TOS エピソードガイド
第64話「異次元空間に入ったカーク船長の危機」
The Tholian Web
イントロダクション
※1※2ブリッジ。 スクリーンに映る宇宙空間。クルーは険しい表情で見つめている。 『航星日誌、宇宙暦 5693.2※3。我々は消息を絶った※4パトロール船、デファイアント※5の捜索に赴いた※6。彼らが最後に連絡してきた位置は、全く未知の空域である。』 スポック:「船長、全ての探知機に奇妙な反応が出ています。」 カーク:「分析しろ。」 「駄目です。探知機に現れた結果では、宇宙そのものが分解しているんです。このような現象は、今まで観測されたことがありません。」 「探知機の故障じゃないのか。」 「違います※7、全てのシステムを徹底的にチェックしました。」 スコット:「船長。…エンジンの出力が落ちています。」 カーク:「どのくらいだ。」 「正確には言えません、しかしどうもおかしいんです。原因がはっきりつかめないんですから。」 チェコフ:「船長! 正面に飛行物体が現れました。」 スクリーンに何かが見えてきた。 カーク:「スポック、どう思う。」 スポック:「これはおかしい※8。」 「何がだ。」 「いかなる反応も感受されないんです。物質反応も、放射能反応もなし。…目には見えますが、船の探知装置では全くキャッチできません。」 コンスティテューション級の船の形が見えてきた。 さらに大きくなるが、揺らめいているように見える。 カーク:「デファイアントだ※9。……スールー、スピードを落として転送距離まで接近しろ。」 スールー:「はい。」 「大尉※10、交信チャンネルオープン。」 ウフーラ:「すでにオープンしましたが何の応答もありません。」 スールー:「…転送距離内に入りました。」 カーク:「よーし、現在位置を維持。スポック、チェコフ、一緒に来てくれ。ドクター、至急転送ルームまで来るように。スコッティ、指揮を頼む。」 スコット:「はい。」 転送室。 転送台に乗る 4人は、みな環境スーツを着ている。 操作する転送部員のオニール大尉※11。「向こうのブリッジにロックしました。」 カークの声はスピーカーを通じて聞こえる。「よーし、転送。」 デファイアントのブリッジ。 転送されるカーク、スポック、マッコイ、チェコフ。 船長席のそばでは、クルー 2人が倒れていた。船長が首を絞められている状態だ※12。 |
※1: このエピソードは、1969年度エミー賞で特別分類業績賞にノミネートされました。特撮で (ノミネートではなく) 受賞したという表記も一部で見受けられますが、確認できません ※2: ハヤカワ文庫のノヴェライズ版は、「宇宙大作戦 メトセラへの鎮魂歌」収録「ソリアのクモの巣」になります ※3: 吹き替えでは「0403.3034」 ※4: 原語では「3週間前」とも言っています ※5: Defiant U.S.S.ディファイアント、コンスティテューション級、NCC-1764。名前は DS9第47話 "The Search, Part I" 「ドミニオンの野望(前編)」以降活躍する試作艦に引き継がれます。登録番号は後に Greg Jein が考案し、その後エンサイクロペディアに掲載され、ENT第94話 "In a Mirror, Darkly, Part I" 「暗黒の地球帝国(前編)」で画面に登場しました。英国海軍にはディファイアンスという船はありましたが、ディファイアントは映画「戦艦デファイアント号の反乱」(1962) の架空のもの。もとは「シミター (映画第10作 Star Trek Nemesis" 「ネメシス/S.T.X」の敵艦と同名)」の予定でした。吹き替えでは「デファイアント号」 ※6: ウフーラの上部あたりに、マイクらしき影が見えます ※7: スコットの右側に、カメラらしき影が映り込みます ※8: "Fascinating." ※9: すでにスポックは立ち上がっていたにもかかわらず、再度立つシーンが入ります ※10: 吹き替えでは「中尉」。TOS では基本的に中尉は存在しないと考えられます ※11: Lt. O'Neil (ショーン・モーガン Sean Morgan) TOS第22話 "The Return of the Archons" 「ベータ・スリーの独裁者」以来の登場。名前は訳出されていません。書籍「スタートレック アルティメット」では、今回エキストラ扱いのボブ・ブラルヴァー演じる機関部員の写真が、誤って使われています。声:嶋俊介、TOS カイル、ムベンガ、旧ST5 マッコイなど ※12: ENT "In a Mirror, Darkly, Part I" で、このクルーの状況が再現されています。船長の名前は小説の一つではブレア (Blair) |
本編
デファイアント。 クルーを調べるマッコイ。 チェコフ:「パトロール船で反乱が起こるなんて、考えられますか。」 スポック:「いやあ宇宙艦隊では今までそうした前例は全くない※13。」 マッコイ:「……カーク。…死因は頸骨骨折だ。」 遺体を見るカーク。 スポック:「船の機能は正常です。反逆者はまだ船内にいると、考えられますね。」 カーク:「よし、すぐに捜査を開始しろ。カークからエンタープライズ。」 スコット:『はい、スコットです。』 「戦闘態勢を取って、待機せよ。」 『承知しました。』 「以上。」 スポック:「人がいる気配は全くありません。」 「…わからん、どうもおかしい。スポック、君はここにいてくれ。チェコフ、空気調整室と機関室を調べてくれ。それからドクターは、医療室の方を頼む。カークからエンタープライズ、戦闘準備解除だ。あとでまた連絡する。」 スコット:「わかりました、待機しています。」 スールー:「デファイアント※5の動きが正確にキャッチできません。」 スコープを見る。「だんだん離れていくようなんですが、距離を修正しますか?」 スクリーンから外れていくデファイアント。 スコット:「ああ、君の言うとおりだ。近寄りすぎないように転送距離を保ってくれ。」 移動するエンタープライズ。 チェコフは死んでいるクルーを機関室で見る。手には物を持っており、殴り合ったらしい。 医療室も同じだ。※14バイオベッドに縛りつけられている者※15もいる。 出ていくマッコイ。 ※16争った跡が見える機関部員。 連絡するチェコフ。「船長。」 カーク:『どうした、チェコフ。』 「空気調整室と同じで※17、みんな死んでます。」 カーク:「…よし、戻ってこい。」 ふらつくチェコフ。視界が揺れる。 ゆっくりと歩き出すが、身体を支えずにはいられない。 カーク:「ドクター。」 マッコイ:「マッコイだ。」 カーク:「乗組員の死因が何か、推測できるか。」 マッコイ:『みんな互いに殺し合ったらしいな。』 「何だって。」 マッコイ:「いま言ったとおりだよ、互いに殺し合ったんだ。」 カーク:「じゃあ、ここの乗組員全員が正気を失ったってわけか。」 マッコイ:『いま医療日誌を見たが、何が起きたかまるでわからんと書いてある。とにかく、調べられる限り調べて後でデータを分析するよ。』 遺体の一つに手を触れようとするマッコイ。すると、手が身体を突き抜けてしまった。「おい、どういうんだ。」 カーク:『どうした。…どうしたんだ、ドクター!』 ※18デスクの上に置かれたクリップボードに触ろうとしても、やはり駄目だ。 カーク:「聞いてるのか!」 マッコイ:「大変だ、船が消えていくぞ。ここにあった死体も、私の腕も。」 カーク:「大至急ここに戻るんだ。」 スクリーンに映るデファイアントは、全体が点滅を繰り返していた。 スールー:「見て下さい、デファイアント※5が消えかけています。」 また明滅する。 スコットの連絡。『おい、転送ルーム。』 修理していたオニール。「はい、転送ルームです。」 スコット:『どうだ、もう転送できるか。』 「いえ、まだです。」 スコット:「スールー、ここを頼む。ちょっと、転送ルームへ行ってくる。」 スールー:「わかりました。」 話すスポック。「船長、この船の探知機はエンタープライズのものと非常に高い割合で一致していますね※19。」 カーク:「つまりうかうかすると、エンタープライズでも同じことが起こるというのか?」 「そうです。」 ブリッジに戻るマッコイとチェコフ。 カーク:「スコット、こちら船長だ。」 スコット:『はい、スコットです。』 「帰船する、転送準備をしてくれ。」 オニールと顔を見合わせるスコット。「…すいません、ちょっと待って下さい。」 カーク:「どうした、何かあったのか。」 スコット:「駄目なんです、そちらの船が離れ出しました。それも別の空間に入っていくようで、転送装置の周波が狂ってしまったんです。いま使えるのは 3つだけで、それも不確かです。一人だけ、後回しになりますが。」 カーク:「チェコフ、ドクター、転送の準備をしろ。君もだ、スポック。」 スポック:「私は残ってデータを集めたいんですが、許可して下さい。」 「いや、それは駄目だ。」 「船長、万一の場合…」 「危険は承知の上だ。議論はよしたまえ。データを持って帰るんだ。私もすぐに行く。」 並ぶ 3人。 カーク:「スコッティ、転送開始だ。」 スコット:「了解。」 操作する。 転送されてくる 3人。だが消えてしまう。 デファイアントに残ったままだ。 操作を続けるスコット。 明滅するデファイアント。 まだ転送されない。 やっとで実体化した。ため息をつくスコット。 スポック:「よーし、船長だ。」 だがなかなか見えてこない。 デファイアントにいるままのカーク。死んだデファイアントの船長たちを見る。 モニターのスイッチを入れるチェコフ。 待ち続けるカーク。 チェコフはモニターのデファイアントと転送台を交互に見る。 無言のカーク。 デファイアントが完全に消えた。 チェコフ:「消えました。…デファイアントが見えません。」 転送機の操作を手伝うスポック。 辺りはエンタープライズだけになっている。 転送機の動きも止まった。 修理するスコット。「やって下さい!」 スポック:「…駄目だ。」 「やっぱり手遅れだったか。…急に、手応えがなくなって駄目だったんです。…船はスーッと消えちまった、船長を乗せたまま。」 |
※13: 少し後の TOS第71話 "Whom Gods Destroy" 「宇宙の精神病院」で、これに反する事実が確認されます ※14: TOS の旧国内オンエア分では、カット部分が存在しています。DVD には吹き替えつきで完全収録されており、このエピソードガイドでは色を変えている個所にあたります (CS版との比較)。LD では基本的に、その部分だけ字幕収録です ※15: デファイアントのクルーの記章はほとんどはっきりと映らず、ここではエンタープライズのものと同じっぽいことがわかります。手間を省いたためであり、ENT "In a Mirror, Darkly, Part I" で初めて導入されます ※16: チェコフのアップは、同じ映像を繰り返してつなげています ※17: 吹き替えでは「いま空気調整室にいるんですが」。今は機関室にいます ※18: 背景のモニターに、TOS第10話 "What Are Little Girls Made of?" 「コンピューター人間」で使われたエクソ3号星の情報画面が表示されています ※19: 吹き替えでは「この船のあらゆる装置はエンタープライズのものと目下非常に緊密な状態でつながっていますね」 |
航行中のエンタープライズ。 チップ状のテープを入れるスポックは、制服に戻っている。 コンピューター:『コンピューターです。』 スポック:「位相転換※20の、周期計算を頼む。」 『次の転換時は、今から 2時間12分後です。』 スコット:「2時間12分後?! とても無理だ、今でさえ漂流しかかってるんですよ? エネルギーが減少していて船のバランスが取れないんです…」 スポック:「何とか維持してくれ、この辺の空間の構造は非常に微妙なんだ。下手に攪乱すれば、船長を無事に回収するチャンスはなくなる。」 チェコフ:「この辺の空間が、そんな特殊な状態にあるなんてことは知らなかった。」 「…つまりそういうわけなんだ、チェコフ。我々が存在してる宇宙は多くの異なった次元の空間から、成り立っているんだ。…そしてある瞬間にその次元が 表情を変えるチェコフ。 スポック:「デファイアントが消えたのもそれだ。すなわち、デファイアント※5は我々と異なった次元の空間に入ってしまったというわけだ。」 ウフーラ:「ミスター・スポック。…今度また次元が重なれば船長は、戻れるんですね…」 「そうだ。しかし次元の構造は複雑で、一つ一つが全く違ってるのが普通だ。…力を加えれば変わるんだ。…だから慎重にやらないと。船長の救出はもちろん、我々も帰れなくなる。」 「そうですか。」 チェコフ:「あんな風に死ねって言うのか!」 突然スポックを突き飛ばした。 スールーにも襲いかかる。止めるスコット。 ブリッジに来たマッコイもチェコフを押さえる。 スポックはチェコフの顔をつかんだ。「チェコフ!」 一旦声を止めたが※21、また叫ぶチェコフ。 スポック:「チェコフ、落ち着け!」 ヴァルカン首つかみを受け、意識を失うチェコフ。 スポック:「早く保安係を。」 ウフーラ:「はい。」 スールーは椅子を戻し、チェコフを座らせる。 マッコイ:「スポック、一体どうしたんだ。」 スポック:「…いま起こってることを、説明していたんです。船長の救出について話してると急に暴れ出しました。」 「こっちへ転送されてから、何か変わった態度を見せたかね?」 スールー:「そういえば、2、3度苦しそうな発作を。」 「何かに怯えた様子か。」 到着する保安部員。 ウフーラ:「ドクター、急に怒り出したみたいなんです。」 スコット:「しかし、怒る理由もないじゃないか。」 マッコイ:「医療室へ連れて行って拘禁しといてくれ。」 運ばれるチェコフ。 スポック:「ウフーラ大尉の言うとおりです。あれは凶暴な怒りの発作ですね。デファイアントの乗組員と同じケースだと思われます。」 マッコイ:「それを恐れていたんだ。…原因はわからんが伝染性のものらしい。放っておけばみんな殺し合いだ。」 「原因を突き止める方法はありませんか。」 「無理だな※22。それより大事を取って、こっから離れた方がいい。このままじゃもっと患者が出るかもしれんし、第一危険だよ。」 「船長の救出のためには、ここを動けません。」 「どのぐらいかかるんだ。」 「行動を開始できるのは、およそ 2時間後※23です。」 「スポック、カークは本当にまだ無事だと思うかね。」 「デファイアントが別の次元に移動した際、転送光線に入っていました。もし船長があの時のショックに耐えられたとしたら、可能性はあります。しかしながら救出に当たっても位相転換の時間を狙わないと失敗しますし、船長も死ぬでしょう。…過ちは絶対に許されません。宇宙服※24についている空気発生装置は、あと 3.62時間しかもたないんです。」 スールー:「…ミスター・スポック、飛行物体が正面から接近してきます。」 スポック:「現在の位置は?」 船長席につく。 「距離 20万キロメートル、速度は 0.51c※25 です。」 先が尖った宇宙船※26が映った。 スポック:「ウフーラ大尉、全員戦闘配置。」 ウフーラ:「はい。…非常事態発生、全員戦闘配置につけ。」 通信※27:『全デッキに告ぐ、非常事態発生。総員ただちに戦闘配置につけ。繰り返す、非常事態発生、非常事態発生、総員ただちに戦闘配置につけ。』 こちらへ向かってくる宇宙船。 スールー:「停止しました、距離 9万キロメートルを維持しています。」 通信:『セキュリティコントロール・チェック、セキュリティコントロール・チェック。』 ウフーラ:「ミスター・スポック、映像信号をキャッチしました。」 スポック:「メインスクリーンに出せ。」 「わかりました。」 スクリーンに出たのは、赤い幾何学的な形をした物体だった。目のような穴があり、背景は青っぽくなっている※28。 口が動いている様子はない。『私はロスケーニ司令官※29。貴船はソリア連合軍※30の司令線区に侵入している。ただちに退却してもらいたい。』 スポック:「私はスポック、パトロール船エンタープライズの指揮官だ。地球連邦※31宇宙艦隊の知る限り、ここは自由な空域だ。」 『我々はこの空域を占拠した。実力に訴えても、領空は守る!』 「目下、実力行使などに興味はない。…我々は同じパトロール船から遭難信号を受けて来た。今はその捜査で救出に当たっているところで他意はない。…できるなら協力して欲しい。」 『遭難船のいる形跡はない! …本船の探知装置によればこの空域にいるのはたった一隻だけだ!』 「もう一隻は、異次元に閉じ込められた。あと 1時間53分後に、現れるはずだ。それまで、待機していてもらいたい。」 『了解、エンタープライズ。恒星間協定に基づき、これより 1時間53分の間は実力行使には移らない。約束は忘れるな、我々は欺瞞は容赦しない!』 作られる薬。 マッコイ:「適当な試薬さえわかれば、問題は簡単に解決するんだがな。」 医療室の医療技師が首を振り、クリスチン・チャペル看護婦※32たちを見つめる。 マッコイ:「陰性か、これで 3度目だ。」 微笑む医療技師。 マッコイ:「すまないがクリスチン、このサンプルで分析を続けてくれるか。」 チャペル:「はい。」 ブリッジのスポック。「転送ルーム、応答せよ。」 ナビゲーターはハドレイだ。 スコット:「はい、転送ルームです。」 スポック:『位相転換に備えてくれ。』 医療技師がマッコイに近づく。 気づいたチャペル。「ドクター、危ない!」 棒で殴ろうとする技師。マッコイは避けたが、台の上に押しつけられる。 ハイポスプレーを用意するチャペル。打たれた医療技師は倒れた。 マッコイ:「…助かったよ、保安係を呼んでくれ。この男を診察しなきゃ。」 命じるスポック。「これより船長を転送する、進めてくれスコット。」 操作するスコット。現れる気配はない。 スポック:『早く転送しろ。』 スコット:「やってますが、船長が予定の座標にいないので転送できません!」 『…ではそのまま続けてくれ。』 スポック:「スールー、分析結果は。」 スールー:「探知機の反応は、デファイアント※5が消える前に記録したものと一致しません※33。」 「ソリア船に侵入されたことで次元が変化した可能性があるな。もしそうだとしたら。」 呼び出しが入る。『マッコイだ。』 スポック:「スポックです。」 マッコイ:「船長は無事転送できたのか。」 スポック:『いいえ、まだです。』 「位相転換はいつ起きる予定だ。」 スポック:「それが理論的にはとっくに起きてるはずですが、探知機にはその反応が何も出てこないのです。」 マッコイ:「周期を弾き出したはずだろう。」 スポック:「そうなのですが、ソリア船が現れたせいで次元が変わったようです。」 マッコイ:「ではカークを救出するのは、もう不可能だというのか?」 スポック:『現時点では。とにかく次の位相転換がいつ起きるのか、こちらで割り出してみます。周期には規則性がないようですので。』 「これ以上ここにいれば、チェコフのような患者が増えるだけだ。医療室がすぐに一杯になってしまうぞ。」 スポック:「ドクター、あなたならすぐに予防法を発見できるはずです。これ以上船内に蔓延することはありませんよ。」 マッコイ:「この病気は、人から人へ移るもんじゃないんだ。この空間にいること自体が原因になってる。今に全員がやられるぞ。これは脳細胞の分子構造や中枢神経が、全てゆがんで※34しまう恐ろしい病気なんだ。じきにデファイアント※5で起きたような殺し合いが、ここでも繰り広げられることになる。その前に、ここから脱出するんだ。」 ※35スールー:「ミスター・スポック、ビーム攻撃です。」 スクリーンのソリア船から放たれたビームが、スクリーンを覆う。 揺れるブリッジ。 機関室、医療室も同じだ。 スポック:「ソリア人が警告通り始めたな※36。」 ウフーラ:「ミスター・スポック、各デッキからの報告では A=7 と C-9 セクションに軽微の損傷が出ています。」 「機関室、航行出力は抑えて不必要な動力消費は全て中止せよ。スールー、非常用以外の動力は全てシールドに集中せよ。」 スールー:「しかしそれではフェイザー砲の動力が半分に落ちます!」 ウフーラ:「ミスター・スポック!」 またソリア船が撃ってきた。 機関室のスコット。「ブリッジ願います。」 スポック:「スポックだ。」 スコット:『フェイザーの使用をためらうのはわかりますが、向こうの船を何とかしてもらわんと困ります!』 マッコイもブリッジに来た。 スポック:「わかった。ウフーラ大尉、ソリア船と連絡を取ってくれ。」 ウフーラ:「はい。」 「ミスター・スールー、フェイザー砲をソリア船にロックしてくれ。」 スールー:「ロックしました。」 ウフーラ:「どの周波数にも応答ありません。」 マッコイ:「今さら戦ってどうなる! カークはもう駄目だ、早くここを出るべきだ!」 スポック:「用意はいいな?」 スールー:「…準備完了です。」 迫るソリア船。 スポック:「発射。」 フェイザー砲がソリア船に注がれる。 スールー:「命中しました!」 漂流するソリア船※37。 スポック:「機関室、状況報告せよ。…スコットはいないのか?」 スコット:『はい、さっきソリア船にやられたときコンバーターが溶解しました。今すぐには手の打ちようがありません。このままじゃ漂流して、例の空間に入ってしまいます。』 「修理に、最低必要な時間の計算はしたのか。」 スコット:「修理できるかどうかもわかりません。」 マッコイ:「これで満足かね? …一体何の益があったんだ!」 スポック:「戦闘は、論理的必然です。それ以外に、取るべき措置がなかったからです。ソリア船は、無力化しなければなりません。」 「その結果について考えてみたのか? 乗組員の安全をもって下した決断なのか? それが船長としての第一の務めだぞ、カークはそうだった。」 「ドクター、今それを比較している場合じゃあないでしょう。実験室へ戻ってこの空間の影響を中和する薬を見つけて下さい。いま一番大事な仕事です、当分ここは動きません。」 ターボリフトへ向かうマッコイ。 スールー:「ミスター・スポック、何か探知距離内に入ってきました。…またソリア船です! …さっきの船が司令部に連絡したに違いありません。」 もう一隻のソリア船が近づいてくる。 スポック:「ああ、面白い※8。」 スールー:「フェイザー砲攻撃の準備をしましょうか。」 「いやいやウフーラ大尉、あの船と連絡を取ってみたかね?」 ウフーラ:「受信を拒否しているんです、だからどうやっても…」 「ミスター・スールー、距離は。」 スールー:「フェイザー射程外です。」 すると、2隻のソリア船は互いの後部をドッキングさせた。 イヤーレシーバーを取るウフーラ。「…一体何でしょう。」 再び離れる 2隻。その間に、細い線のようなものが出ている。 片眉を上げるスポック。 次々と線が増えていく。 スポック:「ミスター・スールー、あの繊維状のものを分析してみる。探知装置の、記録を全てライブラリー※38コンピューターにつないでくれ。…スイッチオン。」 スールー:「はい。」 線はスクリーンを埋めるほどだ。 スポック:「我々の技術水準による構造物とは全く違う。しかしある種の、エネルギーフィールドだ。ソリア人はこのフィールドの中にエンタープライズをすっぽり包んで、身動きできないようにするつもりらしい。その前に修理しないと、おしまいだ。」 さらに斜め方向にも張られる「網」。 |
※20: 空間相互位相 spatial interphase ※21: チェコフの口の動きと叫び声が合っていません (吹き替えなしのため、日本版も含む) ※22: 原語では「時間がかかるな」 ※23: 吹き替えでは「あと 2時間11分後」。先ほどコンピューターに聞いた時から一分しか経過していない、というのは変ですね (実測でも 3分弱) ※24: 環境ユニット environmental unit 別名、環境スーツ (environmental suit)。初登場。ヘルメットの下部には、装着者の名前が入っています。TOS第7話 "The Naked Time" 「魔の宇宙病」の赤い防護服も同一視される場合もあります。予算の都合もあって映画を除くとほとんど使われませんでしたが、ENT では常用されています。他番組にパロディで登場したことも ※25: c=光速。吹き替えでは「0.61c」 ※26: のちに ENT第42話 "Future Tense" 「沈黙の漂流船」などでソリア船が登場した時も、デザインは今回のものを踏襲しています。その機能から「ウェブスピナー (クモの巣つむぎ)」と表記されることもありますが、言及なし ※27: この辺りの通信の声は、旧吹き替えでは原語のままです。男性の声:星野充昭、TNG ラフォージ、ジャックなど。女性の声:田中敦子、新TMP アイリーアなど ※28: チェコフは医療室に運ばれたはずなのに、ナビゲーターの後頭部は明らかにチェコフです ※29: Commander Loskene 声は原語では (女性の) バーバラ・バブコック (Barbara Babcock、TOS第18話 "The Squire of Gothos" 「ゴトス星の怪人」のトリレーンの母親 (Trelane's Mother) の声、第23話 "A Taste of Armageddon" 「コンピューター戦争」のメア 3号 (Mea 3)、第55話 "Assignment: Earth" 「宇宙からの使者 Mr.セブン」のベータ5 コンピューター (Beta 5 Computer) の声、第67話 "Plato's Stepchildren" 「キロナイドの魔力」のフィラナ (Philana) 役)、吹き替えでは (男性の) 石森達幸。小説「ヴェンデッタ」にも登場します。吹き替えでは「ロスケーン」と言っているのかもしれません ※30: Tholian Assembly ソリア人は初登場。今回の異質な姿 (Mike Minor デザイン) は長らく再登場せず、頭部以外は登場していないため、単なるヘルメットなどの服装という説もありました。しかし 37年後の ENT第94話 "In a Mirror, Darkly, Part I" 「暗黒の地球帝国(前編)」において 2度目の登場を果たし、CG で全身像が初めて描かれました。この国家名は TNG第25話 "Conspiracy" 「恐るべき陰謀」での宇宙艦隊本部の星図内にもあるそうですが、画面上では読み取れません。その図だと連邦領内であるかのように取れるものの、その後の TNG・DS9 の描写からするとそうは思えません。母星は ENT第1話 "Broken Bow, Part I" 「夢への旅立ち(前編)」で言及された、ソリア (Tholia) かもしれません。TOS第5話 "The Enemy Within" 「二人のカーク」などのソーリアン (Saurian) とは別 ※31: 今回の連邦 (Federation) の訳語 ※32: Nurse Christine Chapel (メイジェル・バレット Majel Barrett) TOS第61話 "Spock's Brain" 「盗まれたスポックの頭脳」以来の登場。声:北見順子 ※33: 吹き替えでは「デファイアント号が消える前の周波で捜したんですが、何も引っかかりません」 ※34: 吹き替えでは「破壊されて」 ※35: 旧吹き替えでは前のカットに関連して、吹き替えと原語のタイミングが異なるため、原語側ではスポックやマッコイの声が一部残っています ※36: 原語では「ソリア人が時間厳守なのは有名だからな」と言っており、今回がファースト・コンタクトではないことがうかがえます。実際、ENT "Future Tense" で接触しています ※37: 背景の星が船体を突き抜けています ※38: 吹き替えでは「資料室の」 |
エンタープライズの周りを埋め尽くすエネルギーフィールド。 礼拝室に集まるクルー。 やってきたマッコイに話すスポック。「さっきの報告によれば、例の解毒剤はまだ発見されないようですね。」 マッコイ:「そう、まだはっきりとはつかめない。これまでの結果では、サラゲン※39が最も見込みがありそうだ。いま続けてる。」 「一刻をも争う場面です。ドクターは実験室へ戻っていて下さい。」 「係の者が昼夜ぶっ通しでやってる。しばらく私が席を外したって、化学反応に影響はない。ここにいた方がずっと役に立つ、そう思ったからわざわざ来たんだ。」 マッコイは座った。 再び壇上に立つスポック。「…数時間前、カーク船長は危険を承知の上でデファイアント※5に残り行方不明となった。部下を無事に、帰還させるためにそうしたのだ。…船長が何よりも気づかったのは、3人の安全だけでなく乗組員全員のことだ。…それから起こったことは、承知の通り。…我々は、ソリア人の攻撃を受けた。その時点では、船長の生存の可能性はあった。反撃を決意したのは、エンタープライズを守るため必要だと判断したからだ。…目的通り、ソリア船は無力化※40された。…しかしその戦闘のために、大きな犠牲を払った。カーク船長の、生還の望みは消えたのだ。」 突然クルーの一人が暴れ出した。保安部員によって取り押さえられる。 マッコイ:「医療室へ運んでくれ! ベッドに縛るんだ。」 ウフーラを守っているスールー。 みな席に戻った。 スポック:「ここで改まってカーク船長に対する敬愛の念を、私の口から述べることはやめておきたい。それは諸君が、みな一人一人心の中で感じる方がふさわしいからだ。」 スコット:「…起立。黙祷※41。……解散!」 残ったマッコイはスポックに近づいた。「スポック、これからカークの部屋に行って果たさなければならんことがあるな。」 スポック:「あとでもいいでしょう、私の差し迫った任務はすぐブリッジに戻ることです。」 「カークの遺したメッセージだよ、万一のことがあった場合は 2人で聞くようにそう命令したはずだ。いま死亡を宣言したのは君だぞ。」 「それは別の機会にしてもいいと思いますが?」 「なぜだ! 今の地位を脅かされるのが恐ろしいのか?」 「…乗組員の健康を管理するのがドクターの任務ですよ? …いま最も重要なのは任務を果たすことです。」 「カークの命令に服する方が重要じゃないのか! …君はそれを無視して、指揮権を引き継ぐのか!」 外へ出る 2人。 ソリア船のエネルギーフィールドは、さらに濃くなっている。 箱の中に入っている勲章。 マッコイ:「名誉の勲章、英雄的な最期か。しかし彼の死は全く無意味だ。ただ一つ価値があるとすれば、エンタープライズの救出だ。それも君のせいで危なくなった。」 スポック:「ここに来たのは任務を果たすためじゃあなかったんですか。」 「ま、それは一種の口実だ。なぜ残って戦ったのか、君の真意を聞きたかった。」 「乗組員一人の命を救うためだったら、船長も同じ決断を下すとは思いませんか?」 「ああ、それはそうかもしれん。しかし君の場合はちょっと違うだろ。ソリア人との戦いは全く無益なものだ。…ここを退去すれば船は無事だし、君も船長になれたんだ。それなのになぜ残ったんだ!」 「この際誰に対しても、私の意図を説明する必要は認めません。…試行錯誤は、いかなる実験にもつきものです。ともかく現在は、法的にも慣例的にも私が船長の地位にあるのです。」 「船長の死を確認するためか? …それならはっきりするがね。」 「もう十分でしょ? 我々にはやるべきことがあります。」 「ああ、確かにやることがある。…ここから生還するつもりなら、乗組員の発狂を防ぐ薬を是が非でも見つけねばならん。」 「ここで必要な義務を果たしたら、ただちに仕事に戻って下さい。」 「そう慌てることはあるまい。…恐らく君に薬は必要ないだろう。ヴァルカン人はこういう環境に免疫があるんじゃないのかね?」 スポックは棚のスイッチを操作し、書類を取り出した。 マッコイ:「スポック、一体どういうつもりなんだ。…君がこの船の指揮権を狙っているとはどうしても思えん。…だが覚えといてくれ、もしここを無事脱出できれば君は勲章ものだ。エンタープライズも君のものになる。」 スポック:「ドクター、私は今この船の指揮権をもっているんですよ?」 片眉を上げる。 「だからこそこっちは懸念してるんだ。」 スポックはテープをコンピューターに入れた。「私の行動が違法だと思うなら、任務を解いたらどうです。あなたには船医として、その特権がある。」 カークの映像が流れ始める。『ドクターにスポック。このテープをかけている場合、私は死んでいるわけだ。極めて困難な状況にあり、2人とも追い詰められていると思う。…スポック、君の場合指揮権を引き継いで非常に苦しい決断を迫られているに違いない。…私にできる助言と言っても大したことはないが、聞いて欲しい。…これまで身につけた知識と経験を結集して、船を救うべく努力してくれ。その場合、君の洞察力と先天的能力が役立つと思う。…君にその力があることを信じている。しかしそれでもなお不安な場合には、ドクターがいる。助言を請うがいい。適当だと判断したら、従ってくれ。…ドクター。いまスポックに話したことは、聞いたはずだ。できるだけ協力してくれ。…しかし船長はあくまで彼。そのことを忘れず命令には従って欲しい。スポックは大変優れた長所の持ち主ではあるが、短所もあるだろう。理解しにくいかもしれん。だが立派に船長の任を果たし、乗組員も私の場合と同じく彼を盛り立てその命令に従って行動してくれるものと確信している。…よろしく頼む。』 映像は終わった。テープを戻すスポック。 マッコイ:「…スポック、君には…すまんことをした。」 勲章のケースを渡す。「ひどいことを言ったな。」 スポック:「ドクターの気持ちはわかります※42。」 納めた。呼び出しに応えるスポック。「スポックだ。」 スコット:『スコットです、ソリア船のエネルギー※43の軌道がわかりました。網の目が完成する時間も計算できそうです。』 「よーし、すぐそちらへ行く。ドクター、ソリア人の網が完成する前に我々もお互いに自分の仕事を仕上げてしまいましょう。」 カークの部屋を出る 2人。 私服姿のウフーラは、制服を自室のベッドの上に置いた。棚からネックレスを取り出す。 突然、苦しみだした。鏡を見る。 目を開くウフーラ。 鏡には、環境スーツ姿のままのカークがボンヤリと映っていた。 ウフーラ:「船長。…船長無事だったんですか。」 カークは苦しそうな表情をしているが、声は聞こえない。そのまま消えてしまった。 後ろを確認し、外へ走るウフーラ。 廊下を歩くマッコイ。 ウフーラ:「ミスター・スポック、ドクター!」 支えるマッコイ。 ウフーラ:「ドクター、船長を見ました。」 マッコイ:「ああわかってるよ、見たいと思ってるせいだ。」 「生きています、生きてるんです。」 「ああ、そうとも。」 「本当です、ちゃんと見ました。はっきりと。…スポック! ミスター・スポック!」 「さあ落ち着くんだウフーラ。」 「…ドクター、私気は確かです。…本当に見たんです。は、早くこのことをミスター・スポックに。」 ウフーラは意識を失った。 機関室。 機関部員の一人が、意識がもうろうとしだした。階段を飛び降り、スコットに襲いかかる。 仲間の機関部員によって離される※44。 スコット:「スコットより船長。応答願います!」 スポック:「スポックだ、何かあったのか。」 スコット:「また一人、暴れ出しました! いま取り押さえましたが。」 スポック:「すぐドクターのところへ行って、発作が起きる前の様子を報告しろ。以上だ。」 声を荒げる保安部員。 医療室。 患者服姿のチェコフは、ベッドに縛りつけられている。声を上げる。 実験室にも聞こえるチェコフの声。 チャペルが戻ってきた。「ドクター。」 マッコイ:「ああ、何だ?」 「ミスター・スコットを襲った患者の診断書ができました。明らかにこの空間の影響による精神異常です。」 「ああ、全般にその影響が広がり始めたんだ。」 「薬の方はまだですか?」 「ああ、しかしサラゲン誘導体が鍵を握っているのは間違いない。次※45の結果ではっきりするだろう。」 医療室。 ベルトを取ろうとするチェコフ。マッコイが状態を確認する。 ウフーラも別のベッドに縛られていた。「ミスター・スポックも信用しないんですね?」 マッコイ:「見た者は君しかいないんでねえ。」 「それじゃあ、本当に見たんじゃないんですか。幻覚?」 「そうらしいね。」 叫ぶチェコフを見るウフーラ。「私もあんな風になるんですか。」 マッコイ:「いやいや、いまに治るよ。もうすぐ薬がわかる。」 また別の機関部員が身体を支え、目をこすった。 スコット:「位相転換開始だ。」 機関部員:「わかりました。」 「ブリッジどうぞ。」 スポック:『ブリッジ、スポックだ。』 「亜空間に入りやしませんか。」 スポック:「大丈夫だ、今のところ比較的安定している。どうしたんだ?」 スコットは、機関室の 2階に浮かび上がるカークの姿を見た。「とうとう、俺もやられたか。」 消え去るカーク。 スポック:『スコット、どうしたんだ。』 ブリッジに入るマッコイ。 スポック:「聞いているか?」 スコット:『ミスター・スポック。いまカーク船長が見えました。そこに立っていた、はっきり見えましたよ。それがスーッと消えた。』 「すぐ、ブリッジへ来てくれ。」 マッコイ:「ウフーラの場合と同じだ。ひょっとすると本当かもしれん。」 「極限状態に追い詰められたとき、自分の願望を目にする場合があります。」 「じゃあカークを見たのは君に不安を感じたせいだというのか?」 片眉を上げるスポック。「単に事実を述べただけですよ、ドクター。」 マッコイ:「事態は悪化してる、下の方でも患者がボチボチ出てるんだ。もしスコッティがやられでもしたら、船をここから脱出させるチャンスは全くなくなるんだぞ?」 「そのことは私に任せて下さい、乗組員の安全を気づかうなら一刻も早く薬を見つけるのが先決でしょ。必要とあればドクターを実験室へ軟禁しますよ?」 マッコイは船長席を回転させ、自分の方に向けた。「スポック!」 表情を崩す。「私も少々やられてきたらしいな。いちいち逆らうつもりじゃないんだ、許してくれ。」 スポック:「わかっていますよ、ドクター。カーク船長ならさしずめこう言うでしょう。『気にするなよ※46』って。」 マッコイを支えるスポック。 スコットも来た。「ミスター・スポック、あれを!」 ブリッジの片隅にカークの姿があった。何かを訴えかけているように見える。 それを目にするスポックとマッコイ。 スポック:「船長。」 カークの言葉は全く聞こえない※47。 スポック:「船長。」 近づく。「船長。」 スポックは手を伸ばそうとしたが、カークは消えてしまった。 |
※39: theragen ※40: 吹き替えでは「破壊」 ※41: この言葉は原語にはありません ※42: 原語では「私に何て言わせたいんですか、ドクター」 ※43: 原語ではこの個所などで「トラクターフィールド」という性能を言っており、完成した後の挙動と一致します ※44: 旧吹き替えでは、この辺のうめき声などは原語のままです ※45: 吹き替えでは「今夜」 ※46: "Forget it, Bones" カークを模した言葉とは言え、スポック (もっと言えばカーク以外) がマッコイをボーンズと呼ぶ唯一の例 ※47: "Hurry, Spock!" 「急げ、スポック!」と繰り返しているようです |
医療室。 ウフーラを解放するマッコイ。 ウフーラ:「もういいんですか、ドクター。」 マッコイ:「ああ、君は異常なしだよ。」 「じゃさっき見たのは。」 「本物だ。」 「船長は、無事なんですね。」 「ああ我々も見た、生きてるよ。」 チャペルの呼び出し。『ドクター・マッコイ、どうぞ?』 マッコイ:「ああ、何だ。」 『サラゲン・テストの結果が出ました。』 「よし、いま行く。」 涙をぬぐうウフーラ。 スポックの部屋に来ているスコット。「フェイザーの影響は心配したとおりだ。この狂った空間をぶち抜いてとんでもない大穴を開けちまったあげく、デファイアント※5もどっかに吹っ飛ばした。」 スポック:「その通りだ、だが船長は残った。重複の周期が変わっただけだ。次の位相転換※48は、ここだ。」 コンピューターに表示される図。「準備してくれ。」 「そう、20分はかかりますね。…何とか動くでしょ。ただ出力は、80%ぐらいです。」 「それでやってみるほかない。」 ドアブザーに応えるスポック。「どうぞ?」 ※49容器に入った黄色い液体を持ってくるマッコイ。 スコット:「ん? 何ですそりゃ。」 マッコイ:「サービスだよ。諸君の健康と、船の無事脱出を祈って…」 スポック:「薬を発見したんですね?」 「ああ、全員に処方したよ。経口でも注射でもお好み次第だ。それでは早速、乾杯といこう。」 「チェコフは一番先に発病しましたが、効果ありましたか。」 「ああ、すっかり元通りさ。早速ベッドから追っ払ったよ。」 飲んだスコット。「こりゃ何です。」 マッコイ:「サラゲン化合物の溶液だよ。」 スポック:「サラゲン。クリンゴン星人が使う神経ガスだ。」 スコット:「そうそう、猛毒のやつだ。どういうつもりです、ドクター。みんなを殺す気ですか。」 「そういえば思い出したが、致命的なのは純正のものだけだ。」 マッコイ:「その通り。これは希釈液だ、アルコールで薄めてある。脳に通じるある種の神経を麻痺させるだけさ…」 スコット:「へえ、それじゃスコッチだって代わりになりそうなもんですがね。」 「ふーん、しかしこいつを一杯引っかければフェイザー※50級のショックを受けてもまるで感じない。酒より強力さ。」 また口にするスコット。「ウイスキーと合いますかね。」 マッコイ:「多分ね?」 スコットは容器を手にして出ていく。「試してみましょ。」 マッコイ:「ま、一杯やってくれ。それが付き合いってもんだよ? 医師としての忠告だ。船長。」 口元に持っていくスポック。マッコイはうなずき、口にした。 スポックも飲む。 スクリーンに映るソリア船と網。 ブリッジに戻るスポック。「大尉、よかったな。」 ウフーラ:「ありがとうございます。」 「チェコフ、君も元通りに回復して何よりだ。」 チェコフ:「ご面倒かけました。」 「位相※51の完成時間を計算してくれ。」 「あと 2分です。」 「コンピューターに、亜空間突入のプログラムはしてあるな?」 「はい、いつでも作動する用意ができています。」 「ブリッジより、機関室。」 スコット:『スコットです。』※52 スポック:『あと 15秒で、突入する。』 スコット:『わかりました、準備完了。』 スールー:「ミスター・スポック、位相が完成します。」 チェコフ:「位相転換、10秒前。9、8…」 転送室に入るマッコイとチャペル。 チェコフ:『7、6…』 チェコフ:「5、4…」 スポック:「動力全開でスタンバイ。」 スコット:「76%しか出せませんよ!」 チェコフ:『3…』 チェコフ:「2…」 スポック:「できる限りでいい!」 「1…」 「よし、転送準備!」 スクリーンにカークが映った。 ウフーラ:「見えました!」 チェコフ:「あそこです!」 スールー:「船長だ! …トラクターフィールドが動き始めました※53。」 チェコフ:「このままじゃ、引っ張られます。」 スポック:「スールー、現在の位置を維持してくれ!」 スールー:「駄目です。」 「機関室、出力を最大限まで上げるんだ!」 操作するスコット。大きな揺れが襲う。 エンタープライズは空間から消滅した。 闇。 そこを進むエンタープライズ。 ウフーラ:「ここはどこなんでしょう。」 スクリーンには星が全く見えていない。 その直後、また見えるようになった。 進み続けるエンタープライズ。 チェコフ:「船長、例のフィールドは破壊されました。」 スポック:「それは違う、この船の方があの不安定な空間から脱出したんだ。…※54船が移動した距離を計算してくれ。」 「わかりました。」 ウフーラ:「船長はどこへ行ったんです!」 スポック:「それを今突き止めるんだ。」 チェコフ:「やはり船はジャンプしていました。前にいた地点から、ちょうど 2.72パーセク移動しています。」 「よし。我々が位相転換領域※55を離れる際、転送光線をカーク船長にロックした。だから一緒に移動してきているはずだ。スポックより転送ルーム。」 マッコイ:「ああ、マッコイだ。」 スポック:『船長の酸素発生装置はもう切れかけているはずです。三酸化化合物※56を注射する用意はできていますね。』 「ああ、もちろんだよ。」 ハイポスプレーを見るマッコイ。 スポック:「船長の座標にロックして、ただちに転送用意!」 オニール:『準備完了です!』 何もない宇宙空間。 そこに再びカークが現れた。 チェコフ:「見て下さい、いました。…船長です!」 スポック:「ああわかっている。…大丈夫だ。…よーし、転送!」 操作するオニール。カークの姿が見えてきた。 なかなか実体化しなかったが※57、無事現れた。倒れ込むカーク。 注射するマッコイ。チャペルはヘルメットを外す。 カーク:「…ドクター。」 マッコイ:「ああ、おかえり。」 「ああ。」 うなずくマッコイ。 ブリッジ。 制服に戻ったカーク。「デファイアントが飛ばされてからは…文字通り宇宙独りぼっちだった。それこそ何もない、空っぽだ。いや、前に混雑をぼやいたがあれは取り消すよ。ゼロよりマシだ。2人とも、上手くやってたかね?」 マッコイ:「そう、まあ何とかね? スポックの指令が全部的確だったおかげでね。」 「じゃあ…問題はなかったわけだな?」 スポック:「特別報告するようなことは…。」 「一つも?」 「ああ、まあ人間につきものの些細な感情のもつれは多少あったかもしれませんが、その。」 「どの人間か、聞きたいな。」 マッコイ:「つまりだねえ、地球人とヴァルカン星人の感情のもつれだよ。」 「ああ、なるほどう。それでわかった。」 微笑むチェコフ。 カーク:「まあしかし報告するような重大問題が起こらなかったのは、最期の命令が役立ったせいかな?」 マッコイと顔を見合わせたスポック。「最期の命令とは何です。」 マッコイ:「どの命令のことかな?」 カーク:「忘れたのか。万一の場合に備え、君たちに残したものだ。…あのテープだよ!」 「ああ、あれか。いやあつい忙しくてね、かけてみる暇がなかったんだ。」 スポック:「…そうなんです、次々事件が起こったもんですからそれで手一杯で。」 カーク:「…そうか。そりゃあ結構。…これからも、あれを聞くような事態が起こらないことを私としては希望するね? 君たちも同感だと思うが?」 無言のスポックとマッコイ。 カーク:「…スールー、ワープ2 で前進。」 スールー:「はい、わかりました。」 コンソールに戻るスポック。カークはマッコイを見る。 マッコイは、気まずそうだ。 |
※48: 吹き替えでは「位相転換の場所」 ※49: ドアが開いた後、鏡が揺れます。後ろにいたスタッフのミスだとか? ※50: 吹き替えでは「フェザー」と聞こえます。フェザー級…… ※51: ソリア・ウェブ Tholian web 原題。Mike Minor 製作。「位相」という訳だと「位相転換」と紛らわしいですね ※52: TOS第58話 "The Paradise Syndrome" 「小惑星衝突コース接近中」の映像を使い回しており、髪型が異なります ※53: 吹き替えでは「空間移動が始まりました」 ※54: 旧吹き替えでは次のカットに関連して、吹き替えと原語のタイミングが異なるため、原語側ではチェコフやスポックの声が一部乱れています ※55: 吹き替えでは「亜空間」 ※56: tri-ox compound TOS第34話 "Amok Time" 「バルカン星人の秘密」より ※57: 操作しているのは大尉のオニールにも関わらず、操作する手のアップは明らかにスコットのものです (階級章) |
感想など
視覚的にも鮮烈な「クモの巣」とソリア人自身のおかげで、第3シーズンの中では比較的有名なエピソード。近年 ENT でクローズアップされたため、さらに重要度が増したと言えますね。そちらでデファイアントのその後、ソリア人の全身、そもそもなぜ空間が変だったのか、といったことが明らかになります。ストーリー的にカークはほとんど活躍しませんが、スポックとマッコイをあまりにも把握しきった最期のメッセージはお見事です。 旧題は "In Essence Nothing" 「本質的に何もなし」。旧吹き替え版ではカットが荒削りなほか、つながりが疎かになってしまってますね (ソリア人がいきなり攻撃したように見える)。 |
第60話 "And the Children Shall Lead" 「悪魔の弟子達」 | 第65話 "For the World Is Hollow and I Have Touched the Sky" 「宇宙に漂う惑星型宇宙船」 |