラングホーン・クレメンズ Samuel Langhorne Clemens (ジェリー・ハーディン Jerry Hardin TNG第17話 "When the Bough Breaks" 「死に急ぐ惑星アルデア」のラドゥー (Radue)、VOY第9話 "Emanations" 「来世への旅」のドクター・ネライア (Dr. Neria) 役) マーク・トウェイン (Mark Twain、後編で言及) のペンネームで知られる作家 (1835〜1910年)。「トム・ソーヤーの冒険」(1876年) など。声:石森達幸 ※44: Doorman (バリー・カイヴェル Barry Kivel) 声は科学者役の岸野さんが兼任 ※45: 吹き替えでは「(ウォーフ) 中尉」。第3シーズン以降、階級は大尉です ※46: 声はラ・ルー役の有本さんが兼任 ※47: Devidians この呼称は原語では登場しません |
To Be Continued...
感想など
別格である「浮遊機械都市ボーグ」の次に、エピソードガイドで取り上げることになった前後編 (2時間ものの最終話を除く)。「ST といえばタイムトラベル」という印象がありますが、いわゆるオーソドックスな形では TNG初となります。タイムライン変更の危機を扱うのではなく、起こるべくして起こる循環タイプのタイムパラドックスというのが特徴ですね。そのため都合よくストーリーが展開してしまうように見えてしまいますが、それでも過去での描写は面白いシーンばかり。ST4 と被るため、現代 (1990年代) に飛ぶのは避けられました。 クリフハンガーは 3シーズン目となりますが、当初は普通の終わり方になる予定でした (DS9 が始まるために TNG が終わる、という噂を打ち消すために変更)。初見当時「ジェネレーションズ」の小説だけを先に読んでいて、エンタープライズ-B に救助されたガイナンが「若い」という表記があったので、混乱したのを覚えています。実際は御存知の通り、19世紀も 23世紀も 24世紀も同じ風貌でしたが。 |
第125話 "The Inner Light" 「超時空惑星カターン」 | 第127話 "Time's Arrow, Part II" 「タイム・スリップ・エイリアン(後編)」 |