『観察ノート、宇宙暦 32634.9。レイヴン※15は素粒子嵐※16に突入。ひどく損傷を受け、マルチ適応シールドが 13.2秒停止した。その間に、我々はボーグに探知されてしまった。』
損傷を受けたレイヴン。
必死に作業を続けるハンセン夫妻。エリン:「隠れられるわ。星雲よ。」
ハンセン:「等級は?」
「ミュターラ※17。距離は 3光年。コースをセットする。」
「素粒子濃度が高くて船がもたないぞ!」
「船体保護フィールドを強化する。」
「別の隠れ場所を探すんだ。」
「時間がない。」
寝室で、ベッドに入ったまま両親の会話を聞いているアニカ。
ハンセン:「3時間経ってまだキューブに発見されていない。ワープの痕跡を隠していれば大丈夫だ。」
エリン:「全集合体に知れてるはずよ。もっと船を送ってくるわ。」
「だがその星雲は危険過ぎる! 前にもこんな危機はあった。今度も乗りきれる。転送機が壊れた時だって…。」
「あなた、熟成室で一晩過ごした。ドローンの新生児たちと一緒にね。」 警告音が鳴る。「トランスワープチューブよ。右舷前方 2.3光年の距離。キューブよ、まっすぐこっちに向かってくる。」
「インターセプトまでは?」
「1時間、それ以下かも。」
アニカが呼んだ。「パパー!」
「今行く、アニカ! Mクラスの惑星を探せ。必要なら、船を捨てる。」
ハンセンは寝室に入った。「どうした?」
アニカ:「私たち同化されちゃうの?」
「そんなことはさせない。さ、寝なさい。パパたちはお仕事だ。」
「ボーグは怒ってるの?」
「いや。」
「じゃどうして追いかけてくるの?」
「興味をもっただけだよ。パパたちと同じにね。大丈夫だ。近くには来させないから。」
「おうちに帰りたい。」
「…すぐだよ。」
ハンセンはアニカにキスをした。
出ていこうとするハンセンに、アニカは聞いた。「パパ、ドローンになる時って痛い?」
「寝なさい。」
ハンセンが出ていった後も、目を閉じないアニカ。
ジェインウェイはパッドでハンセンの観察ノートを読んでいた。ドクターが話しかける。「艦長。通信システムの調整を提案したいんですが。」
「何?」
「セブンの頭部の配線図を調べて、彼女の脳内ビーコンの周波数がわかりました。スフィアに追いつけば、セブンにメッセージを送れます。」
「既に集合体とリンクされてたら?」
「ドローンごとに別のリンクシグナルをもっています。メッセージはセブンにしか聞こえません。」
「じゃ、手伝うわ。」
作業にかかるジェインウェイ。ドクターはパッドに目を通した。「観察ノートか。軽い読み物じゃないな。」
「見逃したものがないか、最後の記述を詳しく調べてたの。歴史を繰り返したくはないから。」
「彼らは引き返すべきでした。1千万テラクワッド※18のデータ、3年もの観察。」
「あと 30年研究を続けても、ボーグのほんの上っ面を引っかくだけだったでしょうね。彼らのやり方は常軌を逸してたけど、偉大な探検家は大抵そうよ。」
「でも大抵は、4歳※19の娘を連れていったりはしません。」
「セブンは助け出す。両親の手を借りて。」
コンピューターの音が鳴る。パリス:「艦長、スフィアの現在位置確認しました。この場所から、200光年の距離にいるようです。」
ジェインウェイ:「非常警報。マルチ適応シールドを起動、その座標にコースをロックして、トランスワープ解除の準備をするように。」
デルタ・フライヤーは通常空間に戻り、ボーグのユニコンプレックスに近づいていく。ジェインウェイ:「状況は?」
トゥヴォック:「堅固な構造体を数千も感知しています。生命体は数兆。ボーグです。」
パリス:「キューブが来る。左舷前方から急速接近中。」
キューブは近づいてきたが、そのまま通りすぎた。
ジェインウェイ:「探知されたの?」
トゥヴォック:「そうは思えません。」
「例のスフィアはいる?」
パリス:「見つけました。スフィアのイオンサインがあるのは、あの…何なんだ、ここは。」
「向かって。スラスター最小出力。トゥヴォック、セブンのスキャンを始めて。」
トゥヴォック:「了解しました。」
クイーンの部屋。セブンに話す。「お前に仕事がある。強固に抵抗する種族の同化のため、新たな工作を計画している。そのための、ナノプローブをプログラムしろ。」
「集合体を離れて以来技術が進んでいる。私では不充分だ。」
「標的の種族に対する知識が重要なのだ。」 ヒューマノイドの立体映像が表示された。「生命体5618※20。人類。頭蓋容量は平均以下。重複システム最低限、再生能力にも限界がある。前回同化を試みた時は直接攻撃のみで、失敗した。そこでもっと確実な戦略を使うことにした。」
「地球の大気圏で生物兵器を爆発させるというのか。」
「ナノプローブウィルスを全生命体に感染させる。同化は緩やかだが、彼らが事態に気づく頃には、人口の半分がドローンになる。」
「意味がない。ウィルスの増殖には何年もかかる。」
「これまで待ったのだ。」 地球人の映像が消えた。「中央アルコーヴにアクセスし、ナノプローブのプログラムを開始しろ。ウィルスシークエンサーを強化するのを忘れるな。お前は何百もの同化に関わった。今度も同じことだ。」
「あなたにはそうだろう。私の一部は人間だ。人類の根絶に手を貸す気はない。」
「我々の全員が劣等種族出身だ。私も以前は生命体125※21 だった。だがそんなことは関係ない、我々はボーグだ。」
「私は一個の個人だ…」
「彼らの言葉を繰り返すだけ。お前は心のない機械のようだな。従うのだ。でなければドローンに戻すしかない。」
「やるがいい。そうしたければな。」 クイーンの合図で、ボーグが集まってきた。「戻りたい欲求と人間への忠誠で、心は引き裂かれている。己の職務をまっとうするのだ。今の感情も、悲嘆も、自責も、同情も、罪悪感も、人類を同化してしまえば無意味なものとなる。ヴォイジャーを忘れろ。お前の集合体はここだ。」 大きくなるクイーンの声。
「私はアニカ・ハンセン、人間だ。」
「アニカなら覚えている。お前もそうか?」
幼い自分の姿のフラッシュバック。
クイーン:「彼女は恐れなかった。お前はどうだ。」
息を荒げるセブン。レイヴンのスクリーンに映るボーグ・キューブのフラッシュバック。「お前は我々を、私の家族を殺したんだ!」
「誰も殺してなどいない。完全性を与えた。」
クイーンが見たほうから、一体のボーグが姿を現した。
セブン:「…パパ…。」 それはマグナス・ハンセンのドローンだった。
クイーン:「家族はここにいる。お前と一緒に。我々と一つになれ。」
突如、ジェインウェイの声が聞こえた。『セブン・オブ・ナイン、助けに来たわ。待っていなさい。』
セブン:「艦長。」
クイーン:「今何と言った。」
「……何も。」
クイーンはセブンのあごをつかんだ。「……ジェインウェイか。」
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※15: 「レイヴン号」と吹き替え
※16: 正確には亜空間粒子嵐 (subspace particle storm)
※17: ミュターラ級星雲 Mutara-class nebula 星間ガス雲の形態。VOY第93話 "One" 「放射能星雲の孤独」など
※18: teraquad クワッドは連邦コンピューターシステムにおけるデータ保存・送信の単位。TNG第128話 "Realm of Fear" 「プラズマ放電の謎」など
※19: 以前 (第70話 "The Gift" 「ケスとの別れ」) の設定とは食い違っています。そのエピソードではセブンは宇宙暦 25479 =西暦 2348年生まれと言及されているので、第5シーズン時点では 27歳となります。ところがレイヴンの時点=2355年で 4歳ということは 2351年生まれとなり、3歳のズレが生じています (この時点で 24歳)
※20: Species 5618
※21: Species 125
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