ヴォイジャー 特別エピソードガイド
第144話「ジマーマン博士の屈辱」
Life Line
イントロダクション
※1※2惑星連邦所属の宇宙基地。太陽系第5惑星、木星の軌道上にある。 近づくシャトル。操縦しているのはバークレイ※3だ。「ドーキンス号※4より木星ステーション※5。」 女性:『どうぞ。』 「こちら、レジナルド・バークレイ大尉。ドッキング許可願います。どうぞ。」 『許可します。』 部屋のチャイムが鳴る。 男の声。「ああ、何だ?」 バークレイ:『僕です。あの…バークレイです。』 「入れ。」 部屋にはイグアナがいる。 バークレイ:「ジー博士※6。ご気分は?」 パッドを読んでいたルイス・ジマーマン※7は、バークレイの方を向いた。「一体どこへ消えてたんだ?」 「忙しかったもので…。その…パ…パスファインダー計画※8で。」 「まだ、あの船を捜してたのか。パイオニア※9とかいう。」 「いえ、ヴォイジャーです。」 「ヴォイジャーね。成果は?」 「それが…すごい成果がありまして、通信が…つながるようになったんです。」 「めでたいねえ。初の銀河間通話なるか。」 ため息をつくジマーマン。かなり老けたようだ。作業を続ける。 バークレイ:「……医療センターから何か連絡は。」 「ヘボ医者ども。私を散々スキャンや検査にかけて、未だに原因も特定できん。」 「きっと、もうすぐいい…」 「わたしゃ死ぬんだよ! 治せる者などいやしない。」 |
※1: このエピソードは 2000年度エミー賞、特殊映像効果賞にノミネートされました ※2: 原案 (Story) の一人はドクター役のロバート・ピカードです ※3: Barclay (ドワイト・シュルツ Dwight Schltz) VOY第130話 "Pathfinder" 「遥か彼方からの声」以来の登場。声: 岩崎ひろし ※4: シャトルクラフト・ドーキンス Shuttlecraft Dawkins 9型シャトルクラフト。恐らくリチャード・ドーキンス (Richard Dawkins) にちなんだ命名。1941年生まれのイギリス人生物学者で、「利己的な遺伝子」の著者 ※5: 木星基地、ジュピター・ステーション Jupiter Station VOY第6話 "The Cloud" 「星雲生命体を救え」など。外観は初登場 ※6: Dr. Z ※7: Lewis Zimmerman 宇宙艦隊の木星ステーションのホロプログラミング・センターにいる宇宙艦隊技術者。VOY "The Cloud"、VOY第19話 "Projections" 「ホログラム」で言及。VOY第46話 "The Swarm" 「ドクターのオーバーロード」では EMH のメンテナンス用ホログラムとして登場。(以下 DS9第5シーズンネタバレ) 3年前に DS9第114話 "Doctor Bashir, I Presume" 「ジュリアンの秘密」に登場した時よりかなり老けていますが、病気のせいだと思われます ※8: Pathfinder Project VOY "Pathfinder" より ※9: 1970年代に打ち上げられた宇宙探査機、パイオニア10・11号とヴォイジャー1・2号に関連したセリフだと思われます |
本編
地球と月。通信が送られる。 起動するミダス・アンテナ※10。 パルサー。 そして、ヴォイジャー。 天体測定ラボで作業をしていたセブンは、コンピューターの反応に気づいた。スクリーン上に大量のデータが表示される。通信するセブン。「セブン・オブ・ナインよりブリッジ。」 ジェインウェイ:『何?』 「通信が入っている。艦隊からだ。」 ジェインウェイを見るパリス。 ジェインウェイ:「回して。」 操作するセブン。「通常の通信ではない。圧縮データストリームだ。かなり劣化している。」 ジェインウェイ:「そっちへ行きます。」 席を立つ。 会議室。 ジェインウェイ:「艦隊から届いたのは小さな小包よ。これだけのデータしか送れないって。来月まではね。」 トレス:「来月?」 チャコティ:「ミダス・アンテナからのシグナルを増幅するのに、パルサーを使っている。それで、その周期が 32日らしい。」 ジェインウェイ:「これから毎月、短いけど艦隊からメッセージが届きます。約17時間の間、返信できるの。※11」 チャコティ:「今回受け取ったのは艦隊の状況、家族の手紙、そしてアルファ宇宙域でのニュースだ。」 キム:「帰る近道が見つかったとか?」 「それはなさそうだ。」 ジェインウェイ:「返信は急がなくちゃならないし、短くしないとね。でもクルー全員に機会を与えるつもりよ。たとえほんの一言でもね。」 トゥヴォックのそばで言うジェインウェイ。そして命じた。「全艦に知らせて。」 パリス:「了解!」 キム:「はい艦長。」 ジェインウェイ:「バークレイ大尉のパスファインダー計画よ。見捨てられてなかった。返事を書くときには、お礼を忘れずにね。」 医療室に入るニーリックス。「手紙だよ!」 ドクター:「手紙? 私に?」 パッドを読む。「バークレイ大尉からだ。」 ドクターの笑顔が消えていく。 ニーリックス:「悪い知らせか?」 「ジマーマン博士が、ひどい重病らしい。」 「ジマーマン?」 「近代ホログラムの父だ。私のプログラムを考案したのが彼だよ。」 「へえ。どこが悪いんだ?」 「被細胞に、急激な劣化が起こっていて、『医師団も原因をまだ特定できずにいる。医療ファイルを添付する。見通しはあまり良くなく、余命 2、3ヶ月。嬉しい知らせでなく悪いが、知りたいだろうと思った。』」 「博士とは長いのか。」 「会ったことはないよ。」 「返事を送るなら、19時までに用意しろってお達しだ。」 出て行くニーリックス。 コンピューターにジマーマンの写真が映っている。 医療室に入るセブン。「これが、依頼されたデータだ。」 ドクター:「すまない。」 「博士の医療ファイルか?」 「艦隊に、私の所見を送ろうと思う。完璧とは言えないが、デルタ宇宙域での経験が役に立つだろうと思ってね。ボーグの再生技術を応用すれば、ジマーマン博士の治療は可能かもしれない。」 ジマーマンの写真を見るセブン。「お前と非常によく似ているな。」 「博士自身が、私のマトリックスのモデルだ。名案だったねえ。医者は患者の信頼を得なきゃならないんだ。思いやりある瞳と、力強いあごは役に立つ。」 ため息をつくセブン。 作戦室。 ドクター:「治療法を見つけたんです。」 ジェインウェイ:「どんな?」 「ヴィディア人がいましたね。彼らのフェイジ※12の初期症状と、ジマーマン博士の症状は似ています。ですから、ボーグの再生技術を応用できると思うんです。細胞の崩壊を食い止め、治癒も可能かもしれない。」 「その情報は間違いなく伝えます。ご苦労様。」 「艦長…私自身が治療を行いたいんです。」 「それどういうこと?」 「私のプログラムをアルファ宇宙域へ送って下さい。艦隊にボーグ・テクノロジーのわかるドクターはいない。最低限理解するだけでも恐らく数ヶ月かかります。」 「私たちにもあなたが必要です。」 「医療室はパリスに任せられます。…以前にそうしたこともあったじゃないですか。」 「3年も前よ。しかもエイリアンの技術を使って。※13」 「セブンに話しました。私のデータを圧縮できると言ってます。」 「容量は限られてるのよ。それじゃほかのクルーは何も送れなくなる。」 「クルーに犠牲を強いるのは私もわかっていますが、来月があるじゃないですか。博士にはその時間がないんです。」 「お気の毒には思うけど。ユニークな人ね。一度会議で会ったけど、参加者全員を怒らせてた。でも確かに優秀だった。艦隊が最高の医師団をつけてるはずよ、ドクター。」 「それでも、誰一人治療法を見つけられないんですよ。私にしても、3万光年先からでは治療できません。」 「無理よ。」 「艦長!」 「今回初めてデータを送るのよ。成功するかどうかもわからないんだから。」 「リスクは承知の上です。」 「許可できません。」 「私のプログラムを、全て設計した人ですよ。博士なしに今の私は存在しないんです。博士には恩があります。艦長たちもじゃないですか。私が救った命全てが、博士のおかげなんですよ。」 「ジマーマンは艦隊 EMH の雛型を作った。あなたは数千の EMH の一つに過ぎない。父親ってわけじゃないのよ。」 「艦長にはそうでしょう。でも私には、親とも言える存在です。このチャンスを逃したら、助けられないかもしれない。」 「…でもトムが配置換えを納得するかしらね。」 「もう、了解はとりました。」 「……ジェイン艦長※14がよろしく言っていたと伝えて。ずっと私をそう呼んでたの。ただ怒らせるためでしょうね。」 「噂は聞いています。偏屈だとか。」 「自分の目で確かめてくればいいんじゃない?」 「ありがとうございます。」 |
※10: ミダス・アレイ MIDAS Array VOY "Pathfinder" より。前回は、そのまま「ミダス・アレイ」と訳されていました ※11: 「こちらからも 17時間分のデータを送れるの」と誤訳 ※12: 「疫病」と吹き替え ※13: VOY第82話 "Message in a Bottle" 「プロメテウスの灯を求めて」より ※14: Captain Jane |
鼻歌を歌っているドクター。そのまま声を出して唄おうとするが、一瞬変な音になり、それ以降は声が出ない。隣で作業をしているセブンのところへ行く。「音声プロセッサーが。」 「機能異常ではない。歌唱アルゴリズムを除去した。帰るまでメモリーバッファーに保存しておく。」 「どうして!」 「お前のプログラムは大きすぎる。不要なサブルーチンを除去するしかないんだ。」 「不要なもんか。それあっての私だ。」 「滞在中にオペラを歌う予定があるのか。」 「いいや。」 「詩の朗読の予定は?」 「ないね。」 「ホヴァーボール※15は? ホログラム写真は?」 「記録のためにスナップを撮るかもしれないだろう。」 「性的交渉は?」 「…わかったよ。どれぐらい置いてかなきゃならない。」 「12メガクワッドだな。」 「ふーん、運動能力は、取り除いてもいい。それにチェスプログラムもねえ。」 「あと 3メガクワッドだ。絵を描くスキルは?」 「ああ……仕方ない。拡張プログラムも、少しは残してくれ。そこらの EMH と、同じと思われたくないんだ。……私の成長ぶりに博士は興味をもつだろうからねえ。自分のプログラムが、ここまで成長するとは思ってなかっただろう。ホログラム研究が、飛躍的に進歩するかもしれないな。」 天体測定ラボ。 ドクターはスクリーンの前に立った。 ジェインウェイ:「ボン・ヴォヤージュ。」 「1月後に。」 合図するジェインウェイ。 キム:「迷子になるな。」 キムがモバイルエミッターを外し、ドクターは消えた。 木星ステーション。 レプリケーターの野菜の上に、ハエが止まっている。 女性:「もう、一体何度言ったらわかるの? 食べ物には近づかないでちょうだい。」 手で追い払う。 ジマーマンの通信。『ヘイリー、私の昼飯はどうなっとるんだ!』 応えるヘイリー※16。「今持っていきます!」 『そうでなくとも具合が悪いのに、餓死させる気なのか!』 またハエを追い払うヘイリー。 チャイムが鳴る。ヘイリー:「どうぞ。」 バークレイが入ってきた。「ヘイリー。」 「大尉。悪い知らせ?」 「いや、その反対なんだ。博士は。」 「誰にも会いたくないって。」 「あ…急用だと、伝えてくれない?」 「ご機嫌悪いのよ。」 「これで、ご機嫌が…直るかもしれないよ。」 持ってきたケースから、小型機械を取り出す。「コンピューター、ダウンロードは済んだ?」 『完了しました。』 食事を持って入るヘイリー。「ランチよ。」 ジマーマンは匂いをかぐ。「ポークチョップじゃないな。」 「サラダです。」 「誰が頼んだ。」 「ヘルシーなの。」 「どうせ死ぬんだ。肉ぐらい食わしたらどうだ。葉っぱはレナード※17にやれ。ダイエット中だからな。」 「バークレイ大尉が来てるわ。」 「誰にも会わんと…」 「急用なんですって。」 「私が死ぬまで待て。……いいよ、通せ。3分だぞ、3分だからな。」 「ちゃんと聞いてあげて。心配してるのよ。みんながね。」 サラダを口へ運ぶジマーマン。ヘイリーが出ていくと、食べずに横へやった。 入れ替わりにバークレイが入ってくる。「帰るとうちで友達が待ってたんですよ。」 「友達など、おらんだろ。」 「まあ、そうですけど。正確には、博士の友達です。」 機械を操作すると、ジマーマンの後ろにドクターが姿を現した。「緊急事態の概要を述べて下さい。」 怪訝な顔をするジマーマン。微笑むドクター。 ジマーマン:「EMH マーク1 か。ノスタルジーに浸る気分じゃない。」 バークレイ:「でも…ヴォイジャーから来たマーク1 ですよ。」 ドクター:「圧縮されてデータストリームに乗り、デルタ宇宙域からやって来ました。」 ジマーマン:「よかったな。木星の第3衛星※18のツアーがお勧めだ。この時期、溶岩流が見事らしいからな。」 「休暇で来たんじゃありません。博士の治療に来たんです。」 ドクターの顔を見た後、バークレイに言うジマーマン。「……そのためにわざわざ 3万光年向こうから、マーク1 を呼び寄せたのか。お前を見くびってたよ。ユーモアのセンスがあるな。」 ドクター:「どんなジョークなんです?」 「言ってないのか?」 ドクターもバークレイを見る。「何を言ってないんだ!」 バークレイ:「だから、その…」 ジマーマン:「お前はとっくに、終わったんだ! 時代遅れの遺物だよ。」 ドクター:「私のプログラムは退役に?」 「退役? とんでもない。EMH マーク1 は仕様変更され、ゴミの輸送船でプラズマコンジットの中をせっせと洗ってるさ! マーク3 の診察も受けたし、マーク4 もだ! 艦隊一優秀な本物の医者団でもな! 誰も私を治せん!」 バークレイ:「でも彼は、6年も未踏の地で、医療を続けてます。宇宙艦隊の…どの医者も、診てないケースも診てます。」 ドクター:「偏屈な患者に対する忍耐力も人一倍ですし。」 ジマーマン:「…皮肉を言うようには作ってないぞ。」 「もっと驚くこともあると思いますよ。」 「この名医をプラズマジェネレーターへ案内しろ。相当数がたまってる。」 「時間があれば、皮肉の応酬も楽しいでしょうが、差し迫った問題があるので遠慮します。命です。デルタ宇宙域固有の疫病をベースに、治療法を考えました。ですが治療前に徹底した検査が必要です。しかし…もし程度の低いマーク1 にできることなどありとしないとお考えなら、無駄なことはやめて、荷物をまとめて硫黄の火山でも何でも見に行った方がましでしょうねえ。」 しつこく避けていたジマーマンだが、ついにあきらめた。「勝手にしろ。好きなだけスキャンしろ。」 バークレイ:「僕は出てるよ。」 部屋を後にする。 トリコーダーを使うドクター。「初期症状はどんなでした?」 ジマーマン:「髪の毛がゴソッと抜けた。」 無言のドクターにため息をつく。「疲労感、吐き気、関節の痛み。」 「最近太陽系外に出ましたか。」 「何の関係がある。」 「質問に答えて下さい。」 「4年以上も木星ステーションを離れてない。※19」 「知る限りで、シータ放射線に被爆したことは。」 「ない。」 「中性子束は。」 「ない。一度もない。」 「ボリアンと性的関係をもったことは。」 「どれも医学部の 1年生が聞くような質問ばかりだな。」 「基本は大事ですから。」 「キホンはダイジです。」 突然奇妙な声が聞こえた。 ドクターが見た方には、イグアナがいる。「それが、しゃべったんですか?」 ジマーマン:「レナードって名がある。ホログラムだ。」 ため息をつくドクター。「コンピューター、イグアナ消して。」 レナードは消えた。 ジマーマン:「何をするんだ!」 「私は飼育係じゃありません。※20ここで疫病が発生したことは?」 「ないよ! 質問はたくさんだ。スキャンしてさっさと出てけ!」 「博士。」 「出てけと言ったんだ!」 「博士のために銀河を半分越えてきたんですよ。少しは感謝してくれてもいいでしょう。」 「ありがとう。さあ、出てけ!」 「私が必要でしょう。博士を救えるのは、私だけです。」 「思いあがるな。私が作ったマトリックスだぞ。この手で葬ってやる。」 「私はもう、プロトタイプじゃない。元の能力を遥かに超えてる。博士の思い通りにはなりませんよ!」 こぶしを握り締めるドクター。 「ほう、そうかな。コンピューター、EMH を居住区へ移せ。」 消えるドクター。 そのままの姿でバークレイたちの前に現れる。 バークレイ:「どうだった?」 ため息をつくドクター。 |
※15: hoverball 反重力浮遊装置と、限られた推進システムを装備した小さなボールを使ったスポーツ。TNG第67話 "Captain's Holiday" 「大いなるホリディ」など ※16: Haley (タマラ・クレイグ・トーマス Tamara Craig Thomas) 声:本田貴子 ※17: Leonard レナード・H・マッコイと関係…ないかも ※18: 現在知られている内側から 3番目の衛星はアマルテア。また、4つの大きな衛星、ガリレオ衛星の 3番目はガニメデ ※19: (DS9第5シーズンネタバレ) 少なくとも 3年前に DS9 "Doctor Bashir, I Presume" で DS9 を訪れているので、明らかな矛盾です ※20: "I'm a doctor, not a zoo keeper." |
居住区。 ドクターがやって来た。「ミダス・アンテナを起動して! もう帰る。」 バークレイ:「ちょっと。今度は何だい。」 「ミトコンドリアをスキャンしたんだ。スキャン結果が、どうも妙だったんで、1時間かけて分析した。何がわかったと思う。ミトコンドリアは、カンガルー※21のだ。私のトリコーダーに細工したんだ!」 トリコーダーを投げ捨てるドクター。バークレイは笑いそうになる。 ドクター:「そんなにおかしいか。」 「いや、それほどでも。」 ヘイリーは言う。「かなり進歩したんじゃない?」 ドクター:「何がだ。」 「気に入った人しかからかわないの。」 「なら愛されてるね。」 バークレイ:「ということはまだ、診断は…できていないんだね。」 「ああ、全くね。でも一つだけ病名がはっきりしたよ。頑固病だ!」 ハエが飛んでいる音がする。 バークレイ:「ロイ※22だよ。」 ドクター:「わかった。ホログラムだ。」 「いや、艦隊情報局から委託されてる、実験段階のマイクロ偵察機なんだけど、ジー博士にとっては…ペットでね。」 「スパイのハエに、しゃべるイグアナ! どこが研究ステーションだ! まるで…スリー…リング…サーカスだ! 金でも取ればいい!」 本を使ってロイを追い払うドクター。 「まあ、あ、待って! どうせあと 2週間は君を送り返せない。頼むよ。あと、ちょっとがんばってくれ。」 「患者に近づけないのに、どう治療しろってんだ。カウンセラーがいるね!」 相変わらず飛びまわるハエ。ドクターはドン! と本をテーブルに置いた。音は消えた。 ドクター:「一つ、問題が減ったな。」 本を取り、ヘイリーと顔を見合わせるバークレイ。 「ディアナなら、何か名案を…思いつくかと思って。」 バークレイが通信している相手は、ディアナ・トロイ※23だ。 『そう簡単にはいかないのよ、レジ。ジマーマン博士は複雑な人物のようだし、直接会って話をしないと何とも言えないわね。』 「ならカウンセリングを受けるよう説得してみるから。」 『エンタープライズは今、任務遂行の最中よ。そこから 7光年近く離れてるわ。』 「大事な任務?」 『任務に優劣はないでしょ。』 無言になるバークレイ。 トロイ:『ジェンゾ・カウンセラー※24に紹介ならできるわ、地球にいるから。』 「一番の人でないと。」 『……まあ、カウンセリングのしがいはありそうね。』 「ありがとう。助かるよ。ありがとう。」 『まだ早いわよ。まずはピカード艦長の許可をとらないとね。許可が出れば、来週の頭にはそっちへ行けると思うわ。』 「じゃあその時に。」 バークレイは通信を終えた。 ヴォイジャー作戦室。 チャイムが鳴る。 ジェインウェイ:「入って。」 チャコティ:「何か…」 「うーん。」 「トラブルで?」 「どうなのかしらね。ヘイズ提督からのメッセージを聞いたところなの。」 「偉い友達がいてうらやましい。」 コンピューターを操作するジェインウェイ。ヘイズ※25の姿が映される。『ジェインウェイ艦長。元気でいてくれると思う。想像を超える苦労だったようだが、諸君の不屈の努力に、艦隊司令部一同、敬服する思いだ。地球への速やかな帰還の方法も、継続して検討中だ。2隻のディープスペース艦をそちらへ向かわせている。順調に行けば、5年から6年以内にはランデブーできる。』 ジェインウェイ:「コンピューター、タイムインデックス 121.4 に進めて。」 続きが再生される。『…近くなれば、通信も頻繁に交わせる。今回、必ず報告して欲しいのは、まず死傷者の数だ。犠牲は少なくなかっただろう。そのほか、今のクルーの状況や、マキの件、ボーグとの接触、いろいろと聞きたいが、それは時期を待とう。我々がついてる。ではまた、次回。』 チャコティ:「……それで?」 ジェインウェイ:「『マキの件を聞きたい』。」 「もっともじゃないですか。」 「私は、あなたやベラナをマキだとは思ってないわ。もう大事なクルーの一員よ。」 「でも我々は忘れてません。……提督の言う通りなら、その件で揉めるのは 5年後だ。その時、考えましょう。」 「お昼の予定はある?」 「お誘いですか?」 「返信を書くの手伝って欲しいんだけど。」 「いいですよ。」 木星ステーション。 サラダを用意するヘイリー。「博士、お昼よ。」 ジマーマンの声。『あー、あー。』 「ねえ、大丈夫?」 『あーヘイリー、大丈夫。ちょっと待ってくれ。』 ジマーマンは台の上に寝て、マッサージを受けている。「あー、あー。下。あー、そこだ。こうでなきゃ。」 マッサージしているのは、ターラク人※26の女性だ。 ジマーマン:「この 2、3日、私がどんな目に遭ってたか、君は知らんだろう。あー、あー、夕べ…目が覚めると、奴がいて、ハイポスプレーを手にのしかからんばかりだった。…たかが光子の固まりだ。それが偉そうに…」 ジマーマンは、女性が医療トリコーダーを使っているのに気づいた。取り上げる。「何だ? 何だ、トリコーダーか! スキャンしてたのか! コンピューター、ヴォイジャーの EMH を呼べ。」 異星人の姿が消え、その場所にドクターが現れた。 ジマーマン:「お前か!」 「落ち着いて下さい。興奮すると症状が悪化するだけですから。」 「悪化してる理由を教えてやろうか。お前だ!」 「検査をさせて下さい!」 トリコーダーを取り返すドクター。 「医療倫理委員会に訴えてやる!」 「博士!」 「聴聞会で聞こう!」 「頑固な人だ。私はあなたを助けたいだけです。」 「誰が頼んだ! どうしてほっといてくれない!」 「私も不思議でしょうがない。ですが博士のことが大切だからです。」 「…そんなプログラムはしてない。お前はメスさえ握ってればいいんだ。」 「私は博士が 6年前作った EMH とは違うんですよ。」 「歌もダンスもお得意だったな。フェレンギのバーにインストールしてやろうか。」 「ヴォイジャーのクルーは、拡張プログラムを楽しんでくれてます。」 「ここはヴォイジャーじゃない! ここは、私の研究所だ! 私の研究所では、お前はただのホログラムなんだ!」 「博士が作ったプログラムです。博士のおかげで、私はここにいるんです。」 「だからわざわざ来たのか。そんな…下らん恩義を感じたせいでか。一つ教えてやろう。恩に思われるなんて迷惑だ。」 通信が入る。 ヘイリー:『博士?』 ジマーマン:「ああ、ヘイリー、何だ。」 『お客様よ。』 トロイが部屋に入った。「こんにちは、ディアナ・トロイです。……どちらがジマーマン博士なの?」 |
※21: 原語では「ヴァルカンの有袋動物 (Vulcan marsupial)」 ※22: Roy ※23: Deanna Troi (マリーナ・サーティス Marina Sirtis) VOY "Pathfinder" 以来の登場。声: 高島雅羅 ※24: Counselor Jenzo ※25: ヘイズ提督 Admiral Hayes (ジャック・シュアラー Jack Shearer DS9第17話 "The Forsaken" 「機械じかけの命」のヴァドシア (Vadosia)、DS9第63話 "Visionary" 「DS9破壊工作」のルワン (Ruwon)、VOY第21話 "Non Sequitur" 「現実への脱出」のストリクラー提督 (Admiral Strickler) 役) VOY第94話 "Hope and Fear" 「裏切られたメッセージ」以来の登場。映画第8作 "Star Trek: First Contact" 「ファースト・コンタクト」にも登場。声: 村松康雄 ※26: Tarlac エローラ人と共にソーナ人に支配された種族。映画 "Star Trek: Insurrection" 「スター・トレック 叛乱」に登場 |
ジマーマンはトロイに近づく。「ディアナ・トロイ? またお前の手品か。」 「何ですか?」 ジマーマンはトロイの腕をつねった。「痛い!」 ドクター:「ホログラムだと思ってます。」 「正真正銘の本物です。」 ジマーマン:「ああ…いや、さっき美女が変身してこいつになったんでね。」 ドクター:「誉め言葉だととりましょう。」 「フン。」 トロイ:「取り込み中だったかしら?」 ドクター:「いいえ、丁度良かった。この患者は末期症状に伴う、激しい不安感にさいなまれています。そのせいで、広場恐怖症、被害妄想、極度の敵がい心もあります。」 「なるほど。」 「ふむ。」 「座ってよろしい?」 ジマーマン:「どうぞ。」 トロイはイグアナのレナードに気づいたが、無視して話し続ける。「レジによると、診察させないそうですね。」 「時代遅れのマーク1 だ。クリンゴンの衛生兵に診てもらった方がましだよ。」 「彼が有望な治療法を見つけたと聞きましたけど。」 「ボーグには効くさ。こいつは薄気味悪い、同化技術を使うと言ってる。私は実験台じゃない!」 ドクター:「どんな技術か聞こうともしない。ここへ来た瞬間から、私を侮辱し、骨董品のように扱って。たとえ骨董品でも、ここへ来るのに大きなリスクを払ってきたんです。艦長に頭を下げて。ヴォイジャーの任務を放棄してまでね!」 トロイ:「ドクター、考えてみて。あなたのプログラムが損傷を受けたとして、ただ一人直せると言ってるエンジニアが過去から来た人だったら? 例えば、100年前だとか。安心して任せられる?」 「ちゃんと、技術があって、知的な人物ならね。」 「本当にそうかしら? 100年前のエンジニアよ。」 「多少考えはするでしょうね。」 ジマーマン:「ハ!」 トロイはジマーマンに言う。「逆に、ドクターの立場になってみて下さい。博士が大事に思ってる人を治療しに来たとします。EMH マーク12 とか。」 「マーク12 なんてない。」 「あったとしてです。そのプログラムをどうしても救いたい。でも彼はあなたを近づかせようともしない。あなたがデイストロム賞※27をとってたとしても、まるで関係ない。彼にとってあなたは、時代遅れだからです。でも助けられると、確信してたら?」 ため息をつくジマーマン。 ドクター:「カウンセラー、気づかせて下さって助かりました。過去のことは水に流しましょう。お互いに。」 ジマーマン:「……いいだろう。第6デッキのプラズマコンジットを掃除したら考えよう。」 トロイ:「ジマーマン博士。」 「原始的なホログラムに命を任せられるか!」 ドクター:「その石頭を治すには、フェイザードリルが必要でしょうね!」 「出てけ!」 トロイ:「2人とも!」 「ああ、精神分析などクソ食らえだ。」 「ここへ来るまであなたたちはきっと、コインの裏表だと思ってました。元は同じだけど正反対。でも 2人ともそっくり同じだったわ! 大馬鹿よ!」 出ていくトロイ。 「オオバカ。」 イグアナが言った。 頭を抱えるトロイ。「レジ、私では役に立てそうにないわ。」 バークレイ:「あなたならやってくれるはずだ。いつものように。」 ため息をつくトロイ。「来た時より事態が悪くなってるのよ。博士は研究室から出てこないし、EMH はホロデッキだし。」 「ドクターはホームシックなんだ。ホロデッキのヴォイジャー・シミュレーションで元気が出たんじゃないかな、少しは。」 「ホログラムが自分を作った人物を救おうとしている。そして、そのホログラムは作った彼自身の人格を反映してるだなんて。向かい合わせるだけでセラピスト一チーム必要ね。」 レプリケーターから、ヘイリーがアイスをもってきた。「大尉※28から、このアイスがお好きだって聞いて。」 「優しくされると気が引けるけど、ありがとう。あなたホログラム?」 「わかります?」 「私エンパスなの。あなたからは感情が伝わってこない。最初に起動したのはいつ?」 「9年前です。」 「…気を悪くしないで。あなたの方が、EMH マーク1 より更に古いのに、博士はあなたの言うことは聞くでしょ? どうしてだと思う? マーク1 ができた時、ここにいたの?」 「はい。」 「博士が自分の顔を使った理由知ってる?」 「直接聞かれた方が。」 「聞いたわ。でもはぐらかされただけ。あなたなら知ってるかなあって。」 「マーク1 は博士の誇りでした。自分のホログラムが、宇宙の隅々で人の命を救うのを夢見て、開発に心血を注いでいたんです。自分に似せるのが、自然なことだったんだと思います。」 「でもマーク1 は艦隊の期待に添えなかったのね。」 「打ちのめされてました。」 バークレイ:「それで、博士は 2年も、ここにこもって欠陥を直そうとしたんだが…結局は…あきらめたんだよ。で、一から作り直した。新しいマトリックスに。」 トロイ:「マーク2※29?」 「その後マーク3、それから…マーク4 も作った。完璧にしなきゃ、気が済まなくて。」 「後継モデルは、どれも博士に似てないのね?」 ヘイリー:「ひどい思いをしてますから、その後は二度と。」 「そして今、何年も経ってから、マーク1 が現れたのね。……鏡を突きつけられたみたいに、思い出したくもないものが見えるわけね。」 アイスを口にするトロイ。 独りでいるジマーマン。「コンピューター、録音開始。最期の遺書、ルイス・ジマーマン。どこまでだったかな。確か第8項だ。『トロイの木馬計画』。上記の名前の私の最新研究、ホログラムの潜入技術については、完成させうる唯一のエンジニア、レジナルド・バークレイに譲る。」 棚にいろいろな物が置いてある。「第9項、『ホログラム・アート』。コレクションの譲渡先を指示する。21世紀の傑作である、『四次元の女』※30も含め、最も理解してる者に譲る。これも、レジ・バークレイだろうな。第10項。『ヘイリー』。ホログラムではあるが、長年忠実な助手であり続けた。この基地が存続する限り、機能させ続けることを、宇宙艦隊に切に要望する。」 ジマーマンが座ったコンソールの上には、イグアナのレナードがいる。「現実の友人に勝るとも劣らなかった。友人なんていないがな。友達はホログラムばかりだ。」 突然苦しみ出すジマーマン。「…録音一時停止…。」 飲み物を飲む。落ち着いたジマーマンはレナードに言った。「お前の行き先も見つけてやる。」 木星ステーションのホロデッキ。ヴォイジャーの医療室が再現されていて、ドクターが作業をしている。 トロイが入る。「これがヴォイジャーね。いいじゃない。」 「かなり忠実ですよ。大尉※28は 2、3間違えてますがね。ニーリックスは喉を鳴らしません。」 笑うトロイ。「それ、レジのネコ※31のせいだと思うわ。その人の名前をとったの。」 「ニーリックスが喜びます。博士の医療ファイルを取りに来たんなら、ほぼ記入を終えました。次の医者が役立ててくれるでしょう。」 「そうじゃなくて、実は食事のお誘いに来たんだけど。」 「ホログラムは食事はしません。」 「それはわかってるけど、みんな待ってるの。」 「みんな?」 「レジとヘイリー、私に…多分、ジマーマン博士。」 「遠慮します。あんな男と食事なんてとんでもない。」 「かしこまらずに、みんなでいろんなことを話し合う、とてもいいチャンスだと思うんだけど。」 「嫌です。」 「一度だけだから。」 「断ります!」 その時、ドクターの映像が乱れた。 「ドクター?」 「おかしいぞ。」 連絡するトロイ。「トロイよりバークレイ大尉。」 バークレイ:『何か?』 「EMH の様子が変なの。」 『あの…具体的に言うと?』 ドクター:「彼女はカウンセラーで、エンジニアじゃないぞ!」 『今、見ます。』 消えるドクター。 居住区のバークレイの前に現れるドクター。「どうなってるんだ。」 「その…プログラムが弱まってる。」 「何? どうして。」 「3万光年向こうから来たんだ。予測をつけておくべきだったよ。」 「バークレイ大尉のせいじゃない。損傷を直す方法を見つければいいだけだ。」 「直せないんだ。メインマトリックスが劣化してて、手の施しようがない。」 |
※27: Daystrom Prize デイストロムは恐らくリチャード・デイストロム博士 (Dr. Richard Daystrom) のこと。デュートロニクス・システムを発明した 23世紀のコンピューター科学者。TOS 第53話 "The Ultimate Computer" 「恐怖のコンピューターM-5」に登場。また 24世紀には博士の名前にちなんだデイストロム研究所 (Daystrom Institute) もあります。TNG第35話 "The Measure of a Man" 「人間の条件」など ※28: なぜか、この 2ヶ所だけ「中尉」と誤訳しています ※29: VOY "Message in a Bottle" に登場 ※30: "Woman in Four Dimensions" ※31: VOY "Pathfinder" に登場 |
ジマーマンは言う。「悪性光子を消せるわけだな。」 バークレイ:「彼は死ぬんですよ。」 「死ぬんじゃない、ファイルが劣化しただけのことだろう。」 トロイ:「ヴォイジャーのクルーが彼の帰りを待ってるのよ。」 「マーク4 を送ってやろう。ずっと頼りになる。」 バークレイ:「ドクターじゃなきゃだめなんですよ。友人なんですから。」 「EMH は友人用のプログラムじゃない! ただのホログラムだ。」 ヘイリーが振り向いた。「それじゃ私もそうなの? ただのホログラム?」 ヘイリーを見るジマーマン。「そんな引っかけに乗る気はないぞ。」 「宇宙暦 53292。私に異常が起きた時、ヴァルカン星での講演をキャンセルして帰って来たくれたじゃない。」 「トンガリ耳の、うるさがたが一堂に会してたからな。逃げる口実にしただけだ…。」 「心配で帰ってきてくれたんでしょ? マーク1 も同じはずよ。認めようとしないだけ。彼は完璧じゃないかもしれないけど、あなたが生み出したのよ。あなたが必要なの。見捨てたりしないで。」 3人に見つめられるジマーマン。 サラダを食べながらコンピューターを操作するジマーマン。「コンピューター、EMH を起動しろ。」 ドクターが現れた。「緊急事態の概要を、述べて下さい。」 「お前が緊急だ。」 「バークレイ大尉はどこだ。」 「信じろ。私の方がずっと腕がいい。」 「私を修理するつもりですか?」 ジマーマンは頭が痛むらしい。「あー、適役だ。」 「昨日私を処分すると言ったのに。」 「やらないと、私を脅す連中がいてね。」 「重病人だ。デリケートな作業をこなせる状態じゃない。」 「すぐには死なんよ。静かにしないとお前こそ危ないぞ。」 「それは何です?」 「お前のパターンバッファーに、エラーがある。それを特定してるところだ。」 「フラクタルアルゴリズムですか?」 「ほう、よくわかったな。これでマトリックスを再編成する。」 「フラクタルは不安定で悪名高いのに。」 「下手に扱えばな。おっと。」 「おっと? 何です!」 ため息をつくジマーマン。「コンピューター、EMH を消せ。」 「あ。」 ドクターは消えた。 研究室。 ジマーマンの隣にドクターが現れた。「あ…あ…動けない。」 「だろうな。機動性サブルーチンをオフにしてあるからな。」 「どのくらい機能停止に?」 「17時間だ。」 頭を抑えるジマーマン。「今、パラメーターをリセットする。」 ドクターが再び表示され、動けるようになった。「顔色が悪い。」 「ああ。」 「休まないと。」 「大丈夫だよ。お前もな。プログラムを安定させたぞ。」 「じゃあ、元通りですね。」 「いやあ、更に改良してやった。」 「何をするんです…」 ジマーマンが操作すると、また元の位置に現れたドクターが言った。「いらっしゃいませ。お加減はいかがですか?」 「どうだ、感想は。」 「挨拶を変更したんですね。」 「手始めにな。いくつかサブルーチンを足してやった。同情心、忍耐、思いやりに、礼儀もだ。」 「変化は感じませんが。」 「そりゃまだ、インストールしてないからだ。起こしてからにしようと思ってな。レジナルドの言った通り、確かに元のプログラムを超えているようだ。思いもしなかったレベルにまで達してる。とはいえだ。人格サブルーチンの中に受け継がれている、欠陥は直ってないようだな。かんしゃくもちで、傲慢で、大馬鹿だ、カウンセラーに言わせりゃな。」 「あなたもそうだと思いますけどね。」 「話をすりかえるな。マーク4 に変えることはできんが、多少感じよくしてやることはできるぞ。」 「私は今のままで満足なんです。」 「お前のためなんだ。」 「余計なお節介ですね! 新しいサブルーチンもいりません! どうしてそう私が気に入らないんです。」 「不良品だからだ! 緊急医療ポンコツだの、究極の不良ホログラム※32だの。マーク1 はそう呼ばれ続けて、最後は船を降ろされることになった。私は使用停止にしようとしたが、艦隊はコスト重視でそれを認めなかった。廃棄物輸送船で、再利用。そう決まったよ。」 ドクターがかけた手を払いのけるジマーマン。「お前も行ってたはずだ! デルタ宇宙域に迷い込んでなきゃな。」 だらしなく座るジマーマン。「…どんな屈辱かわかるか? 675体のマーク1 が、廃棄物輸送船で、プラズマコンジットを洗ってる。全員、私の顔でな。」 ため息をついた。 「立派に働いてると思いますよ。」 ドクターはトリコーダーを使い始める。 「何をしてる。修理は済んでないぞ。」 「これが私の仕事です。やらせてくれれば、私が優秀だとわかります。少しぐらい、感心してもらえるだろうと、期待してました。」 「まあ、お前が元々の仕事を、今も続けているというのは、悪くはないな。」 トリコーダーに反応がある。「細胞間タンパク質の数値が、危険レベルです。すぐ治療を始めないと。お願いです。汚名返上のチャンスを下さい。」 「試しに…やって、様子を見よう。」 「様子を見ましょう。」 「だが遺書には名前は入れてやらんぞ。」 ドクターは微笑んだ。 居住区。 落ち着かないバークレイ。「私、行ってくるよ。」 トロイ:「レジ。」 「2人で 32時間、こもりっきりなんだよ…」 「我慢して。」 ドクターがやって来た。 バークレイ:「ドクター。君、危なかったのに。」 「誰かのせいでね。ジマーマン博士は、全体をくまなくチェックして、面白い発見に行き当たった。私は…何者かの策略に、はまっていた。」 「そ、そ、それ…どういうこと?」 「私のマトリックスを、破壊する、アルゴリズムが組み込まれた。心当たりはないかな。あなたは?」 トロイ:「…正攻法のセラピーでは、完全に行き詰まってたから。」 「皆さん。やってくれましたね。博士は細胞再生治療を受けると言ってくれました。」 喜ぶ 3人。「そのほかの治療も必要ですが、楽観視していいと思いますよ。」 研究室を見て回るドクター。ホログラム写真を撮っている。 ジマーマンが話す。「研究の秘密を盗む気か?」 「これも私の趣味です。思い出に何枚か、残そうと思って。寝てなきゃだめです。」 「仕事があるんだよ。」 「後でいい。ベッドに戻って。医者の命令です。」 ため息をつくジマーマン。「ちゃんと薬を飲んでるか確かめに、来月戻ってこないだろうな。」 「ご心配なく。2度目の往診は認められそうにありません。艦長にね。」 「よし。今度データを送ってくる時、お前も一言、入れておけ。気になるしな。」 「お望みなら。」 バークレイが入る。「…用意は?」 ドクターはジマーマンを見た。うなずくジマーマン。 ドクターはカメラをバークレイに渡した。「頼めるかな。」 「もちろん。」 ドクターがジマーマンの肩に手をかける。 バークレイ:「笑って。」 写真が撮られる。2人とも笑顔だった。 |
※32: Emergency Medical Hotheads と Extremely Marginal House Calls。どちらも略すと EMH |
感想
ロバート・ピカード自らが脚本に加わった、ヴォイジャー帰還の本流となるエピソードです。以前の内容を引き継ぎつつ、ドクター VS ジマーマンの掛け合いが楽しめます。役者も声優も 2人の人格を使い分けていて、違和感なく見ることができました。もちろん ST にはよくある一人二役の撮影技術あってのことですが、これだけ長時間に渡っているのも珍しいでしょうね (細かく見ればズレもあるものの、ジマーマンからドクターがトリコーダーを取るところとかも含め、息もピッタリです)。 バークレイは前回ほど活躍しませんでしたが、その反対にトロイが多く出ていました。でもってドクター以外のレギュラー陣は出番がほとんどなく、トゥヴォックに至ってはセリフなしでした……何ともはや。 |
第143話 "Fury" 「帰ってきたケス」 | 第145話 "The Haunting of Deck Twelve" 「呪われた12デッキ」 |