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TOS エピソードガイド
第34話「バルカン星人の秘密」
Amok Time

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・イントロダクション
※1※2廊下。
ジェフリーズ・チューブのはしごを上ってくるカーク。
マッコイがドア※3から出てきた。「ああ、カーク。ちょっといいか。」
カーク:「何だ。」
「スポックだが、少しおかしいと思わないか。」
「いやあ、別に? どうしてだ。」
「診察してみないことには、まだ何とも言えないんだが。何かひどくイライラしてるようだ。まあ我々地球人で言えば、『神経症』だね。それに食事をしたがらない。聞いてみたら 3日も食べてないって言うんだ。」
「そりゃあヴァルカン星人でも、何か考え事で悩むこともあるだろうさ。」
食事の皿を持ったクリスティン・チャペル※4が 2人に気づき、引き返そうとした。
マッコイ:「ああ、ミス・チャペル。」
チャペル:「どうも。」 通り過ぎようとする。
「待ってくれ!」
カークも立ち止まった。
チャペル:「何でしょう。」
マッコイ:「何だい?」
戸惑った表情を見せるチャペル。
マッコイは料理を見た。「おや、ヴァルカン星人のプロミーク・スープ※5か。また君が作ったんだね、食べてくれるといいがな?」
チャペル:「そうなんです、ミスター・スポックは全然召し上がらない上に、ひどく不機嫌なんですの。」
「わかってるよ。持ってってやれ。」
チャペルはスポックの部屋※6のブザーを押し、中に入った。
カーク:「私は今忙しいんだ。」
マッコイ:「カーク、実は昨日スポックにもし身体の調子が悪いんなら、一度精密検査をしたらどうだろうと言ってみたところが、こうなんだよ。『私の個人的な問題にいちいち口を出さないでもらいたい、さもなければ首を絞めて殺してやる。』」
「そう言ったのか。」
スポックの怒号が聞こえた。「いらんと言ったろ!」
叫んで部屋から出てくるチャペル。皿が壁に投げつけられ、スープが散った。
スポック:「私のことは放っておいてくれ、欲しいときにはこっちから言う!」 カークたちに気づいた。「船長、休暇を頂いて私の惑星に帰りたいのです。現在のコースを変えて、ヴァルカン星へ立ち寄ってもせいぜい 2日のロスだけです。」
カーク:「スポック、一体どうしたと言うんだ。」
「休暇を、許可して下さい。…どうなんです、答えて下さい。イエスですか、ノーですか。」
そのまま自室に戻ってしまうスポック。


※1: このエピソードは、1968年度のヒューゴー賞にノミネートされました

※2: ハヤカワ文庫のノヴェライズ版は、「宇宙大作戦 地球上陸命令」収録「狂気の季節」になります

※3: 中はターボリフトのはずですが、本来のセットではありません。次のエピソード "The Doomsday Machine" 「宇宙の巨大怪獣」のコンステレーションのセットとするために、変更されていたという説があります

※4: クリスチン・チャペル Christine Chapel
(メイジェル・バレット Majel Barrett) TOS第29話 "Operation - Annihilate!" 「デネバ星の怪奇生物」以来の登場。声:島木綿子もしくは北見順子 (どのエピソードを担当しているかは、資料にないため未確認)、第1シーズンでは公卿敬子

※5: plomeek soup
初登場。吹き替えでは単に「(ヴァルカン星人の) スープ」

※6: スポックはシリーズで一貫して中佐の階級章でもあるにかかわらず、第1シーズンでは少佐と呼ばれている場合がありました。今回からこの標示やセリフを含め、正しく中佐になっています

・本編
スポックの部屋※7
カーク:「わけを話してくれ。」
スポック:「たとえどんな事情があろうと、妻たる者が夫以外に仕えるのは品位がありません。だから…」
「なぜヴァルカンへ帰りたいか聞いてるんだ。君は何年間…」
「休暇を要請しているんです。いいんですか、いけないんですか。」
「この何年間も休暇願など出したことのない君が、今になって急に休暇が欲しいというのは一体どうしたわけなんだ! 話してくれ!」
「船長、私には休暇がたっぷり溜まっているはずです。」
「それはそうだが、そんなことはどうでもいい。」
スポックは座った。
カーク:「何か理由があるだろ、家族が病気か。」
スポック:「いいえ? …そういうことではないんです。」
「じゃあ今アルター6号※8に向かってるんだから、あそこでゆっくり休むことにすればいいだろ!」
スポックはカークを呼び止めた。「それは駄目です※9。……どうしてもヴァルカンへ帰りたいのです。」
後ろ手に棒を隠している。その手は震えていた。
カーク:「スポック。話してくれないか。どうしたんだ。」
スポック:「休暇が、欲しいのです。それに対してだけ、お答え願えませんか?」
もう片方の手で震えを止めるスポック。
カーク:「ブリッジ、カークだ。」
スールー※10:『はい船長。』
「コースをヴァルカンに変えて、スピードをワープ4 にしてくれ。」
『わかりました。』
スポック:「ありがとうございます。」
カーク:「ヴァルカン星人も病気をするとはね、もっと強いんじゃなかったのかな?」
微笑み、出ていくカーク。
スポック:「いいえ?」 震える手を押さえる。「違います。」

『航星日誌、宇宙暦 3372.7※11。我々はヴァルカンを経由して、惑星アルター6号へ向かうことにした。副長スポックが神経症に悩み、休暇願を出したからだ。それまではドクター・マッコイが、彼から目を離さないことにした。』
ブリッジ。
機関コンソールについているレズリー。
ウフーラ:「船長、艦隊から連絡が入っております。緊急連絡のようです。」
カーク:「オーディオにつないでくれ。」
「はい。船長に代わります、切り換えます。」
通信:『艦隊第9セクター※12より、エンタープライズ船長へ。アルター6号の大統領就任式は 7日早くなった。したがってその日まで、到着するように命令する。宇宙艦隊司令部※13、コマック大将※14。確認か?』
スコープを覗いていたスポックは、その話を聞いている。
カーク:「大尉※15、確認したと伝えてくれ。」
ウフーラ:「はい。」
「その日まで到着するようにスピードを速めてくれ。」
チェコフ※16:「…7日も早めるとなるとスピードは、ワープ6 です。ヴァルカン星に寄ってる暇はありませんね。」
「ではアルター6号へ直行だ。船乗りの運命だ、ミスター・スポック。フィナグルの法則※17にもあるだろう、『船が寄る母港はいつも、自分の故郷ではなく他人のだ』。アルター6号の大統領就任式が 1週間早くなったから、その日までに行かなければならない。心配するな、任務が終わったらすぐヴァルカンへ行こう。」
スポック:「…はい、わかりました。船長。」

カークの部屋。
ベッドで横になっているカーク。コンピューターのスイッチを入れた。「ブリッジ、チェコフ。」
映るチェコフ。『はい、チェコフです。』
カーク:「チェコフ、もし全速力でヴァルカンへゆきスポックを降ろしてからアルター6号へゆけば予定の時間よりどれくらい遅れることになるかな?」
『どういうことですか?』
「いやあ、ヴァルカンへ寄っていこうかとも思ってね。」
『現在ヴァルカンへ向かってますよ、ミスター・スポックの命令ですが。』
「ありがとう、チェコフ。連絡以上。」
立ち上がるカーク。

またブリッジでスコープを見ているスポック。
カーク:「スポック。」 ターボリフトの前で仁王立ちしている。「来てくれないか。」
ゆっくりと向かうスポック。チェコフが代わりにつく。
ターボリフトのレバーを握るカーク。「第5デッキ。ヴァルカンへコースを変えさせたそうだが、なぜだ。」
スポック:「私が変えさせた?」
「否定するのか。」
「いいえ、そんなつもりはありませんよ私は。…確かにそうしたかも※18。」
「どうしてやった。」
「私はさっき船長の命令通りに、従いました。でも、コースを変えさせたことは覚えていないんですよ。」 到着するターボリフト。「私を監禁して下さい。これ以上人に、見られたくない! …ヴァルカン人は、これから先のことは説明できないのです。」
「相談に乗ろうじゃないか。」
「もう何にも聞かないで下さい、答えたくないんです。」
「…では、医務室へゆくように命令しよう。」
「医務室?」
「向こうでドクターが待ってるよ。」
ゆっくりと外へ向かうスポック。ドアが閉まった。
独りで廊下を歩いていくが、向きが定まらない。

医療室※19のクリップボードで作業をしているマッコイ。スポックがやってきた。
マッコイ:「ああ、スポックか。待ってたぞ?」
スポック:「船長から、医務室に出頭しろとの命令を受けて来ました。出頭しましたので、部屋に戻らせていただきます。」
「私は精密検査をするよう、言われてる。私も君と同じように、指揮官から命令を受けているのでね? …どうした、スポック。論理的に行動するんじゃないのか。」
「そうでした。どうぞ、好きなだけ検査して下さい。」
回転するベッドに横になるスポック。その手は依然として震えている。

ブリッジのスクリーンに映る宇宙空間。
スールー:「行き先がコロコロ変わるな? 最初はヴァルカン、次にアルターに行けと言う。またヴァルカンに戻ったと思ったら、今度はまたアルターだなんて。」
チェコフ:「これじゃ船酔いしそうだ。」


マッコイがカークの部屋に入った。「スポックはヴァルカンへ送り返した方がいい。」
カーク:「わかってるよ、今度の任務が終わってから…」
「違う、今すぐにだ。一週間以内にヴァルカンへ届けてやらなければ死んでしまうんだ。…死んでしまうぞ!」


※7: 完全に登場するのは初めて

※8: アルター6号星 Altair VI
初言及。TNG第25話 "Conspiracy" 「恐るべき陰謀」での宇宙艦隊本部の星図内にもあるそうですが、画面上では読み取れません。アルター (アルタイル) は、わし座アルファ星で七夕の彦星 (牽牛星)。太陽系からの距離は約17光年で、初言及

※9: ジェラルド・フリードが作曲した、「ミスター・スポック」のテーマが流れます。今後のエピソードでも使われ、CDアルバム「宇宙大作戦 オリジナルTVサウンドトラック Vol.2」に収録

※10: 吹き替えではチェコフのセリフになっています (原語ではカークは「操舵士」と呼びかけ)

※11: 吹き替えでは「0408.3034」

※12: Sector 9
吹き替えでは「(艦隊) 司令官」

※13: 吹き替えでは「艦隊司令

※14: コマック提督 Admiral Komack
(バイロン・モロー Byron Morrow TOS第65話 "For the World Is Hollow and I Have Touched the Sky" 「宇宙に漂う惑星型宇宙船」の Westervliet 提督 (Admiral Westervliet) 役 (同一人物?)。2006年5月に死去) TOS第25話 "This Side of Paradise" 「死の楽園」で言及。Admiral は細分化すれば大将という階級ですが、通常は将官の総称である提督の意味

※15: 吹き替えでは「尉」。TOS では基本的に中尉は存在しないと考えられます

※16: チェコフがカツラを着けている最後のエピソード

※17: Finagle's law
SF版マーフィーの法則というべきもの。吹き替えでは「直行だ」と「アルター6号の」までの間は、「司令官からの命令だ、仕方がない。しょせん我々は自家用車に乗ってるわけじゃないから、ゆきたいところへ自由にゆけるもんではない」

※18: 吹き替えでは、カーク「違うのか」 スポック「違います、そんなことはしませんよ私は。…でもそうしたかも」

※19: TOS の旧国内オンエア分では、カット部分が存在しています。DVD には吹き替えつきで完全収録されており、このエピソードガイドでは色を変えている個所にあたります (CS版との比較)。LD では基本的に、その部分だけ字幕収録です

カークは尋ねた。「なぜだ! なぜ、一週間以内にスポックは死ななきゃならないんだ。」
マッコイ:「よくはわからん。」
「いいから、言ってみろ! 君は医者だろ!」
「身体の機能のバランスが崩れかかっている。地球人と同じにスポックの血管にも絶えず大量のアドレナリンが流れているはずだが、さっきの診察ではそれが見当たらないし、スポックは何も言おうとしない。もし完全に止まってしまったら、これはヴァルカン人でも地球人でも死ぬことは確実だよ。」
「…その理由をスポックは知ってるというのか。」
「知ってるよ。ところが何度聞いても、スポックはアルデバラン・シェルマウス※20のように何も言おうとしないんだ。」
自室を出ていくカークに、マッコイは言った。「聞いても無駄だ、絶対しゃべらんよ?」

スポックは自分の部屋で、モニターを見ていた。映っているのは、ヴァルカン人の少女※21の写真だ。
ブザーが鳴り、コンピューターを切る。「どうぞ。」
カーク:「そのまま。…いまドクターから君の診察の結果を聞いたところだが、このまま放っておくと死ぬとか言っていた。…どうしてだ。」
視線を逸らすスポック。
カーク:「ヴァルカンに君を助けるものがあるのか? スポック!」
カークが握ったスポックの手は、止められないほど震えが激しくなっていた。
手を離すスポック。
カーク:「君は本船の優れた副長だ。…私にとっては大切な人なんだ。それを失うんだから、わけを聞かなきゃあならん。」
スポック:「…地球人にはわからないことです。ほかの宇宙人には全くわからないことです。…ヴァルカン人はわかりますが、我々の間でさえ口にしないことです。これは心の奥に、潜むものです。難しいことなんですよ、わかって下さい。」
「いやあ、わからん。言ってみろ。これは命令だ。」
「しかし船長、命令されても言えないことがあるぐらい御存知でしょう?」
「……じゃあ、君の言うことは絶対秘密にするとしたら。それだったら、いいんじゃないかな?」
「……これは言わば、生理現象です。」
「…何?」
「生理現象です。」
「…どういう生理現象だ。」
「ヴァルカン人の生理です。」
「つまりヴァルカン人だけの、生理現象か。生殖に関する、生理なのか? …だったら、それほど心配することはあるまい。鳥やハチにも起こることだ。」
「そのような動物たちと、ヴァルカン人とは違うんですよ。…我々は、強い理性を誇りにしています。しかしこの時期には、我々からはその理性が失われます。……ヴァルカン人の妻の選び方を、知っていますか?」
「それは君たちのことだから理性的、そうじゃないのか。」
「いいえ? ……いいえ? とんでもない。ヴァルカンでは、古い因襲と生理的本能で行うのです。ハ、地球人にはわかりませんよ。…我々は理性を失い、文明という装いがその時に限って我々から剥がされてしまう。それが我々ヴァルカン人のポン・ファー※22、交配の時です。……自然界にもそういうものがあります。レギュラス5号※23のウナギチョウ※24は、11年ごとに自分の古巣へ戻って交配を行わねばなりません。地球では、サケです。あれもやっぱり古巣の川に戻って、そこで子供を産みます。さもなければ死にます。」
「…しかし君は魚とは…」
「違います。また地球人とも違う。ヴァルカン人ですよ。私は避けたいと思っていました。しかし生理機能には勝てません。逃げても追いかけてきます。自分では御しがたい力に追われるんです。故郷 (くに) へ戻って、妻をめとる※25か…死ぬかです。」
「……こんなことを聞いたのは初めてだ。じゃあ…何とか、ヴァルカンへ送り返すことにしよう。」
カークは出ていった。

ウフーラに届くカークの通信。『ウフーラ大尉、司令部のコマック大将につないでくれ。ドクターのオフィスにいる。』
ウフーラ:「はい、司令部ですね?」
チェコフ:「ミスター・スールー、まさかまた。」
スールー:「ヴァルカンのコースを計算しておくんだな、念のためだ。フン。」

自室でヴァルカン・リュートを弾いていたスポック。
ウフーラ:『通信部からミスター・スポック、ウフーラ大尉です。船長からドクター・マッコイのオフィスへ向かえとの命令です…』
スポック:「うるさいなあ、もう! 放っておいてくれ!」 拳を振り上げ、コンピューターを潰してしまった。

モニターに
映る提督。『船長、それはまた無理な注文だな。』
※26カーク:「わかっておりますが、しかし大切なことなんです。ヴァルカンへ少しの間寄らせて下さい。」
『しかし、君はその理由を説明しないじゃないか。』
「それは言えません。しかしよくよくわけがなければ、こんなことは…」
『アルター6号へ行くのは重要な任務だ。あそこではほかの惑星との紛争を、ようやく収めることに成功した。そして新しい大統領が付近の惑星を全部支配する。…とすればあの惑星と我々が友好的にしておくのは、宿敵クリンゴン帝国のためにも必要なのだ!』
「司令官※27、到着が遅れるのはせいぜい一日です。それくらいでしたら別に…」
『アルター6号へ直行したまえ! これは私からの命令だ。連絡以上。』
マッコイ:「これじゃ、仕方がない。」
カーク:「そんなことはない。確かに今度の任務は大切だ。大統領の就任式があるからには早く行った方がいいには違いないが、こっちも大切だよ!」
医療室で話を聞いているチャペル。
マッコイ:「命令に逆らってまでヴァルカンへ行くことはない、身の破滅だぞ。」
カーク:「スポックを見殺しにはできん。…放っておけば、死んでしまうんだ。彼には、何度も命を助けてもらった。それを見殺しにできるか! 私の親友だ。ブリッジ、チェコフ。」

チェコフ:「はい、ブリッジです。」

カーク:「チェコフ、ヴァルカンへコースを変えてくれ。…スピードはワープ8、全速力だ。できるだけのパワーを出せ。」
喜び、医療室を出ていくチャペル。

チェコフ:「すでに用意はできています、ただちに変更します。」
チェコフを見るスールー。

カーク:「そうか。よし、すぐに変更だ。連絡以上。」

チャペルはスポックの部屋※28に入った。ベッドにいるスポックに近づく。
手を伸ばそうとするが、やめた。引き返すチャペル。
そのままの態勢で呼びかけるスポック。「ミス・チャペル。」
チャペル:「何でしょうか。」
スポックは起き上がった。「いま私は、おかしな夢を見ていた。…君が何か言っていたけど、聞こえなかった。」 立つ。「我々が生に反抗するのは、道理には合わないんじゃないのか。…違うのか。」
涙を流すチャペル。「どういうことでしょうか。」
それをぬぐうスポック。「顔が濡れてる。」
チャペル:「ヴァルカンへ向かっていると、申し上げに来ただけです。2、3日で着くはずですわ?」
うなずくスポック。「…ヴァルカンか。」 呼び止めた。「ミス・チャペル。」
チャペル:「名前を呼んで下さい。」
「わかったよ、クリスティン。食べ物を作ってくれるか、スープでも。」
チャペルは微笑んだ。「よかったわ、食べる気になって。すぐ作ります。」

赤い惑星に近づくエンタープライズ。
廊下を歩いてきたカークたちは、ターボリフトに入った。
カーク:「ブリッジ。」
スポック:「ドクター、あなたの推察力は立派だ。図星を指されてビックリした。船長? 現在のヴァルカン人の状態を御覧になるならば、あなた方はあの狂った騒ぎをきっと不愉快に感じられます。」
「そうかね。地球人だってその点に関しちゃ同じだよ。」
「では、私と一緒にヴァルカン星へ降りていただけますか? 古い儀式があるんです。」
「構わんのか。」
「私の権利です。掟により男性は親しい友に付き添われるのです。」
「お供させてもらうよ。」
到着した。
スポック:「それにドクター・マッコイにも、同伴を御願いする。」
マッコイ:「喜んで行かせてもらうよ。」
ウフーラ:「船長、ヴァルカンへ周波数を合わせておきました。」
カーク:「よし、つないでくれ。」
「はい。」
「こちらエンタープライズ、ヴァルカン通信センター。これより周回軌道に入ります、承認をどうぞ。」
ヴァルカン人※29:『ヴァルカン通信センターよりエンタープライズ、承認します。ヴァルカン国は、歓迎します。スポックは、いますか。』
スポック:「こちらスポック。」
『中央スクリーンにスイッチを入れて下さい。』
チャペルもブリッジへ入り、スクリーンを見る。「ドクター、何ですか。」
マッコイ:「シーッ。」
スクリーンに、ヴァルカン人の女性が映った。『スポック。私です。』
スポック:「トゥプリング※30。遠く離れ、声も聞かなかった。だが我々の心は、通じていた。あとで指定された場所で会おう。」
『スポック。遠くに離れ、声も聞かなかった。でも我々の心は、通じていた。…待っています。』
ウフーラ:「美しい人ですわ? …どなた?」
スポック:「名前は、トゥプリング。…私の妻だ。」
スポックを見るチャペルたち。


※20: Aldebaran Shellmouth
shell = 貝殻、mouth = 口。アルデバランは、おうし座アルファ星 (TOS第2話 "Where No Man Has Gone Before" 「光るめだま」など)。この部分は訳出されていません

※21: 演じているのは Mary Rice

※22: Pon farr
初言及。吹き替えでは残念ながら訳出されていません (「ヴァルカン人の、交配の時です」)

※23: レギュラス5号星 Regulus V
レギュラス (レグルス) は、しし座アルファ星。TOS第16話 "The Menagerie, Part I" 「タロス星の幻怪人(前編)」など

※24: 鰻鳥 eel-birds

※25: 吹き替えでは「妻と暮らす

※26: 医療室のセットに、マッコイのオフィス部分が加わりました

※27: 原語では sir としか呼びかけておらず、「大将 (提督)」が適切かも

※28: 左側に像が置いてあります。D・C・フォンタナによると、ヴァルカンの死の神 (DVD テキストコメンタリーの日本語字幕では戦争の神)、シャリエル (Shariel) としたかったとか

※29: 宇宙センターの声 Space Central voice
(ウォーカー・エドミストン Walker Edmiston TOS第46話 "The Gamesters of Triskelion" 「宇宙指令! 首輪じめ」の支配者その2 (Provider #2) の声役。2007年2月に死去) ノンクレジット

※30: T'Pring
(アーレン・マーテル Arlene Martel ドラマではアウターリミッツ「ガラスの手を持つ男」(1964)、「ブラボー火星人」(65)、「ザ・モンキーズ」(66〜68)、「いたずら天使」(68) に出演) スポック以外のヴァルカン人、そして女性が初登場。ENT のトゥポルに至る、名前の「T'P」というパターンの最初でもあります。声:北浜晴子

ヴァルカン※31
岩場に転送されてくるカーク、スポック、マッコイ。そばに岩で作られた建造物がある。
円形の広場だ。
スポック:「私の家族の土地です。2,000年も昔から※32、代々伝わっています。…クナカリフィー※33は、ここで行われます。」 進み出る。
マッコイ:「クナカリとかって、何だ。」
カーク:「『結婚』か『決闘』だ。つまり昔からヴァルカン人は結婚をするときには決闘をしてから、妻をめとるんだ。」
「なるほどこの時期は狂ってるな。」
中央の台座に立つスポック。
マッコイ:「恐らく、普段は感情がないからその反動かもしれない。」
カーク:「ひどいねえ、ヴァルカンのこの暑さは。」
「『ヴァルカンぐらい暑い』。この言葉の意味がわかったな?※34
「大気も地球よりは薄いよ。」
銅鑼を鳴らすスポック。
マッコイ:「奥さんのトゥプリングはいつ着くのかな。」
スポック:「結婚式はもうすぐです。やってきますよ。」
カーク:「結婚式だと? 妻だと言ったじゃないか。」
「形だけは済ませました、式だけです。7歳の時に親同士が決めた仲で、婚約はしていますがまだ正式な夫婦ではありません。…これから執り行うのは、互いの心に触れあう儀式です。そうすることで、二人の心は固く結ばれます。そしてその時がくれば、二人は自然に (いざな) われるのです。クナカリフィーに。」
シャラシャラという楽器の音が近づいてくる※35。目を向ける 3人。

スポックはもう一度銅鑼を叩いた。音を鳴らしながら、ヘルメット※36を被った一団が入ってきた。
台の上で運ばれる人物もいる。
カーク:「ドクター、誰だかわかるか。」
首を振るマッコイ。年老いたヴァルカン人の女性だ。
カーク:「トゥパオ※37だ。惑星間の連盟評議会※38の評議員になるのを断ったのは、あの人だけだ。」
マッコイ:「トゥパオか。彼女が式を司るのか?」
「こんなに高名な家だとは知らなかった※39。」
後ろについているトゥプリング。さらに若いヴァルカン人の男ストン※40や、武器らしき物を持った人々が続く。
トゥパオの台が降ろされた。トゥパオは片手を挙げ、中指と薬指の間を開いた。
同じヴァルカン・サイン※41を返すスポック。前にひざまずく。
スポックの顔に手を這わせるトゥパオ。「…スポック。我々の儀式によそ者を加えるのか?」
スポック:「違います、そうではありません。私の友達です。…私が許しました。」
近づくよう合図するトゥパオ。
スポック:「これはカーク。」
カーク:「よろしく。」
トゥパオ:「…して、もう一人は?」
マッコイ:「レオナード・マッコイです。」
「この 2人の者はほかの惑星の、名前だな? 掟にならうとの保証はあるのかな。」
スポック:「私が保証します、トゥパオ。」
「……これから見てもらうことは、始まりの時代から続いているものです※42。…これはヴァルカンの心であり、ヴァルカン人の魂であり、我々の流儀です※43。」 トゥパオは手を挙げた。「カリファー!」
ベルが鳴らされる。スポックは中央の銅鑼へ向かう。
するとトゥプリングも近づき※44、銅鑼を鳴らそうとするスポックを止めた。「カリフィー※45!」
止まるベル。
スポックは銅鑼から離れた。その前に立ちふさがる、武器を持ったヴァルカン人執行者※46
銅鑼を鳴らす道具を捨てるスポック。ゆっくりと脇へ向かった。
壁にもたれかかり、両手を合わせる。
カーク:「何だ、どうしたんです。」
トゥパオ:「決闘を選びました。」
執行者を指差すマッコイ。「この人と?」
首を振るトゥパオ。「彼は怖じ気づいた時に役目を果たすのです※47。…トゥプリングは夫を試すのです。」
ストンを見たカーク。「…スポック。」
トゥパオ:「スポックにはもう話しかけないで下さい。…今はひどいプラク・トウ※48にかかっています。血の病気です。…きたるべきものに耐えられなければ、スポックは二度と再び話すことはできないでしょう。…もしお発ちになりたければ、構いませんからどうぞ。」
スポックの目は常軌を逸している。
カーク:「…いや、います。」
トゥパオ:「スポックは良いお友達を選びました。」
マッコイ:「よくわかりませんが、トゥプリングはスポックが欲しくなくなって拒んだわけですか?」
「夫の勇気を試すのは、妻の権利なのです。…トゥプリング、お前はカリフィーを選んだ。決闘だ。…勝った者の、財産になる覚悟があるのか?」
トゥプリング:「覚悟しています。」
再び鳴らされるベル。
トゥパオ:「スポック、お前は掟に従い決闘を受ける覚悟があるのか。」
目を閉じ、うなずくスポック。ベルが続く。
トゥプリングと目を合わせたストンを見たカーク。「スポックは勝てるのかね。」
マッコイ:「どうだかな、あの身体じゃ勝てないね。」
トゥパオ:「トゥプリング、決闘の相手を選ぶがよい。」
トゥプリング:「…今日ここで行われる決闘で勝った者に、私はとこしえにこの身を捧げるでしょう。」 進み出たストンを見たあと、カークを指差した。「この人。」
ストン:「……いかん! 私がやるはずだ! 約束をした!」
トゥパオ:「黙りなさい!」
「待って下さい、掟に従っております! 私の権利です、この女は…」
「クロイカ※49!」
ストンとトゥプリングの間に武器が振り下ろされ、ベルも鳴らされる。
※50ストン:「お詫びいたします。」

トゥパオ:「カーク※51。トゥプリングはあなたを選んだ、しかし我々の掟によれば何ら拘束はありません。もし決闘をしたくなければ、断っても結構なのです。」 中央に進み出た。
スポックが近づいた。「トゥパオ。」
トゥパオ:「話ができるのか?」
「友達は、事情を理解しておりません。」
「すでに選択はなされたのだ。あとはカーク次第だ。」
「何もわかってない、いけません。掟に従い…私は決闘する。しかし、カークは駄目です。彼の血は、燃えていません。私の友達です。」
「お前のヴァルカン人の血は薄いそうだな? お前はヴァルカン人なのか、それとも地球人なのか?※52
「燃えております、トゥパオ。私の目は、炎です。心もまた、火です。しかしいけません。お願いです…祖先の名において、どうか禁じて下さい。
…トゥパオ。…お願いです。カークは、いけません!」
「ヴァルカン人は一度決めたことを、変えることはできないはずだ。…決まったことだ。」
スポックに護衛が近づき、腰に布を巻いた。台座に立つスポック。
カーク:「私が断ればスポックはどうなる。」
トゥパオ:「決闘の相手はまた選ばれるのです。…余計な心配はしないがよい。早く決めなさい。」
ベルを鳴らす 2人は、台座の周りをグルグルと歩き始めた。
マッコイ:「やめた方がいい。」
カーク:「やめる?」
「いかんよ。トゥパオはせっかく断ってもいいと言ってくれてるじゃないか。」
「しかし君はスポックが勝てそうもないと言ったぞ。だから私が、傷つけないように勝ってやるんだよ。」
「この気候でか。この暑さじゃ君が参るかもしれん。」
両手を合わせた姿勢のまま、立ち続けるスポック。見つめるトゥパオ。
鳴らされるベル。床にある火種が、煙を噴いた。
マッコイ:「やめた方がいい!」
カーク:「負けそうになったら、やめるさ。そしてスポックが勝てば、丸く収まるよ。」
「そりゃそうだが、しかし…」
「ドクター。スポックは私の親友だし、命令に背いてまでここへ連れてきたんだ。…それだけじゃあない、トゥパオはヴァルカン人だ。ヴァルカン人の、代表者だ。手を引いたら、地球人の恥になるだけだ。」
ベルが止められた。
トゥパオ:「時が来た。…カーク、決めたか?」
進み出るカーク。「…決闘を、お受けする。」
トゥパオ:「…ではトゥプリングの所有を決めるため、ただちに決闘を始めるがよい。…ここで戦いに勝ち抜いた者が、トゥプリングを所有する。リルパ※53を出しなさい。」
運ばれていた武器が 2人の前に置かれ、包みが解かれる。
棒の先に、研がれた金属の板がついたものだ。強く握り締めるスポック。
カークを睨んでいる。カークもリルパを手にした。
トゥパオ:「もしリルパで勝負がつかなければ、次はアン・ウーン※54を用いて戦いを続ける。」 台座を離れる。
カーク:「どういうことです、勝負がつかないとは。」
「一方が死ぬまでやるのです。」
カークはマッコイとスポックを見た。


※31: ヴァルカン星の様子が描かれるのは、TOS シリーズ内では最初で最後

※32: ヴァルカンの目覚めの時代の頃から、ということになります

※33: Koon-ut-kal-if-fee
初言及。吹き替えでは「クナファリフィー」と聞こえますが、あとで言及される「カリフィー=決闘」という言葉が含まれている意味が消えてしまうため、不適切ですね

※34: 吹き替えでは「ヴァルカンとは暑いという意味だそうだからな?」

※35: ヴァルカン人ベル演奏者 Vulcan bell carriers
(モーリ・ラッセル Mauri Russell) (フランク・ヴィンチ Frank Vinci ブレント大尉 (Lt. Brent) として多数のエピソードにエキストラ出演。スタント) セリフなし、ノンクレジット

※36: TOS第9話 "Balance of Terror" 「宇宙基地SOS」のロミュランのものを再利用。その時と同じく、耳のメイク予算を抑えるためです

※37: T'Pau
(セリア・ラヴスキー Celia Lovsky ドラマではミステリーゾーン「エジプトの女王」(1964)、映画「ソイレント・グリーン」(73) に出演。1979年10月に死去) 初登場 (VOY第60話 "Darkling" 「ドクターの内なる闇」ではエキストラの Betty Matsushita が演じて吹き替えでは「タパウ」、ENT第84話 "Awakening" 「陰謀の嵐」・第85話 "Kir'Shara" 「バルカンの夜明け」ではカーラ・ゼディカーが演じて吹き替えでは「トゥパウ」)。TNG第108話 "Unification, Part II" 「潜入! ロミュラン帝国(後編)」では、同名のヴァルカン船が登場。もともと ENT のトゥポルはトゥパオの予定でしたが、このエピソードの脚本のシオドア・スタージョン (の子孫) へのロイヤリティが発生するため、別人になりました。前述の通り、その後第4シーズンでトゥパオ (トゥパウ) が登場しています。トゥパオは thee (=you) や thy (=your) など、古語を使っています。吹き替えではトゥプリング同様「パオ」。声:DVD 補完では金子亜矢子

※38: 連邦評議会 Federation Council
初言及。吹き替えでは「惑星間の連盟結成を断ったのは」

※39: 吹き替えでは「家族にあんな偉い人がいるとは知らなかった」。トゥパオがスポックの家族という事実はありません

※40: Stonn
(ローレンス・モンテーニュ Lawrence Montaigne TOS第9話 "Balance of Terror" 「宇宙基地SOS」のディシアス (Decius) 役。サレック役のマーク・レナード (TOS第44話 "Journey to Babel" 「惑星オリオンの侵略」) 同様、第2シーズン開始時にスポックの代わりとして考えられていた俳優でした) 声:寺杣昌紀 (補完部のみで、旧吹き替えでは全くセリフなし)

※41: 初登場。英語では一般に Vulcan salute と呼ばれ、レナード・ニモイが提案して監督に採用されたもの。子供の頃に見た、ユダヤ教司祭が信者に向けて行う挨拶が元

※42: 吹き替えでは「ここに参加した以上、儀式の始めから終わりまでを見てもらいたいのです」。これだと後の、途中で去ってよいというセリフと矛盾します

※43: このセリフは、ENT第79話 "Home" 「ヒーローたちの帰還」のラストでヴァルカン人司祭の言葉として使われています

※44: 歩み出るときにアップになりますが、よく見るとその直前に既に動き始めています

※45: Kal-if-fee
初言及

※46: Vulcan executioner
(ラス・ピーク Russ Peek) セリフなし、ノンクレジット

※47: 吹き替えでは「スポックは怖じ気づいているのです」

※48: Plak-tow
次の「血の病気 (blood fever)」という説明は、同じくポン・ファーを扱った VOY第58話 "Blood Fever" 「消えた村の謎」の原題。吹き替えでは「病気」

※49: Kroykah

※50: スポックは手を組んで壁に寄り添っていたはずですが、この辺りでは後ろの方で普通に立っています。映り込んでいることに気づかなかったのでしょうか (途中で手を組んでいるアップも挟まる)

※51: 旧吹き替えでは、この「カーク」はトゥプリングのセリフになっています

※52: 吹き替えでは「お前はどうだ? 怖じ気づいてしまっている。ヴァルカン人として、血は燃えておるのか?」。ハーフであることを話しています

※53: lirpa
初登場

※54: ahn-woon

動かないスポック。
カークはトゥパオに近づいた。「待ってくれ、トゥパオ。…誰が死ぬまでやると言った。」
マッコイ:「友達同士です、殺すまでやらせるとはあんまりだ。」
トゥパオ:「そのような干渉は最早許しません。」
マッコイの首に、執行者が武器を突きつけた。
トゥパオ:「決闘が与えられ、両者が受けたのです。…もう始まってます。口は出さないようにして下さい。」
ベルを鳴らす 2人は立ち去る。進み出るカークに、スポックが向かってきた※55
組み合う 2人。スポックの一振りで、カークの制服の胸が裂けた。
傷跡が見える。倒されても堪えないスポック。
リルパの後ろについた丸い部分で、銅鑼を叩き割った。カークはその隙にスポックのリルパを落とさせ、押しつける。
だが抵抗するスポックによって、刃の部分が折られた。蹴られたカークはリルパを落とし、逆にスポックだけが持っている状態になる。
投げ飛ばされるスポック。だがその後カークが倒れ、スポックはリルパを振り上げた。
マッコイ:「スポック、待て!」
すんでのところでリルパを避け、スポックを蹴るカーク。
トゥパオ:「クロイカ!」
双方動きを止めた。
マッコイ:「地球人には耐えられん。温度は高いし空気は薄いし、負けるに決まってる!」
トゥパオ:「空気は空気です、変わりありません。」
息をつくカーク。
マッコイは腰からハイポスプレーを取り出した。「これを使って、耐えられる身体にしたいと思います。そうすればまた戦えるはずです。」
トゥパオ:「許可を与えます。」
カークに近づくマッコイ。スポックは身構えたままだ。
マッコイ:「殺してしまわなきゃならんぞ。」
カーク:「スポックは、そのために来たんじゃあるまい。」
注射するマッコイ。
カーク:「何だ。」
マッコイ:「トリ・オックス※56と言ってな、呼吸が楽になる。しっかりやれよ。」
「いいから、向こうへ行っててくれ。」
離れるマッコイ。
トゥパオ:「アン・ウーンを。」
ベルが鳴らされ、次の武器の包みが解かれた。ヒモにつながれた石だ。
2人に渡され、リルパは片づけられる。スポックは空気を裂く音を響かせてアン・ウーンを回し、カークの足に巻き付けた。
倒れたところに襲いかかる。カークは上手く使いこなせない。
取っ組み合いになり、殴るカーク。スポックはヒモをカークの首に巻き、火種に押しつけた。
カークも必死に手でスポックの首を絞めようとする。だが細い声を上げ、カークは倒れた。
トゥパオ:「クロイカ!」
目を開くスポック。カークは動かない。
マッコイが近づいた。「おい手を離さんか、スポック! …終わりです。…死にました。」
ゆっくりと離れるスポック。
トゥパオ:「心からお悔やみします。」
マッコイはコミュニケーターを開いた。「エンタープライズ。」
ウフーラ:『エンタープライズ、ウフーラ大尉です。』
「マッコイだ、上陸班は戻るから転送スタンバイしてくれ。」
腰の布を護衛に返すスポック。
マッコイ:「おかしなことだがミスター・スポック、君が指揮官になった。命令があるか?」
スポック:「…ある。私も 2、3分で戻るが…ミスター・チェコフに伝えてくれ。最寄りの、宇宙基地へ向かうんだ。そこで私は上官に、自首して出る。」
離れるマッコイ。転送音が響いた。
スポック:「トゥプリング。…どうしてだ?」
トゥプリング:「何がです。」
「なぜ決闘を。それになぜ相手に船長を、選んだんだ?」
「ストンと私は、結婚したいのです。」
ストンを見たスポック。「わからないね、私がいるのになぜストンを?」
トゥプリング:「あなたは私達の間であまりにも有名になった、もはや伝説の人。時が流れるに従い、私は伝説の人の妻であることが嫌になったのです。でも、私達の定めによればカリフィーで別れられます。幸いストンが私を求め、私もまた彼を求めたのです。船長が勝っても私を求めないから、ストンのものになれます。あなたが勝っても決闘をさせた以上私を求めないでしょうから、やはりストンのものになります。もしあなたが求めても、同じことです。私はあなたのものになりますが、あなたは去ってゆきます※57。だからストンと暮らせます。」
「その通りだ。全く、その通りだ。」
「わかって下さい。」
「ストン?」
進み出るストン。
スポック:「お前にやろう。しかし言っとくが今はこの女を欲しいだろうが、自分のものにすれば最早それほどではない。それが常だよ。道理には合わんが、いつもそういうものだ。…スポックだ。転送スタンバイ。」
演奏者が戻ってくる。
スポックはトゥパオにヴァルカン・サインをした。「あなたの御健康を、祈ります。」
トゥパオ:「いつまでも達者でな、スポック?※58
首を振るスポック。「そうは参りません。船長を殺したのです。親友でした。」 中央に戻り、再びコミュニケーターを使う。「転送しろ。」
非実体化する。

エンタープライズ。
医療室に入るスポック。「ドクター私は今すぐにでも退役することはもちろんだが…」
マッコイ:「スポック…」
「その前にドクターには、心配かけたことをお詫びする。」
「まあ待てよ。」
「もういいよ、放っておいてくれ。…私が有罪であることは最早明らかなことだ。弁解などするつもりはない。それから、これからはミスター・スコットに指揮を執ってもらうことにする。」
スポックの後ろから、カークが近づいた。「私に相談しないでか?」
スポック:「船長!」
笑うカーク。
スポックは笑みを浮かべ、カークの腕をつかんだ。「ジム!」 すぐに表情を戻す。
微笑むマッコイとチャペル。
スポック:「船長。生きていて、しかも傷一つなく。よかった。しかしどうしてまたこういうことになったのです。」
カーク:「ドクターのおかげだ。私に注射したのはトリ・オックスじゃなかった。神経を麻痺させる薬※59だ。それで私は、気を失った。」
「そうですか。」
マッコイ:「君、ちょっと外してくれないか。」
出ていくチャペル。
マッコイ:「スポック、あれからどうなった。女はどうした。」
スポック:「ああ、あの女。あれからは、私は変わった。…船長を殺したと思ってからは、あの女には興味がなくなった。病気は治ったよ。」
呼び出しが入る。
カーク:「カークだ。」

ウフーラ:「カーク船長、艦隊司令部※13から伝言がありました。」

カーク:「…言ってくれ。」

ウフーラ:「先に要請のあったエンタープライズをヴァルカンへ立ち寄らせる件については、これを許可し必要な遅延は承認する。以上、宇宙艦隊司令部※13。」

カーク:「今からなら大した遅れは出さずに済む、3、4日で着く。これから全速力だ。チェコフ。ただちに軌道を離脱し、アルター6号へ向かってくれ。」 制服の裾を伸ばす。
マッコイ:「もう一つ聞きたいんだが、君は今船長の元気な姿を見たとき顔一面に感情を表したように見えたが一体どういうことだ?」
スポック:「有能な船長を失わなかったとわかれば論理的にも、我々に有利なのは明らかです。」
カーク:「そうとも、それは道理だよ。」
「恐れ入ります。」
マッコイ:「そりゃそうだ、君の反応は論理的だったよ。」
「ありがとう、ドクター?」
外へ向かうカークとスポック。
マッコイ:「あれでも論理的かね。」
スポックを見たカーク。「行こう、仕事が待ってるぞ。」
ヴァルカンを離れるエンタープライズ。


※55: 同じメロディは前の部分から使われていますが、これもフリード (脚注※9、CD に収録) が作曲した「儀式/古代の戦い」。今後も格闘シーンで使われ、TOS を代表する曲として他作品のパロディでも用いられます (映画「ケーブルガイ」(1996)、アニメ「シンプソンズ」「サウスパーク」)

※56: トリ・オックス化合物 tri-ox compound
初言及

※57: 吹き替えでは「あなたは罰せられて、この世から去ってゆきます」

※58: "Live long, T'Pau... and prosper." "Live long and prosper, Spock." 「長寿と繁栄を」が使われるのは初めて

※59: 神経麻痺薬 neural paralyzer

・感想など
ヴァルカン人を語る上では絶対に欠かせない、スタートレック史の中でも重要度でいえば最上位に位置するエピソードです。ファンの間ではもはや常識中の常識となっているポン・ファーなどの設定は、SF作家シオドア・スタージョンによって描かれました。その後のシリーズや映画で描かれる惑星ヴァルカンは、全てこの話が起源になっています。最後の「ジム!」というセリフは、普段はそう訳さないおかげで吹き替えでの効果が上がっていると言えるかも (原語では、ちょくちょくジムと呼びかけ)。
「生 (性) か死か」という、当時にしては際どい内容です。そのため当初のドイツ版では、大幅に改変が行われたとか (決闘はスポックの意識下で行われ、ヴァルカン星にさえ行っていない)。米国放送順では、第2シーズンの最初でした。トゥパオやトゥプリングは小説「スポックの世界」にも登場します。


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