TNG エピソードガイド
第177話「永遠への旅」(前)
All Good Things..., Part I
イントロダクション
※1※2※3※4ホロデッキを出るトロイ。「すごく素敵だったわ、今のプログラム。」 ウォーフ:「よかった、気に入ってもらえて。夜の海※5を眺めるのが好きでよく来るんだ。スリルがあって楽しい。」 ウォーフも夜用の私服だ。 「スリル? 夜の海辺を、裸足で散歩したのよ? バラライカの音色が流れる中。波が足下に寄せては返し、空は満天の星。月が輝いて…『スリルがある』以外に何か言い方ないの?」 「…そうだなあ……すごく、スリルがある。」 あきれ、ターボリフトに入るトロイ。 ウォーフ:「おい。」 降りるトロイ。「私もなかなかホロデッキに来る機会がないから、息抜きの意味でももっと来るようにしようかしら。次のプログラムは私が選ぶわ。夜の海が好きなら、ベタゾイド星のカタリア・ビーチ※6なんかどうかしら。」 部屋のドアを開ける。 ウォーフ:「ディアナ。次の約束をする前にライカー副長と、一度話し合うべきだ。」 「どうして? 何か言われたの?」 「いや、だが気になるんだ。もしこのことで副長が何か…。俺たちがこのまま続けていくなら、副長の気持ちも考えないと。」 「ウォーフ。今は自分たちの気持ちを大事にするべきよ。私とあなたのね。」 口を近づける二人。 その時、ピカードの声が聞こえた。「カウンセラー。今日は何日だ? 日付は。」 寝間着姿で近づいてくる。 ウォーフ:「宇宙暦 47988 です。」 「47988…。」 トロイ:「どうしたんですか。」 「47988。あ…どういうわけか、わからないが…さっきから私は、時間を越えて過去や未来へ…行き来してる。」 |
※1: このエピソードは、TNG 最終話です。アメリカ本国では基本的に 2時間エピソードとして放送されたため、前後編に分けられた際に一部カットがあります。ビデオおよび DVD には吹き替えつきで完全収録されており、このエピソードガイドでは色を変えている個所にあたります (国内オンエア、LD では分割版)。ただし DVD のカットシーンはビデオとは違う再吹き替えがされており、さらにそれぞれカットシーンの前後を含めて吹き替えし直している個所もあります。つまり DVD、ビデオ、分割 (オンエアや LD) の計3バージョン、吹き替えが存在することになります ※2: 本国では小説版が発売されています Amazon.com / スカイソフト / Amazon.co.jp ※3: 最終話は 1995年度のヒューゴー賞 (映像部門) を受賞しました。TNG ではほかに第125話 "The Inner Light" 「超時空惑星カターン」も獲得しています ※4: また、1994年度のエミー賞では特殊映像効果賞を受賞したほか、衣装デザイン賞、編集賞、音楽作曲賞にノミネートされました。第7シーズンは (作品賞にあたる) 最優秀ドラマシリーズ賞にもノミネートされました ※5: 正確には「夜の黒海 (Black Sea at Night)」 ※6: 正確には「カタリア湖 (Lake Cataria)」 |
本編
トロイの部屋。 カップを手にしているピカード。「まるで自分の肉体がエンタープライズを離れ、別の場所、別の時間にいた。そんな感じだった。」 トロイ:「どんなところでした? 周りの様子は?」 注ぎ足す。 「…それがもう、よく思い出せない。夢と同じで、あやふやな記憶しか残ってない。あれは……今より、何年か前だ。私がエンタープライズに来る前。誰かと話していたが相手を思い出せない。…で次の瞬間、さっきまでは過去にいたのに、気がついたら今度は未来になってた。…そこで…私は地上で何かをしていた。……何だったのか思い出せん。……一体どういうことだ。頭に霞がかかったようだ。」 「いいんです。夢を見ただけだという可能性は考えられませんか?」 「違う、あれは絶対にただの夢なんかじゃない。…音もあったし、匂いもあったんだ。…それに、指で触った感触も。…現実としか思えなかった。」 「時間にしたらどれくらいですか? ほんの数分なのか、数時間なのか。」 「よくわからん。…一瞬目まいがして…平衡感覚がなくなり自分がどこにいるかはわからなくなる。だがその感覚が過ぎると、何も違和感を感じなくなる。まるで自分が元々そこにいたかのように。…だが…何か…」 屋外に生えている植物。その前に帽子を被り、ヒゲをたくわえたピカードがいた。 枝をさすり、辺りを見渡す。ブドウ畑※7は、一面に広がっていた。 作業服姿のピカードは、枝に青いテープを巻き始めた。 声が聞こえた。「艦長、至急ブリッジへ。…ワープコアに異常発生。フェイズインデューサーもやられたようです。」 笑う。「懐かしい響きでしょう。」 手をつかむピカード。「ジョーディ。」 抱き合うラフォージは、ヴァイザーをつけておらず、ヒゲを生やしている。「ピカード艦長。大使と呼ぶべきかな。」 ピカード:「やめてくれ、どちらももう昔のことだ。」 「じゃあ『ピカードさん』ですか。」 「いや、『ジャン・リュック』はどうだ。」 「ちょっと、気が引けちゃいます。」 笑うピカード。「お前も貫禄が出てきたなあ。…やあ、何年ぶりかな。」 ラフォージ:「9年です。」 「ああ違うちがう、私が艦長だった頃からだ。…エンタープライズにいた頃だよ。」 「かれこれ…25年ですか。」 「そんなになるか? …まあ、達者にやっとるようだな。」 「ええ、この辺に栄養ついちゃって。」 お腹をさするラフォージ。「…手伝いましょうか。」 「じゃあ、頼むかな? 枝を縛ってくれんか。」 ラフォージは木を見る。「うーん、虫※8がついてます。薬※9を蒔いたらどうですか。妻が、園芸好きでね。俺も覚えましたよ。」 ピカード:「リア※10は元気か。」 「ええ、おかげさまで。忙しくてね。最近研究所の、所長になったばっかりで。」 「じゃ子供たちは。ブレット※11に、アランドラ※12と、あと…」 「シドニー※13。」 「あ、シドニー。」 「ええ、もうみんな大きくなりました。ブレットは、来年アカデミーを受験します。※14」 口笛を鳴らすピカード。「…何で来たんだ?」 ラフォージ:「え? フラリと寄っただけですよ。エンタープライズ時代が懐かしくなって。近くに来たついでに。」 「ジョーディ。ライジェル3号星※15と地球は近いとは言わんだろ。」 「…ええ。」 「…お前も、聞いたのか?」 「リアの友人が医療部にいるので…その人から。」 「まだ大丈夫だ。イルモディック症候群※16は発病してからの進行が遅い。」 「知ってます。でもとにかく、急に…顔が見たくなったんですよ。」 「…せっかく来たんだ、そいつを運んでもらおうか。……私の料理はリアの手料理には敵わんが美味い御茶なら入れてやれる。そうだ、小説読んだぞ? …今度の話は、主人公がちょっと派手すぎるきらいがあるが、その点を除け…」 騒いでいる声が聞こえてきた。ブドウ畑の先に、粗末な服装をした者たちがいる。 ピカードに向かってしきりに声を上げている。 ラフォージには何も見えていない。「艦長、大丈夫ですか。…艦長!」 女性の声。「艦長。」 振り向くピカード。 古い制服のピカードは、シャトルに乗っている。 女性の声が続く。「ギャラクシー級の宇宙船は、初めてですか。どうかしました? …艦長。」 それは、ターシャ・ヤー※17大尉だった。 ピカード:「いや。すまない、ちょっと上の空だった。何か言ったか。」 ヤー:「ギャラクシー級の宇宙船に乗られるのは初めてですかとお聞きしたんです。」 「ああ…設計図やマニュアルで隅々まで知ってはいるがな。実際に乗るのは初めてだ。」 「…初めてでこの船に乗られるなんて、とてもラッキーですよ。エンタープライズは最高です。」 「ほんとにな?」 「……私の顔に何かついてます?」 「いや? …どこかで会ったような気がした。」 通信が入る。『エンタープライズよりガリレオ号※18へ。第2シャトル格納庫へ着艦せよ。』 ヤー:「了解しました。…あれがそうですよ。」 2人の前に、地球軌道上のマッキンレー基地※19にいるエンタープライズが見える。 前へ回り込んだ。 トロイ:「艦長?」 窓の近くに立っているピカードは、微笑んでいた。 トロイ:「…艦長?」 ピカード:「……ターシャだ。いまターシャと一緒にいた。」 椅子に座る。 |
※7: TNG第76話 "Family" 「戦士の休息」より。その際使われたロケ地のランカスターではなく、テメキュラ付近で撮影。遠景はマットペインティングで補完されています。フランスとカリフォルニアとのブドウは異なるため変だという指摘もあるようですが、24世紀まで気候などが変わっていないとは限りませんね ※8: 原語では「葉もぐり虫 (leaf miners)」 ※9: 原語では「細菌スプレー (bacillus spray)」 ※10: Leah 明らかに TNG第54話 "Booby Trap" 「メンサー星人の罠」などに登場した、リア・ブラームズ博士を意図した言及だと思われます。共同脚本のロナルド・ムーアはアクイエル (TNG第139話 "Aquiel" 「謎の蒸発事件」) を相手にしようとも考えたそうです ※11: Brett ※12: Alandra ※13: Sydney ※14: このカットシーン、ビデオ版での吹き替えは以下の通り。ラフォージ「うーん? 虫がついてますよ? 殺虫剤を散布しないと。結構詳しいんですよ、妻が園芸好きで」 ピカード「リアは元気か」「おかげさまで、仕事も順調。今度、ディストロム研究所の所長になりました」「…子供たちは。ブレットと、アランドラと、あ…」「シドニー」「ああそうだ」「ええ、みんな大きくなりましたよ。ブレットは、来年アカデミーの試験を受けるんです」 ※15: Rigel III ライジェル星系は TOS第1話 "The Cage" 「歪んだ楽園」など、幾度となく言及 ※16: Irumodic Syndrome ※17: ターシャ (ナターシャ)・ヤー Tasha (Natasha) Yar (デニス・クロスビー Denise Crosby) TNG第63話 "Yesterday's Enterprise" 「亡霊戦艦エンタープライズ'C'」以来の登場 (シーラも含めると第107・108話 "Unification, Part I and II" 「潜入! ロミュラン帝国(前)(後)」以来)。TNG第80話 "Legacy" 「革命戦士イシャーラ・ヤー」では、ヤーを気に入ったピカードがエンタープライズに転属させたことがセリフだけで言及されましたが、クロノロジーでは今回初めて会った方を正史としています。声:沢海陽子 (継続) ※18: シャトル・ガリレオ Shuttlecraft Galileo TOS第14話 "The Galileo Seven" 「ゴリラの惑星」などに登場した、初代エンタープライズ搭載のシャトル名へのオマージュ。番号も「07」のようです ※19: Earth Station McKinley TNG第75話 "The Best of Both Worlds, Part II" 「浮遊機械都市ボーグ(後編)」など |
寝間着姿のまま医療室にいるピカード。 クラッシャー:「ニューログラフィック・スキャンの結果が出たけど、幻覚や幻聴を引き起こすような異常は何も見られなかったわ?」 トロイ:「時間移動ということはない?」 「タイムスリップなら、大脳皮質にトリパミン※20の残留が見られるはずだけど、それもないのよ。もしかして、夜中に人を騒がせて面白がってるんじゃない?」 ピカード:「…実は裸足で船をうろつくのが好きなんだ。」 笑う 2人。 アリサ・オガワ看護婦※21がお腹をさすりながらやってきた。「バイオスペクトル分析の結果です。」 クラッシャー:「…血液中の酸素成分は、ずっとこの船にいた人間と同じ数値よ。もしどこか別の場所に行っていたなら、酸素の同位体の比率が違ってくるはずなの。」 パッドを返す。「ありがとう。…ディアナ、ちょっと外してくれる?」 トロイ:「…いいわよ?」 出ていく。 「…ジャンリュック。言われたとおり、イルモディック症候群の兆候を調べてみたけど…何もなかったわ。……でも脳の頭頂葉に、ごく小さな傷がついているのが見つかったの。」 ピカード:「…以前には、見つからなかった傷か?」 「今回、レベル4 のニューログラフィック・スキャン※22にかけて初めてわかったの。将来的に、イルモディック症候群やそのほかの神経障害を引き起こす恐れがあるわ。でも一生、何の症状も出ないまま無事に過ごせる可能性も十分あるし。たとえ発病しても、イルモディック症候群を抱えながら普通の生活を送っている人は大勢いるのよ。」 からかうピカード。「その割には死の宣告をしているみたいな顔だぞ?」 クラッシャー:「ごめんなさい。今ちょっと、動揺しちゃって。」 「私は心配してないよ。」 クラッシャーの肩に手を置くピカード。「この先ずっと、私と一緒に闘ってくれる気でいるんだろ?」 「…もちろんよ、ジャン・リュック。がんばるわ。」 笑うピカード。 ライカーが来た。「艦長。」 ピカード:「どうだ、何かわかったか。」 「いいえ。スキャンでも何も出ませんでした。センサー記録も調べていますが、艦長が船を離れた形跡はありません。」 「だがあれは夢ではなかった。」 通信が入る。『ウォーフより艦長。』 ピカード:「どうした、ウォーフ。」 ウォーフ:『ナカムラ提督より、緊急通信が入っています。最優先指定です。』 クラッシャーに尋ねるピカード。「いいかな? …ウォーフ、ドクター・クラッシャーのオフィスで受ける。通信をつないでくれ。」 ウォーフ:『了解。』 コンソールを起動するピカード。 ナカムラ※23:『艦長。』 ピカード:「提督。」 『これより全艦隊に警戒警報を出す。ロミュラン帝国に不穏な動きがあることを情報部がキャッチした。30隻以上のウォーバードが一同に集められ、中立ゾーンに向かったそうだ。』 「…そんな露骨に攻撃的な行動に出るとは、理由は何なのですか。」 『ロミュランにいる情報部員の話では、中立ゾーンで何か起こっているらしいのだ。とにかくデヴロン星系※24の辺りだ。連邦の長距離スキャンでも、デヴロン星系に空間の異常が見られたが詳しくはわからん。』 「我々の任務は。」 『連邦としても黙って見てはいられん。こちらも中立ゾーンとの境界に宇宙船を 15隻配備する。…君たちも合流してくれ。デヴロン星系で何が起こっているのか確かめるのだ。』 「うーん…中立ゾーンに入る許可は下りるんですか。」 『まだだ。まずロミュランの動きを見る。必要とあれば無人探査機を出して調べても構わん。だがロミュランより先には境界を越えるな?』 「わかりました。」 『以上だ。』 コンソールを切り、考えるピカード。立ち上がる。 老ピカードはブドウ畑で倒れ込んだ。 支えるラフォージ。「艦長! …どうしました。」 ピカード:「…ここはきっと違う。…私の世界じゃない。」 「え?」 「さっきまで別の場所にいたのに。」 「でも艦長、ずっとここにいましたよ。」 「そんなはずはない!」 自分が脱いだ帽子を見るピカード。「…別の場所だった。あ、あれは…ここじゃない、もっと昔だ。あ…そこで、誰かと…話をしてた。…ビヴァリーだ、ビヴァリーと話してた。」 「大丈夫ですよ、落ち着いて下さい。」 「本気にしとらんな、ジョーディ? だが本当だ、私は…ここでお前と話をしていて、次の瞬間…別の場所にいた。あ、あれは…あ…思い出したぞ? エンタープライズだ、確か…そうだ、あれは医療室の中だ。いや待てよ? もしかしたら病院かもしれん。」 「艦長。うちの中に入りましょう。医者を呼びますよ…」 「いや私が病気のせいでおかしくなったと思ってるんだろ! 『老いぼれの戯言だ』と思ってるんだろうがそうじゃない! 白昼夢を見たんでもない!」 「…わかりましたよ、艦長。で、どうしたいんです?」 「…データだ。データに会いたい。」 歩き出すピカード。 「データ。なぜです。」 「きっと助けてくれる。」 「どうやって。」 「そんなこと、知るもんか! とにかくデータに会う。」 「わかりましたよ。そんなに言うんなら、会いに行きましょう。ケンブリッジ※25でしたよね。」 「ああ、多分そこだと思う。」 また声が聞こえてきた。先の道に、叫んでいる者たちがいる。 ブドウ畑の中にも、同じようなみすぼらしい格好をした男女。必死にピカードに対して声を上げる。 周りを見るラフォージには、わからない。 ピカード:「お前も見たか?」 ラフォージ:「何をです?」 「あいつらだ。…私を笑ってる。どうして笑う。」 「さあ行きましょう。データのところに。」 「…そうだな、データなら何とかしてくれる。」 建ち並ぶ建物。チャイムが鳴り、地上では飛行する乗り物が見える。 蔵書が並ぶ部屋にいるピカード。「信じられん話だが、嘘じゃない。本当に時間を越えて、エンタープライズにいたのだ。」 女性:「お茶のお好みは?」 「ああ。アール・グレイのホット。」 「ミルクとか御砂糖ですよ。」 「いらん!」 「ああそれにしてもデータ、ずいぶんといい屋敷に住んどるじゃないか。ケンブリッジの教授の給料はよほどいいと見える。※26」 大きな椅子に座り、ガウンを着たデータ。ネコ※27を抱いていた。「この家は、アイザック・ニュートン※28が住んでいた屋敷で、代々ルーカス教授職※29の住居になっているんですよ。…ケンブリッジの伝統なんだ。」 女性:「どうぞ?」 ラフォージ:「ありがとう。」 「お友達からも言って下さい。髪の毛に白髪を入れるのはやめるようにって。」 データ:「ジェセル※30?」 ジェセル:「あれじゃまるでスカンクだわ。」 「フン、ジェセルは時々うるさいことを言うが、よく私を笑わせてくれるんだよ。」 ラフォージ:「…でも一体、何だって白髪なんか。」 「グレーにした方が、貫禄が出るんじゃないかと。そう思ってね。」 ピカード:「これがアール・グレイか。ダージリンじゃないのかね。」 暖炉の上にも、ネコが何匹もいる。 ジェセル:「フン。」 出ていく。 データ:「艦長、イルモディック症候群ですが最近医者に行かれたのはいつです?」 ピカード:「…先週だ。ペリダクソン※31を処方してくれた。ああ…。」 椅子のネコを抱き、座る。 「しかし、ペリダクソンは…」 「ああ治療にはならん。どんな薬も、神経シナプスの崩壊を止めることはできん。…私が病気のせいで、幻を見たと思っとるな?」 ラフォージ:「誰もそんなこと言ってないじゃありませんか。」 データ:「…正直言いますと、最初はそう思いました。…ただし、全くの幻だと断言できる証拠もない。艦長の身に、何か起こっている可能性もあります。…まずはニューログラフィック・スキャンで、精密検査をしてみるのが先決でしょう。大学の、バイオラボの装置を借りればできます。ジェセル? リパート教授※32に、明日の講義を代わってもらってくれ。…いや今週一杯だ。」 ネコを抱いているジェセル。「ハ。」 データ:「艦長。真相を解明しましょう。」 ピカード:「そう言ってくれると信じてたよ。それでこそデータだ。」 椅子から立ち上がる。 シャトルを出たピカードは、辺りを見渡した。 クルーが整列する中、出てきたヤー。「艦長※33が着任されました。」 ボースン・パイプが鳴らされる。気をつけの姿勢を取る士官たち。 ピカードは台座に立つ。「…『ジャン・リュック・ピカード大佐。宇宙暦 411…』」 声が聞こえてくる。シャトル格納庫の 2階から、ピカードを笑う者。 ウォーフはそちらを見たが、何も異常はない。 続きを読み始めるピカード。「『本日づけで U.S.S.エンタープライズ…』」 今度はシャトルの中に大勢いた。一様に貧しい服装だ。 振り返るヤー。マイルズ・オブライエン※34も不思議に思う。 ピカード:「…『艦長、艦長に就任する。』 命令書署名、『宇宙艦隊司令部ノラ・サティ少将※35』。」 台座を降り、笑顔でトロイと握手しようとするピカード。 だがまた声が響いた。並んだクルーの後ろからだ。 うろたえるピカード。シャトルからも笑い声が飛ぶ。 ピカード:「非常警報! 全艦戦闘態勢。」 警報が鳴る。 どうすればいいかわからない士官たち。 ヤー:「聞こえないの、早く!」 やっとで各々動きだし、解散するクルー。 ピカードはシャトルを見た。誰もいない。 シャトル格納庫を出ていく。※36 |
※20: tripamine トロイのセリフから「時間感覚の喪失ということはない?」 クラッシャー「時間感覚の喪失なら…」と訳されていますが、感覚的なことではなく実際に時間移動した兆候がないかという意味。つまり普通の時間移動ではないことを表しています ※21: Nurse Alyssa Ogawa (パティ・ヤスタケ Patti Yasutake) TNG第171話 "Genesis" 「恐怖のイントロン・ウィルス」以来の登場。声:栗山微笑子 ※22: level-4 neurographic scan ※23: ナカムラ提督 Admiral Nakamura (クライド・クサツ Clyde Kusatsu) TNG第158話 "Phantasms" 「戦慄のドリーム・プログラム」以来の登場。声:仲野裕、DS9 Gelnon、ヴェラルなど。前回は塚田正昭さん ※24: Devron system ※25: ケンブリッジ大学 Cambridge University ※26: 原語では「教授は待遇がとてもいい」といった意味 ※27: 全部で 10匹のネコが動員(?)されました ※28: Isaac Newton TNG第152話 "Descent, Part I" 「ボーグ変質の謎(前編)」などに登場 ※29: Lucasian Chair ニュートンのほか、スティーブン・ホーキング (同じく TNG "Descent, Part I" に本人役で出演) にも与えられています。吹き替えでは「物理学の教授」になっていますが、ルーカス教授職は数学の称号です。なおデータは "you've" "it's" など、省略形を使えるようになっています ※30: Jessel (パメラ・コッシュ Pamela Kosh TNG第127話 "Time's Arrow, Part II" 「タイム・スリップ・エイリアン(後編)」のカーマイケル夫人 (Mrs. Carmichael) 役) 共同脚本のブラノン・ブラガにより、小説「ねじの回転」の人物にちなんで命名。声:片岡富枝、DS9 3代目ウィン ※31: peridaxon ※32: Professor Rippert ※33: 吹き替えでは「新しい艦長」。ピカードが最初の艦長なので、ちょっと変ですね ※34: Miles O'Brien (コルム・ミーニー Colm Meaney) DS9 (この時点で第2シーズン) のレギュラーですが、TNG では第133話 "Rascals" 「少年指揮官ジャン・リュック・ピカード」以来の登場。少尉の階級章で制服も赤色の操舵士官ですが、ピカードは既にチーフと呼んでいます (吹き替えでは訳出なし)。声:辻親八。並んでいるクルーの中には、エキストラの Guy Vardaman 演じる Darian Wallace もいるそうです (TNG第152・153話 "Descent, Part I and II" 「ボーグ変質の謎(前)(後)」など)。オブライエンの後ろ辺りにいる、赤服の人物だと思われます ※35: Rear Admiral Norah Satie TNG第95話 "The Drumhead" 「疑惑」に登場、その頃には宇宙艦隊を引退していました。吹き替えでは階級が「准将」 ※36: 出ていく前にシャトルの方を見るシーンは、分割版の方がわずかに長くなっています |
ピカード:『個人日誌、宇宙暦 41153.7。機密ロック、オメガ 327 の下で録音。私の身に起きたことをクルーには決して言うわけにはいかない。未来から過去に来た人間が、これから起こることを予言するのはタブーだ。』 観察ラウンジの壁面にある、歴代エンタープライズ※37を見ていたピカード。上級士官が入る。 ピカード:「報告。」 ヤー:「亜空間スキャンで、艦内および周辺の空間を調べましたが…異常な現象は発見することはできませんでした。」 ウォーフ:「何を探しているのか教えていただければ、もっと探しやすいのですが。」 ピカード:「…そうだな、※38カウンセラー。…エンタープライズ内部に何か異常は感じられないか。…エイリアンが乗り込んでいる気配はないか? 高度な知性をもった生命体が、我々を調べているのかもしれん。」 トロイ:「感じません。艦内にいるのはクルーとその家族だけです。」 「…ウォーフ。各デッキに保安部員をおき、レベル2 の警戒態勢を敷け。」 立ち上がるヤー。「お言葉ですが、この船の保安部長は私です。それとも、変更をお考えですか。」 ピカード:「…そ、そうではない。改めて、ヤー大尉。レベル2 の警戒態勢。」 「了解。」 オブライエンの通信。『艦長、ブリッジへお越し下さい。』 ピカード:「わかった、いま行く。」 ブリッジでは作業が続いている。 オブライエン:「艦長、艦隊司令部から警報です。大量の船が、ロミュランと連邦の間の中立ゾーンに現れたそうです。」 ヤー:「船の種類は。」 「民間の商船や輸送船で、艦隊の船はありません。」 ピカード:「…中立ゾーン内に大規模な時空の歪みが発生したそうだ。デヴロン星系に。」 ウォーフ:「艦長、ロミュランの罠ではないでしょうか。艦隊が中立ゾーンに入れば、攻撃を仕掛ける口実になります。」 オブライエン:「ファーポイント基地へ向かう任務は中止になりました。出航準備ができ次第、中立ゾーンへ向かいます。」 ピカード:「いや、ファーポイント基地に行く。」 ヤー:「艦長。」 「聞こえなかったか。」 ウォーフ:「しかし、連邦の安全が脅かされているんですよ。」 「ウォーフ、持ち場に戻りたまえ。」 「わかりました。」 トロイ:「艦長、何か考えがおありなら、説明していただけま…」 ピカード:「説明するつもりはない。我々は当初の予定通り、ファーポイント基地へ向かう。オブライエン、ワーププラズマ・インデューサーの問題で手こずってるんじゃないのか?」 なぜ知っているのか不思議なオブライエン。「そうです。」 ピカード:「私が直し方を知っている、来たまえ。機関部にいる。」 機関室。 パッドを渡すピカード。「オブライエン。これを見て第2プラズマ・インデューサーとのバイパスを作れ。」 オブライエン:「でも、艦長。その仕事は私の守備範囲外です。機関部長に任せるべきじゃありませんか?」 「機関部長はまだ乗っていないだろ。オブライエン、大丈夫。君ならやれるとも。…子供の頃、宇宙船の模型を作って遊んでたんだろ?※39 あれと同じだ。」 「なぜ知ってるんです。」 「…個人ファイルを見た。」 「…わかりました。早速作業にかかります。…フレッチャー※40、ムノッツ※41とリー※42を呼んでくれ。」 フレッチャー:「了解。」 「全パワーグリッドの調整を行う。もう、ケツに火がついてるんだから。※43」 通りかかるデータ※44。「早く消した方がいい。」 オブライエン:「何です?」 「艦内で不用意に火を燃やすと、いろいろと不都合なことが起こる。自動消火装置が作動して、防火用隔壁が下りてしまう。」 その声に、2人の方を見るピカード。 オブライエン:「今のはもののたとえですよ。」 データ:「何のたとえだ?」 「ケツに火がつくっていうのは、事態が差し迫ってるって意味の言葉なんです。」 「ああ、では実際に火をつけるわけではないのか?」 「そういうこと。」 「フフン…興味深いな。その用法の語源は何だ。」 「ん?」 「どうして、そのような意味で使われるようになったんだ?」 「いやあ、わかりません。」 ピカードは近づいた。「君がデータか。話には聞いていた。これからよろしくな。」 握手する。 データ:「こちらこそ、艦長。」 「インフューザーシステムの整備を手伝ってくれ。」 「了解。」 部品を見つめるデータ。 ピカード:「見ての通りプラズマコンジットに問題がある。」 つつくデータ。「フィールド誘導プロセッサーを交換しないと駄目ですね。…急いで、作業を行います。ケツに、火がついてますから。」 クラッシャーの声。「ジャン・リュック。どうしたの。」 振り向くピカード。 寝間着姿のピカード。「…またあれだ。」 クラッシャー:「タイムスリップ?」 「ああ。」 ライカー:「今度は?」 「…まだボンヤリしてるが、最初の頃よりははっきり思い出せる。時を越えて、別の時間にスリップするたびに記憶が鮮明になっていく。最初は数十年後の未来。その後過去のエンタープライズにいた。最初の任務に出る前だ。」 トリコーダーで調べたクラッシャー。 ライカー:「…どうしました。」 クラッシャー:「…側頭葉をスキャンして、数分前のスキャン結果と比べてみたんだけど…海馬※45内のアセチルコリン※46の量が、何と 13%も増えてるの。つまり、数分間の間に 2日分以上の記憶が蓄積されたのよ。」 |
※37: 製作デザイナー Richard James により、後に取り除かれたセットが再現されています ※38: このカットシーン、ビデオ版での吹き替えは以下の通り。ウォーフ「できれば具体的に、どんな現象を探すのか指示していただいた方が」 ピカード「そうだな」 ※39: TNG第54話 "Booby Trap" 「メンサー星人の罠」より。吹き替えでは「模型でよく遊んでたんだろ?」 ※40: Fletcher エキストラ。声はナカムラ役の仲野さんが兼任 ※41: Munoz ※42: Lee ※43: 原語では "We'll all be burning the midnight oil on this one."。「夜まで働く」という意味で「真夜中の油を燃やす」と言っています ※44: 過去のデータは、なぜか中尉の階級章になっています。恐らく金色のピン一つをつけ忘れたミスだと思われます (ピカードも少佐と呼称) ※45: hippocampus TNG第112話 "Violations" 「記憶侵入者ユリア星人」など。この部分は訳出されていません ※46: acetylcholine TOS第48話 "The Immunity Syndrome" 「単細胞物体との衝突」など。吹き替えでは「神経伝達物質」 |
観察ラウンジのピカード。「私が初めてエンタープライズに来た時を覚えているか。」 トロイ:「ええ。」 「就任式の後、どんなことがあった。」 「歓迎パーティがあって、艦長をウォーフやほかのクルーに紹介したんです。」 「私は到着してすぐ、非常警報を発令しなかったか? ファーポイント基地での任務が中止になって中立ゾーンの調査に向かうよう命令された覚えはないか。」 「いいえ?」 データ:「…艦長の見た過去と、我々の歩んできた過去は違うようです。それぞれ、独立した時間の流れの中にあると見ていいでしょう。」 ライカー:「しかし現在にも過去にも、デヴロン星系に同じ異常が現れているというのはとても偶然とは思えませんね。」 ピカード:「未来にも同じことが起きてるかもしれん。」 ラフォージ:「恐らくその異常は、一種の時間の歪みでしょう。※47」 クラッシャー:「…それとタイムスリップと関係あるのかしら。」 ピカード:「…実は一つ心当たりがあって、過去の私はそれを調べに行ったが…今はそれより目の前のロミュラン軍の方が問題だ。全部署、現在の戦闘能力をまとめ、明朝 8時に報告してくれ。以上だ。」 解散するクルー。 ライカー:「ディアナ。時間も時間だし、先に夕食を取らないか。」 トロイ:「でも私…先約があるの。」 後ろにウォーフがいた。 「ごめん、気がつかなくて。…じゃあ、また明日。」 ウォーフ:「…失礼します。」 「ああ。」 ブリッジに戻るピカード。「亜空間スキャンを連続で行え。時空の歪みを発見できるかもしれん。」 データ:「了解。」 「ウィル、例のタイムスリップだが。あれが起きると、一瞬私は…状況を見失ってしまう。もし大事な時にそうなったら、君が代わって指揮を執ってくれ。…聞こえたか。」 憮然とした表情を浮かべていたライカー。「…ああすいません。その時は代理を務めます。」 ピカード:「気分が悪そうだが、大丈夫なのか。」 「ちょっと、気が散っていただけです。」 「…ではブリッジは任せたぞ。作戦室にいる。」 クラッシャーは後を追った。 ドアチャイムに応えるピカード。「入れ。」 クラッシャーはすぐにレプリケーターの前へ向かった。「温かいミルク、ナツメグ入り※48。」 ピカード:「何だ。」 「お薬よ? このミルクを飲んで、8時間グッスリと眠ること。」 「ビヴァリー…」 「ドクターの命令よ? あなたは疲れ切ってる。過去や未来では眠れたのかどうか知らないけど、ここでは全然寝てないじゃない。今すぐ部屋に行って休まないと、鎮静剤を打つわよ?」 「了解。……どうした。」 首を振るクラッシャーの、手に触れるピカード。「うん? ビヴァリー。」 「……患者に辛い知らせを伝えるのも、医者の務めの一つなのよね。…あなたは手術が必要だとか、子供は産めないとか…不治の病で治療が難しいとか。」 「発病しない可能性があると言ってただろ。」 「…でもあなたは未来を見て、どうなるか知ってるんでしょ?」 「だが未来なんていうものは、一つじゃないと私は思うよ? …25年もあれば、いろいろなことが起こる。」 クラッシャーは顔を近づけ、ピカードとキスした。「…時間はあるわよね。」 作戦室を出て行く。 ラフォージの声。「艦長。…起きて下さい。」 未来のピカードは目を覚ました。「わかった。…何だ? 中立ゾーンに着いたのか。」 ラフォージ:「中立ゾーン?」 「ああ…すまん。…また過去に行っていた。…どうなってる。」 「データが、ニューログラフィック・スキャンの準備をしてくれたんですよ。よければ、始めますが。」 「あ、いやそんなことより、一刻も早く中立ゾーンに行くんだ。」 「中立ゾーンに? …なぜです。」 「…過去の 2つの時間では、中立ゾーンの中に…あ、あの…あ…あれだ、そのほら…時空の歪みが見つかったんだ。あ、えーと…デヴロン星系だ、中立ゾーンの中のデヴロン星系だ。」 「艦長…」 「…その歪みが、この時代にも起きているかもしれん。確かめに行かなければ。」 「過去にそれがあったからといってこの時代にも同じものがあるとは限らないでしょう…」 「ああだが、もし本当にあったらただごとではない! ええい! お前にはことの重大さがわからんのか!」 大学のチャイムが聞こえる。 ラフォージ:「…いいですか。まず第一にですよ、もう中立ゾーンはありません。忘れたんですか。」 ピカード:「そうだ。そうだった。…クリンゴンだ。この時代では、クリンゴンがロミュランを征服したんだった。」 「今は連邦とクリンゴンの関係も険悪ですし。」 「わかってる! 私はそこまで耄碌はしておらん!」 「…まあ、デヴロン星系に行くと言うんなら、船を手に入れないと。」 肩を叩くピカード。ラフォージも笑う。 ピカード:「よーし、ジョーディ。そこは昔のよしみということで、友を頼るとしよう。…247宇宙基地※49にいる、ライカー提督に連絡を取れ。」 ピカードの膝を叩き、立ち上がるラフォージ。 スクリーンに映っているライカー※50は、白髪がほとんどだ。『助けたいのは山々だが、こればっかりはどうにもなりません。連邦の船はクリンゴン帝国領内には入れない。』 コミュニケーターの形が変わっている。 ピカード:「だが、もし本当にデヴロン星系に異常があったらどうする。」 『今朝情報部からデヴロン星系の調査結果が届いたが…何の問題もなかった。…異常な兆候は何一つ認められないそうです。』 「信用できん。長距離スキャンに故障があったのかもしれんし、行ってこの目で確かめるしかない…」 『それならヨークタウン※51が国境付近にいるんで、彼らに長距離スキャンで調べさせ何かわかったら知らせます。それでいいでしょ。』 「それではほんとのところはわからん!」 『私にできることは、これが精一杯です。』 通信は終わった。 データ:「コンピューター、ホログラム再生。」 スクリーンが消え、暖炉に戻った。 ピカード:「ライカーの奴め。昔はあんなじゃなかった。すっかり石頭になりおって。」 ラフォージ:「残念ですが、ここはヨークタウンの調査報告を待つよりほかにないでしょう。」 データ:「ほかにも手はあります。…医療船で、国境を越えるのです。」 ピカード:「医療船?」 「そうです。ロミュラン星で、テレリアン病※52が発生したため…医療船だけは、クリンゴン領に入ることを許されています。」 「そうだ、それだ!」 ラフォージ:「となると、医療船をどうするかですね。」 「ああ、大丈夫。私に任せておけ。データ、U.S.S.パスツール※53に連絡を取ってくれ。実はあの船なら、艦長にコネがある。…以前はあった、と言うべきかな?」 地球軌道上のオリンピック級宇宙艦。 艦長席に、年取ったビヴァリーがいた。ドアの音に立ち上がる。「懐かしい顔ぶれね! あなたたちとまた宇宙船で会うとは思わなかったわ?」 宇宙艦隊の制服は変わっている※54。 ラフォージ:「お久しぶりです。」 「ジョーディ。」 データ:「ドクター。」 「データ。」 ピカードと抱き合おうとしたり、握手しようとするビヴァリー。「…あら。」 ピカード:「…タイミングが合わんな。」 「ほんと。」 やっとで抱き合い、笑う 2人。「ああ…。」 「メッセージは見てくれたか。」 「ええ。でもね? クリンゴン領内に入ろうなんて無茶よ。あなたの頼みじゃ断れないけど。」 「ほう? だからプロポーズも受けたのか。」 笑うビヴァリー。「とにかく、まず第一の問題は国境を越える許可をどうやって取るかよ。」 ラフォージ:「そうですねえ。ウォーフに、頼めませんか。」 ピカード:「そうだ、ウォーフだ! ウォーフがいた。彼なら何とかしてくれるに違いない。」 「データ。ウォーフはまだクリンゴン評議会のメンバーか。」 データ:「…どうだろう。クリンゴンの政治情報は、最近入手しにくいからね。最後に聞いた話では、ウォーフはハトリア※55の知事だった。国境付近の小さなコロニーだよ?」 操舵士官のネル・チルトン少尉※56が言った。「ピカード艦長。」 ピカードとビヴァリーは同時に応えた。「何だ。」「なーに?」 チルトン:「マッキンレー基地から通信で、こちらの到着時間を聞いてきています。」 ビヴァリー:「緊急任務が入ったので、遅くなると伝えて?」 「了解。」 ピカード:「苗字を戻してなかったのか。」 ビヴァリー:「第5デッキに船室を用意しておいたから休んでちょうだい。」 「疲れてない、大丈夫だ。」 「ネル? ピカード大使を、お部屋までお連れして?」 「おい、人を老いぼれ扱いするのはやめてくれ。まだまだ耄碌はしとらん、部屋に行くだけなのに付き添いなどいるものか。ああ、それこそいらん御節介というやつだ。」 「…そうね、ごめんなさい。」 「…じゃあ少し休んでくる。」 ピカードはターボリフトに乗った。 「……最後に病院で検査を受けたのはいつ。」 ラフォージ:「わかりません。でもあんな無駄な検査は、もう二度と受けるもんかって言ってましたよ。」 「タイムスリップの話を信じてる?」 答えないラフォージとデータ。 ビヴァリー:「私もわからないのよ。…でも、ジャン・リュック・ピカードが最後の任務をお望みなら、叶えてあげましょうよ。」 ターボリフト内のピカード。「絶対あるはずだ…時空の歪みが。」 到着し、ターボリフトを出る。 ターボリフトを出た過去のピカード。「報告。」 オブライエン※57:「間もなく、指定の座標です。」 「この付近に、何か変わった様子は見られないか。」 データ:「具体的には、どういうことですか? …宇宙の現象はそれぞれほかにはない、変わったものばかりですから。」 「例えば、何らかのバリアのようなものはないか? エネルギーの高いプラズマフィールドとか。」 「…ありません。」 「この時間とこの場所に、間違いない。…奴は必ず現れる。」 ヤー:「誰がです。」 「Q! 出てくるんだ。もうお遊びはたくさんだ。…カウンセラー、エイリアンの存在を感じないか。」 トロイ:「…いいえ?」 ウォーフはヤーに聞いた。「『Q』とは、何ですか。」 ヤー:「アルファベットの文字の一つでしょ。」 ピカード:「どういうことだ。こんなはずではないのに。この位置で待機しろ、作戦室にいる。」 向かう。 声を上げる者たちが、たくさん集まっている。中央には現在の制服を着たピカード。 前方の空間から、大きな椅子が出てきた。 口々にピカードに向かって騒ぎ立てる観衆。 椅子に座っていた Q※58 は、手を広げて静めた。「よく来たなあ、たどり着けないかと思ったぞ。」 笑う一同。 |
※47: 吹き替えでは「時間の歪みがその異常の原因なんでしょうか」 ※48: warm milk with a dash of nutmeg ※49: 第247宇宙基地 Starbase 247 TNG第164話 "The Pegasus" 「難破船ペガサスの秘密」より。プレスマン提督が拘留された場所 ※50: 階級章は四つ星。提督の制服は一見したところ変わっていません ※51: U.S.S.ヨークタウン U.S.S. Yorktown ゾーディアック級、NCC-61137。同名の船はコンスティテューション級 (NCC-1717、TOS第47話 "Obsession" 「復讐! ガス怪獣」) などにもありました。吹き替えでは「ヨークタウン号」 ※52: Terrellian plague 初言及 ※53: U.S.S. Pasteur オリンピック級、NCC-58925 (エンサイクロペディアでは 58928)。ILM美術監督 Bill George によって以前にデザイン・製作されていたものを使用。初代エンタープライズのデザイン案にあった、球状の第一船体を踏襲しています (ダイダロス級と共通)。ブリッジの記念銘板に書かれている言葉は、ヒポクラテスの誓いから引用されているそうです。当初はホープ級と書かれていました ※54: コミュニケーターと共に「未来」のものとして、DS9第75話 "The Visitor" 「父と子」、VOY最終話 "Endgame, Part I and II" 「道は星雲の彼方へ(前)(後)」でも使われます ※55: H'atoria ※56: Ensign Nell Chilton (アリソン・ブルックス Alison Brooks 共同脚本ブラノン・ブラガの当時の恋人) 姓のチルトンは後に言及されますが、訳出されていません。声はオガワ役の栗山さんが兼任 ※57: パイロット版当時と同じく、操舵席が向かって右側、データのオプス席が左側にあります (背もたれの角度も異なる)。また、ブリッジにある記念銘板に刻まれている提督の名前は、当初のスタッフから本当のキャラクター名に変わっているそうです ※58: Q (ジョン・デ・ランシー John de Lancie) TNG第141話 "Tapestry" 「運命の分かれ道」以来の登場。声:羽佐間道夫 |
ピカードは言った。「やはりお前の仕業か。今度は何だ。」 Q:「『裁判長』と呼びたまえ。見ての通りここは法廷だよ。」 「…この前ここに立たされたのは、7年前だったな。※59」 「7年前ねえ、どうしてお前たち人間は時間をそう直線的にしか捉えられないのかねえ。」 「人間は野蛮な種族だという罪で、私を裁判にかけたな?」 「正確に言えば『極めて野蛮で幼稚で、危険な種族』だ。」 馬鹿にする観客。 「だが人間も進歩したことを証明して見せた。成長して平和的な種族になったとお前も認めただろ。なぜまたこんな真似をする。」 「頭の悪い者はこれだから困る、一から順を追って手取り足取り説明して欲しいのかね? も退屈でアクビが出る。」 笑う一同。「お前に答えを当てさせた方が観客も喜ぶ。…今から 10個の質問に答えてやろう。ただし答えは『イエス』か、『ノー』。」 観衆は拍手する。 Q:「始めたまえ。」 ピカード:「また人類を裁く気なのか?」 「ノー。」 あきれる観客。 「7年前の裁判と、いま起こっていることとは何か関係があるのか。」 「強いて言えばイエスだ。」 観衆は答えにいちいち反応している。 「中立ゾーンの時空の歪みは、あれもこのことに関係があるのか。」 「答えは紛れもなくイエスだ。」 「あれはロミュランの罠か、戦争を始める口実か。」 「どちらも答えはノー。」 また笑う観客。「今ので 5つ。」 「まだ 4つだ。」 「ロミュランの罠か? 戦争を始める口実か? 2つ質問しただろ。」 「…歪みを作ったのはお前か。」 「とんでもない、ノーだ。」 笑う Q。「もし本当の原因がわかったら、きっと驚いて腰を抜かすぞ。わかればの話だが。」 「私のタイムスリップはお前の仕業か。」 「…誰にも言わないと約束するなら教えてやろう。」 ピカードの耳元で言う Q。「イエス。」 「なぜだ。」 「残念! 『イエス・ノー』以外で質問をしたな。お前の負け、ここで終わりだ。」 観客は笑う。「やっぱりお前たちは下等な生き物だなあ、だから野放しにしておくわけにはいかないのだよ。…あの時の裁判は終わっていない。判決も出ていなかった。いま出してやろう。有罪だ。」 「罪状は。」 「進歩の跡がない。7年前からお前たちを観察していた。こんな野蛮な種族だが少しでも精神が成長する余地があるんじゃないかと、淡い期待を抱きながらねえ。だがお前は何をしてきた? したことといえば、ライカーのキャリアを心配したり、カウンセラー・トロイのちゃちなテレパシー能力を当てにしてみたり。データに人間性などという無駄なものを追求させていただけじゃないか。」 「我々は宇宙を探検し数多くの生命体と出会った。宇宙に対する理解は以前より深まっている。」 「この先がどんなに奥が深いかも知らずによく言えたものだな! せっかくやった 7年間のチャンスも、有効に活用するどころか…無駄に、年月を過ごしていた。」 「我々は自分にできる精一杯のことをしてきた。それをお前の物差しで判断されるいわれはない!」 「ところがそうもいかないのだよ。時は無限だが忍耐には限りがある。そろそろ君たちの宇宙探検※60にピリオドを打たせて、もっと優秀な種族に宇宙を開放する。」 「我々が宇宙を旅するのを否定する気か。」 Q は観客と一緒になって笑った。「全くどこまで鈍い連中だ。お前たちは存在を否定されたんだ。つまり人間はこの宇宙から消滅するのだよ。」 ピカード:「いくらなんでもお前にそれほどの力があるわけがない。」 「そうか? お前は何でも私のせいにしたがるが、今回は違うぞ? 人類絶滅の原因を作るのは私ではない、お前だ。」 「私?」 「そうとも。いま現在のお前。過去のお前、未来のお前だ。」 「そのわけのわからない言葉遊びはやめろ!」 観客に笑いかける Q。「まだわかっていないようだぞう? これは私のとんだ見込み違いだったな。お前ならやれると、期待をかけていたんだが買いかぶりだったようだ。後は神の慈悲にすがるがいい。」 上昇していく椅子の中で笑った。「何の神を信じてるか知らんが、これにて閉廷とする。」 ピカードは作戦室に座っていた。すぐに出る。 ピカード:「ライカー、非常警報を出し上級士官を集めろ。ことは予想以上に重大だ。」 ライカー:「非常警報。」 |
※59: TNG パイロット版 "Encounter at Farpoint" 「未知への飛翔」より。法廷は第16スタジオに建てられ、椅子も当時と同じ物が使われています ※60: 劇中で初めて "trek" という言葉を使っています。後に映画第8作 "Star Trek: First Contact" 「ファースト・コンタクト」で、コクレイン博士が "star trek" と言っています |
第176話 "Preemptive Strike" 「惑星連邦“ゲリラ部隊”」 | 第178話 "All Good Things..., Part II" 「永遠への旅(後編)」 |