モニターに映った赤ん坊。
パクストン:『だまされるな。これは無垢な赤ん坊などではない。』
会議場で見ている、ソヴァル※2大使たち異星人※3。
パクストン:『異星人と人間の子供だ。恒星間連合などというものを許せば、未来はこうなるという生きた証拠だ。人類の遺伝子は…』
コミュニケーターを使うネイサン・サミュエルズ大臣。「この通信をブロックしろ!」
部下:『やっていますが、止められません。』
「エンタープライズに連絡しろ、アーチャーと話したい。」
パクストン:『…種族の多様性を守るために活動している。…今後 24時間、異星人が太陽系から安全に退去できるよう保証しよう。…非人類が、彼らの星に…』
アーチャー:「スキャンでヴァルカンの生体反応を探せ。トゥポルと赤ん坊に転送ロックだ。」
『…しかし異星人が一人でも期限を越え地球に留まった場合は、人類の独立を守るためテラ・プライムは行動に出る。』
地球の一部が拡大され、建物が映った。
パクストン:『驚くべき傲慢さで批判を受け入れず、我々をこの危機に陥れた張本人、宇宙艦隊本部の破壊から始める。…戦争は望まないが、異星人が去らなければ更なる武力行使もやむをえないだろう。…地球の子供たちに誓おう。…未来は安泰だ。人類は必ず、勝利を収める。』
通信は終わった。
リード:「アレイでこちらを狙っています。…スキャンが気に食わなかったようですねえ。」
アーチャー:「ただちに離脱!」
移動するエンタープライズを、太いビームが通過していった。
アーチャー:「被害は!」
リード:「…莫大なパワーサージ。…リレーを半分損失! 今のはアレイの出力の 2%です。吹き飛ばせたのに。」
「警告されたようだな。地球へコースセット。」
階段を下りてくるソヴァル。
気づくサミュエルズ。「ちょっと失礼を。」
デノビュラ人:「ええ、では。」
「大使。」
ソヴァル:「ヴァルカンの施設周辺でも、同時にデモが始まっています。」
「直接関係はないでしょう。」
アンドリア人※4が近づく。「アンドリア大使館の外でも、デモ隊が叫んでいる。」 装置で声を再生した。「翻訳機には、入っていないような言葉でね。」
ソヴァル:「パクストンの最後通牒に合わせて、計画されたようです。」
「すぐ地球を発つべきだ。この瞬間にも攻撃されるかもしれん。」
サミュエルズ:「パクストンは過激ですが、言ったことは守る。…期限前に攻撃はしないでしょう。」
ソヴァル:「攻撃も問題ですが彼にこれほどの支持が集まっているというのが、恐ろしいことですね。」
アンドリア人:「同感だな。宇宙の統一を呼びかけるのは結構だが※5、地球自体が分断されている。この会議は時期尚早だったようだな。」 離れる。
地球軌道上のエンタープライズ。
作戦室でパッドを置くアーチャー。「部下が 2人人質になっている。パクストンを攻撃することはできません。」
サミュエルズ:「状況はわかってる。…できないと言うならこの船に代わりの船長を送ろう。君の評価に傷はつかないよ。」
「私の部下だけではありません。あのアレイを攻撃すれば、大爆発でコロニーの住民が何千人も死ぬ。」
「評議会にも難しい決断だった。…被害は君の予想より更に大きい。…今後 30ヶ月にテラフォーミング計画で 14 の彗星を火星と衝突させるのだが、コースを調整するアレイがなくなれば各地のドームシティが危険にさらされる。」
「…止めてみせます。…小規模チームで潜入する。」
「火星に近づく船は全て撃墜される。」
「見つからなければ、攻撃もされません。」
火星のオルフェウス基地。
赤ん坊が寝ている部屋に入るパクストン。「子供は無事だ、言ったとおりな。」
スキャナーを使うトゥポル。「スキャン結果では正常です。」
パクストン:「それのどこが正常なもんか。」
タッカー:「『それ』と呼ぶな。」
トゥポル:「…我々の遺伝子を手に入れたのですね。…この子はクローンでしょ。」
「俺たちの細胞をどこで。」
パクストン:「エンタープライズの医療用冷凍庫に全クルーのバイオサンプルがある。…支持者はどこにでもいるんでね。」
「船にスパイがいるってのか、誰だ。」
「娘に会わせるという約束は果たした。そっちの番だ。」 外に出る※6パクストン。「船に改良すべき個所がある。」
「一応聞こう。」
「ターゲットシステムの精度を上げてもらいたい。」
「アレイを武器にするのを、俺が手伝うとでも思うのか。」
「断れるとでも思うのか。」
パクストンは合図する。トゥポルに銃を向けるダニエル・グリーヴス。
夜のサンフランシスコ。
路地を歩くリード。辺りをうかがう。
ハリス:「一週間に 2度も会うとは、噂になりそうだな。」
リード:「私も不本意ですよ。」
「火星へ行くのに手助けが欲しいのか。」
「事情は知ってるでしょ…」
「ああ、大体はわかっているがね。パクストンがセンサーグリッドを掌握していることもな。…検知されず、アレイの 1,000キロ以内に近づくのは不可能だ。」
「それを可能にしたいんです。」
「そんな方法があると思うか。」
「あなたたち※7は常に不可能を可能にしてるし、貸しを作れる機会を見逃すはずがない。」
「なかなか鋭いな。…センサーは火星の大気に合わせ作られたが、テラフォーミングで大気は濃くなっている。」
「それが何なんです。」
チップを渡すハリス。「常に調整が必要になっていて、シグナルを誤認しやすい。その弱みを突く。それにテラフォーミングのおかげで、低地では宇宙服はもう必要ない。酸素があるのだ。保温服は…※8」
リードはスキャナーにセットした。「これによれば地表から 10メートル以内なら、センサーには探知されないってことですね。」
ハリス:「探知されず着陸できればな。」
「そこは対策を立てました。助けがなくてもね。」
「弟子が、師匠を超えたというわけか。…済んだら私の下で働かないか。」
「フン、船の仕事だけで十分忙しいですよ。」
「星々の連合が上手くいけば、エンタープライズはもっと忙しくなる。」
「でしょうね。じゃ。会うのはこれが最後でしょうけど。」
「私は楽観主義でね。」
歩いていくリード。
ハリス:「成功を祈る! …マルコム。」 手を差し出す。
握手するリード。2人は離れていった。
司令室のモニターに映る天体の図。
アーチャー:「バーク彗星※9です、アレイで 8年前進路を変えた。夜明けに火星の北極に衝突する予定です。」 「シミュレーション終了」と表示される。
サミュエルズ:「本気じゃないだろ?」
メイウェザー:「僕は前にも同じ経験があります※10。」
リード:「ズィンディの防衛戦突破に比べれば、この程度朝飯前です。」
サミュエルズ:「今からたった 14時間後だぞ、もし上手くいかなかった時はどうするんだ。」
アーチャー:「その時にはアレイを攻撃します、ご命令通りに。」
部屋に入るパクストン。トゥポルが赤ん坊をあやしていた。
パクストン:「いくら抱いても子供はヴァルカンにも人間にも、ならないぞ。」
トゥポル:「地球人とヴァルカン人の遺伝子でこの子ができた。我々の間には、違いより共通点の方が多いということです。」
「どうもわかってないようだな。」
パクストンの震える手を見たトゥポル。
パクストン:「その子供は君の種族にとっても脅威のはずだ。」
トゥポル:「脅威などではありません。」
「異種交配で生まれた異形の子だ。我々のゲノムが薄められ、『人間』という言葉が医学書のただの脚注になるまで何世代もかかるまい。ヴァルカンにも同じことが起きるんだ、構わないのか。」
赤ん坊をスキャナーで調べるトゥポル。「百万年前は地球人もヴァルカン人も、今とは全く違っていました。生命とは…変化するものです。」
パクストン:「だがこの変化は絶滅につながる。…その赤ん坊に、人類絶滅への変化を始めさせはしないぞ。」
「手出しはさせません。」
「必要ないさ。」
パクストンが後ろを向いた時、トゥポルは一瞬スキャンした。「どういう意味です。」
振り返ったが、何も言わず出ていくパクストン。トゥポルはスキャナーを見る。
報告するメイウェザー。「彗星に接近。」
アーチャー:「ブリッジより機関室。」
機関室のケルビー※11少佐。「ケルビーです。」
アーチャー:『彗星に接近中だ。』
「了解しました。」 機関部員たちに話すケルビー。「いよいよだぞ! ポートを循環させろ。少尉、チリの吸い込みに備えろ。」
機関部員※12:「了解。」
「機関室準備 OK です。フルインパルス、ワープスタンバイ!」
アーチャー:「よーし、トラヴィス。火星へヒッチハイクだ。」
メイウェザー:「アイアイサー。」
アーチャーはサトウを見る。
エンタープライズはバーク彗星へ近づく。その先には火星。
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※2: Soval (ゲイリー・グラハム Gary Graham ドラマ「エイリアン・ネイション」シリーズで、ハリス役のエリック・ピアーポイントと共にレギュラーでした。ちなみにグラハムが地球人、ピアーポイントが異星人の役柄) ENT第95話 "In a Mirror, Darkly, Part II" 「暗黒の地球帝国(後編)」以来の登場。声:青山穣
※3: ソヴァルの左側 (向かって右側) にいる女性の異星人が着ているドレスは、DS9第31話 "Rivals" 「詐欺師エル・オーリアン星人」でアルシアが着ていたのと同じ
※4: 名前は Thoris (ジョエル・スウェトウ Joel Swetow TNG第173話 "Firstborn" 「クリンゴン戦士への道」のヨーグ (Yog)、DS9第2話 "Emissary, Part II" 「聖なる神殿の謎(後編)」のガル・ジャサッド (Gul Jasad) 役。ゲーム "Armada"、 "Invasion"、 "Voyager: Elite Force"、 "Armada II" でも声の出演) ですが、言及されていません。当初はシュランになるはずでしたが、代わりに次回の最終話 "These Are the Voyages..." 「最後のフロンティア」に登場することになりました。声はケルビー役の高階さんが兼任。脚本では種族 Ithanites の Karash という大使も登場する予定でしたが、予算の都合でなくなりました。TOS第44話 "Journey to Babel" 「惑星オリオンの侵略」で登場した、肌が銅色で背の低い異星人になるはずでした。綴りは多少違いますが、ENT第70話 "Azati Prime" 「爬虫類族の攻撃」ではイセナイト (Ithenites) が惑星連邦の種族として言及
※5: 原語では主語として、地球人という意味で "Earthmen" という言葉を使っています
※6: 部屋の外に "03-47" と書いてあります
※7: 原語では「あなた (たち) のセクション」
※8: 吹き替えでは「温度は高いが…」と訳されていますが、あとの描写でもわかるようにむしろ寒いはずです
※9: Comet Burke
※10: ENT第8話 "Breaking the Ice" 「彗星は去り行くとも」より
※11: Kelby (デレク・マジャル Derek Magyar) ENT "In a Mirror, Darkly, Part II" 以来の登場。声:高階俊嗣。前回までの飯島肇に代わり、初代の方に戻っています
※12: マッサーロ少尉 Ensign Masaro (Josh Holt) 声:大久保利洋
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